現人神の力を惜しげもなく使い、能力を発現させる粒子をどこまでもどこまでも遠くへと届ける。
空間を超え、越え。
それはその者の魂にまで辿り着き、現象を発現させる。
眩き荘厳。
傍らに二つの強大。
光の柱が立ち上る。
その光の中から新成する、二人の勇者。
可憐ながら、死の淵へと踏み込むことを恐れない勇ましさを持つ者達。
一人は、全身を
されど巫女ともとれる布や装飾も散見される乙女。
両の手には幅広の、重厚な楯――いや、斧。
楯の如き斧。
何ものをも通さず己が前に出るという意思を具現した姿。
楯の装甲騎士。
彼女――三ノ輪銀は満開を果たし、その身を堅牢な鎧と化した。
そしてもう一人。
彼女は黒み掛かった紫の、巫女のような戦闘装束に身を包み。
失った体の補助をする装飾が、全身に巻き付き浮遊している姿。
その手に持つは、自在の槍。
精工で頑強な作りの柄。
けれど何よりも目を引くのが、その穂先。
攻撃のために不可欠な刃は、柄から分離し、されど根本では繋がっていると確信する凝固。
そして刃は一つではない。
何十と従者の如く漂う刃。
ひとたび命令されれば精密な動きで敵を斬り、突き、鮮血で濡らす修羅の剣鬼。
精密技巧の自在槍。
それを持ち操るのは、絹のような茶色の長髪を靡かせる可憐な少女。
彼女――乃木園子は、遠くの空間から請われ呼応し、満開を果たして現れた。
僕が先刻考えた策。
しかし策なんてほど、高尚ではない単純。
七人で無理なら、八人で戦えばいい。
誰でも思い付く、それこそ小さな子供でも思い至れるシンプル。
さらに銀も、まともにやり合えるほどに戦力強化。
百人力と言える。
「園子、ごめん……君を戦いの場にまた引きずり出してしまった」
園子は過去に何度も満開し、体が動かなくなるまで散華し戦った。
そうして二年間、不自由な生活を送ってきた。
もう十分傷付いて、苦しんだんだ。
それは他の皆も同じようなものかもしれないけど、皆には頼ってと言われた。でも園子には言われていない。
こうしないと活路が見出せなかったとはいえ、申し訳ない気持ちは拭えない。
「ううん」
それでも園子は、首を振った。
「私も、みんなを護りたいから。もう、誰も失いたくなんてないから、戦えるのなら、喜んで望むよ。だからこそゆめゆめの呼び出しにも答えたんだしね」
そう言って力強く微笑んだ。
ならば僕がそれを否定することなどできない。したくない。
「ありがとう」
ただそれだけ伝えて、一緒に戦ってもらう。
『フハハハハハハハハッ! それがお前の覚醒か』
「ああ、そうだよ。僕はみんなの力を借りる。そうして前に進むんだ』
『ハンッ』
鼻で笑われた。
『期待外れだぞ道化よ。もっと独りよがりで孤独で強い最強フォームに成れよ』
「僕は十分独りよがりだよ」
『――――違いない』
闇黒の粒子が、デウスの体中から溢れた。
両の腕に集中し、漆黒の
姿が、ぶれる。
高速移動。
神速移動。
目で、追えはする。
しかし、だからといって簡単に対応できるかは別問題。
左斜め前方。
そこから
輝く聖剣を振り上げ、受ける。
金属質な衝突音。
重い。
腕が痺れる。
左手の凶爪が繰り出される。
またまた同じ流れ。
このままいけば、また押し負ける。
けれど。
重く鈍い衝突音。
揺れる銀色の
煌めく鈍色の甲冑。
銀が二本の
「これぐらい余裕余裕! 案外神ってのもたいしたことないな」
不敵な笑みを見せ、実際余裕ばかりではないだろうが危なげなく楯で受けている銀。
そうして背後から迫る剣鬼。
園子の操る槍の穂先が数十、魔王の背中へと殺到し、届く。
切り刻まれるマント。羽。刃が背中に突き刺さる。
――怯んだ。
その隙が生じると同時に。
五人は動く。
豪腕が、砲撃が、赤刀が、大剣が、ワイヤーが。
殴る、命中する、斬り込まれる、叩き下ろされる、斬り裂く。
――僕達はここで、
一人では到底かなわなかった。七人でも無理だった。けれど八人でなら。
暗黒色の粒子が溢れ、デウスの姿が消失する。
気づいた時には、奴は距離を取った前方にいた。
『フム。なるほど。確かに弱くはない。なら、これはどうだ?』
溢れる。溢れる溢れる。
噴水のように溢れる漆黒。
粒子が、デウスの両手、さらに両足、尾、二本の捻じれた角にまで纏わり浸透する。
――動いた。
放たれるは、竜尾の一撃。鞭の様に横を一閃する。
月白に輝く聖剣を、
「アタシに任せろっ!」
銀の声に剣を振ろうとする手を止める。
前に出る装甲騎士。
二枚の楯を絶対と信頼し、魔竜の尾を受け止める。
ここから先の行動。
僕は、頭に思い描く。
みんなが、そう行動すると、疑いも無く信じることにした。
だから僕は、そうなった時だけを考え、動き出す。
唸る右手。
その凶爪を、六本の赤刀を持つ夏凛が受け、剣戟を開始する。
翻る左手。
その
迫る右足。
その
その
突進する捻じれた
その
全ての攻撃を止められ、全身で暴れようと蠢動した魔王。
その身体に、園子が操る数十の剣鬼が突き刺さる。
――道は開けた。
魔王の胸前へと肉薄する。
手に持つ月白色に光り
その煌めく刃の切っ先を、斃すべき敵へと向ける。
されどまだ、殺してはいけない。
天の神を救出しなければならない。
殺さずに、動けないほどの傷を負わせる。
殺しはしないが、殺すつもりで。
矛盾を孕んだ一撃を、この悪辣なる魔王へと届かせる。
聖剣を、突き出した。
胸へと届く一瞬。
発光する刃を、粒子を送ってさらに強く強く光り輝かせる。
そうして刃は。
黒き強靭な砲弾をも跳ね返すであろう胸の中心へと、貫き入り込み。
根元まで魔王の体内へと達し、その役目を全うした。
――――静寂。
「……終わった?」
誰かがそんな言葉を漏らした。
動かない魔王を見上げる。
赤の瞳は、生気が宿っているようには見えない。
最初からこいつにそんなもの在ったかどうかは忘れたけれど。
……そうだ。そんなことより今は天の神を助――――――
生気の亡い赤の瞳が、黒く暗く、瞬き煌めき、闇に輝いた。
悪寒が全身を駆け巡り、魂をも震わせる。
やばい。不味い。逃げろ。
そう思った時には、既に遅かった。
突き、貫き、切り裂く刃。
漆黒の刃。
僕の全身は、蹂躙された。
倒れ、宙から墜ち行く。
血を撒き散らし、意識を繋ぎ止めながら念じる。
回復するイメージを、叩き付ける。
傷は治り、回復は成った。
重力に逆らい体勢を立て直し、見上げる。
皆は刃を精霊のバリアで防いだのか傷はない。
再度満開をする破目にはなったかもしれないが。
いや。それよりも。それよりも。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!』
咆哮。
魔王の咆哮が轟く。
デウスは――魔王は、その姿が変貌している。
数メートルの巨躯は、その体積を何倍にも膨れ上がらせ。
全身から漆黒の刃を無数に生やし。
その瞳は黒く輝いている。
黒き巨城。
地獄の山脈。
まさに蹂躙する絶対者。魔王。
――第三形態。
そんな単語が、脳裏に浮かんだ。
その異様は、先の咆哮は、とても正気であるとは思えない。
正気というよりも、意識。意思。
そんな感情というものが全く感じられない。
いや、意思なら一つだけ確実に在るか。
僕達を必ず殺すという殺意。
それしかない。
それ以外奴には無い。
それ自体凶暴。
意識無き暴力は、何となるか。
獣。
獣だ。漆黒の獣。
そんな存在が、今、解き放たれる。
『■■■■ッ!』
消えた。
されどそう見えるだけ。
その筈。
漆黒の剣閃が閃く。
渦を巻き、刃の嵐と成って蹂躙する。
精霊のバリア。
割れる音。割れる音。
割れる。割れる。割れる。割れる。
皆の、七人の精霊のバリアは、一瞬にして粉微塵に砕けた。
意味が解らない。
馬鹿げている。
何が起きている。
ふざけんな。
さっきまでの流れ、勝つとこだっただろ。
あのまま倒して、終わりだっただろ。
なぜこんな――
背中に衝撃。痛撃。裂斬。寧ろ全身。
「――っ――ぁっ――」
痛みに喘ぎながら落ちていく。
だが耐えながら、内に念じる,イメージを叩き付ける。
全回復。
粒子に包まれ、浸透する。
為せた。
まだ、戦えるんだ。
体制を整え――――
消失。
消滅。
無くなる。
亡くなる。
消える。力。
変身が、解けた。
消える白。
コートもマフラーも聖剣も、ない。
髪も瞳も平凡な黒へと戻る。
何故。
なぜ?
答えはすぐに出た。
知っていた。
理解できない訳が無かった。
自分の力のことなのだから。
力の枯渇。
現人神の力を行使するエネルギー残量が無くなった。
MPが底を着いた。
あれだけ豪快に、無遠慮に、惜しみなく使いまくっていたのだ。当然の結果と言える。
それでもこんな時に、力が無くならなくてもいいじゃないか。
ふざけるな。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。
なんでだよ! 今戦えないと駄目なんだよ。
最後なんだ。これが終われば、やっと平穏が訪れるんだ。
なのに、ここで終わるなんて、許せない。納得できない。
誰でもいい、力をくれ。
貸すでもいい。とにかく奴を倒せる力を。
みんなか。みんなに任せればいいのか?
でも、バリアが一瞬で粉々にされるほどの相手だ。
もっと強い力が必要なんじゃないのか。
どうすればいい。
どうすれば、この状況を打開できる。
僕はただただ、普通の人と成り果てた肉体は重力に逆らえず、自由落下していくだけ。
何もできずに、落ちていく。墜ちていく。堕ちていく。
『■■■■■■ッ!』
狂獣の咆哮。
風を切り刻みながら進行する恐ろしき獣。
僕は、まだ終わりたくない。
終わりたくないんだ。
やめてくれ。終わらせないでくれ。
前に進まなくてはならないんだ。
こんなところで立ち止まってなんていられないんだ。
だから。
だからっ…………。
「力を……」
身体は漆黒の刃に蹂躙され、四散し、霧散し、原型など残らなかった。