「朝陽くん!」
彼の姿は、もう見えない。
けど、朝陽くんが死んでしまうなんて、ありえない。
朝陽くんは、勇気の神様なんだから。
そんな神様が、こんなところで居なくなっていい訳がない。
彼は、ここから進んで行けるというのに。その道を絶つなんて誰にも許されない。
――――でも、本当のところ、素直な唯一だけを言ってしまえば。
ただただ大好きな人に、居なくなってほしくない。
離れたくない。
一緒に、楽しく過ごしていきたい。
そんな穏やかな日々をみんなと、朝陽くんと。
だから。
こんなところで誰か一人でも、欠けていいはずなんかないんだ。
「朝陽くん!!」
どんな力でもいい。
神樹様でも、天の神様でも、勇者の何かでも。なんでもいいから。
朝陽くんを助けるために、届いて。
祈り。願い。強い想い。
勇者の力。真の勇者の力。
集まり。集い。意味を成す。
「朝陽(夢河)(くん)(ゆめゆめ)!!!!」
どんな方法でもいい。
だから、朝陽くんを助けて。
――朝陽くん――
――夢河くん――
――朝陽――
――朝陽――
――朝陽――
――ゆめゆめ――
――朝陽さん――
みんなの声が、聞こえた気がした。
聞こえるというよりも、伝わってくるような。そんな感覚。
僕は死んだのではないのか?
視界は真っ暗だ。何も見えない。
完全に体は、細切れを通り越して飛散したはずだ。
多分。
そもそも僕からは確認する前に意識が落ちた。
全部感覚だ。
だからもしかしたら僕は生きているのかもしれない。
それとも意識だけ?
…………っ。
なにか、良く解らない力が入り込んできているような感じがする。
けれど、不快ではなく暖かく、力強いもの。
しかし、今の自分の状態が、分からない。
いや、まて、分かるかもしれない。
僕は、全知全能とまではいわないが、神だ。一応神だ。
そんな存在が、自分の身体の事ぐらい分からなくてどうする。
意識を集中させろ。
分かろうと考えろ。
そうすれば、分かるはず。知れるはず。
…………。
――――――。
そうか。
僕は今、魂と精神だけの状態か。
肉体はデウスに壊された。
でも、僕は今意識があるし完全に死んだわけではない。
それに、流れ込んでいた力。
これは神樹の、勇者の力だ。
――まだ、出来ることは在る。
やれる。やってみせる。
そう、どんなに突拍子もないことだろうと。
どんなにありえないことだろうと、為して見せられるのが、僕の現人神としての力のはずだ。
万能の能力。
そう言うのなら、万能だと豪語するのなら。
ありえないぶっ飛んだ凄いこと、起こす事ぐらいやってから言え。
それぐらい、容易くはなくとも、やってやれないことはないと。
証明して魅せろ。
意識を、枯渇した力の代わりに流れ込んできた勇者の力に向ける。
――巨大化した敵は、どうやって倒すと思う?
誰に問うわけでもなく、戯言を思う。
――そう、合体ロボだ。
戦隊特撮に必ず在ると言っていいアレ。
今から成るのは、ロボではないけれど。
みんな、僕に力を、貸してくれ。
全力で、頼る。
どこまでもどこまでも。やれるはずだ。
僕は、僕たちはここまで来たんだ。やれないはずがない。
みんながいる、まだ負けていない。
絞り出せ。循環させろ。全てに総てを、行き渡らせろ。
ひとつに、ヒトツに、一つに。
肉体を、魂を、一つに。
究極の、絶対の、一へと。
万能、万象、現象、発現。
融合。合体。力の集結。
――暗闇に、光が差した。
視界が、戻る。
地獄へと変貌させられた、溶岩だらけの世界が眼下に見える。
そして前方には、漆黒の刃を生やした悪しき獣、デウス。
僕は、みんなの魂を文字通り一つにした。
存在を一つにしたことで、みんなで、八人で一人の存在へと成った。
その効果で力が全員分行き交い、現人神の力がまた戻ってくる。
勇者部の力全てが一つに凝縮された。勇者の神。
そんな、僕が考え得る究極。
その姿は、傅く様に漂っていた粒子が無いということ以外は、現人神の時の僕と今は変わらない。
桜、水色、赤、緑、黄、鈍色、黒紫、白。
八色の輝きに包まれているということ以外は。
『えっ? え? これどうなってるの?』
『な、なにがどうなって……』
『だ、誰か説明してよ!』
『でも、なんだか暖かいです』
『そうだね、ポカポカしてるね』
『こんな訳の分からないこと出来るのは、朝陽?』
『朝陽! 分かってるなら説明してくれ!』
友奈、東郷さん、夏凛、樹ちゃん、園子、風先輩、銀と順番に脳内で喋り出す。
肉声で話している訳ではないから、樹ちゃんの言葉もしっかり伝わってくる。
『簡単に言えば僕ら八人は合体した。そんで凄く強くなった』
『『『『『『『はぁ?』』』』』』』
『そう言いたくなるのも分かるけど、内に意識を向けてみてくれ。そうすれば自然と解るはず』
『■■■■■■■■■■ッッ!』
魔王が咆哮を上げ、動き出した。
螺旋を描き、風を切り刻みながら暴虐の嵐は向かって来る。
その速度は、凄まじい。
だけど、今の僕達なら視認できないことはない。
「銀! ここは頼む!」
ここは銀の能力が適任だと判断した。
『ああもう! 分からないけど判ったよ! とにかくやってみる!』
「銀ならやれるはずだ」
『当たり前だろ!』
姿の、変格。
夢河朝陽の姿から、三ノ輪銀の姿へと。
鈍色の装甲騎士は両の楯斧を前に突き出す。
その楯へと正面から衝突する魔王。
以前までならここで防ぎ切れずに吹き飛ばされていただろう。
けれど、八人の力が集束した今なら。
最大限、現人神の力で高められた勇者の能力は、その力を神域へと届かせている。
楯へ掛かる重量へ耐え、腕が痺れながらも、数メートル後退するにとどまった。
魔王の勢いも、今この瞬間には止まっている。
再び夢河朝陽の姿へと戻り、聖剣を振り下ろす。
その刃は、魔王へと命中し、斬り裂いた。
『■■ッ』
魔王の呻き声。
その後一瞬で暴風と成り、デウスは後方へと距離を取った。
だけど。
「逃がすか――――東郷さん!」
『わかったわ!』
ここは遠距離のエキスパートである東郷さんに任せる。
再度、姿の変格。
夢河朝陽から、東郷美森の姿へと。
搭乗する戦艦は、砲口総てをデウスへと向ける。
相手は暴風の如く移動し続けている。それを狙い撃ちするのは至難の業。
されど放たれる空色の砲撃。
『■■ッ』
狙い違わず、縦横無尽に飛行する魔王に命中させた。
東郷さんなら、偏差射撃などお手の物だろう。
奴の動きが視える今なら、それは可能な域だ。
撃墜後、怒り狂った獣のように、デウスは漆黒の刃を煌めかせて接近してくる。
対抗する準備をしようと思った瞬時。
デウスの体から暗黒色の粒子が溢れた。
消失する魔王。
気配の断絶。
奴の居場所が、分からない。
気配を探っても、完全な断絶を果たした魔王の気配は、
――刹那の時、気配の現れ。
左後ろ。
その方向に聖剣を振る。
空振った。
時間差攻撃だ。奴は一瞬急停止した。
剣を切り返そうとする。
しかし、目の前まで迫っている漆黒の刃。
姿の、変格。
夢河朝陽から、犬吠埼樹へと。
これは僕の意思ではない。自然、樹ちゃんからだ。
ワイヤーがデウスの腕に、体に、全身に絡みつく。
デウスの動きは、それで止まり、僕たちに刃が届くことは無かった。
そして。
姿の、変格。
犬吠埼樹から、犬吠埼風へと。
大剣を即座に巨大化させ、拘束が解けた瞬間のデウスへと叩き下ろす。
超重量の攻撃力を誇る大樹のような大剣の一撃を、真正面からデウスは食らった。
漆黒の刃が、一本ほど千切れ飛んだ。
暗黒色の粒子が、溢れる。
溢れて、纏わり、全身暗黒色の粒子に包まれるデウス。
刹那の後、消失。
『ここは私に任せなさい!』
姿の、変格。
犬吠埼風から、三好夏凛へと。
刹那の間の瞬間移動を続け、総ての方向から襲い来る魔王。
その漆黒の刃を、赤の刃で受ける、受ける、受ける。
四本の巨大な赤刀と、二本の赤刀を華麗に操り、縦横無尽の刹那の剣線に対抗する戦士。
その姿は、長年修行を続けて来た力強さ、技術の高さ、絶対の自信が窺える。
赤と黒の剣戟。
繰り返され、反り返され、剣返される。
暫く続いた剣戟。
赤の刃が漆黒の刃を跳ね上げ、黒の肉体に刀をめり込ませたことで、一瞬止まる。
姿の、変格。
三好夏凛から、結城友奈へと。
「勇者パアアアアアンチッ!」
一瞬止まったデウスへと、白桜色の豪腕が加速され、繰り出される。
魔王のどてっぱらへと拳を殴り付け、めり込ませ、吹き飛ばす。
姿の、変格。
結城友奈から、乃木園子へと。
自在槍の穂先。
その数十の剣鬼達を操り、吹き飛んだデウスへと差し向ける。
体勢を整える暇など与えない。
剣鬼達で魔王を囲み、全方向から突き、斬り付け、抉り荒らす。
『■■■■ッッ■■■■ッ!』
呻き、喘ぎ、暴れ、咆哮する魔王。
その間にも肉薄する
移動しながらも、穂先たちの精密な操作を実行できる園子は、相当な器用さを持っているのだろう。
『さあ、そろそろ終わりにしようか、魔王』
姿の、変格。
乃木園子から、夢河朝陽へと。
魔王の眼前へと肉薄した僕達。
聖剣を振りかぶる。
横へと振り抜き、魔王の首へと走らせた剣閃。
刹那の後。
デウスの首は胴体から離れ、暗黒色の粒子を撒き散らした。
「…………今度こそ、終わった……?」
『終わってないぞ?』
ズリュリと、厭な音。
胸から生える黒いナニカ。
溢れる血液。
「ごはっ……」
『『『『『『『――っ』』』』』』』
ふざけた量、吐血する。
血の嫌な味が口中に広がる。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
痛みが、増幅されている感覚。痛みという概念そのものを存在全てに刻まれているような、壮絶。
『朝陽、くん……』
『い、た……い』
『な……』
『こ、れ、ぐらい……』
『…………っ』
『い……ったいなぁ……』
『んくっ……』
みんなの、苦しげな声が脳内に響く。
そうか。身体が同じだから、痛みも全員感じているんだ。
ならば、早くこの状況から脱しないと。
意識が飛びそうなほどの痛みに耐えながら、ゆっくりと振り向いた。
そこには、不定形の黒い炎が在った。
見れば僕の胸から生えた黒いものも、不定形で揺らめいている。
なんだ、これは……?
『っ……私が』
姿の、変格。
夢河朝陽から、乃木園子へと。
数十の槍の穂先が黒い不定形へと殺到し、怯ませた。
胸を貫いていた黒も外れる。
即座にバックステップ。距離を取った。
『今度は僕が』
姿の変格。
乃木園子から、夢河朝陽へと。
マフラーが弾け、穴の開いた胸へと補填するように集まる。
一瞬眩い光を放った後、傷は完全に無くなっていた。
顔を上げる。
そこには、黒い炎のような、不定形。
「なんだ、その姿は」
『この姿か? 本来の形に戻っただけだ。ここまで来たらさすがに本気を出さねばいけないからな』
「さっきまで自我無くしてなかったか? なんで普通に喋ってんだよ」
『先程のは自動で発動する第三形態みたいなものだな。この姿はそれが倒された時の最後の砦と言える。ワレの本来の姿は不定形だと最初に言ったであろう?』
「つまりその状態のお前を倒せば今度こそ終わりってわけだ」
『その通りだ。だがあの姿を維持していた分の力も使える故、そう簡単ではないぞ?』
「やってみせるさ。みんなと一緒なら」
『ハンッ。ならやって魅せろ。道化が』