愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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六十五話 傲慢と理不尽

 消える黒。

 消えて、失せて、()けて、溶ける。

 聖剣を振り上げる。

 剣戟の様な衝突音。

 黒との交差。

 デウスは頭上に存在していた。

 目に見えないほどの速さなんてものではない。

 空間転移。ワープ。そんな類の、超越した超常。

 不定形から生えた黒い剣状のものが、聖剣と刃を打ち合わせている。

 

 姿の変格。夢河朝陽から三ノ輪銀へと。

 黒い剣状のものと打ち合わせている得物が、聖剣から右の楯斧へと変貌を遂げる。

 左の楯斧を叩き付ける。

 暗黒色の粒子が、刹那の間にデウスの存在から放出され弾ける。

 空間転移。僕達の横。

 左の楯斧は避けられた。

 伸びる剣状の黒。

 

 姿の変格。三ノ輪銀から、東郷美森へと。

 姿が変わると共に、巨大な戦艦が一瞬にして現れる。

 そんな質量のものが瞬時にして存在を確立させた。

 現出する範囲内にいたデウスは、反動で戦艦に弾き飛ばされる。

 だが剣状の黒は、その長さを伸ばした。

 咄嗟に避ける。が。

「ぐぅっ……」

 東郷さんの痛みに耐える声。

 黒は脇腹を抉って行った。

 姿の変格。東郷美森から、乃木園子へと。

 槍の穂先。数十の剣鬼が少し距離の開いたデウスへと飛び掛かる。

 弾き飛ばされて、今は隙が出来ているだろう。

 

 暗黒粒子の爆発。

 僕らの傍らに、異物。

 物ではない。異。

 総てを呑み込む、ブラックホール。

 そんなふざけた現象を、奴は起こした。

 一瞬で槍の穂先たちは吸い込まれる。

 

 姿の変格。乃木園子から、犬吠埼樹へと。

 現人神の力をふんだんに使い、吸い込みをこの瞬間だけ超越。萌葱色のワイヤーを伸ばし、延ばし。デウスへと巻き付け絡み付ける。

 これで道連れにしてやる。それが嫌ならば――

 瞬時にブラックホールは消失した。

 デウスが共に呑み込まれることを嫌って解除したのだろう。

 剣状の黒がワイヤーを斬り裂いた。

 その間に。

 姿の変格。犬吠埼樹から、夢河朝陽へと。

 マフラーが弾け、体中に浸透し、何者をも超える速さと成る。

 刹那。

 デウスの眼前へと肉薄した。

 

 姿の変格。夢河朝陽から、三好夏凛へと。

 紅く(つや)めく大太刀を、二本同時に振り下ろす。

 伸びる二本の剣状の黒。

 ギインッと金属質な音。

 大太刀を受け止めた。

 残る二本の大太刀を流れるように続けて振る。

 さらに不定形の体内から生える剣状の黒。

 金属音。受け止められる。

 残った二本の、通常の大きさの赤刀を斬り付けた。

 生えて増える剣状の黒。

 六本の全ての刀を受け防がれた。

 刃を押し合い。鍔迫り合いの終結。後。剣戟が始まる。

 

 六本の赤刀と六本の剣状の黒。咄嗟、交差。弾き、斬り合う。

 振り下ろし。薙ぎ。振り上げ。切り。袈裟掛け。斬り。

 お互い、姿の変化や粒子を使う事すら出来る隙の無い攻防。

 一瞬。刃の煌めき。瞬時。金属音。刹那。閃の交差。

 何十年と剣の道に人生を捧げた者同士の決闘の如き、刃の交戦。

 赤刀が剣状の黒を弾き、剣状の黒が赤刀を弾く。

 流れ、流し。滑り、滑らせる。

 と。

 

 刀と黒が衝突、隙間、一瞬存在。

 その隙間に、右手に持つ赤刀を滑り込ませる。

 だがそれは、愚策。

 打ち取る刹那が、最も隙が出来やすい。

 刀が不定形のデウスに届く前に剣状の黒に斬り裂かれるか貫かれるか。

 だがそれも、一人だけならばの話。

 

 姿の変格。三好夏凛から、結城友奈へと。

 隙間に入り込ませた赤刀が、一瞬にして太く屈強な豪腕へと成り替わる。

 質量変化の衝撃で周りの剣状の黒は弾き飛ばされる。

 豪腕は不定形へと直撃した。

 拳が振り抜かれ、吹き飛ぶデウス。

 

 姿の変格。結城友奈から、夢河朝陽へと。

 内に念じる想像を叩き付ける。

 刹那の間に準備を終えた。

 聖剣をデウスに向かって投擲。

 同時。

 マフラーが弾け、聖剣を追いかけるように粒子が散り、刀身に纏わり付く。

 投槍に変化させるよりも、遠距離というほどまだ離れていないデウスにはこちらの方が早い。

 破壊力強化の施された聖剣がデウスを猛追(もうつい)する。

 その刃を突き立て――

 デウスは身を捻り、間一髪で聖剣を避けた。白の粒子と成って消える剣。

 その後、この手に聖剣は姿を現す。

 マフラーの端を少量粒子と化させ、傷つき血が流れる脇腹を癒した。

 お互い距離が離れ、一連の攻防が休止する。

 

「お前は解りやすい悪だ。悪以外が存在に無い。敵が全てお前みたいに悪だけならよかったのに。大赦の人とやり合った時の方がよっぽど辛かったぞ。この小物が」

『ハンッ。言っているがいい道化。貴様の信念は間違っている。弱すぎる貴様がそう簡単に強くなれる筈などない。お前が強さだと思っているものは、偽りの強さだ。お前は、弱いままだ』

「たとえ間違っていたとしても、僕はそうやって前に進む。別の考えが在って、誰かに否定されたとしても、僕の信念はそれなんだ。誰かに与えられたものだとしても、大切な人達から与えられた信念なんだ。好きなように言え、だが僕も好きなようにやってやる」

『ほざけ小童(こわっぱ)

 

 白と黒の、粒子、神の力の爆発。

 

『神とは何で出来ていると思う?』

『「傲慢と理不尽」』

 即答にデウスなんかとハモってしまった。

「聞いといて自分で言うな」

『フハハハ』

 

 背後。攻撃の気配。しかしデウスは前方に存在。

 瞬時。僕達は駆動し、移動する。

 デウスの背後に到達。

 聖剣を袈裟に振り下ろす。

 不定形の消失。

 聖剣は何も捉えはしなかった。

 背後。気配。

 されど反応は、不可。

 斬撃。背が切り刻まれる。肉が裂け、骨が切られ、血が撒き散った。

 身体は力を無くし、墜ちていく。

 内に念じる、想像を叩き付ける。

 背に受けた傷は癒えた。

 

 暗黒色の粒子が不定形から溢れ、溢れ、爆発。効果。現象。

 空気、空間、概念が揺れる、狂う。

 瞬時に視界から無へと変化する黒。

 されど此方(こちら)も、刹那。移動。

 ()ち合う白と黒の刃。

 痛み。飛び散る血液。

 聖剣に触れていない、別の剣状の黒に肩を斬り裂かれた。

 

 聖剣を押し、鍔迫り合いを終了させ再度、刹那の移動。

 内に念じる、想像を叩き付ける。聖剣が月白色に輝く。

 デウスも再度不定形の姿を消し、瞬時に現れる。

 襲い来る六本の剣状の黒。

 身を屈め、腕を斬り裂かれながらも聖剣を薙ぐ。

 その剣線上には、剣状の黒が存在する。

 けれど聖剣は、その剣を擦り抜けた。

 先程聖剣に施した能力の装飾は、あらゆる武器と認識されるものの擦り抜け。

 

 されど聖剣の月白に輝く刀身は、不定形すら通り過ぎた。

 デウスは傷を一切負っていない。

 

「なんで……」

『不思議か道化? フハハハッ。我が先程己自身に施した力は、(あまね)く総ての攻撃の無効化だ』

「な……」

 なんだよ、それ。

「ふざけんなよチート野郎」

『お前が言うか? フハハハッ! 我は物語を終焉させるご都合主義の神だぞ。この程度当然だ』

 

 後方に飛んで距離を取り。内に念じる、想像を叩き付ける。

 裂かれて血に塗れた肩や腕が回復――

「しない!?」

 依然傷は傷のまま、断続的に痛みを与えてくる。

 

『フハハハハッ! ワレの施した装飾の概念が一つだけだと誰が云った? ワレの手で負わされた傷は回復など不可だ』

「それ、さっきのも、こっちに教える理由あるか?」

『より絶望を感じるだろう?』

「小物が」

『ハンッ』

 

 金属音。瞬時に移動し、白と黒の刃が奏でた。

 こうなったら何が何でも攻撃を当ててやる。

 

 姿の変格。夢河朝陽から、東郷美森へと。

 刹那の間に顕現した戦艦の巨大質量に、デウスは吹き飛ぶ。

 だが一瞬、剣状の黒に胸を浅く斬り裂かれた。

「――当てて見せます」

 八門の砲口が咆哮し、空色に光る砲撃が撃ち出される。

 激突、衝撃、爆発。

 吹き飛ばされ隙だらけのデウスに全弾命中した。

 一呼吸後。

 爆発で上がった煙が晴れ、姿が見える。

 されど――無傷。

 

 姿の変格。東郷美森から夢河朝陽へと。

 内に念じる、想像を叩き付ける。

 月白色に聖剣の刀身が煌めき輝く。

 

「なぜその力を最初から使わなかった? 舐めてるのか?」

『神とは何で出来ていると云った?』

「……傲慢と理不尽」

『つまりそういうことだ』

 意味分かんねえよ。

 

 移動、移動、移動。加速、加速、加速。

 背後を取り、背後を取られ。死角を捉え、捉えられ。

 斬る、無傷。斬られ、足を負傷。

 そもそもこいつに、背後なんてあるのか?

 姿形は不定形。前も後ろも無いように見える。

 唯一、剣状の黒の生え方で判断しているだけだ。

 

「全方向見えるのか?」

『答えると思うか?』

「お前意味分かんねえよ」

 気まぐれで答えたり答えなかったり。

『フハハハ。よく言われそうだが言われない。なにしろワレは神故に』

「それは気の毒に。僕が何度でも言ってやるよ」

 

 剣、交差。一瞬、鍔迫り合い。

 姿の変格。夢河朝陽から犬吠埼風へと。

 鍔迫り合っていた長剣ほどの長さ大きさの聖剣が、大剣へと変化。

「はあああっ!」

 刹那の後にやってくる他五本の剣状の黒諸共、薙ぎ払う。

 そのまま遠心力に任せ、一回転。

 刹那、大剣を巨大化。大樹のような巨大。

 デウスへと叩き付ける。

 吹き飛ぶデウス。しかし無傷。

 

 姿の変格。犬吠埼風から犬吠埼樹へと。

 何本ものワイヤーを伸ばし、吹き飛ぶデウスに絡みつける。

 ギリギリと締め上げ、引き裂こうとワイヤーに全力を注ぐ。

 だが一片たりとも奴の身体は崩れない。 

 

 姿の変格。犬吠埼樹から乃木園子へと。

 ワイヤーは解除されるが、一瞬、今まで縛られていた残留の隙が在る。

 数十の剣鬼は、その隙に喰らい付く。

 四方八方から自在槍の穂先が襲い、突いた。

 けれど、刃は一ミリも入り込まない。

 

 姿の変格。乃木園子から夢河朝陽へと。

 刹那、デウスの背後だと思われる個所へと移動。

 聖剣を振り下ろす。

 剣状の黒は迷いなく聖剣を受けた。

 続けて他五本の黒が切り貫こうと襲い来る。

 

 姿の変格。夢河朝陽から三ノ輪銀へと。

 受けられた聖剣が右の楯斧へと成り替わる。

 左の幅広の楯斧が他三本の黒を防ぐ。

 二本は厚い甲冑を割り砕かれながらも、護る為の装甲で防ぎ切った。

 右の楯斧を薙ぎ、一本の剣状の黒を掃う。

 そのまま右の装飾が散りばめられた超重量の楯斧を切り返し、デウスへと叩き付けた。

 だが、無傷。

   

 姿の変格。三ノ輪銀から三好夏凛へと。

 楯に受けられて勢いを止めていた剣状の黒を、卓越した剣技で弾き、掃った。

 赤き大太刀をデウスに斬り付ける。

 傷は無い。

 

 再度剣状の黒を、腹を切られながらも全て弾いた。

 姿の変格。三好夏凛から結城友奈へと。

 黒が弾かれた間隙(かんげき)に、一瞬の時を要し、白桜色の両の豪腕を振り上げ、ブースト、加速。

 二つの固く堅く硬い拳を、殴り付けた。

 叩き飛ばされるデウス。

 されど――

 無傷。

 

 くそっ!

 姿の変格。結城友奈から夢河朝陽へと。

 内に念じる、想像を叩き付ける。

 ――この刃で貫き、傷付け、攻撃を届かせることだけを概念に込める。

 早く。速く。(はや)く。

 

 月白色に輝いた聖剣を刹那、投擲した。

 視界から消失する聖剣。

 後、聖剣はデウスの元に存在。

 刃を突き立てる。

 しかし、無効化。

 

「僕だって――今は僕達だって神なんだ。全然全く攻撃が通らないなんて、可笑しいだろ」

 全員の、性質の違った攻撃を命中させたというのに、どれ一つとして掠り傷すら付けられない。

『ぽっと出の現人神風情が何を言っている? ワレは年季が違うのだよ』

「だったら殺して証明してやるよ」

『出来るものならな』

 

 手元に戻した聖剣で一太刀。二太刀。何合も斬り合う。

 だが、こちらの傷だけが増えていく一方。

 腕を、肩を、胸を、腹を、足を。斬られ、裂かれ。血が飛び散り、流れる。

 金属音。衝突音。金属音。甲高い音。金属音。肉の裂かれる音。金属音。肉の斬られる音。

 やばい。不味い。

 

「――っらあああっ!!」

 何とか剣戟の合間を強引に縫ってデウスに蹴りを入れ、後方に勢い良く飛ぶ。

 あのまま斬り合いを続けていたらその内切り刻まれていた。 

 何度も空中バックステップをし、距離を多めに取って、荒い息を吐く。 

 

 だが奴は追って来ない。

 余裕のつもりなのだろうか。

 その慢心が身を滅ぼすってことを教えてやる。

 

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