愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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六十六話 勇者の剣

 しかし傷を一切付けられないとなると、どうすればいいのか。

 というか。

 

 痛い。

 端的に言って凄く痛い。

 傷は癒せない、回復できない。

 それでも全身が痛く。流れる血は止められない。

 ズキズキと、ドクドクと、痛みは絶えることなく苦しみを与えてくる。

 

「みんな……凄く痛いんだけど……まだ、耐えられる……?」

『これぐらいへっちゃらだよ!』

『私を舐めないでよね。この程度何でもないわ!』

『アタシは部長よ。根を上げてたまるもんですか!』

『問題ありません!』

『みんなで終わらせるのよ。こんなところで諦めないわ!』

『まだまだいけるよ。倒すまでは頑張らないとね』

『アタシは全然大丈夫だけど、朝陽もまだまだいけるよな?』

 友奈、夏凛、風先輩、樹ちゃん、東郷さん、園子、銀が即答で応えた。

 全員、一気に。

 

「僕は聖徳太子じゃないんだけどなあ」

 だけど、良好な返事だというのは解った。

「……はははっ! みんな、大好きだ!」

『『『『『『『――――っ!』』』』』』』

 なんだか言葉にならない想いが溢れてきて、笑いが込み上げてきて、そんなことを口走ってしまった。

 本当に、何としてでもこれから先の世界に、みんなは生きていてほしい。

 だから――自分が辛い思いをするこんな策が、思い付いてしまう。

 

 今出来る攻撃が一つとして効かないならば、どんな手を使ってでも効く術を生み出してしまえばいい。

 ――そう、どんな手を使ってでも。

 

 内に念じる、念じる、念じる。

 想像を創造とする為に、脳に、精神に、心に、魂に、イメージを叩き付ける。

 今まで通りじゃ駄目なんだ。

 もっと、もっと、もっと、もっと――強く為す事の出来る力を。

 

 何のリスクも無く、そんな事出来るはずはないと分かっている。

 だからこそ、自分が辛い目に、苦しくて嫌な目に合うことは、百も承知。

 それでも、だとしても、僕はこの戦いを終わらせて、みんなに生きてほしい。

 その笑顔を、こんな世の中でも刻み続けてほしい。

 

 護りたいんだ。

 けれど今のままでは、護れない。

 もうこの手しかない。

 総てを持って行ってもいい。

 僕の記憶も、想いも、命も、存在も、何もかも持っていけ。

 その代わり、魔王を打ち斃す事の出来る術を、この手に。

 そこに、天の神を救出する術も追加。

 贅沢だ、何てのは分かっている。それでも、やるしかないんだ。

 破壊と救世(きゅうせい)の力を併せ持つ、極限。

 それさえ完成すれば、後はみんなに任せれば必ずやってくれる。

 だってみんなは、勇者なんだから。

 

 何もかも、自分から無くなっていくような感覚。

 無くなって、亡くなって、なくなって。

 怖い、恐い、怖い、恐い。

 痛くはないのに、途轍もなく――怖い。

 自分が無に成っていくというのは、普段だったら全く想像できないほどの喪失感と恐怖に襲われる。

 そんな知らなくてもいいことを知った。

 だけれど、止めることはしない。

 ここで止めたら、全滅なんだ。

 やるしかない。やるしかない。やるしかない。

 言い聞かせる。

 そうしないと、今にも僕は逃げ出しそうだから。

 だから、気を張って最後まで――――――

 

 

『『『『『『『なにをしてるの!!??』』』』』』』

 大音声(だいおんじょう)で、耳元で怒鳴られたようだった。

 同時に。

 自分の総てが無くなっていくような感覚は、途切れた。

 

「な、なにみんな……? 今、あいつを斃す方法を実行していたところなんだけど…………」

『アタシらが、今朝陽が何をしようとしていたか解っていないと思っているのか?』

『全て筒抜けですよ。なにしろ今私たちは夢河くんの中にいますから』

『ゆめゆめは背負い過ぎだよ』

『勇者部部員のくせに、他の仲間を差し置いて一人だけ先に行こうとしてるんじゃないわよ』

『ほんと、変わらないわね』

『みんなを頼って。最後まで』

『誰一人として、嫌だなんて思いませんから』

 銀、東郷さん、園子、風先輩、夏凛、友奈、樹ちゃんが、それぞれ順番に云って来る。

 涙が出そうになった。みんなの優しさに対しての嬉しさと、何も変われていない自分への遣る瀬無さで。

 それでもやっぱりまた、救われてしまった。

 彼女たち勇者は、人を強制的に幸福へと引っ張り込んでしまう。

 泥のように沈むだけの弱く在ることを受け入れた弱者を、問答無用で救ってしまう。

 こうして今も、引っ張り上げられた。

 でも。

 今は、泣いている暇もないよな。

 

「だったら、どうする……?」

 返ってくる答えは、分かっていたような気もするし、分かっていなかったような気もする。

 けれど、一応訊いた。

 

『あいつを斃すために持って行かれる色んなもの、みんなで分け合えばいいんだよ。そうすれば失うものなんて、ほとんどないはず。

 だって、八人もいるんだもん。私たちも力を分けるから、みんなで戦おう』

 友奈は笑顔で、そう云ったんだと思う。

「うん…………」

 そんな方法、みんなをも犠牲にする方法、思いつけなかった。

 いや、一瞬は頭に浮かんでいたのかもしれないけれど、すぐにありえないと揉み消したのだろう。

 だけど今は、頼るって決めたんだ。

 ここまで云われたら、あんな方法怖くて本当は止めたかった僕は、縋ってしまう。

 ――――――――――。

 

「本当に、そんなんでいいのか……?」

 よくない。

 全然、よくなんてない。

 恰好悪い。

 駄目だ。

 どうにかしないといけないって、このままじゃいけないって、少しは、何かやらなくてはならないんだってことは、分かる。

 分かるなら、やらなければ。

 本当に出来るかなんてのは分からないし、僕の力は無限大ではない。

 何も為せることなく、終わるかもしれない。

 それでも、知る事が出来たからには、そうしたいと思ったからには、やるべきなんだ。

 

「みんな、その案は、一つだけ納得できない」

『……? どの辺?』

 友奈の言葉、全員の意思だろう。

「みんなも失うってとこだ。そんな事全力でして、たとえ八人いたって、ほとんど失わないなんてありえないだろ」

『…………』

「――だから、失わずに、斃すぞ。救うぞ」

 

『出来るの?』

 園子の疑問に。

「出来る。出来なくちゃいけない。総ての力をみんなで全力で出して、僕の万能発現の力に全部注ぎ込めば、いける可能性がゼロではないと思う」

 先程のやり方よりは、可能性は著しく低くなるだろう。

 それでも、失わないで済む道があるのなら、それを選びたい。

 

『――――そう、なら、わかった。勇者部五箇条、なせば大抵なんとかなる。だよね』

 友奈が応える。

「ああ、そういうことだ」

 そうでも思わないと、やれる気がしない。

『しょうがないわね。確かにその方が良いとは思うから、それでいいわよ』

『いっちょかますか!』

『やってやるわよ!』

『なるべく諦めない、です』

『大丈夫よね。みんないるもんね』

『ふふ、なんだか何でもできそうだね』

 風先輩、銀、夏凛、樹ちゃん、東郷さん、園子が言葉を僕の内で発する。

 

「じゃあ、頼む。やり方は解る?」

 なんとなく感覚で解る、と皆は答えた。

 僕の内にいることで分かることもあるのだろう。

『始めよう』

「うん」

 友奈の言葉に頷く。

 

 目を閉じる。真っ暗な視界。集中を高める。

 内に念じる、念じる、念じる。

 想念を送り続ける。

 想像を創造とする為に、脳に、精神に、心に、魂に、存在総てに、(あまね)(すべ)てに、イメージを叩き付ける。

 

 何かが、注ぎ込まれるような感覚。

 膨大な量が、次々に注ぎ込まれていく。

 だが、まだまだ足りない。

 全てを解決する奇跡の発現は、容易ではない。

 けれど、絶え間なく注がれる勇者の力。

 膨れ上がっていく万能。

 白の粒子が漂い、数を増やしていく。

 このまま、どこまでも。

 

『――なにを、している?』

 深く深く、深淵から漏れた啼き声のような伝わり。

『それは危険だなぁぁ? 今まで存在してきた中で最上の危険を感じるぞ』

 ここにきて、デウスは動いた。

『やらせると思うかあ? 阻止するに決まっているだろぉぉう?』

 それは速く、早い。

『――なあ、道化?』

 

 風切り音すら追い抜く。

 聖剣を薙いだ。

 金属音。

 剣状の黒と刃が合う。  

『朝陽くん!? 大丈夫!?』

「……問題ないよ友奈。みんなはそのまま続けて。僕が時間を稼ぐ」

『持たせられるの……?』

「やってみせるよ東郷さん。やらなくちゃならないんだ。今、出来なくてはいけないんだ」

『頼んだわよ朝陽』

 風先輩の言葉に。

「はい。頼まれます。大船に乗ったつもりで任せてください」

 全身傷だらけの状態からのスタートだけど、絶対に。

 

『ハンッ。泥船だろう?』

 残り五本、剣状の黒が襲い来る。

 万能の能力は、魔王を斃すための発現に使っている最中だから、使えない。

 それでも、凌がなければ。

 

「――づぁああっ!」

 裂帛の気合を(ほとばし)らせ、聖剣を振る。

 黒を一本、弾き。

 黒を二本目、逸らし。

 三本目、流し。

 四本目、体を捻り、避け。

 五本目を弾き、六本目にぶつけ威力を相殺する。

 

 しかし完璧には、出来なかった。

 腕や足、胴体を所々裂かれ、傷がさらに深くなった。

 痛い。

 けれど、動かなければ。

 痛みはみんなも感じているだろう。それでも絶えることなく、力を注いでくれているのだから。

 

 黒が蠢く。

 交差。抗戦。咄嗟。剣線。

 直感で、今まで死線を潜り抜けて来た戦闘経験だけを頼りに、剣を振る。

 視界の隅に黒が映ったら、振る。

 視界に移らなくとも、死の気配を少しでも感知すれば振る。

 デウスが暗黒粒子の力を使わないのは、攻撃無効と回復無効の効果を働かせているからだろう。

 だったら、条件は同じだ。

 こちらは斬り合いで凌げばいいだけ。

 向こうは完成する前に僕達を殺せばいいだけ。

 簡単なことではないし、簡単に殺されてもやらない。

 されど本質は、単純。

 

 剣状の黒が振られる。

 聖剣を振る。

 金属音。

 衝突音。

 連続音。

 剣線。剣閃。剣戦。入り乱れる。

 

 動けば血が流れて行き、動かなくても血が流れて行き、消耗する。

 痛みは連続し、神経を焦がす。

 だけど、それでも、足を止める訳にはいかない。

 

 剣戟。身体を斬られる。

 剣撃。体を裂かれる。

 剣激。骨に(ひび)が入る。

 

 後少し、少しだけ、時間を稼げばいい。

 ならばこんな痛みや傷、なんてことはない。

 もうすぐ終わる。

 その精神さえあれば、寧ろいつまでだって、この敵と剣を交え続けられる。

 

 止まるな。停まるな。留まるな。

 死線。四閃。交差。

 唯々(ただただ)気を張って、役目を果たせ。

 全身から血液が流れだしていようと、常人なら既に瀕死状態であろうと、全身を速く動かし続ける。

 

 剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。剣。

 振る。振る。振る。振る。振る。振る。振る。振る。振る。振る。振る。振る。

 

『足り、ない……』

『もっとだ。もっと出せる力を絞るんだ。最後の一滴まで』

 

 誰の声も聞こえない。

 聞こえるのは剣が奏でる音と、己と相手の風切り音のみ。

 無心に、直感で、剣を身体を操作。

 ただ時間を稼ぎ、その時が来るまで生き残ることだけを目的に。

 

『もっともっともっともっと!』

『これ以上は……』

 

 何度でも、幾らでも、何回だろうと、死の刃を耐え切って見せる。

 痛くとも苦しくとも何だろうとも。

 剣。避ける。振る。傷。

 いつまでだろうと。永遠だろうと、続けてやる。

 

『足りなくても、どうやっても、注ぐしかない! 勇者パワアアアアアッッ!』 

 

 感情など、切り捨てろ。

 痛いなど、辛いなど、苦しいなど、逃げたいなど、総て凡て全て、不要。

 総てを無くせば、何が起きようとどうなろうと、たとえ命尽きたとしても、斬り続けられる。

 

 ――――。一つ、注がれる一人から、力が他より高まった。

 高まったなんてものではない、膨大。

 注がれるモノの性質で、なんとなく誰が誰かは、判る。

 友奈だ。

 また、君なのか。

 前から、少し何かが違うと思わなくもなかったけれど。

 ここにきて、こんなところで、この局面で覚醒なんて。

 友奈、やっぱり君は、僕よりも主人公らしいかもしれない。

 性格も、考えも、性質も、何もかも。

 真の勇者。

 そんな名称が、しっくりきてしまうような。

 もしかしたら、なにかが関係あるのかもしれないけれど。

 それを僕が知ることは、ないだろう。

 だって――

 

 もう、終わるのだから。

 

「いける。ありがとうみんな。これなら、これだけあれば失敗することはないよ。完全な絶対を創れる」

 

『朝陽くん……頑張って』

『夢河くん……後は貴方に』

『全部、任せたからな……朝陽』

 

 力が注がれることはなくなり、皆の意識が飛んでしまったような喪失感。

 恐らく、力を使い過ぎ枯渇し、眠ってしまっただけだろう。

 ならば後は、銀に()われたように全部任せてもらえばいい。

 

『フハハッ…………ッ』

 デウスは、一瞬にして距離を取り後方へと退いた。 

 

 

 ――その剣は、勇壮――

 物語の勇者のみがその剣に触れることを許され。

 その剣は巨悪を斬る為だけに存在を許され、

 それ以外では深く眠る存在。

 幾星霜(いくせいそう)(とき)を経ても朽ちることなく、錆びることなく、唯々そこに在り続ける。

 遍く事象に奇跡を介入させ、強制的に解決へと導いてしまう光。

 都合よく、何もかもを壊してしまえる強大。

 顕現したら最後、大多数が悪と判断する側は、勝利の道が潰える。

 

 ――創成せよ。

「勇者の(つるぎ)

 

 右手に携えていた聖剣、白金の粒子を靡かせるマフラー、消失。

 変わりに右手に現れるは、何の変哲もない剣。

 鉄で出来ているかのような無骨な刀身。

 金の如き、しかし金メッキにも見える(つば)

 柄も変哲のない灰。持ち心地も特筆する点などない。

 されど内に秘めたものは、最強という概念。

 物語を強制的に解決へと導く、勇者が所有する剣。

 

「デウス。終わりだ」

『フハッ、ハハハハ……! 果たしてそうかな?』

「魔王は、勇者に倒されるために存在するんだよ。だから消えろ、悪だけしかない都合のいい存在め」

『ならやってみろ――――やれるものならな』

「やるさ」

 

 

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