――――そして、入部届けも書き終わったところで。
銀を皆に紹介しないとね。
ということで――
「あの、全員揃ったところで紹介したい人がいるんだけどいいですかね……?」
五人という人数に心を少し圧迫されながら尋ねる。
「時間がちょっと気になるけど、人を紹介したいならしょうがないわね」
「……? 遠慮なくやっていいよ!」
風先輩と友奈が答え、他の三人も同意してくれた。
友奈は、僕には記憶が無くかつまだ紹介できるぐらい人と知り合っているようには見えなかったからか不思議そうな反応をした後、とりあえず話を聞いてからの方が良いと思ったのか普通に答えた。
「これは僕が病院で目が覚めてすぐの時だったんですけどね――――」
僕は銀と知り合った経緯とどういう存在かを説明した。
銀がどういう存在かっていうのは僕も詳しく知っているわけじゃないが。
それと、銀の過去関連の事は話すのを避けた。
東郷さんの記憶を刺激して危険な目に遭わせる訳にはいかないからね。
東郷さん以外には伝えてもいいかもしれないけど、どこでボロが出るかもわからないし、リスクは避けるべきだ。
リスクを承知で特別言っておかなければならない理由も見つからない、結局はバーテックスさえ倒せば解決するのだから。
そうして話し終わった後――
「どうもー……三ノ輪銀です。よろしく」
銀が控えめに姿をポンッと現した。
控えめになっているのは東郷さんの事もあるからかな。
「ほえー……銀ちゃんよろしくねっ!」
驚いた後元気な笑顔の友奈。
非日常には慣れているんだろうけど、空中に浮いた人間が突然出てくるような現象はまだ見た事のない類のものだったんだな。
「これは驚きました……三ノ輪さんよろしくお願いしますね」
「――っ、う、うん。アタシのことは銀って呼んでくれ。よろしくな……美森……」
ショックを受けた表情を銀は一瞬したが、僕以外からは見えない角度だった。
仲の良かった友達に名字で、さらにさん付けで呼ばれたからだろう。無理も無い。
「銀、ですね。それと、東郷でお願いします」
「あ――ご、ごめんっ。東郷……」
今度はさすがに傷付いた様子を銀は隠せなかった。
なんで東郷さんは名前で呼ばれるのを拒んだんだろう。銀は須美ともう呼べないのを我慢して、せめて名前でだけは呼びたいと想って美森と口にしたんだろうに。
僕のただの推測だけれど、あながち間違ってはいないんじゃないかと思う。
人の心なんて完全にはわかんないけどね。
「あっ……! 銀ちゃん。東郷さんは別に悪気があって言ったわけじゃないんだよ。東郷さんは誰にでもいつも名字で呼んでって頼んでるんだっ」
そうだったのか。悪い風に誤解しそうで危なかった。
「そ……そうなんだ……よかった…………」
銀は強張っていた顔を和らげ息を吐き、心底安心したように呟いた。
「紛らわしいことを言ってしまってごめんなさい」
東郷さんは申し訳なさそうに眉尻を下げて謝った。
僕もどうなるかと冷や冷やしていたが、安心し、気づかれないように溜め息を吐いて体を弛緩させる。
それから他の皆も挨拶を済ませ、続いて風先輩が、
「精霊の紹介もついでにやっちゃいましょうか」
と言ったので、それもすることになった。
精霊っていうと三好さんが教室でいっていたやつか?
どんな存在なんだろう。
一斉に、まるで銀のようにポンッと出現した。
それぞれマスコットみたいな見た目をしている。
「まず私から紹介するね、この子は
ふむ、かわいいは正義ってやつだな。
確かに牛のご当地ゆるきゃらのようで、かわいいかもしれない。
ガブッ。
「ぎゃあああ!!」
噛んできたよ! 僕の頭に食らい付いてきたよこの牛野郎!
「あっ、いつもなら
義輝って誰だよ! それよりこいつを剥がしてくれ!
ああっ、食い込んでるよこれ、牙が、牙が!
キンコジで締め付けられる
僕、本当に妙な事だけ覚えてんな。
「ぜぇっ……ぜぇっ……」
なんとか力任せに牛鬼を剥がして、荒い息をつく。
あの牛っころデンジャラスすぎんだろ……。
恨めしげに牛鬼を見つめる。
デンジャラスビーフはまったく悪びれずに宙を旋回している。
くそっ、いつか焼肉にして食ってやろうか。
「名前も出たし、次は私ね。こいつは義輝、喋ったりもできる最高の精霊よ」
「
鎧武者のような容姿をした精霊だ。
「といっても、諸行無常と出陣と外道め、ぐらいしか喋れないけどね」
「うっさいわね」
別に特段かわいくもかっこよくもない精霊だが、こいつはいつもあんな目に遭ってるんだな……。
そう思うと、なんか同情と共に親近感が湧いた。
これが
それからそれぞれ紹介をしてもらった。
まとめるとこんな感じだ。
友奈の精霊、クソビーフ――もとい牛鬼。
三好さんの精霊、義輝、被害者同盟。
風先輩の精霊、
樹さんの精霊、
東郷さんの精霊は、三匹もいた。
まず、
次に、
最後に、
これで精霊は全部だ。
風先輩が一区切りと言うように手を合わせ、言う。
「これから一緒にいるんだし、銀も勇者部の一員ね。といっても入部届けを書く必要は無いわよね。朝陽が書いたやつで二人分という事にするわ」
確かに銀は僕の中に基本居るからな。今みたいに出る事もできるけど。
風先輩と三好さんが言葉を発しだす。
「それじゃあさっそく、時間も押している事だし勇者部の活動を始めましょう」
「そうね。今日の依頼は?」
「と、言いたかったところだけど、まだ一つやる事があったわ」
「あるんかいっ、時間が押してるんじゃないの?」
「そうなんだけど、これは勇者部に入るなら言っておかないといけない事だわ。勇者部五箇条についてよ」
「ああ、そうね。それは伝えておくべきだわ」
漫才かな?
勇者部五箇条? なんだそれは、規則的なものがあるのか?
ちょっと、部活に規則があるなんて聞いてないんよ~。
そういうことは入る前に言っておいてくれないと。
守れる類の事かわからないよ。
「朝陽、難しい顔してるけどそんなお堅いもんじゃないから大丈夫よ」
「そうなんですか?」
「そうよ。まあ、とりあえず聞いて覚えてくれれば」
「わかりました」
「じゃあ、みんないくわよ。勇者部五箇条!」
「え?」
皆?
「一つ、挨拶はきちんと」
東郷さんから始まり。
「一つ、なるべく諦めない」
続いて三好さんが。
「一つ、よく寝て、よく食べる」
風先輩。
「一つ、悩んだら相談」
樹さんに。
「一つ、なせば大抵なんとかなる」
友奈が最後に声を上げて。
「この五つが勇者部五箇条よ。きっちり胸に刻んどきなさい」
終わったみたいだ。
圧倒されて声が出なかった。
だって、いきなり一人ずつ順番に声を張り上げられたら誰だって唖然としてしまう。
――――だけど
「いい、言葉ですね……」
素直に、そう思った。
「まず、挨拶はきちんと。これは人が挨拶をする事で人との関係性の維持、活力を与えるという、そのコミュニケーションの重要さを表していて良い」
「次に、なるべく諦めない。これはすぐに諦めてしまう現代の若者に対する戒めとも取れ、なるべく諦めなければ意外と道が開けるものだよ、という優しく人の精神を後押しする意味もありこれも良い。『なるべく』というのもポイントだね、辛すぎる事をずっと諦めなくても潰れてしまう、だからなるべくという適度さも大事だ」
「よく寝て、よく食べる。これは一見陳腐なように見えて、だけどすごく重要だ。その生活リズムの安定は、健康と精神の安定をもたらす。健康と精神の安定が無ければ出来る事も出来なくなるからね」
「そして、悩んだら相談。これは会社とかでも重要な報告、連絡、相談、の『ほうれんそう』にも通ずる重要さがある。元々人は一人では生きられない生き物だ。だから協力をする必要がある。相談は一人では乗り越えられない困難を複数人で協力し解決するという非常に大事な行動だね」
「最後に、なせば大抵なんとかなる。これは個人的に一番好きだね。とても優しい言葉だ。どんなに辛い事でも、気楽に気負わずとりあえずやってみれば意外となんとかなってしまうよという、今生きるのが辛い人とかがこの上なく救われる言葉だ。本当に、すごく優しい言葉だ」
「と、僕の感想はこんな感じです」
ちょっと喋りすぎてしまったな。
というかかなりか、恥ずかしくなってきた。
何故こうも熱くなってしまったんだろう。
皆唖然としているじゃないか。さっきは僕が唖然とする側だったというのに。
本当に、なんであんなに饒舌になったんだ。
僕が羞恥と後悔に悶えていると、
「ありがとう朝陽くんっ! そんなこと言ってくれた人初めてだよ」
笑顔で言う友奈。
え、マジ? そりゃそうか……。
「ほんとにね、ここまで褒められると逆に引くわ」
「アンタは最初聞いた時、曖昧で適当とか文句つけてきたけどね」
「ちょっと、そんな昔の事持ってこないでよ」
「そこまで前じゃないでしょうに……」
三好さんと風先輩がまた言い合いをしている。
「でも、こんなに言ってもらうのは嬉しいものがありますね」
「ですね!」
東郷さんと樹さんは穏やかな微笑みを。
なんとか好意的に受け取ってもらえたようでよかった。
いやはや、全員にドン引きとかされたらどうしようかと……。
なにはともあれ、勇者部五箇条、これはいいものだ。
そして、勇者部の活動の話に戻る。
「今日は迷子の猫探しとパソコンの不具合を直す依頼ね。猫探しはアタシと樹と夏凜で行くから、パソコンの方は東郷と友奈と朝陽、それと銀にお願いするわ。朝陽と銀はまだ入ったばかりだし、最初はまだ見学でいいわ」
「「「「了解(です)」」」」
四人の唱和に少し圧倒された後。
「りょ、了解……」
「了解だ」
僕と銀も返事をした。
「じゃあ早速行こう!」
友奈が元気良く拳を上げる。
そうして、二組に分かれて部室を出た。
・
・
・
今、僕ら四人はパソコン室にいる。
銀は浮いているのを見られるのはまずいので、地面に足をつき一緒に歩いてきた。
東郷さんがパソコンに強いらしく、ほとんど東郷さん無双だった。
けど、友奈は東郷さんのサポートに余念が無く、見事なコンビネーションを見せていた。
その様子を僕ら二人は後ろで突っ立って見ていた。
一応見学という体にはなっているが、もし普通に手伝う事になっていても手を出せる余地なんてまったく無かっただろう。
まあ、いつも仕事がパソコン関連のこれだけという訳でもないと思うし、別段それを気にすることも無いと考える。
他の仕事で役立てばいいだけだからね。
僕なんかが役に立つかなんてわかんないけど。
――――それにしても。
友奈と東郷さんの頑張っている姿は、とても綺麗で、優しく、輝いて見えた。
そう在れる二人を、すごく羨ましく思った。
……その思考に、少し引っかかりを覚えた。
今見て思ったことは、今のが一度目だっけ…………?