愚かな僕は勇者になれない   作:ソウブ

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八話 うどん教と男の娘

 今日の勇者部の活動はその一つだけで、終わった後また風先輩と樹さんと三好さんの三人と合流した。

 合流したのは、これから皆で『かめや』といううどん屋に行く事になったからだ。

 僕も別に異論は無かったし、一緒に行く事にした。

 

 問題なく着いた。

 その店は自動ドアではなく木造の手動でガラガラと横に開けるタイプの扉だった。

 いいね。こういう店らしい雰囲気とかも大事だね。

 内装も良い感じにうどん屋っぽく和風だ。

「いらっしゃいませー。どうぞこちらにお座り下さい」

 店員さんがやって来て、それなりに人が居る店内を少しばかり歩き、六人座れる席に案内される。

 さて、実は僕、うどんより蕎麦の方が好きなんだ。

 うどん屋ではあるけどうどんがあるなら蕎麦もあるだろうと思ってメニューを開く。

 ざる蕎麦辺りでも頼もうかな。今七月でそれなりに暑かったしね。

 だが、探すのに少し手間取った。だってメニューの最後の方にあったんだもん。

 ていうかここ蕎麦の扱い雑すぎない? ざる蕎麦とあったかい蕎麦の二種類がちょこんと最後の方に影薄く載ってただけなんだけど。

 普通それ以外にも天ぷら蕎麦とか色々あるでしょうに。

 あくまでうどん一筋にしたいけど一応蕎麦も入れておこうとかそういう考えなのかな?

 なんか頑固爺さんが経営してそうだな。

 それはともかく、皆も注文は決まったようで風先輩が店員さんを呼ぶ。

 皆が注文をし終わり、最後に僕が言う。

 

「ざる蕎麦を」

 

 ――その瞬間、皆が固まった。

 ん? なんで?

 僕なんか変なこと言ったかな?

 

「いま、なんていったの……?」

 友奈が唖然とした顔で聞いてくる。

「え? 何って、ざる蕎麦だけど?」

 なんで皆固まってるんだ?

 ただざる蕎麦を注文しただけなのに。

 まるで異星人を見るような目で一斉に注目してくる。

 なぜだ。

 

「まさかこれだけうどんがある中で蕎麦を注文するなんてね……」

「ありえないです……」

「そんな馬鹿な……」

「朝陽くんって珍しい趣味をしてるねっ……」

「アンタ、至高のうどんよりあんなのの方がいいっていうの!?」

『朝陽、おまえ正気か?』 

 

 

 …………。       

 なにいってんだこの人たち。

 こわ。

 

 

  

 全員食べ終わったので、これでもう今日は解散となった。

 あの後僕はうどん教徒共をいなし、わさびをたっぷりとつゆに入れたざる蕎麦を食べた。小学生並みの感想になってしまうが、端的に言って美味かった。

 風先輩は結構な大食らいだったな。

 いや、うどん十杯とか化け物かと……。

 

 というか僕はお金を持っていないことをすっかり忘れていた。

 友奈が一緒に住んでる身ということで変わりに払ってはくれたが。

 そんなだから女の子に奢ってもらうという情けない事態になった。

 次はこんなことは無いようにしよう。

 でもお金持ってないんだよね僕。

 中学生だから稼ぐ方法も無いし。

 どうしようか。

 まあ、お金を使う状況にしなければいいだけか。

 別にかめやで食べなくても家でご飯は食べられるしね。

 

 

 もう太陽は橙色になりかけている。 

 でも、まだぎりぎり夕方ではないかな。 

 東郷さんが車椅子なので、デイサービスの車を呼んであるみたいだ。

 それに友奈も乗るみたいなので、僕も帰る家は一緒だから乗る事になる。

 ここで他の三人とは別れ、また会うのは明日だ。

 

 車に乗って、帰り道を窓からぼけっと眺めていると。

 ピコンッというような音が車内から聞こえた。

 隣を見てみると、東郷さんと友奈が黒いPDA――もといスマホを、操作していた。

 

「なにしてるの?」

 二人揃ってしてるもんだから、気になって聞いてみる。

 

 咄嗟(とっさ)で聞いてから、思考に浮かぶ。

 ――それともあれか? 最近の若者って奴か?

 最近の若者はすぐに、暇さえあれば携帯をいじくる傾向にあると聞く。

 友奈たちも例に漏れずそうなのだろうか。

 僕も最近の若者だけれど。

 

 そんなことを考えていると、隣にいる東郷さんが答えてくれる。

 ちなみに座っている順番は足の不自由な東郷さんを真ん中にした、左から友奈、東郷さん、僕、の順だ。

 

「勇者部の皆でチャットをしているんですよ。夢河くんも同じ勇者部なので出来るはずですよ。一緒にやってみます?」

 

 ふむ。皆とチャットか、やってみたい。

 さっき別れたばかりの三人とも文字越しで話せるしね。

 

「やりたいっす。どうすれば出来るんですかね?」

「それはですね――」

 

 東郷さんに操作方法を教えてもらい、僕もチャットに加わる。

 

 

 朝陽<僕もチャット始めてみる事にしました>

 

 Fu<おぉ! 朝陽か!>

 

 karin<来たわね>

 

 ituki<よろしくおねがいしますねっ!(o^∇^o)ノ>

 

 yuna<これで六人で出来るねっ(*´∇`*)>

 

 東郷<私がやり方教えたんですよ∠(`・ω・´)>    

 

 東郷<ところで夢河くん>

 

 

 東郷<うどん。好きになりましょう?>

 

 

 宗教勧誘かな?

 うどん関連の話はもう終わったんじゃないですかね……。

 宗教勧誘はしつこいらしいが、うどん教も同じなのかな?

 振り向くと、東郷さんはニッコリと微笑んでいた。その奥で友奈もニッコリ。 

 ……こういう時は、聞き流すのが最適だよね。

 

 

 朝陽<そうっすね>

 

 karin<返事が適当すぎるわ>

 

 Fu<これはまだまだ蕎麦を信仰してると見た>

 

 ituki<ですね>

 

 yuna<どうしたもんかね~>

 

 それはこっちの台詞だよ。なぜ揃いも揃ってうどんがそんなに好きなんだ。

 

 

 東郷<こうしましょう。うどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどん>

 

 yuna<そういうことだね! うどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどん>

 

 Fu<うどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどん>

 

 ituki<うどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどん>

 

 karin<うどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどん>

 

『うどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどん』

 

 東郷<うどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんうどんぼた餅>

 

「あんたら怖いわっっっっ!!!!」

 

 

 

 

 あれからなんとか説得して、うどん不可侵条約をどうにか結ばせた。

 これでもう、うどんうどん言ってくる事は無いだろう。

 …………無いと……思いたい。

 

 

 閑話休題。 

 次の日になり、今日は土曜日だ。

 だから学校は休みなのだが――

 

「朝陽くんっ! 部活行くよ!」

 ――とまあ友奈が言うように、勇者部の活動は学校が休みでもあるみたいだ。

 友奈と東郷さんと、また三人一緒に登校する。

 

 家庭科準備室――ではなく勇者部の部室に着くと、風先輩、樹さん、三好さんの三人はすでに今日の活動を始めていた。

 

「おはようございまっす。風先輩今日は何するんですか?」

「おはよう。今は演劇に使う衣装を作ってるところね」

「演劇? それはいつやるんですか?」

「十月よ」

「え? まだ三ヶ月もあるじゃないですか」

 今はまだまだ暑い七月だ。太陽がじりじりと照りつき、外で蝉も鳴いている。

 

「それはそうなんだけど、演技の練習もしなきゃならないし早く作っとくに越したことはないでしょ?」

「まあ、確かに」

 

 あらゆる想定をして事前に準備をして置くのは重要な事だ。

 時間ギリギリで大丈夫だろうと高を括っていると、いざ想定外の事態に遭った時に時間に遅れたりする。 

 そんな愚を犯さないようにするには、不安要素を消すための早めの準備は必要だ。

 

 まあでも三ヶ月も前から用意をするのは少し早すぎる感もあるが、だけど勇者部には他にもやる事があるし、出来る時にやっておいたほうが良いんだろう。

 

「それじゃあ朝陽にはこれを着て貰うわね!」

 

 ――は?

 

 風先輩が差し出した物に唖然とする。

 ……これどう見ても女の子が着る服だよね。

 冗談か? 僕をおちょくっているのか?

 この、ザ・男らしいの二つ名を冠する僕に女装を薦めるなど言語道断ですわ。

 

「嫌ですよなんですかそれ」 

「演劇で使う衣装よ。一つ一応完成したんだけど、失敗したみたいでサイズが大きくなっちゃってね。そのまま使わないのもなんだし、朝陽だったら着れるかと思って」

「あら、それはいいですね」

「いいね! 私も見てみたい!」

『面白そうじゃん』

 

 おいおまえら黙ってろ。

 

「失敗したならまた作り直せばいいじゃないですか!? なんで僕がそんなの着なきゃならないんですか!!」

「だって、朝陽って結構可愛い顔してるじゃない? 絶対似合うと思って」

「私もそう思います。すごく中世的な顔立ちをしてますよね」

「そうそう絶対可愛いって!」

『着てみようぜ』

 

 おまえら……ほんともうおまえら…………。 

 

 樹さんと三好さんも興味ありげに僕を見つめている。 

「いい加減にしてくださいよ…………」

 

 僕は男らしくありたいんだ。

 強く、優しく、かっこよく。そう在れる男でいたいんだ。

 女装なんてしたらよりそれから遠くなってしまうじゃないか。

 可愛いではなく、かっこいいと言われたい。

 男に対して可愛いなんて、侮辱だよ。

 

 

 ――――まあ、そんな思いが聞き入れてもらえるはずも無く。

 僕は無理やりその衣装を着させられた。黒髪長髪のかつらまで用意されていた。

 これ本当に失敗した奴なのか……? 

 妙にひらひらした服を着た僕の姿が、今勇者部の六人という衆目に曝されている。 

 

「おおー!」

「かわいいー!!」

「これは、予想以上ですね……」

「ふん、やるじゃない」

「素敵ですー!」

『朝陽すごいな、逆に怖いよ』

 

 僕は羞恥で顔を熱くして、こう言うしかなかった――

 

「くっ、殺せっ……!」

 

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