1話~帰省~
ーー今年の年末は帰れそうだよー\(^o^)/
家の前で煙草を吹かしている時のこと。ズボンのポケットへ入れたスマホがブルブルと震え、何かしらのメッセージが俺へ届いたことを知らせた。
そして、スマホに示されたのはそんな言葉だった。
そっか、今年はアイツと会うことができるのか。
流石ににやけるようなことはなかったが、気分はいくらか良くなる。口に咥えていた煙草を左手の人差し指と中指でそっと挟み、口から離したところで息を吸い込む。そうしてから吐き出された息は白く濁っていた。
ーー了解。楽しみにしてる。
右手でスマホを操作し、アイツにそんな言葉を返した。
煙草を咥え、口に空気を含む。また口から離して含んだ空気を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出す。
やはり、その息は白く濁って見える。それは、気温が低いっていう理由だけではないだろう。
てか、その顔文字はなんだよ……
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先日の大掃除と忘年会をもって、漸く今年は仕事納めとなった。
忘年会で俺の隣へ座ったのが、まさかの社長というハプニングはあったものの、特に問題はなかったと思う。ただ、せっかく高いお金を払ったというのに料理の味は覚えていない。しゃぶしゃぶなんて、久方ぶりだったのになぁ……
まぁ、とりあえずこれで俺も年末年始のお休みへ入ることができる。そんなことで、此処数年帰ることができなかった実家へ帰ろうかなと考えたのだ。
今住んでいる場所から実家までは車で二時間ほど。正直、いつでも帰ることのできる距離だ。しかし、それでも帰るのは久しぶりになってしまう。ほら、近いから逆に……みたいな?
そのことを親へ伝えると、素直に喜ばれた。嫌がられるよりは良いが、反応に困る。
さてさて、そんじゃ、のんびり帰るとするか。
服なども実家にあるはずだし、持っていく荷物は小さ目のバック一つに収まりきる。それに何か足りなければ向こうで買えば問題ない。
先ほどまで吸っていた煙草を地面へ擦り付け火を消す。そうしてから灰皿代わりに使っている広口コーヒーの空き缶の中へ入れた。
うむ、戸締まりもしたはずだしそろそろ行くとしよう。
「あっ、ども。こんにちはっす」
ガチャガチャと扉の鍵をかけていると、そんな声をかけられた。
「おう、こんにちは。これからお出掛けかい?」
声の主は隣に住んでいる男子大学生だった。やや茶色に染まった髪。気怠そうな雰囲気。まさにザ大学生と言った感じだ。
「はい。バイトっす」
あと、三日ほどで年も明けるというのに、そりゃあ大変だ。しかも、まだ朝早いというのに……
「そかそか、そりゃあ頑張ってくれ。年末年始は実家へ帰らないのか?」
詳しく覚えていないが、確か北の方の産まれだと思った。俺のように実家が同じ県なら良いがそうじゃない場合は大変だろう。年末年始の公共機関は良く混んでしまうのだし。
「それが……年末年始はずっとバイトで」
随分とばつが悪そうに彼はそんな言葉を落とした。学生なのに年末年始まで働くとは……見習いたくないが、素直に尊敬する。
しっかし、バイトねぇ……お金に困っているようなことは言っていなかったと思うが……ふむ、これが噂のブラックバイトって奴だろうか。最近は何でもかんでも黒くなり過ぎだ。
「年末年始くらい休めないのか?」
「俺が休むと他の人の負担が増えるんで……」
なんだろうか。この泥沼に沈んでいく人間を眺めるような気分は。
「流石に良くないって、わかっちゃいるんですけど……」
まぁ、わかっていてもできないことなぞいくらでもある。彼の場合は何とかなりそうな気もするが、人それぞれ事情はあるだろう。
「そう言えば、学生時代バイトとかしてたんですか?」
彼には彼の。俺には俺の事情があるのだ。最近の日本は、人間関係が希薄になりがちだなんて言われるが、踏み込まない方が良いことだってある。
「ああ、夏休みはひたすらレタス運んでたよ。んじゃ、良いお年を。来年になったらまた一緒に飲もうぜ」
ただ、まぁ、彼の愚痴くらいは聞いてあげようじゃないか。それが大人としてできることだろう。
手を挙げて彼と別れの挨拶を交わした。
冬の高速道路。二時間ほどのドライブと洒落こみましょうかね。
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数年ぶりに帰ってきた地元はいくつかの見慣れないものがあった。ラーメン屋のあった場所はコンビニへ代わり、もんじゃ焼き屋は喫茶店になどなど。
変わらないままっていうのはおかしいが、どことなく寂しさを感じる。これも我が儘なんかねぇ?
変わってしまった景色を横目に走ること暫く。既に稲はなく、トラクターで掘り返された田んぼの広がる景色の中に漸く俺の実家が見えた。帰って来るのは何年ぶりになってしまっただろうか。
そんな実家だけど、まさに田舎と言った具合で土地だけはやたらと広く、自分の車を止める場所には困らなかった。
数年前までその土地は随分と凸凹だったが、今は砂利が敷かれ随分と平らとなっている。車も止め易く有り難いことではあるけれど、身近だったものが急に変わってしまったものだから、どうにも心がざわついた。
そんな変わってしまった土地には見慣れない車が二台ほど。たぶん、叔父家族と兄の家族が来ているのだろう。
いつまでも経っても独り身な俺。
ーー見てくれは悪くないのにあんた、ガラが悪いからねぇ。
なんて台詞は母親からだっただろうか。良い加減良い人を見つけろだとか、また何かしらの文句を言われる気がする。そんなことを考えるとせっかく実家へ着いたのにも関わらず車から降りる気は薄れた。
とは言うものの文句や愚痴を落としていて仕方無いため、実家の中へ。
「ただいま」
玄関から入る気にはなれず、そんな言葉を落として裏口から。
「……あれ? もしかしてお兄?」
家の中へ入ってすぐ言葉をかけてくれたのは叔父の娘……まぁ、つまり俺の従妹だった。記憶が正しければ今は現役の女子高生だったはず。手を出したら捕まりますね。いや、出すわけないけどさ。
「よ、久しぶり」
従妹はもう年だって変わる冬だというのに、スカートを履いていた。うむ、現役女子高生の生足はやはり良いものですな。
声に出したらセクハラだが、思うくらいは許してもらえるはず。
「あっ、うん。久しぶり。今は皆でお掃除してるとこだよ」
ああ、それで従妹もフローリングを吹くための紙モップみたいなやつを持っていたのか。
しかし、掃除か。できれば掃除が終わる頃に帰って来たかった。まぁ、仕方が無い。この年末年始後ろめさなく過ごすためにも、多少は働くとしよう。
「ただいま。掃除してるって聞いたけど俺は何すればいい?」
従妹と別れ、せっせと窓を拭いていた母親に尋ねてみる。できれば面倒ではない仕事だと嬉しいが。
「あら、帰ってきてたのかい。そうだねぇ……それじゃあ、甥っ子君と一緒に換気扇の掃除を頼むよ」
換気扇の汚れか。油汚れが鬱陶しそうだ。
それにしても、甥っ子君ねぇ。以前会ったのはいつだっただろうか? その時はまだちゃんと話をすることもできないくらいの歳だったと思う。
「了解。ピカピカにしてくるわ」
「はいはい、期待してるよ。ただ、甥っ子君を怖がらせちゃあダメだよ?」
善処はします。
保証はできない。
手に持っていたバックを部屋の隅へ適当に置いてから、台所にある換気扇を目指す。先日、会社の大掃除で油汚れと戦ったばかりだというのに、まさか実家でも戦うことになるとは思わなかった。
そして、台所の換気扇のある場所では小さいのが椅子に乗り、一生懸命換気扇を拭いていた。
うむ、こりゃあ邪魔しちゃ不味いな。此処は大人としてそっと見守っていてあげよう。
「馬鹿言ってないでさっさと働きなさい」
母様に怒られた。
いつになっても母親からは怒られっぱなしだ。てか、雑巾で人を叩くのは止めてください。
「へい、甥っ子君。調子はどうだい?」
「えっ? あ……うん。なかなかキレイにならない」
いきなり知らない大人から声をかけられたせいか、多少驚いた様子の甥っ子君。それでもしっかりと返事ができたのは偉い。年齢だって小学生になったか、ならないかくらいだというのに。
「そかそか、そりゃあ大変だな。こっからは俺も手伝うよ。ちょいと強めの洗剤を使うからゴム手袋してきな」
「う、うん。わかった」
とてとてと走っていく甥っ子君を見て一つ頷いてみる。うむ、素直な良い子だ。まぁ、あの兄と義姉の子どもなのだし、しっかりとした教育を受けているのだろう。
さてさて、そんじゃ始めますか。