その日の天気は晴れでした   作:puc119

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4話~思出~

 

 

 車から降り、疲れた身体を少しでも癒そうと考え吐き出した息は真っ白く染まった。

 

「運転お疲れ。どうだ? 軽トラだって悪くないだろ?」

 

 そんな父親の言葉。

 

「悪くはないけど、俺は遠慮するよ」

 

 シートは硬いし、パワステの効かないハンドル操作は滅茶苦茶疲れる。高速なんて走れたもんじゃないだろう。やたらと小回りは効くし、荷物も乗るから便利っちゃ便利だけどさ。ただマニュアルは運転がやはり面倒臭い。

 

 ポケットから煙草を取り出し、とりあえず一服。冬の空気は澄んでいて、いつもより美味しく感じた。それにスキー場で吸う煙草は3割増しくらいで美味い。

 

「んじゃ、従妹ちゃんのことは任せたぞ」

「ああ、任された」

 

 煙草を口に加えたまま、色々と準備。煙が目に染みて、少しばかり涙が溢れた。

 

「わー! 雪だ!」

「すごい! 雪がある!」

 

 そんな準備をしていると、楽しげな声が聞こえてきた。東京生まれで、東京育ちの甥っ子君、姪っ子ちゃんにとって雪ってのはやはり新鮮らしい。

 小さいころは俺も雪が積もれば嬉しかったが、今じゃその感動を味わえなくなった。それも大人になったってことなのかねぇ? そうだとしたら、大人になるってのも碌なことじゃないな。

 

 ボード用のブーツへどうにか足を入れ込み、ようやっと準備完了。本当はスキーの方が好きだけど、まぁ、仕方無い。

 明日は筋肉痛だろうなぁ……

 そんなことを考えると、どうにも気持ちが沈んでくる。煙草をやめれば多少はマシになるだろうけれど、今更やめることはできそうにない。

 

「今日はよろしくお願いします」

 

 そして従妹の言葉。教えるのは下手だが、まぁ、できるだけ頑張るよ。

 

「んじゃ、行くか」

 

 来年からは大学生の従妹。んで、大学生になる前にボードができるようになりたいんだとさ。道具は一式揃えたらしいし、やる気だけは十分そうだ。

 

 それにしても……

 

「どうしたの?」

 

 いや、スキー場だと2割増しに見えるってのは本当なんだなって思ってさ。

 

 

 

 

 

 

「あれ? リフト券買わなくて良いの?」

「最初はな。多少滑れるようになってからだよ」

 

 初心者がいきなりリフトなんて乗るのは無理がある。この歳でリフトを止めたくはない。アレすごく恥ずかしいし。

 

「それじゃあ、どうするの?」

「あそこで練習」

 

 そう言ってから指を指した先は、ちびっ子たちがソリで遊ぶようのゲレンデ。甥っ子君と姪っ子ちゃんの楽しそうな声が聞こえる。従妹の顔は引き攣っていた。

 

「いや……恥ずかしいのですが」

「ゲレンデの真ん中で転けて他の客に迷惑をかけるよりはマシだよ。基本ができるまでは頑張れ」

 

 俺が初めてボードをしたときは、いきなりリフトに乗って軽がり落ちながら覚えたが、ソレを従妹にさせるのは酷だろう。女の子がやるようなことじゃない。しかもあの時は友人と着ぐるみ姿で滑っていたし、かなり目立っていただろう。

 そんな思い出は若気の至りと言ったところ。今じゃそんな元気もありゃしない。

 

 

 

 

 そんな感じで、練習スタート。

 

「コケるとき、手はつかないように気をつけろ。腕が逝くから」

「りょ、了解です」

 

 教えると言っても、俺自身が誰かから教えてもらったことがないため、かなり酷い教え方となってしまった。

 

「腰だ腰を振るんだ!」

「意味わかんないよ……」

 

 ドンティンク、フィール。つまりはそう言うこと。

 いや、多分違うと思うけど。

 

 本当はボード教室にでも参加するのが一番だろうが、一人だけで参加させるのも可哀想だ。

 それでも、午前中が終わる頃には多少は滑れるようになった。俺が言うのもアレだが、すごいなおい。元々運動はできる方だったんだな。

 

「疲れた……」

「お疲れ様」

 

 何度も転んだせいか、従妹のウェアは雪だらけ。そして午後はついにゲレンデデビューだな。まぁ、頑張れ。

 

 お昼は皆で食べることになっていたので、従妹と一緒に食堂へ向かった。

 そして、食堂へ行くと既に全員の姿。どうやら俺たちが一番遅かったらしい。

 

「どうだ? 多少は滑れるようになったか?」

 

 叔父の言葉。机の上にはビールの空き缶がいくつか転がっている。父親と一緒にお酒を飲んでいたらしい。なるほど、帰りの運転も俺がするのか。てか、あんたら何しに来たんだ。ずるい、俺も飲みたい。

 

「まぁ、少しは」

 

 少しばかり恥ずかしそうな従妹。それでも滑れるようになったのは本当なのだし、胸張って良いと思う。

 

 お昼のメニューは迷わずカツカレー。どのスキー場でもお昼は毎回カツカレーを食べるようにしている。どうしてカツカレーなのかは俺も良くわかっていない。

 甥っ子君と姪っ子ちゃんは早く、滑りに行きたいらしく、お昼を食べている間も終始そわそわしていた。兄夫婦はそれに付き合うらしい。お義姉さんは知らないが、兄はかなりスキーが上手い。せっかくスキー場へ来たのに、滑らなくても良いのだろうか? 子育てってのも大変だねぇ。

 

 

 そして、午後はちゃんとしたゲレンデへ挑戦。

 

「……緊張する」

 

 最初なんて誰もそんなもんだ。

 

 できるだけ他の客の邪魔にならないよう、端の方で滑るようにしたが、思いの外従妹が上手い。滑る速度は遅いけれど、しっかりと滑ることができている。

 

「ほら、私の場合、スキーは滑れるから」

 

 スキーとボードで滑る感覚は違うけれど、雪に対して慣れているってのは大切なことらしい。

 

 

「そう言えば従妹って、今年受験じゃないのか?」

 

 リフトへ乗っている間の雑談。

 受験生にとって“滑る”的な言葉はNGなはず。それなのに従妹の場合、言葉にするどころか、身体全身で表現してしまっている。全国の受験生さんたちに喧嘩でも売っているのだろうか。

 

「そうだけど、私はもう推薦が決まってるから」

 

 あら、そうだったのか。

 つまり今が一番楽しい時期ってわけか。センター試験も近い今、こうして遊んでいるのだし、それもそうか。

 

「大学はどこ行くの?」

 

 確か、従妹の成績は良かったと思う。きっとそれなりの大学へ行くんだろうな。親戚として少しだけ誇らしい。

 

「あれ? 言ってなかったっけ? お兄と同じ大学だよ」

「マジで?」

 

 それは初耳だ。もう少し良い大学だってあっただろうに。

いや、別に自分の出た大学を馬鹿にするつもりはないけどさ。一応、国立ではあるし。世間は狭いものだ。それは俺のいる世界だけなのだろうか。

 

 しっかし、大学ねぇ……俺が入学したのはもう何年前のことだろう。考えたくもない。

 

 

 

 

 せっかくスキー場へ来たのだし、何か思い出は残しておこうと考え、スキー所の頂上から写真を撮っておいた。そんな俺を真似してか、従妹もパシャパシャと写真を撮っている。

 

「お兄も撮ってあげようか?」

「遠慮する」

 

 昔から自分が写真に写るのは苦手なんだ。撮るのは結構好きなんだけどさ。

 

 撮った写真は特にコメントもつけず適当にSNSへアップしておいた。

 そして、最近のスキー所には珍しく、頂上に喫煙所があったため、一服していると、胸ポケットに入れたスマホがブルブルと震えた。たぶん、誰かが反応してくれたんだろう。

 スマホを取り出し確認すると

 

 ――スキー? いいなぁ。私も行きたい!

 

 だなんて、アイツからのコメント。仕事はどうしたよ。てか、確かお前は滑れんだろ。そのコメントへは適当に返信。

 もう一つ同僚から、大量の栄養ドリンクの空き瓶が転がっている仕事場の写真が来ていたが、そちらは“いいね”だけして無視しておいた。

 同僚の分まで、年末年始を楽しませてもらおう。

 

 

 

 結局、その日は朝一番から、リフトの止まる時間ギリギリまで滑っていた。従妹に合わせて滑っていたため、それほど疲れてはいないけれど、筋肉痛から逃げることはできなそうだ。家に湿布とかあっただろうか?

 

「一日中付き合ってもらってごめんね」

「俺も楽しかったし別にいいよ」

 

 一人で滑るのも嫌いじゃないが、一日中滑るのは無理だろう。だから丁度良かったんじゃないかって思っている。

 初めてのスキー場ではしゃぎ過ぎたのか、甥っ子君と姪っ子ちゃんは揃って寝てしまった。まぁ、楽しんでもらえたようだし、良かったんだろう。

 

 帰りの運転のことを考えると気は少々重いけれど、今日の思い出でも振り返りながらのんびり帰るとしよう。記憶が色褪せてしまう前に楽しんでおかなければもったいないのだし。

 

 






読了お疲れ様です
感想を書けるようにしてみましたので、書いていただけると全力で反応します

では、次話でお会いしましょう

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