「久しぶりにキャッチボールしようぜ」
12月31日。大晦日。今日はそんな日だった。
昨日のスキーのせいで案の定、筋肉痛となってくれやがった身体には嫌気がさす。ストレッチはちゃんとしたんだけどなぁ。
「いや、筋肉痛で身体がボロボロだからあまり動きたくないんだが」
今日は一日のんびり過ごそう。なんて思っていると、兄からキャッチボールのお誘いが来た。そんなキャッチボールは好きだが、タイミングが悪い。両足なんてずっとプルプルしてるもん。情けないことではあるけれど、歳には勝てない。
「キャッチボールくらいなら大丈夫だろ。ほら、行くぞ」
はぁ、身体動くかねぇ……
そんなこんなで兄とキャッチボールすることになったわけだが、甥っ子君と姪っ子ちゃんも一緒にキャッチボールをすることになった。たぶん父親と一緒に遊びたかったってことだろう。
「お兄、私の分のグローブってある?」
絶対外寒いよなぁ。嫌だなぁ。なんて思いつつも運動をする準備をしていると、従妹からそんな声をかけられた。
あら、従妹も一緒に来るのか。まぁ、何事も人数が多い方が面白いか。
「ああ、ファーストミットとキャッチャーミットがあるぞ」
「なんで変なグローブばかり持ってるのさ……」
ポジションの関係です。
ここ数年は使ってないし、手入れなんて全くしてないから多分かなり使い難いと思う。買う時は高かったから元は良いはずだけど。
「普通のグローブはないの?」
「あるよ」
「あるんだ……じゃあ、それで」
内野手用のグローブを従妹に渡し、それからボールを探してみたが、見つかるのは硬球ばかりで軟球が見つからなかった。この寒い日に硬球なんて投げたくはないから、一つだけあったソフトボールを持っていくことに。
甥っ子君達用のボールはどうしようかと思ったが、柔らかいゴムボールがあったからそれも持って出発。
準備を終え外へ出ると、それなりの厚着をしているはずなのに、その空気はやはり冷たかった。吐き出された息は白く染まる。
「てか、従妹はキャッチボールできるのか?」
近所の公園へ歩いて向かう途中、従妹と会話。
ソフトボール部にでも所属していればキャッチボールはできるけれど、そうでもなければ女の子にキャッチボールは難しいだろう。
「体育の授業でソフトボールやったから少しはできるよ。そう言えば、私を教えてくれてる体育の先生ってお兄の知り合いなんでしょ?」
「ああ、俺と同級生だな」
確か、今は野球部の副顧問をしていたはず。
一緒に白球を追いかけたのはもう何年前のことになるだろうか。あの頃は毎日の練習が馬鹿みたいに長く感じたけれど、今振り返ると、随分と短い時間だったように感じてしまう。
「先生がお兄の頃の野球部は強かったって言ってたけど、そうなの?」
従妹が通っている高校は俺の母校でもある。それがなんとも変な感じ。
「ん~……どうだろうな。弱くはなかったとは思うけど」
地区予選3回戦。第一シード高との対戦で延長10回、ライト前にぽてりと打球が落ちた瞬間、俺たちの夏が終わった。
俺たちに勝った高校はそのまま甲子園へ。
その程度の強さだった。
大学では野球を続けなかったし、俺の野球人生はあの夏で止まっている。
ぽてぽてと10分ほど歩き公園へ到着。大晦日と言うこともあってか、俺たち以外公園には誰もいなかった。
少しでも身体が温まってくれるよう、頑張ってみましょうかね。
筋肉痛で固まってしまっている筋肉を無理矢理伸ばし、少しでも動くようにさせてみる。明日は腕も筋肉痛になるんだろうなぁ……
俺は兄と。甥っ子君、姪っ子ちゃんは従妹と。と言った感じで2つのグループに別れてキャッチボール。
小さい頃は良くやっていた思い出はあるけど、こうして兄とキャッチボールをするのは何年振りだろうか。
「お前ってまだソフトボールとかやってんの?」
「いんや、近所のおっさん達とたまにやるくらい」
あれくらいじゃあ、やっているとは言えないだろう。
大学生になった時、どうしても野球をやる気にはなれず硬式ソフトボール部に入部した。部活ってついてるけど、中身はサークルみたいに軽い感じだから。だなんて甘いお誘いに負けて。
結果、大学1~3年の土日は全て潰れた。
だらだらと雑談を交えながらキャッチボールを続けていると、せっかくだからソフトボールのピッチャーやってくれと兄から頼まれた。俺のやっていたポジションはピッチャーじゃないんだがなぁ……
まぁ、身体も温まるし丁度良いか。なんて思い、ピッチング。
久しぶりのウィンドミルではあったけれど、ブラッシングの調子も悪くない。頭と違って体は忘れないものだな。
「すげーな。どうやって投げてんだよ」
どうやってと聞かれても、うまく答えることはできない。毎日練習してやっとそれなりの形になったんだ。まぁ、俺の投げ方だって、投手をやってる奴から見れば酷いものなんだろう。
「俺もピッチャーやってみてもいい?」
お好きにどうぞ。
俺がそう答えると、兄は勢い良く振りかぶった。
ああ、ソフトボールのピッチャーなのに、上から投げるのね……
そして、ややサイド気味に振られた兄の右腕からボールが投げられ、パシンっと心地よい音を立てながら俺のミットに収まった。
「ブレーキのきいた良いチェンジアップだな」
「ストレートだよ、バカヤロー」
お互い、歳を取ったものだねぇ。
キャッチボールも終え、家に帰る頃には丁度お昼の時間くらいだった。確か、今日の昼飯は蕎麦だと思った。所謂、年越し蕎麦。昨年は同会社で年越し蕎麦の代わりにカップ麺を啜ったが、今年はちゃんとした蕎麦を食べることができそうだ。
住んでいる県の影響もあるだろうけれど、我が家の年越し蕎麦は毎年ザル蕎麦だったはず。てか、そもそも温かい蕎麦を食べた記憶がほとんどない。やはり蕎麦はザル蕎麦が一番だと思うんだ。
家に帰ると、両親がせっせと蕎麦を打っているところだった。一応、俺も蕎麦を打つことはできるけれど、どうしても味が残念になる。蕎麦自体は大好物です。
「おお、帰ってきたか。ちょっとカラツユ作っといてくれ」
そんな父親の言葉。
「はいよー」
因みに、カラツユってのはつけ汁のこと。蕎麦を食べるとき、醤油ベースのつけ汁が一般的だけど、この辺りでは昔から味噌ベースのつけ汁で蕎麦を食べる。作り方は辛味の強い大根のおろし汁へ味噌を加えると、手間がかかる。そして見た目もちょっとアレ。だけど味は最高に良いと思う。超美味い。
年越し蕎麦を食べ終わると、いよいよ今年も終わりと言う感じがしてくる。新年明けたところで、何かが変わるとは思えないけれど、年が変われば良いことだってある気がする。
その日は年の変わる瞬間まで起きている元気もなく、日も高いうちからお酒を飲み始め、早々に寝ることとした。昨日今日と身体を動かしまくったこともあり、疲れていたんです。
きっと目が覚めた時はもう新年を迎えていることだろう。
それにどんな意味があるのかもわらないが、今年一年どんなことがあったか振り返ろうとしてはみた。けれども寝床へ横になって直ぐ、俺の意識は沈んでいった。
“カラツユ”が気になる方は“高遠蕎麦”なんかで検索すると出てくるかと
癖が強く、一般受けすることはなさそうですが一度食べてみることをオススメします