辺りは暗く。月の明かりも何処か弱々しい。街灯の光がなければきっと真っ暗な世界となってしまうだろう。
そんな暗い世界だと言うのに、煙草の真っ白な煙だけは莫迦みたいに目立った。
うむ、寒い日に吸う煙草はやはり美味しい。
「あっ、おはようルー君。今行くね」
それにしても寒いなぁ。なんて思っていると上の方からそんな声をかけられた。其方の方を見ると、ベランダからお嬢が顔を出していた。
今、俺がいる場所はお嬢のマンショの駐車場。現在の時刻は午前4時20分と言ったところ。集合時間は4時30分と決めたものの、まぁ、まずその時間に全員が集まることはないだろう。ウチには朝早いのが苦手な人間が多いのだから。
今日は泊まりでスキーへ行く日。今週はかなりハードだったせいで、身体の疲れが抜けきってはいない。それでも、スキーはかなり楽しみだった。昨晩なんてワクワクしちゃって全然寝られなかったし。
煙草も吸い終わり、火を消してからコーヒーの空き缶へその吸殻を入れていると、ドタドタと愉快な音を立てながら、お嬢が降りて来た。
「よっ、おはよう」
「うん。おはよう。それにしてもこう言う時のルー君っていっつも早いよね」
昔から集合時間よりも早く集まる人間だったとは思う。待たせると申し訳なくなるし。因みに、こう言う時、同僚は必ず遅刻する。アイツにはいつもいつも待たされてばかりだ。
「今、先輩ちゃんさんが後輩ちゃんと後輩君を拾ったって。だから多分そろそろ来ると思うよ」
「了解」
今回は俺と先輩ちゃんさんの二人が車を出すことになっている。同僚は歩いて此処まで来るはずなんだが……まぁ、どうせいつも通りの遅刻だろうなぁ。
それから暫くの間、お嬢と雑談していると、随分と良いエンジン音を響かせながら、真っ青な車が俺たちの方へ近づいて来た。
「あっ、先輩ちゃんさんたちだ」
相変わらず厳つい車ですね。その車を運転させてもらったことがあるけれど、力もあり良い車だと思う。でも、俺にはあの車に乗る勇気はないかな。だってあんな車に乗っている奴なんてどう考えてもヤンキーだろうし。
まぁ、あの先輩ちゃんさんには似合っていると思う。
「おっす、おはよう……って、なんだ。アイツはまた遅刻してるの?」
車から降りて来た先輩ちゃんさんが言った。
因みに現在の時刻は4時45分だから先輩ちゃんさんたちも遅刻だったりする。そうなるってわかっていたから、集合時間をかなり早くしたんだけどさ。
「そうらしいですね。電話をかけても出ないので、多分寝ていると思います」
だから起こしに行かないとだけど、面倒なんだよなぁ。ホント、手のかかる同僚だ。
「おはようございます。同僚さん、また遅刻ですか?」
そして後輩ちゃんの声。
朝も早いと言うのに、相変わらず元気は良い。俺は流石にちょっと眠いです。
「はぁ、しょうがない。私が起こしてくるよ」
「あっ、すみません先輩ちゃんさん。お願いします」
これは助かる。
同僚の荷物は既に俺の車へ積んであるため、あとは同僚を連れてくるだけ。もし置いていったらどんな反応をするだろうか?
いや、流石にそんなことはしないけどさ。
「それじゃあ、行ってきますね」
「うん、叩き起こしてあげて」
後輩ちゃんに、コレで起こしてあげてと言ってロケット花火を渡してから、二人を見送る。後輩君も先輩ちゃんさんの車に乗っていたけれど、俺たちと一緒に残ってくれるらしい。
因みにロケット花火は去年の夏、同僚が花火をやろう! とか言って持ってきたやつの残り。何が面白くて大人の野郎二人で花火なぞやらなければならんのだ。一応、つきあってあげたけどさ。
残った組である俺たちは忘れ物の確認だったり、また雑談などして過ごした。話し好きのお嬢がいるおかげで、会話には困らない。そして、先輩ちゃんさんたちに同僚を任せてから15分と言ったところ。
良いエンジン音を響かせながら近づいて来る車。どうやら帰ってきたらしい。
「バカヤロー! 後輩ちゃんに何を頼んでんだ! 爆発音で目覚めたのなんて初めてだぞ」
車から飛び出してきた同僚。全く、朝っぱらから騒々しいじゃないか。
てか、後輩ちゃんホントにやったんだ……俺は冗談だったんだけどなぁ。相変わらず行動力はすごい。どうしてその行動力はいつも残念な方向へ向かってしまうのやら。
「まぁ、目が覚めたようで何より。これからは遅刻しないようにな」
遅刻したことが悪いとは思っているのか、俺がそう言うと同僚はそれ以上何も言ってこなかった。どうやら誤魔化すことができたようだ。そんなバカなお前が大好きだよ。
現在の時刻は5時を少し過ぎたくらい。うん、予定通りだ。そんじゃ、出発しましょうかね。
あっ、先輩ちゃんさん、あんまり飛ばしすぎないでくださいね。時間に余裕はあるんでのんびり行きましょうよ。
俺と先輩ちゃんさんが車を出したわけだけど、俺の車には同僚しか乗っていない。残りは全員、先輩ちゃんさんの車。その代わり、俺の車の後部座席は全て倒し、ボードだのスキーの道具だのは全て俺が運ぶことに。別に俺が嫌われているとか、そういうことではない。……たぶん。
高速へ乗る前に、コンビニへ立ち寄り、朝食とコーヒーを購入。普段は朝食を食べない俺でも、スキーへ行く時ばかりはいつも食べるようにしている。スキーへ行く前に食べる肉まんは美味しい。
それから直ぐに高速へ入り、あとは目的地を目指すだけ。車の中の様子は俺と同僚がアホみたいな話をしているだけなので省略します。コイツとの会話の9割は次の日になったら忘れるようなものなんだ。
そして車を走らせること2時間弱。漸くスキー場へ到着。
「リフトまだ動いていないみたいですね」
後輩君が遠くの方に見えるリフトを指差しながら言った。
まぁ、まだ7時30分にもなってないもん。そりゃあ、リフトは動いてないだろう。どんなに早くても8時30分にならないと動かないと思う。むぅ、予想以上に野沢温泉が近かった。
「時間もあるし、泊まる宿に荷物を置かせてもらえるか聞いてみよう」
まぁ、1時間なんて直ぐに過ぎてしまうはず。それに、早く来て損することは何もない。
それから宿へ荷物を運んだり、滑る準備をしているだけで、時間はあっと言う間に過ぎていった。因みに、俺、同僚、お嬢の三人がスキーで、先輩ちゃんさん、後輩君、後輩ちゃんがボード。お譲と先輩ちゃんさんが上級者。俺と同僚が中級者。後輩君、後輩ちゃんが初心者と言ったところ。
しっかし、お嬢の奴、スキーウェアを着るとホントに中学生みたいだな。色もよく小さい子が着ているやつだし、小学生と言っても通用しそうだ。そして、先輩ちゃんさんのウェアどうなってるんですか? ジーンズにしか見えないけど……ふむ、ボードのウェアはオシャレなのが多いんだな。
「…………おい、ルー」
ちょいと不機嫌そうな同僚の声。其方を向くと、どっかで見たことのある全身赤色のモップのような着ぐるみを着た同僚がいた。是非、『緑は邪道ですぞ!』とか言ってもらいたい。
でも、知り合いとは思われたくないからちょっと離れてもらえないだろうか。
「どったの?」
「どったの? じゃないでしょうが! 一緒に着ぐるみ着て滑ろうねって約束したじゃん! 緑を着てくれるって言ったじゃん! それなのにどうしてお前、普通の格好してるんだよ!」
あら? そんな約束しただろうか? 多分、今週は何度か徹夜しているし、深夜テンションで変なことを口走ってしまったんだとは思うが……まぁ、だからと言って罪悪感なんて微塵もないけど。
「この歳になって着ぐるみはキツいって。良いじゃん似合ってるぞ。でも、俺と一緒にリフトには乗らないでくれ」
「このド畜生が!」
そう言う性格なもので。