読者の皆様の中には作者の方もいらっしゃると思います。皆様、互いに創作活動頑張りましょう!
今日もまた、昨日みたいな晴天に恵まれていた。
家から外に出てみれば、眩い日差しが彼を斜めから照らしている。吐く息はやはり白い。寒さは今日も健在のようだ。
リンディ提督からは、『転送装置が少し不調だから、今日の午後まで保護しておいてね』なんて言われた。面倒なことを押し付けられたもんだ。子供の世話なんて、ミッドチルダにいる弟くらいしかやったことないんだぞ、と内心悪態をつきたくなったローガンだが、これも任務の一貫なのだ。
とまあ、まだ二人は昨日のダメージが残っているのかまだ眠っている。あとはエレンに任せて、ローガンは外に出ている。
外をだるそうに歩くローガンは、何かと過保護なエレンのせいで、昼間だというのに黒いコートの上に黒いマフラーという厚着にさせられていた。まるでだるまみたいになりながらも、彼はある場所に向かっていた。
「中央図書館。久しぶりに来た気がするな」
ローガンの目の前には、この海鳴市でもわりと大きな部類に入る図書館が鎮座していた。
来るのは二年ぶりくらいになるだろうか。色々あって、“彼女”とも会えていないから今日は久々に来てみたのだ。今日は日曜、大体あいつはこの時間帯にここにいる。
マフラーを外し、自動ドアを潜ってエントランスホールから中に入ると、たくさんの本棚が並んでいるのがまず目に入る。ここには色んな種類の本が大量に置いてある。金持ちの海鳴市なだけある。普段は引き金を引き続けるスナイパーであるローガンも、たまにここの本を借りて見たりしているから、ここにはよくお世話になっている。
......だからこそ、彼女と出会ったんだけれども。
棚をくぐり抜け、あいつがいつもいる恋愛小説ものの陳列の場所に行くと......彼女はいた。
「よう、いつものように小説漁りか?はやて」
前々からよく話をしたり面倒を見たりしている少女、八神はやてはそこにいた。生まれながらに足が悪いらしく、今日も車椅子に乗っての来館らしい。
「ロ、ロー兄......?ロー兄なんか!?」
人懐っこい彼女は、彼を見つけるなり一瞬驚いた表情を向けて、ゆっくりと近付いてくる。
......まあ無理もないか。二年ぶりの再会だからな。
そして、そこに立っている男がローガン・ハンニバルだと確信した彼女は、少しだけ声を大きくして、こっちに車椅子を押した。それを見て、ローガンは苦笑いしながら彼女のもとへ向かうのだった。
「元気にしてたか?」
「もちろんや。ロー兄がおらん間も、色々とあったけどな。ロー兄はどうなん?この二年間はお仕事が忙しいって言ってたけど」
「まあまあだな。こっちはこっちでいろんな所飛び回ったり」
「通訳って、結構大変なんやろ?特に今なんかは政治関連で動きがおおきくなるころやし」
「それなんだよなぁ。まあ、大変な分金はたっぷりと貰えるがな」
ロビーに移動した2人は、近況報告も兼ねて雑談タイムにシャレ込んだ。
仕事とは、ローガンが生活費稼ぎにやっている通訳という仕事のことだ。元々は色んな世界を回っていた俺は、色んな言語を高速で習得する技術を早々に身につけていた。英語はもちろん、ドイツ語やフランス語、まあ有名な言語の大抵は喋れる。専門は英語だけれども。
......というのは、単なる肩書き。本当は時空管理局の魔導師でスナイパーが本職だ。まあもちろん魔法なんて縁のないこの世界でそんなことを言ってしまえば、明らかに頭のおかしい人と見られるがオチだから言わない。
いい大人がそんなおバカな夢見てるって思われたら、社会的に死んでしまう。
「そうかぁ。ほんと、ロー兄は英語が使えてええなぁ。私もその内、ロー兄から色々教えて貰うことがあるかもしれんなぁ」
「そん時は任せてくれよ。しっかりしごいてやるからな」
「よろしくな〜」
久しぶりに話すのでとても楽しい。そんな他愛もない話だけれども、自然と笑いが込み上げてくる。
この少女、八神はやてとの出会いは、三年ほど前に遡る。初めて出会った場所もここだった。あの時は、結構大変だった。あれは確か、ローガンが初めて地球に......海鳴市に任務でやって来た年だった。
はやてがここから出ようとしたときに、窃盗が起こったのだ。犯人ははやてから財布と、何やら古そうな本を盗って逃げようとした。そこをローガンが近接戦闘術で制裁した。
懐かしい話だ。思えば、あれは彼にとって“色々と幸運”な日だった。それから彼とはやてはよく出会うようになり、交流を深めてきたのだ。
ここ最近......プレシア・テスタロッサ事件までは管理局からこっちに行ったり来たりだったが、半年前からはこの海鳴市の監視任務で今の所居を構えている。そして今日、久々に会ったというわけだ。
会えなかったとはいえ、文通はずっとしていた。今もその手紙は大切に取ってある。こっちの事情はよく知っているつもりだ。
話は多義にわたり、最近あったことや思い出話、さらには勉強の話までに至り、楽しい一時はゆっくりながらも確実に過ぎていく。
「足の方の調子はどうだ?」
「う〜ん、あんまり良くはなってないみたいなんや。原因もまだ分かっとらんみたいやし、前と変わらんくらいかなぁ。最近は新しい治療薬なんかを試してみてるんやけど......」
ローガンの問いかけに、はやては心底億劫そうにため息をついた。
確か、はやての通っている病院はけっこう大きい所だったはず。最新の機材や薬品なんかが多くあそこに集まっていて、難病を患った人なんかはここに来て治療してもらっているという。よく治るということでかなり定評があったはずだ。
そんな病院でもはやての謎の下半身の麻痺の原因は突き止めていないということは、やはり彼女の病は......。
「そうか......にしても、大変なんだな。まだこの前9歳になったばかりだろ?小学生の女の子がそんな大層な病気にかかって」
「生まれてからずっとこんな調子なんやから、もう慣れた。それに、私を支えてくれる優しい人たちがいるから、なんも寂しいことあらへんで?ありがとうな、ロー兄」
「どうした急に。改まって」
「良い女の子には秘密は付き物って言うやろ?」
「それはもうちょい歳取ってから言え。......と、もうこんな時間か」
気がつけば、もう時刻は午後3時を回っていた。
そろそろ、昨日保護したあの二人が起きているかもしれない。エレンに任せているんだけど、たまに変なミスを犯すエレンのことを考えると、少しだけ心配なのだ。
何かの用事でもあるのか、はやてはロビーの柱に掛けてある時計を見てから心配そうな顔を見せた。
「あ〜、そろそろ戻らんと皆が心配するかなぁ」
「皆?はやてに家族っていたっけ?」
思わぬ言葉に思わず聞き返す。
確かはやての両親は彼女がまだまだ幼いときに亡くなったとか。今では一人暮らしのはずなのだが......。
「前、イギリスに住んどる保護責任者がおるって言ったやろ?あの人の親戚がこっちにホームステイしてきとるんよ。今日はなんだか用事があるってここにはおらんのやけど、もう帰っとるかもしれんからなぁ」
「本当に大変だな。通訳とかはいるか?」
「あ、その人らは日本語喋れるから問題ないよ。ありがとう。今度、紹介出来たらええんやけど......」
一瞬脳裏に、旧い友人たちが思い浮かんだ。
「まぁ、また今度な。いつでも会えるよ」
......今はまだその時じゃない。
その言葉は、喉まで出かかったがそこから出てくることは無かった。
「それじゃ、また会おうな。送っていこうか?」
「おおきに。でも、シャマルが来てくれるから大丈夫よ」
「そうか......わかった。大事にな」
マフラーを巻いたローガンは、椅子を立ち上がって出口に歩いた。後ろを振り返ると、無邪気そうな笑顔でこちらに手を振っているはやてがいた。......本当に可愛い女の子だ。手を振り返し、踵を返した。
自動ドアが開くと、キンキンに冷えた空気が雪崩込む。マフラーを深々と鼻元くらいまで上に挙げると、ポケットに手を突っ込んで扉を潜った。
何やら忙しそうに入れ違った、金髪ボブカットの女性を横目に、“予定通り”ローガンは家に帰ることにした。
「んぅ......?」
長い微睡みから目が覚めると、体は不思議なくらいに暖かく柔らかいものに包まれていることに気づいた。
まだ少しだけ寝ている脳を働かせて、それがふかふかの毛布であるということに気づいたのは数刻後だった。羽毛布団なのか何かの毛皮で出来た毛布なのかという判別も付かないくらいに柔らかく温かいそれは、起きたばかりの少女、高町なのはを再び微睡みに引きずり込もうとしている。
(あったかぁい......もう少し、寝ていたいな)
そして再びその暖かな毛布に包まるため寝返りをうとうとすると。
「んっ......」
隣で、もう一人別の少女の声が耳に届く。それも、数センチという近さから。
少し驚いてその声の主に顔だけを向けると。
そこには、なのはの大切な友達の......半年ぶりに再会した......フェイト・テスタロッサが同じく可愛らしい寝顔ですやすやと寝息を立てていたのだ。
その美しい金髪は綺麗に束ねられていて、恐らく一人用と思われる同じ白い枕に横たわっている。いつの間にか、二人とも手を繋ぎあっていた。
(え......フェイトちゃん?)
ようやく目が覚めてきたなのはは目を剥いて友達をもう一度見据えた。夢かと一瞬思ったのだが、覚醒する意識がその可能性を否定した。
あのフェイトちゃんが、自分の隣で寝ている。
何で?どうして?という疑問がなのはの心に巻き起こった時には、その原因ともなる......あの夜のことを思い出したのだった。
あの時。
なのはは、紅いバリアジャケットを纏った少女に唐突に襲われて、交戦の末、撃墜されたのだ。
確かあの時、なのはの愛機であるレイジングハートは......。
(そうだ、私はあの時......)
ゆっくりと思い出すように、なのはは半ば諦めに近いようなため息をついてしまっていた。
自分の未熟さが招いた、敗北。そして、あの時......半年前、PT事件のときからずっと一緒に魔法の練習をコーチしてくれていたレイジングハートは破壊されてしまった。
でも、それとフェイトとはどう接点があるのだろうか?
もしかすると、なのはが撃墜された後に助けに来てくれていたかもしれない。私を治療してくれていたのかもしれない。
だけど、それと今の状況は全く関係がないはずなのだが......。これは一体、どういうことなのだろうか。
(こうしている場合じゃ......)
起き上がろうと、右に向けていた顔を天井に戻した。
こちらを覗きこんでいる、獰猛な金色の瞳を向けているなかなかに大きな鳥と、目が合った。
「わきゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」
恐らくそれが、高町なのはという9歳の少女が今までに出した大声のなかで一番の声になったということは、言うまでもないだろうか。
「な、なんだ?」
机に向かってBMR-9を分解・点検していたローガンは、思わず素で反応してしまった。
......何だか、ある意味でのこの世の終わりを見た女の子みたいな悲鳴が聞こえてきたんだけど。
多分、というか、今俺の家の中でそんな可愛らしい(?)声を出せるのはあの二人だけだし、何かあったのだろうか?
場所からして、その声が聞こえたのはローガンの部屋。今は、あの時ローガンが救出した少女二人が眠っている場所になっているが。一応、彼女たちのお守りはエレンに頼んでるはずなのだが。
毎回完璧に任務を遂行してくれるエレンが妙な失敗をするとは思わないのではあるが......仕方ない。
「なんなんだよ......」
ため息をついたローガンは、昼外に出てたけどある意味で昨日から通しで向き合っていた作業台を億劫になりながらも立ち上がり、頭を掻いた。
のそのそと階段を上り、廊下を進む。角を曲がり、そこで彼の部屋を示す真新しい扉のノブを回した。
「どうし......ん?」
そこにいたのは、栗色と金髪の少女二人。なのはとフェイトだ。
よっぽど怖いものを見たのか、起き上がって互いに肩を抱き合って震えながら一点を指さしていた。
彼女たちの指の先。そこには......鳥類のなかでは比較的大きな体躯の鷹が、その金色の鋭い瞳を彼女たちに向けて、ローガンの服を掛けるハンガー掛けに止まっていた。
......ああ、なるほどね。
「エレン、何で“使い魔形態”でいるんだ?」
二人が驚いているじゃないか。
とローガン問うと、エレンは首だけをこっちに器用に向けた。正直怖い。首だけこっち向いてるのだ、夜に見たら軽くホラーだ。
「ああ、ローガン。夜通し作業だったのか?」
「しゃ、喋った!!」
「う、動いた!!」
抱き合ってる二人が見事な連携を見せ、さらに体を震わせる。
......どれだけ驚いたらこんな反応になるんだろうか。エレン、お前は何をしたんだ?
「薬室に砂埃が入っててな。拭き取るのに苦労したぜ。いやそれはそうと、何で使い魔形態なんだ?」
「いや、こっちの方が魔力の消費が少ないし、何よりこの方が可愛いかなと思ってな。ぬいぐるみみたいに動かなければ問題ないかと......」
おかしいなぁ、と言ったふうに器用に首を傾げるエレン。器用に首だけを曲げて、ため息をついている。角度的に、怖い。
「あのな、年頃の女の子が鷹を可愛いと思うか?どっちかって言うとカッコイイとかだろ。それとその体勢......彼女たちから見ると怖いわ。彼女たちを見てみろ、割と引いてるぞ」
「くっ......無念......」
少女たちを一瞥して、首だけをがっくりと下げてあからさまに悔しがる。だから怖いってそれ、というツッコミは野暮だと感じたローガンは、小さくため息をついた。
正面から見てみれば、多分角度的に少女たちには首が奇妙な形に折れてるようにしか見えないと思う。彼女たちが驚くわけだ。。
鷹という生き物は、昔から鷹狩で使われているように、獰猛な猛禽類としてよく知られている。タダでさえ顔が厳ついのに、それが曲がっていたらカッコイイどころじゃない。恐怖を覚えるレベルである。
「とにかく、人間モードにしてやってくれ」
「むぅ......仕方ないな」
このまま少女たちにトラウマを植え付けてしまいかねない。将来有望な女の子にそんなことをしたって履歴書残ったら嫌だなぁ、と内心めんどくさそうに思ったローガンは、エレンにそう催促した。
ローガンと同じ魔力光である紫色の光を纏いながらエレンは光に包まれて、光のカーテンが開いた時には既にエレンは人の姿になっていた。
ローガンよりも背の高い姿となった彼女は(大体180cmくらい)鷹特有の焦げ茶色のような髪を腰のあたりまで下ろし、黒いシャツに黒いスカートという割とラフな格好になっていた。
そして彼女の背中には、鷹の焦げ茶色の羽が対を成していた。
「これでいいか?」
横目でちらりとこちらを見るエレン。......見た目はローガンよりも年上なこいつは、恐らくかなりの人が同じことをいうだろうが、見た目かなり美人だ。
スタイルも良くて、顔立ちも整っていて、とても優しい。オマケに管理局の友人たちがいつも言うには、大きすぎず小さすぎずのわがままボディ。毎日のようにそれ関連の冷やかしが飛んでくる。
例の二人は......。驚いた表情をしている。さっきまでのような恐ろしげな表情は見えない。むしろ使い魔モードの怖い彼女と今の綺麗な彼女とで少し驚いているのだろう。
「よし、良いだろう。......すまないな。ちょっと待ってろ、暖かい飲み物かなんか持ってくるから」
「え?あ、いえお構いなく......」
「君らは怪我人なんだから、ゆっくりしていなさい」
そう微笑みかけたローガンは、ココアを取りに下の台所に向かった。
淹れたてのココアを、ベッドの際に座っている二人に渡し、ローガンは部屋の机の下に置いていた椅子を取り出す。
二人ともお腹が空いていたのか、少しだけ顔を見合わせて口をつけた。
「......美味しい」
「そうだろう?この前東京に行った時に買ってきたんだ。飲んでみると想像以上に旨くてね」
......元々コーヒー買おうとしてたなんて、言えない。
ローガンは元々ココアはあんまり飲まなかった。帰ってから気づいたんだが、あの時のエレンの弄りは凄まじかったのは記憶に新しい。
ちなみに、今いないエレンは、外の定時偵察に俺の代わりに行ってもらっている。彼女たちが混乱してしまわないように取り計らいながら、こうしてココアを勧めてみたのだ。
「そうなんですか?......そんなものを頂いて、すみません」
両手で白いカップを持った栗色髪の少女が礼儀正しく頭を下げる。
「そんな大層なもんじゃないよ。あまり俺飲まないから、もっと欲しかったら言ってくれな」
「はい、ありがとうございます」
ココアを美味しそうに喉に流し込む二人。
......本当に仲がいいんだな、君たちは。
あの時、この栗色髪の少女がやられた後に駆けつけた金髪の少女。助けに行ったに違いない。
かなりの怪我ではあったが、なんとか治療することが出来た俺とエレンは彼女たちをベッドに寝かせたんだが、布団を被せてすぐに二人は手を繋いでいた。
あんなに辛い目に遭ったというのに、小さな瞳を閉じて寝息をたてる二人の姿は年頃の女の子そのものだった。
心が強いというのが、よく分かった。
「......聞いてた通りだ。君らは優秀な魔導師らしい」
「え?」
その呟きが漏れていたのか、茶髪の少女、恐らく高町なのはに聞き返される。側ではフェイトもキョトンとした目で見ている。
......そうか、二人とも知らないんだな。
「俺の紹介がまだだったかな。ローガン・ハンニバル一等陸尉だ。君たちも知ってる、リンディ提督の直属の部下だ」
「えっ......えええええっ!?」
......そんな驚くことじゃない気がするんだけどなぁ。
とはいえ、この地球に管理局に所属している人間はローガンとエレン、あとは彼女たちのご存知の通りリンディ提督くらいしかいないから、そういう点で驚いているのかもしれない。
「か、管理局の方だったんですか?」
「ああ。半年前のプレシア・テスタロッサ事件から、ここ海鳴市の偵察に出てたんだ。まあそれ以前からこっちの方には度々任務で来てたんだけどな」
驚く二人を尻目にローガンは二人のカップにココアを注ぐ。
確か、フェイトはちょいと前から管理局で嘱託魔導師やってるとかなんとか。管理局のことについては、いろいろ分かっているだろう。
つまりはローガンは、色んなところに回って様々な活動をする。
この物言いで分かるかもしれないが、ローガンは普通の管理局員ではない。肩書きは魔導師ランクAA、一等陸尉のスナイパーってことになってるけど、本当のことを言えばもっと複雑な立ち位置に俺は立ってる。
......『時空管理局秘密警察』。それがローガンのいる居場所であり、俺の所属している部隊の名前。
様々な世界に巣食うテロリストを直接現地に赴き偵察することで動向を察知。騒ぎに出る前に殴り込む。
つまりは秘密警察とは、管理局から公式に存在が認められていない、超極秘部隊なのだ。
「君たちのこともリンディ提督から聞いてるよ。相当優秀な魔導師ってね。プレシア・テスタロッサ事件を解決した直接戦力とは伊達じゃないな。『正面からじゃ』向き合いたくない」
「い、いえ、そんなのじゃありませんよ」
「そ、そうですよ。私なんてただの素人だし......」
「凄まじい威力の魔力砲を撃ったり高速で移動しながら色んなものを斬って回った人間がそれを言うか?」
あの事件のことはよく知っている。
ローガンの直接担当の事件じゃなかったけど、それでも途中経過と推移、そして決着までの資料は暇だったからリンディ提督に貰って読んだ。若いっていいなぁ、とそこはかとなく思ったのは、彼が幾分か大人になったということだろうか。
「それに、君らはまだ伸び白があるから訓練次第では将来の可能性はグンと広がる。俺なんかはやれることが少ないし限られてるからどうにも出来ないが、君らにはまだ先の長い人生が待ってるんだ。そう悲観することない」
彼女たちは九歳。ローガンは二十歳。技量も経験の差も違うけど、いつかは彼と同じ場所に来ているはずだ。
......その時には、俺はいないんだろうけど。もう俺には、時間など無いんだ。
「さてと。君らの状況なんだが......俺が予想していたよりも、悪い。怪我は俺の優秀な使い魔のエレンが治療魔法を使って治してくれたけど、問題は君らのデバイスのほうだ」
話を切り替えて、ローガンは二人に......もはやボロボロになって見る影もなくなってしまった二人の愛機を手渡した。そう......あの魔導師たちとの戦いで破壊されてしまった、二人のデバイスを。
「君らのデバイスは、自己修復もままならないほど破損していた。色々見てはみたんだが、やはりここまでになると専門家と特殊な機械がないと修理出来なさそうだ。すまないな」
変わり果てた愛機の姿を見て呆然とする二人。無理もない。あれだけ派手に打ちのめされたのだ、心に響かないわけがない。
ともあれ、ここまでになると他の魔道士とは魔法の形式が違うローガンにはどうしようもない。マリエルなら何とかしてくれるだろうが、如何せん彼女たち局の魔導師とは全く違う武器を使う。デバイスも使わない。風等の計算も全て自分にやるか、エレンや作ってるドローンに任せるからな。
そういうわけで、ローガンがしてやれることはこうして状況を説明してやることくらいなのだ。
「もう使えないわけじゃ、無いんですよね......?」
「まあそりゃそうだ。完全に粉砕されたのならもう使い物にならんだろうが、息はある。マリエルにでも頼もう。あいつなら何とかしてくれるだろ」
マリエルは、彼が知る中では一番デバイスに詳しい。デバイスを作るために必要なマイスターの資格も若いながら取っている。
ローガンが使う装備は他と違うから関係ないけど、あいつはレティ提督の傘下で主に魔導師たちの装備調整をしている。まあ、あいつならこれを治す程度のこと、造作もないんじゃないかなぁ、とつぶやくと、なのはとフェイトは安心した笑みを浮かべた。
「詳しいことならあいつから聞いてくれ。俺は君らの使うデバイスとやらにはてんくらだからね」
おどけながらお手上げと言わんばかりに手を振るローガン。
「あの......ローガン、さん?」
微妙に投げやりになってると、おずおずとフェイトが声をあげる。......何だか、少し身震いしながらローガンの後ろをゆっくりと指さしている。なにか怖いものでも見ているようだ。
「先程から貴方の使い魔が後ろの窓から覗いてるんですが......」
振り返ると、目が死んだ魚のように濁ってジト目でこちらを見ているエレンさんがいた。目が完全に逝っていた。長年一緒に過ごしてきたローガンでさえ恐怖を覚えた。一体なにがあったのだろうか。
玄関の鍵を開け忘れていたことを思い出したのは、その時だった。
「鍵くらい開けてくれてもいいだろう」
「すんませんでした」
どうやら帰ってきてから十分くらい待たされてたらしく、先程から無表情でぷんスカと怒ってる。
彼女を宥めるために平謝りしてるが、どうも気を収めてくれない。何かほかに嫌だった理由があるのだろうか。女性ってのは本当によく分からない。
「まだ私がナイスな体を持っているからいいものの、お前それを彼女とかにやると大変なことになるぞ」
「おい待てそれどこで覚えた」
胸を誇張しながら何故かドヤ顔決め込んでくるエレン。
どうでも良い茶番を終えたエレンは、唐突に無駄に真剣な顔になった。
「......で、偵察の結果だが」
「お、おう」
「昨日の交戦ポイント付近はクリアだ。あの魔術師たちが彷徨いていることもない。今なら転送は可能だろう」
「わかった。彼女たちもお前のお陰で完治してる。そろそろ俺も向こうに顔出さねばなるまいし」
何かまだ隠していると身構えていたローガンは、意外に普通に任務の話だったことに少々驚いたが、そんな感情よりも懐かしさが勝った。
アースラを離れてから、もう半年になる。そろそろリンディ提督にも会いに来いって言われてたのを久しぶりに思い出す。
となると、クロノやエイミィ......あとリーゼ姉妹もいることになる。いろんな意味で賑やかになりそうだ。
「あの、転送って?」
「ん?俺のエレンさんは色んな魔法が使えるのさ。治療系と転送系は行けるぜ」
「わたしの主が天才だからな」
エレンは何に喜んだのか得意げになっている。
まあそれはいいとして......この一帯がクリアになったということは、こちらはもう少し派手な動きができる。二人の怪我もエレンが治してくれた。これなら、転送にも障害はないだろう。
「さて、君らは体の方は大丈夫かな?ていうか大丈夫だよな。いきなりで申し訳ないが、今からアースラまで送る。俺とエレンも付いていくから、準備してもらってもいいか?」
昨日までは他の魔導師がこの区域を封鎖していたし、この二人の怪我が酷くて転送には耐えられそうになかった。リンディ提督にも安全になるまでは保護しておけと言われていたし、そういう点でも、もう動いても良さそうだ。
「私達は大丈夫です」
「ローガンさんとエレンさんのお陰で、今はもうピンピンです!」
屈託な笑顔で胸の前できゅっと手を握るなのは。その隣はフェイトが頭を下げる。いい子たちだ。
とりあえずは、そういうことになった。二人の準備が終わると、ローガンはリンディ提督に連絡。転送ポート使用許可と移動許可を貰うと、工房に向かってMBR-9を背負い、エレンに転送のため魔法陣を張ってもらう。
「見たことない魔法陣......」
エレンの四角い魔法陣を見てフェイトが呟く。
......そうか、二人とも俺の魔法のこと知らないのか。
「これは俺の特殊な魔法形式で作り出される魔法陣だからな。見たことないのは普通だな。管理局が隠してる」
そう。ローガンは秘密警察の一員だから、存在もなるべく秘匿しなければならない。これを知ってるのは上官であるリンディ提督やクロノくらいだろう。
良かったじゃないか、レアな体験だぜ。と笑いながらフェイトに話しかける。
「ローガン。準備が出来た」
エレンが魔法陣の中で手を拱いている。これでようやく本局にに向かえる。
「それじゃ、行くぞ」
「はい」
二人の肩に手を置きながら、魔法陣に入る。紫色の魔力光に包まれると、エレンはその切れ長の瞳を閉じた。一瞬魔力光がさらに光ると、全員の視界は閃光に包まれるのだった。
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