技術部のマリエル・アテンザと言われれば、管理局本部の中でもかなり有名な技術スタッフと返されるのが一般的だ。局の魔導師のデバイスの調整や修理を担当する彼女は、弱冠15歳のまだ子供だということは、あまり知られていないことのようではあるが。
そのマリー曰く、ここまで破壊されたデバイスは久しぶりに見た、と。
「あの......治るんですよね?」
心配になったなのはは、胸の前で小さく拳を握った。フェイトも同じく、悔しさに口を固く結んでいる。
目の前のショーケースのようにも見える機械の中に、ひび割れて包帯でぐるぐる巻きにされている二人の愛機......その無残な姿は、なのはとフェイトの瞳にありありと見せつけられていた。
先日の魔導師との戦闘で敗北し、デバイスを破壊され自らも負傷した。それも、かなりの傷だったという。
もしあの場にローガンとエレンがいなければ、二人は今頃どうなっているかなど、考えたくもなかった。
「うん、これなら何とか治せるよ。任せて」
「よかった......」
愛機を失うということは、魔導師にとって家族を、いや半身を失うに等しい。また共に戦うことができると、素直に喜ぶなのは。
「でも、ここまでデバイスを破壊するなんて......凄い相手だったんだね。レイジングハートとバルディッシュが残してくれた画像記録を解析したんたけれど......この魔導師は相当強い、古代ベルカの術式を使っているみたいだね」
マリーは神妙な面持ちで壁のディスプレイに画像と動画を映し出す。
そこには、なのはが対峙した紅い鉄槌を持った少女と、フェイトが交戦した騎士のように凛々しい女性の写真。鉄槌の少女が、デバイスに命令して何かの小さな爆発を起こしている部分も見られる。
「はい。あの魔法陣......見たことありませんでした」
「あれは、確かにベルカ式の魔法陣。それも、混じりけのない純粋魔法。私が相手をしたこの女性、近接戦闘や一騎打ちに特化した魔導師でした」
「古代ベルカ。今の文明を超越した技術力と科学力を持ち合わせていた国が諸王国に別れていた時代。今はもうないけど、そのベルカの魔法を使い、その中でも優秀な魔導師のことを『騎士』と呼んだみたいだね」
「この、デバイスの中で小さな爆発が起こっているのは?」
「多分、ベルカ式魔法の中で、術者の魔力を一時的に高めることができるカートリッジシステムだね。これを使えば持ち合わせている魔力の何倍もの力を出せるけど、相当優秀な魔導師でないと、いやそうであっても使用は即ち、いつか体の不調をきたしやすい」
「諸刃の剣、ですか」
フェイトは、最近学校で習った諺というものを思い出す。
それすらも使いこなし、魔力量ではかなり高ランクに位置するなのはとフェイトをも打ち負かすことができる魔導師。彼女たちのような魔導師を騎士と言うのだ。
人を超越した強さ。
どこかから、そんな言葉がつい出てきた。あの騎士たちに、勝つことなど出来るのだろうか。
「......それをさらに打ち負かすローガンさんも、充分人間離れしてるとは思うんだけどね」
「確かに」
苦笑するマリエルに、なのははあの優しい青年の笑い顔を思い浮かべた。
あんなに優しそうな人であっても、管理局が誇る超ド級スナイパーである。彼の使い魔であるというエレンも、彼と共に行動出来るということは相当な手練だということも用意に予想できた。
優しそうな青年に、美しい女性。普段の二人はとても仲良さそうに笑っているが、何というか、何処にでもいそうなデコボココンビとは違う......見た感じではあの二人がとんでもなく強いというのは、全く想像が付かない。
雲のように掴みにくく、岩のように硬い絆で結ばれているあの二人のことを、人は相棒と呼ぶ。
「ローガンさんって、どんな人なんですか?」
フェイトの何気ない質問に、マリエルは少し言葉を濁した。
「えぇっとね......まあ、凄くいいコンビだと思うよ。二人とも普段はあんな会話してるんだけど、本当は二人とも思いやりがすごくてね。あの人の部下は影で2人のことを夫婦って言ってるよ」
「夫婦っ......!?」
その言葉になのはとフェイトは思わず吹き出してしまう。
確かに、あの仲の良さは家族のようにも見えた。フェイトもアルフと共に過ごしてきてはいたが、性別が同じだからそういった感情は無論持ち合わせていない。
「でもまぁ......二人が管理局最強ってのは多分あの二人を知ってる人みんなが思うことだと思うよ。ローガンさんとエレンさんが所属してる場所が場所だからあんまり深くは言えないけど......」
目線を逸らす。しかし、なのはとフェイトの熱い目線におれた。端末を操作する手を止めたマリエルは、ため息をつきながら、知り得るあの二人に関する『逸話』を話すのだった。
「彼はね、秘密の部隊に所属してるんだ。国内で起こった事件やテロを発生後に鎮圧するのが警察。でも、彼が所属してるのは、『テロや事件を未然に防ぐ』部隊なの。名前は流石に言えないけどね。
管理局に入ったときから狙撃に関して一流の腕を持っていたローガンさんは、ギル・グレアム提督に推薦されてその部隊に入った。それからの彼の功績はとんでもないものだったよ。
任務での狙撃命中率は100%、犯罪検挙率100%。16歳を超えてから指揮も始めたんだけど、彼の関与した事件での味方犯人双方の死者数はゼロ」
「命中率、100%......!?」
有り得ない。確かにスナイパーという役職は一撃必中をモットーにしている。初弾を当てるのは当たり前だ。
だが、スナイパーの命中率とは乱戦となった場合も含む。複雑な動きをする敵に遠距離から連続でヒットさせることは、そうそう出来ない。
「そしてその頃にエレンさんが彼の使い魔になったんだけど、そこからがもう......。最大射程は3000mオーバー。逃走中の犯人をエレンさんが見つけて、距離や風速を計算したローガンさんが撃つ。何回か、それで事件を解決したことがあるね。
でも、私が1番驚いたのは、空戦機動中の魔導師を狙撃して撃ち落としたことかな。あれは目の前で見ていたから覚えてるけど、空で機動戦をしている管理局魔導師と犯罪者を、誤射せずに当ててるのを見て、この人本当に人間なのかなって疑問に思ってたんだよ」
笑っちゃうよね、というマリエルのその言葉に、二人は互いに見合わせて唖然としていた。
空戦機動。それは、空戦魔導士が自ら持ち合わせている持ち前の魔力と魔法技術を惜しみなく発揮しながら速度の限界を出しながら相手と一騎打ちで戦うという、空戦魔導士が空の華と呼ばれるが所以である。
武器として使用するデバイスで相手の攻撃を凌ぎ、あるいは攻撃し、常に相手の1歩先を取るように動き回る。こちらも相手に次の手を読ませないために複雑な機動を描きながら戦闘する。故に、空では毎分毎秒脳をフル回転させ、戦略を練りながら相手をしなければならない。
戦う側の空戦魔導士でさえ相手の動きを読むことが困難なことを、彼は地上で、しかも誘導弾でも何でもない、風や重力に左右される特殊な弾でやってのけている。その明らかな異常性と、そんなことを簡単にやってしまう彼のスナイパーとしての技術に対して、なのはとフェイトは尊敬と畏怖の念を抱かざるをえなかった。
「今の彼はリンディ提督、そしてその夫のクライド提督の直属の部下。それでクロノ執務官やエイミィ先輩とも懇意みたい。ローガンさんの部下はみんなエリートスナイパーとして全世界で活躍しているし、本当にあの人は凄い人だよ」
「部下って、さっき迎えにきていた人たちですか?」
「そうそう。あの人たちは、ローガンさんが一時期教官に就いていた時に担当していた人たちだよ。本当はもっと多いんだけど、ほとんどは危険な任務とかでここにはいない。逆に言うと、それだけ彼の部下は腕が立つってことだよね。実際にその人たち、ローガンさんまでとは言わないけどかなり手柄を上げてる」
驚きの連鎖であった。彼が得意なのは、狙撃だけではなかった。
さっき、リーゼロッテと格闘戦の奇襲を受けていたのだが、ものの数秒で制圧してしまっている。さらに、今のマリエルの話で人脈構成も上手いことが分かった。あの様子ならもっと多くの、しかも位の高い人たちとも懇意だったりするかもしれない。
優しげな顔をしているが、彼が本気を出すと自分たちなど到底及ばないと、無意識に理解した。
「凄いんですね......色々と」
「彼だけは絶対に敵に回さない方がいいよ。今まで色んな凶悪犯が彼を殺したりしようとしてたけど、必ず返り討ちに合ってたんだから。あのプレシア・テスタロッサもね」
「ぷ、プレシア!?」
「そうなんですか!?」
その名前にいち早く反応したのは、他でもないフェイトだった。
プレシア・テスタロッサ。半年前起きたあの事件の首謀者であり......フェイトの、母親であった女性の名前だ。
一瞬マリエルの顔に後悔の色が表れたが、もう言ってしまったのだから仕方ない、と再度口を開いた。
「時の庭園、だったっけ?半年前、フェイトちゃんとプレシア・テスタロッサが拠点にしていたのは」
「はい、そうですが......」
「一年前、プレシア・テスタロッサはローガンさんのスナイパーとしての噂を聞いて、狙われる前に殺すために彼が当時請け負っていた任務地に数機の傀儡兵を放ったの。相手は一人だけなのだから、と鷹をくくってたんだろうね。でも、その数機の傀儡兵は呆気なく全滅した。ローガンさんの狙撃でね。それで、その時発生した魔法残留物質を彼が研究して、傀儡兵の素材の構成、そしてそれから作られた場所を特定。それで、彼とほかの魔導師がプレシア・テスタロッサの隠れ家でもあったアルトセイムを襲撃した」
フェイトは、思いあたる節があった。
一年前。フェイトたちが時の庭園に移る直前ぐらいだったろうか。プレシアと共に逃げたことを、思い出したのだ。生まれ育った土地を捨てるのは少し悲しかったが、プレシアを守れたのならそれでいいと思っていたことを具に思い返した。
当たり前だが、彼とは何の関わりもないと思っていたが、こんなところで接点があるとは......。
「あの時の......」
「......ごめんね、辛いこと思い出させちゃって」
「いえ、大丈夫です。それに、彼が私たちの命の恩人なのは、変わりないですから」
いくらあの時彼が敵であったとはいえ、この前の襲撃事件のときに助けてくれたのは、他でもないローガンだ。あの恩を忘れることは出来ない。
それに、彼のあの優しい笑顔を見ていると、あの時敵同士だったとは思えないほどに心が落ち着く。彼といる時は、不思議な程に安心でき、そして暖かな気持ちになれる。そんな彼と再び敵として相見えることは絶対にない。
「それなら、よかった。ローガンさん、少し不器用なところもあるけど、見た目のとおりとっても良い人だから」
「はい、それはもう分かっています」
「どんな事があっても、ローガンさんを嫌いになることはありません」
そう笑顔で伝えると、マリエルは「あとは任せてね」といってデバイスの修理作業に戻った。
なのはとフェイトは、マリエルにお礼を言うと、技術部の部屋を退室した。
「クライド提督、お体はもう大丈夫なのですか?」
高級感あふれる革製のソファに腰掛けながら、ローガンはクライド提督に話しかけた。
クライド提督。彼は、十一年前の闇の書事件の時、ある事をきっかけにローガンがたまたま命を救った人だ。今までいろいろなところで面倒を見てくれて、まるでローガンの父親の代わりみたいな人だった。
彼は数ヶ月前にある事故で怪我を負ったそうで、つい最近まで入院していたはずだった。かなりの重傷と聞いていたので、元気そうで何よりなんだが......。
「ああ。医者からはそろそろ退院してもいいって言われたからね。一応は大丈夫だ。君の方も、数年ぶりに顔を見たが、大きくなったな。もう、二十歳になったんだっけか?」
「はい。先月に。これで任務の幅がさらに広がって大変になりそうですが」
「だろうな。まあ君なら大丈夫だろうな。噂は聞いてるぞ。『管理局最強の超ド級スナイパー』らしいじゃないか」
......誰から聞いたんだろう、そんな恥ずかしい肩書き。
そう内心呟きながら、そんなことはないと手を振っておどける。
「そんなことはありませんよ。普通のスナイパーです。それ、誰から聞いたんです?」
「君の部下からだよ。教え方も上手いし面白いし、何より強いしってみんな口を揃えて言ってるよ」
それを聞いて、思わずため息をこぼす。
ローガンの部下たちは、なぜな他人に話す時やたらと盛って話す。多分彼らもローガンの凄さを伝えようとしてなのだろうが、それだから言われ用もない最強伝説が伝染してたり管理局の腕利きスナイパーが決闘申し込んで来たりと、やたらと面倒だったことはもはや遠い話ではない(無論叩き潰してはいたが)。
「あいつらの話をまともに聞かない方がいいですよ。すごい盛ってますから」
「公式の報告書でも同様のことが書いてあったんだぞ?そんな謙遜することはない。君は間違いなく、この管理局の超ド級スナイパーだ」
「......ありがとうございます」
......一応、褒め言葉として受け取っておこう。
正直、ローガンは特別視されるのはあまり好きではない。どうにも、居心地が悪い。
「リーゼロッテとアリアも、お前のことを評価していたぞ。『私たち二人で挑んでも勝てなかった』と。管理局最強と謳われていたロッテとアリアをしてそう唸らせるのであれば、お前の部下たちもあながち嘘は言っていないのだろう」
「あれはエレンがいてくれたからですよ。彼女が前に出ながら俺が後ろから狙撃に専念出来てましたからね」
「それでも、やはりリーゼロッテとアリア姉妹は強い。ローガンの援護が無ければ私もやられていたかもしれません。ローガンと私がタッグを組んで初めて最強になれるのです」
何気に嬉しそうに口を挟むエレン。
......お前もそうやって盛るタイプだったな。忘れていた。
ただ、まあ彼女がいてくれたから勝てた、というのは紛れもない事実だっただろう。
スナイパーという役職は、隠密行動が基本だ。敵に見つからず、認識が不可能なくらい遠い距離で一撃必中させなければならない。リーゼロッテ・アリア姉妹は動きが素早い。狙いが付けられず、外してしまったらすぐにこちらの位置がバレてしまう。そうなれば負けは確実視されてしまう。
だが、エレンが二人を釘付けにしてくれたおかげで狙撃に集中できた。こちらが誤射しないように立ち回りながらロッテとアリアを圧していくそのスタイルは賞賛に値する。
ローガンとエレン。確かに、この2人が互いに守り合い、信頼しているからこそ、ローガンとエレンさらには強くなれているのかもしれない。
「ははは、愛されているじゃないか」
「もちろんです。彼は私の命の恩人でもあり主であり、かけがえの無いパートナーですから」
......それ、リンディ提督にも言われたのですが。
エレンの言葉にもいろいろとツッコミどころ満載だ。それだといろいろな意味で危ないイメージで取られそうだ。
と言おうとしたが、その前にグレアム提督が口を開いたので口を紡いだ。
「前に聞いた時よりも、強くなっているようで何よりだよ。その様子なら、『古い書物』も片付けてくれそうだな」
彼の口から出てきた『古い書物』という言葉。闇の書の関係の話をしようという言葉が明確に暗示されていた。
気を引き締める。
「......闇の書に関して、どこまで進んだかね?」
「先日、管理局の嘱託魔導師であるフェイト・テスタロッサと、民間協力者の高町なのはが、闇の書の守護騎士たちに襲撃されました。その事は、もうご存知でしょう」
「ああ。あれから何か、進展は?」
「大きな進展はありません。ですが、守護騎士たちの蒐集は本格化してきています。別の世界では狩猟行為も見られています。確実に、闇の書を完成させにきています」
グレアム提督とクライド提督は二人揃ってため息をもらす。
闇の書関連については、未だに多くのことがわかっていない。管理局が掴んだ情報のなかで唯一はっきりと分かっていることは、闇の書が完成すると同時に、何らかのシステムが働き、蓄えた魔力を元に暴走を始めるということだけだ。
十一年前、前回の闇の書事件では、暴走した闇の書のせいで多くの管理局の人間が亡くなった。あと少し進んでいれば、今ローガンの目の前にいるクライド提督やグレアム提督もここにはいなかったかもしれない。
......あの時俺が『目覚めて』いなければ、一体どうなっていたのだろうか。想像もしたくない。
「先ほど、クロノ・ハラオウン執務官を筆頭に闇の書事件対策機動部が結成されました。これで守護騎士たちの行動も、広範囲にわたることが確実になりました。近場での蒐集が不可能になった今、彼女たちはさらなる狩場を求めて全世界に散ることになるでしょう」
「その間に闇の書の主を見つけて拘束し、闇の書を封印させるということは出来るのか?」
「不可能ではないと思います。ですが、その場合かなりの労力と兵力が必要になってくるでしょう。いくら彼女たちが遠出しなければならないとはいえ、『あの主』を守るために一人くらいは主の隣にいるはずです。バックアップ担当が残れば、さらに状況は面倒なことになることが予想されます」
グレアム提督の目を見詰める。向こうも、こっちの言いたいことに感づいているはずだ。
彼も、傍にいるリーゼロッテ・アリアも......そして、クライド提督も。
......俺の『過去』のこと、彼女たちと俺が懇意であったこと......俺に、闇の書事件解決のプランがあることを、知っている。
「......本当に、良いのか?」
そんなプランで。
その言葉はついに発せられることはなかったが、クライド提督の青い瞳がローガンの目を貫くのと同時に、彼のその言葉も俺の耳には聞こえていた。
そうだ。俺は、やらなければならない。
十一年前。俺が受けることとなった地獄を共に経験した彼女たち。俺は、彼女たちを救わなければならない。守らなければならない。
長い間......俺やグレアム提督、クライド提督が経験したことがないほどに昔から、彼女たちはあの呪いに苦しんでいた。守護騎士たちにとって、その永遠とも思われる長い年月、人としての心を失いかけ、そして歴代の闇の書の主にまるで道具のように使われてきた。その悲しそうな瞳は、今でも覚えている。
地獄のような日々。何度も死にたいと願った。しかし、その度に......彼女たちは、俺を支えてくれた。励ましてくれた。生きるための力をくれた。
彼女たちには、一生かかって返しても返しきれない恩がある。それこそ、命を削っても。
俺は、この闇の書事件を終わらせる。この命が枯れ果てようとも。彼女たちが、あの『優しい主』と共に暮らすことができるように。笑顔で暮らせるように。二度と苦しませないように。
全てを終わらせる。
......例え、彼女たちが俺の運命を壊した犯人だとしても。
「私は、この事件を終わらせます。永久に。それからの日々を、未来を守るために。あの笑顔を、守るために」
俺は、約束を果たす。十一年前、彼女たちと共に結んだ......最初で最後の約束を。
「......それが、お前の意思なんだな?」
「もちろんです、グレアム提督。これは復讐ではありません。これは、私の義務であり、勤めであり、私の生きる全てです。迷いなどありません。ただ十一年前やり残したことをやり遂げるために......この命を使います」
そうだ。これは、俺の生きるすべてだ。
どんな過酷な訓練にも耐えた。どんな地獄のような苦しみにも耐えた。それも、約束した『あの日』のために。
そんな気持ちを、ローガンはグレアム提督の瞳を見る自らの眼に込めた。
「......流石、管理局最強のスナイパー。お前のその心意気、しかと見届けた。お前がこの十一年間どんな思いで日々を過ごしてきて、どんな辛いことを経験してきたのか。その全て、重い重圧としてお前を苦しませてきたこおがよく分かった。このギル・グレアム、貴官のその勇気と決意に心から尊敬の意を表する。お前なら、あの悲惨な運命を、変えられるやもしれん。『十一年前の闇の書事件が産んだ負の遺産』というレッテルも、もはや必要無くなるだろう。
クライド提督。それで、良いな?」
グレアム提督のその瞳に射抜かれたクライド提督は、しかし悲しげな表情で一瞬俯いた。しかしすぐにこちらに顔を向ける時には、いつもの自身に満ち溢れたようなキリリとした表情で、口を開いた。
「分かりました。......ローガン・ハンニバル一等陸尉。闇の書事件に関する『全ての』ことに関して、貴官に全て一任する」
「......感謝します」
恐らく、彼も分かっているのだろう。このローガン・ハンニバルという青年の、意思を。
それでも、良いんだ。俺のやるべき事がある限り。管理局の人間として......いや。ローガン・ハンニバルとして。この事件を、永久に解決して見せる。
(......待ってろよ。シグナム。ヴィータ。シャマル。ザフィーラ。はやて。)
提督二人に最大限の敬礼を向け、踵を返して退出した。
見送るような表情で、二人はローガンの背中を見ていた。
作品の質向上のため評価やコメントをください。今後の執筆に役立てます