聖夜よ、永遠に【完結】   作:皮下脂肪弁慶。

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今回は分離しません。そんなに長くないので。
そして、この話......割と甘いです。ていうか、こういう場面書くのは初めてなので上手く描写出来ているか不安だ......。
「ここをもっとこうしたら良い」とか「これは微妙だからこっちの方が良い」とかがありましたら、感想欄でもメッセージでも何処へでもご連絡下さい。

あ、それと使い魔のエレンの容姿なんですが......絵を描いてくれていた友人が忙しいとのことで描けませんでした。
自分の好きなキャラクターをイメージしてお楽しみくださいwww ちなみに私の脳内イメージはリインフォースアインスさんですが(髪の色とかは違うけどね)。


第3話 時は満たれり
1.


 とある管理外世界。

 ライフルBMR-9を担いだローガンは、使い魔のエレンと共に調査に来ていた。

 途切れることのない黒煙、鼻を突き刺す腐臭。2人の目の前には、大きさ数10メートルもあろうかというくらいに大きな生物の死骸があった。

 それも、ここだけではない。今日ここに来てから数時間経つが、今いる場所にたどり着くまでに何体もの生き物の死骸を見てきた。それも、どうやってか鈍器にでもやられたように無残にも潰されたり切断されたり、あるいは焼かれたりして死んでいる。素人がここに来ようものなら、すぐにでも気分を悪くしただろう。

 こういった類いの事件は何度も体験しているはずなのだが、いまだに慣れないこの臭いに鼻を摘みながら、中でも一番酷い死に方をしている生物の前に膝を着いた。

 

「こりゃ派手に殺られてるな」

「死後数時間、といったところだろうな。ここの環境は地球や他のそれと違うし、この種類は腐りやすい。おまけに魔力の源まで盗られている。間違いなく、あいつらの仕業だな」

 

 ローガンとは反対にかなり場慣れしている(元々が鷹だからだろう)エレンは何食わぬ顔でローガンの隣に肩を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 ちょっと近すぎると思うが、気にはしないでおく。

 

「闇の書の守護騎士たち、か」

「なのはとフェイト、そして他の管理局職員を襲ったのも彼女たちだ。昔と違って、殺しはしていないみたいだがな」

「そりゃ、しないだろうよ。あいつらは」

 

 あの優しげな笑顔を思い出して、少し口元が綻ぶ。あいつらも、かなりの心労を抱えているはずだ。“あの主”と共にいるのなら、手荒な真似はしても血を流させることはないだろう。

 本局帰投から数日。あれから、闇の書の守護騎士たちの活動範囲がとてつもなく広くなった。

 今までは海鳴市からそこまで遠くない場所や世界での蒐集だったが、闇の書事件対策のために管理局の動きが活発化してからは、海鳴市から遥か遠くの無人世界を動き回ることが多くなった。

 毎日のように報告の上がる蒐集行為。足取りも消息も掴めないまま膠着状態に陥った管理局スタッフたちの苦労は絶えない。

 相手は、古代ベルカの本物の騎士たち。並外れた頭脳や戦闘能力を持ち合わせ、管理局の誇る腕利きのスタッフたちの目を誤魔化しながら、あるときは捕獲結界を用いてターゲットを封鎖し、攻撃する。相手の1歩先を行くには、少しだけ程遠かった。

 だが、捜索班にローガンたちの協力が入ってからは、前ほど苦戦することは無くなった。

 ローガンが今まで積み上げてきた知識、技術、知能をフルに使って、時にはエレンに助けてもらいながら搜索を続けてきた。そして、今に至る。

 と言っても、完全に相手の足を掴んだわけではない。まだ足跡を見つけにかかっているような状況だ。一見何も進んでないように見えても、少しずつ相手の足跡を見つけ出していけば、いつかは追いつくはずだ。

 ......彼女たちに。

 

「......お前も、大変だな」

「気遣いありがとうな。だが、俺にはやることがある。それまでは休めんさ」

 

 データの収集と記録の処理を終えた2人は、立ち上がって少し離れたところにあるもう一匹の死骸のもとに歩く。

 熊のような体躯の生物は、首元から一刀両断されている。表面に焼け焦げた痕もある。その近くの地面には、削られたような形の黒く太い線が走っていた。

 威力の高い切断系魔法を使用したのだろう。

 何かにピンと来たローガンは、生物の近くを歩き回りながらある物を探す。

 ベルカの騎士たちが使用するデバイスの一部で、それ単体で相手の魔法形式や術式の構造などを読み解くことが出来る。そして、いくらベルカの騎士たちとはいえ、そのようなことが出来るとは思っていないため、使用すれば回収などせず、廃棄してしまうものでもある。

 

「......あった」

 

 お目当てのものを見つけたローガンは、思わずにやける。

 生物の傍に歩み寄り、その小さな円筒形の物体を拾う。

 

「何なんだ、それは?」

「お宝さ。それも、とっておきのな。戻るぞ、エレン。帰ってこいつの研究と......新作の開発だ」

 

 赤い円筒形の金属部品......いわゆる“薬莢”をポーチにしまうと、エレンは転送魔法を使用し、展開されたハンニバル式の四角い魔法陣の上に乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3話 時は満たれり

 

 

 1.

 

 

 

 カートリッジ。

 それは、古代ベルカが生んだ、使用者の魔法力を格段にアップさせる代物だ。

 しかし、カートリッジ式の使用は本当に優れた魔導師が使わなければとてつもなく危険で、下手をすれば自滅することになる。

 そのカートリッジというものは、薬莢内にベルカ魔法の残留物質を残すことがある。微量でほとんどどの人間も気づいてはいないほど、そのことは全く知られていない。

 それに気づいたのは、古代ベルカの時代に生きたローガンの先祖だ。

 ハンニバル家は古来よりスナイパーの一族として知られ、紛争が多発していたあの時代に一世を風靡していたという。

 有名な話では、あるときとある国の軍勢が他国を攻めようとしたとき、当時のハンニバル家当主だった男は、自作のライフルを使って敵を迎撃。なんと、たった一人で数千もの敵を1ヶ月近くもも膠着させたのだとか。最終的には、援軍が追いついて敵を掃討したというのだが。......正直、あんまり信じていない。

 その時の当主が、どうにかして敵より何歩先を行きたいとして目をつけたのが、ベルカ騎士たちの使うカートリッジの内部に付着していた魔法残留物質だった。

 それを研究し、ベルカ式魔法の対策として開発した武器があったのだという(記録が残っていないから、どんなものかはわからない)。

 そして、今ローガンが開発しようとしているのは、それを応用したもの。空気中の魔力物質との結合を阻害し、相手の魔法にジャミングをかける。要は、一時的に使用できる魔法を制限する(魔力消費の少ない行為、例えば飛行などにはあまり効果はない)兵器だ。

 守護騎士たちは、一体一の一騎打ちに長けている。オールラウンダーのフェイトはまだいいとして、中〜長距離戦闘の得意ななのは、そして他の管理局職員を援護するために、こいつは無くてはならないサポートウエポンとなる。

 もちろん、ミッド式やハンニバル式には通用しない。なんの偶然か、闇の書事件対策部にはベルカ式魔法使用者が一人もいないから、そういう点ではこちらとしては好都合だ。気にすることなく使用することができる。

 形としては、40ミリ擲弾の砲弾としての使用が好ましい。魔力弾の一つである、空中で爆発させることができる『エアバースト弾』に搭載するには、少し容量が足りない。構成の中で、どうしても合成物質自体が大きくなってしまうからだ。

 こういうタイプの武器開発のため用意しておいた、BMR-9アンダーレール着脱式40ミリ擲弾筒が役に立つ時が来た。あとは、砲弾さえ完成させれば一丁上がりだ。

 

「......で、何で君らがいるんだ?」

「えへへ、お邪魔してます」

「すみません、突然」

 

 少々ジト目のようになりつつ後ろを振り返ると、そこには管理局の未来のエース二人と、フェイトの使い魔であるアルフと、確か無限書庫の司書だった金髪の少年、ユーノがいた。

 午後3時過ぎ、学校帰りなのか制服を着ていた2人は、帰ってもすることも無いのでここに来たのだという。

 いつの間にかエレンが中に入れていたので、仕方なく椅子を用意して作業を片すまで待っていてもらっていたのだ。

 

「せっかく来てもらったんだから、わざわざ追い返すわけにもいかないだろう?」

「まあ確かにな」

 

 この作業室に他人を入れるのは初めてだが、別に見られても大したことにはならないので、特別に作業室での休憩を許したローガン。

 BMR-9の分解調整も兼ねて作業を開始すると、後ろからフェイトの超えが聞こえる。

 

「あの、お邪魔でしたか......?」

「問題はないだろう。ローガンはそんなこと気にする人間じゃない」

「先読みどうも。まあ、そんなとこだ。心配するな」

 

 ローガンはフェイトにほほ笑みかけると、いつもは静かなここが割と賑やかになってきたところで、リビングに上がってココアとコーヒーを出す。

 なのはとフェイトは二度目だから普段通りの素振りを見せているが、初めてのアルフとユーノは驚きながらキョロキョロと部屋を見回していた。

 

「外見と比べて、意外と広くて綺麗なんだね」

「しかも、探知されないように結界まで張ってる......並の魔導師なら気づかないくらい、自然に張られてる」

「ローガンはこう見えて趣向に凝っているからな。寝室などもまたキレイに作られている」

 

 エレンのその褒め言葉に、嬉しいのかそうでないのか複雑な気持ちになる。

 苦笑いしていると、アルフがあたりを見回しながら口を開いた。

 

「この家、ローガンが作ったのかい?」

「外装は元々あった家そのままを使ってる。中身は、魔法を使って少しだけ広くしているんだ。ライフルを中で移動させるのに困難だからね」

 

 組み立て終わったBMR-9を構えながら、ローガンはその家の広さをアピールした。

 ミッドチルダにあるローガンの家は、今は弟とローガンが雇ったお手伝いさんが住んでいるのだが、それはローガンがすべて魔法を使って作り出した。こっちでもそうしてみたかったようではあるが、仕事の都合上空けたりすることの方が多いから仕方なく止めておいた。まあそもそもこっちで魔法は使ってはいけないので、いずれにせよ駄目なのだけれども。

 作り方は簡単。魔力結合を用いて様々なものを作るハンニバル式魔法の応用だ。

 と、それを不思議に思ったのか、ユーノが手を挙げて質問をしてくる。

 

「あの、ローガンさんの魔法って特殊な魔法形式なんですよね?どんな魔法なんですか?」

「あ、それ私も知りたいです」

 

 気づけば、みんな知りたそうにこちらを見ている。

 まあ、確かに俺の使うハンニバル式魔法はローガンと、弟しか使えない。ハンニバル家伝来の、世界でも珍しい魔法だ。

 純粋な意味で興味を持ってくれるのは、こんなにも嬉しいことだったのだろうか。今まで会った興味を持った人間は、兵器やその他のものに転用しようと考えている学者や管理局の人間などが擦り寄ってくる......そんな興味だったからかもしれない。もちろん言わなかったが。

 でも、彼女たちなら......。

 

「......まぁ、いいか。今後、一緒に任務に就く可能性もあるし、俺の使う魔法や武器、その他諸々話しておいた方がいいしな」

 

 任務の都合上、そしてローガンの武器の都合上、最低限どのように動けばいいのか、なども全て本来の彼女たちの動きとは全く別物になってくる。

 射線に入れば怪我では済まないし、誤射を防ぐために合図を使用したり、彼と共に動くときにはいろいろとルールがあるのだ。それもふまえて、彼女たちには......このことは、伝えるべきだと判断したローガンは、彼女たちに明かすことにした。

 

「......うちの家はな、昔からスナイパーの一族だったんだ。その名前は古代ベルカの時代に一躍有名になったんだが、いろいろとすごい逸話みたいなのが残ってる。中でも一番ヤバイのは、一人で何千もの敵を一ヶ月近くも食い止めたとかいうやつだ。のちのちに援軍が追いついて、攻めてきていた敵軍を一掃したんだがな。

 あれは確か、ヘーツツェアシュテールングの戦いって名前だったはずだ。その急勾配から『心臓破壊の丘』と呼ばれていたことが語源の、とある丘での戦いだ。ミッドチルダの学校とかではこのことをやっているはずだが、俺の先祖のことはもちろん載っていない。魔法が特殊だからな。大学のベルカ史を専攻している人間なら知ってる人も多いだろうな。

 そんなこんなで一躍有名になった俺の先祖が使っていた武器が、今の君たちが使っている杖型や斧型といった、今で言うデバイスに近いものだ。ただ、君たちのそれと違うことは......弾が違うということだ」

 

 机の上に置いていた、先ほど精製したばかりの308.弾を取り、4人に見せる。

 金色の薬莢に、紫色の弾丸が埋め込まれている。この薬莢の中には、火薬に近い物質が入っている。正確には火薬じゃないのだが(質量兵器が禁止されているから)、弾丸を飛ばす推進力を得るためには必要不可欠だ。

 

「これが、俺の使う魔力弾。これと全く同じ、ではないけど、先祖が使っていたスナイパー用の弾はこんな形をしていた。見た感じ、地球の軍隊が使ってる弾丸と同じに見えるだろう?だがこいつは、質量兵器じゃない。

 弾を飛ばすために使う推進剤は、『ガンパウダー』と呼んではいるけれど、実際は火薬のような粉ではない。液体だ。『プロペラント』と呼んでいる。これもハンニバル式魔法で作り出した。

 撃針が薬莢下部の信管を貫くと、そこで急速な魔力結合が起こる。それが生み出す威力はケタ違いで、それを弾を飛ばす推進力として利用しているんだ。従って、これは純粋な魔法であり、質量兵器ではなくなる。まあ、こじつけっぽいけどな」

 

 魔力弾を机の上に戻すと、今度は40mm擲弾筒をアンダーレールに装着した308口径のスナイパーライフル、BMR-9を持ち、彼女たちの前に差し出す。

 なのはたちは、このゴツゴツとした、まるで物干し竿のように長いこのライフルに目を輝かせている。

 

「これは、その魔力弾を使用するスナイパーライフルだ。名前を、BMR-9と言う。BMRっていうのは、『バトル・マークスマンライフル』の略で、9は有効射程である900mを100分の1した値だ。元々の形のモデルとして、ドイツのH&K(ヘッケラーアンドコッホ) G3を使わせてもらっている。

 口径を変えたことにより中の基部やバレル長なんかも全て一新させてはもらったけど、かなり出来の良いライフルに仕上がったよ。この間守護騎士たちが君たちを襲った時に使ったライフルはこれだ。

 プロペラントの力を利用して排薬・装填を自動でするようにしたセミオートライフル。二点バースト機能あり。重さは約5キロ。そして、このアンダーレールにつけた40ミリ擲弾筒の重さは3キロ。かなり重たい。まあ、俺には軽いくらいだがね」

 

 この中で一番体が強そうなアルフに試しに持たせてみると、持ててはいるもののやはり重たそうだ。これをエレンが持つと、軽々と扱ってくれる。

 4人の彼を見る目が変わったところで、BMR-9を机に置いて、4人に向き直る。

 

「さて、ここまでつらつらと俺の使う武器について話したわけだが、ここからが本題といこう。この弾と武器を、どうやって作っているのか......その答えが、世界に使っている人間は俺と、俺の家族しかいない特殊な魔法形式、ハンニバル式魔法だ」

 

 手のひらを合わせて、魔法陣を展開しながら、花の蕾のように合わせた手に魔法を少しだけ流す。手のひらが、紫色の魔力光に包まれる。

 瞳を閉じ、作りたいモノの形をイメージしながら大気中の魔力素を集め、魔力素を固形化していき......魔法陣を消して、光の灯っていない手のひらを開くと。そこには、紫色の半透明の結晶があった。その形は、先ほど彼女たちに見せた魔力弾の弾頭と、同じだ。

 

「す、すごい......!」

「こんなの見たことない......!」

 

 ユーノが、興味津々といった様子でその弾丸を手に取り、眺めている。

 ......そういえば、彼はあのスクライア家の人間だったな。探検家らしい好奇心の持ち方は、年相応といったところとも言えるだろう。

 

「これが、ハンニバル式魔法だ。『魔力素で出来た物質の形質を変えて、もとのものとは違う任意の物質を作り出す』。物質を別の形質のものに変換することが“錬金術”なのに対して、ハンニバル式魔法は大気中の魔力素からものを作る、あるいは別の形質に変換する。

 この魔法は、別のことにも使える。

 魔力弾というものは、質量兵器に使われるただの弾丸とは全く違う。狙撃の際、予め設定したターゲットに着弾すると、魔力弾はターゲットの表面で魔法陣を発生させ、対象にその弾丸のもつ様々な“効果”を発揮する。一つの魔力弾に、7種類もの効果がある。任務や状況によってそれらを使い分けるんだ。

 まあ、本当はあともう2つ別のスナイパーライフルがあるんだけど、そのうち一方の方にはまた別の専用弾がある。

 ライフルの口径によって弾の大きさも変わるけど、基本的にどのライフルにも共通して使える効果の弾を『通常弾』、そしてそのライフルにしか使えない効果の弾を『特殊弾』と呼んでいる。いつか、君たちにも見せる日が来ると思う」

 

 いまは調整中で見せられないのだけど、多分......闇の書事件が大詰めになってきた頃には308よりも強いライフルが必要になる。その時、みせることになるんだろう。

 ......本当は、そうならないで欲しいのだけど。

 

「弾が質量を持ってるから、もちろん風や距離の計算もやらなければならない。それだけが難点だけれど、普通に使っていれば普通に強い。デバイス型のスナイパーライフルの何倍もの射程があるし、1発で相手を仕留めることができる。サイレンサーを使えば音が消せるし、マズルブレーキを使えば反動も軽減できる。これを作れるのも使えるのも、俺とエレンだけだから盗られても意味は無いし......まあ、いいことづくめだ」

 

 だけれど、この魔力弾......一つだけ、とんでもなく危険な要素がある。

 魔力弾は、発射される前にターゲットをロックオンしておく必要がある。そのロックオンしたターゲットにヒットしたときに初めて効果を発揮する。

 しかし、逆のことを考えると、ターゲットではないものに当たった場合......質量兵器と同じように、弾丸は弾頭変形(マッシュルーミングと呼ぶ)を起こし、殺傷効果を持つことになる。だから誤射をした場合は怪我では済まないのだ。

 とはいえ、この危険な要素は、有効に利用すればもっと使い勝手が良くなる。

 もし相手が、こちらの攻撃を逃れるために壁の裏などに隠れたら......弾丸の口径と貫通力にもよるが、『壁を貫通させてターゲットに命中させることができる』。

 この要素のおかげで解決が出来た事件も、もはや数えられないほどとなった。もっと大きな口径の弾とライフルを開発すれば、もしかすると分厚い鉄板をも貫通させられるほどの威力をもつものも出来上がるかもしれない。

 

「......いつか君たちと行動することが来たときのために、いくつか守って欲しいことがある」

 

 その誤射で彼女たちに怪我をさせたり、死なせたりしないためにも、今からでも言っておかなければならない。4人はこっちの目を見て、真剣な表情でこちらの声を待っている。

 エレンにコーヒーを注がせるために台所へ向かわせると、ローガンは口を開いた。

 

「まず一つ目。射線には絶対に入らないこと。俺の位置は逐一報告が入る。俺も誤射をしないように細心の注意を払うが、なるべくそちらでも射線に入らないようにお願いしたい。

 二つ目。例えば君らが敵と近接戦闘しているときにこっちが支援狙撃するとき、合図ですぐに離れられるようにしてほしい。密着したままでも撃てないこともないが、万が一ということもある。合図はその時その時で決める。

 この二つさえどうにかなれば、あとは支援や援護はお手の物だ。円滑な試合運びのためにも、そこのとこよろしく頼むよ」

「はい、わかりました」

「気をつけます」

 

 2人が元気のいい声を上げると、残りの2人も意義なし、と言ったふうに頷いてくれた。その表情には、頼もしい笑みが浮かんでいたのを、ローガンは忘れない。

 

 その後、他愛のない話をして時間を潰すと......いつの間にやら、5時を超えかけていた。

 12月ともなると、一般的な小学生は門限が5時程度となっている。暗くなるのも大体それくらいだからだとか。

 暗くなってから帰らせるのも大人としてどうかなぁとも思ったので、ここは4人に帰らせることにした。

 

「それでは、今日はありがとうございました」

「ああ、何かあったらまた来るといい」

 

 なのはとフェイト、アルフは家の前で例をして帰ろうとした。

 ユーノはあとでローガンたちが管理局まで送ることになっているから、エレンの隣に立って同じく見送っていた。少しだけ、聞きたいことがあったので......ローガンは、彼だけを呼び止めておいたのだ。

 

「それで、頼みごとのことなんだが......」

「僕に、ですか。出来ることなら、何でも言って下さい」

 

 部屋の中に入ると、コーヒーを用意してリビングでテーブルについた3人は、少しだけ延長戦をすることにした。後ろに立っているエレンは、黙って2人のの様子を見ている。

 頼みごと。それは、この少年がスクライア家の人間であるということと、彼があの無限書庫の司書となっているということから出来たものだ。

 長い間、ローガンは『彼女たち』を救う方法を考え続けてきた。そして、その手立ては......“あともう一つ”の情報によって完成されるところまで解析が進んだ。

 その残りの空白のピースを埋めるには、ローガンの力だけでは不可能だった。

 あの馬鹿みたいに広大な無限書庫のなかから、“それ”だけを見つけ出すのは無理だった。ユーノが司書となるまでは管理する人間すらいなかったから、それを見つけるには、素人のローガンには多大な労力と気力が必要だったのだ。

 しかし、彼がいるのなら......あるいは。

 

「ある事について調べてほしい。闇の書関連の情報収集が大変なのは知っている。だが、それを踏まえた上で......君に、それを頼みたい」

「......正直、きついです。あの膨大な量の本から闇の書関連の情報を引き出すこともかなり難しいですから。総力を上げてもなお、闇の書について分かっているのはほんの一握りだけなんです」

 

 口元に手を当てて俯くユーノ。

 彼の仕事が辛いのは分かっている。ローガンもあそこで探し物をしていたから理解出来るが、あの膨大な量の情報のなかから特定の情報を求めるのは至難の技だ。

 さらに、情報収集は進んでいない。心労もたえないはずだ。

 だけど......それさえあれば。

 

「......その情報さえあれば、闇の書事件を終わらせることが出来るんだ」

「......どういう事ですか?」

 

 驚いた表情を見せるユーノに、ローガンは少し迷ってから......話すことにした。

 自分に関する、ほぼ全ての情報を。過去のことを。そして......ローガンが見出した、闇の書事件解決の方法を。

 その長い話を、真剣に、静かに聞いてくれたユーノは、驚きの表情を浮かべていたが......全てを理解してくれたようだ。

 

「なるほど......」

「この手には、あの時から研究を続けてきた全てが詰め込まれている。それでも、あと一つ足りない。抜け落ちたピースは、あの無限書庫の中に転がっている。それがあれば、彼女を“救える”んだ!......頼む。引き受けてくれ」

 

 ローガンは、ユーノの緑色の瞳を覗きながら言った。

 もう、時間が無いのだ。

 

「......わかりました。やりましょう。あの凄惨な事件を終わらせるために。そして、貴方の『全てのため』に。闇の書事件を解決させるために、どうしても必要な情報なんですよね?」

「ありがとう。これは、恐らく誰もやろうとはしなかったことだ」

「その、情報とは?」

 

 深く息を吸って、吐く。

 進まなかった駒が、ようやく動き始めるのだ。

 覚悟を決めたように、ローガンは、口を動かした。

 

 

「......歴代の闇の書の主について、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノを管理局まで送った後、ローガンはエレンと、リビングのコタツでコーヒーを飲んでいた。

 時刻は既に9時を超えている。

 

「今日は、しゃべり疲れた」

「そうだろうな。あれだけ話していれば、疲れだって溜まるさ」

「お前も、立ちっぱなしで疲れたろ?すまないな」

「いいんだ。お前のためなら、私は何処へだって行くし、どんな事もする」

 

 そう言って笑みを浮かべるエレンは、今ローガンの隣にピッタリと寄り添っている。

 ......距離が凄く近い。顔をこっちに向けてきているから生暖かい息がローガンの首筋にかかり、背筋がゾクゾクとする。

 ローガンは、物理的なものに関しては強いのだが、そういったことには割と弱かった。

 

「ど、どうしたんだ?」

「何がだ?」

「すごく近いんですけど......」

「そうか?」

 

 しらばっくれるようにコーヒーを飲むエレン。その横顔がふと目に入る。

 やはり、美しかった。

 普段一緒にいるからあまり自覚はないのだけど、とんでもなく美しい女性なのだ。

 切れ長の金色の瞳。整った顔立ち。腰まで伸ばした長く綺麗な茶髪。細すぎず太過ぎずの絶妙なラインのスタイル。そしてなおかつ背が高い。

 多分世界中どの雑誌に載っているモデルよりもスラリとしていて、プロのそれと同等......いやそれ以上の美しさだと(というのも、いつもエレンがそういう雑誌を見ているから部屋には結構積んであるのをよく目にするからだ)ローガンは思っていた。

 彼よりも頭一つ分も高い彼女の座高からして少し見上げなきゃいけないのだが......これほどまで近いと、なんだか恥ずかしく感じてしまうのだ。

 普段とは全く違う彼女の様子に、少しだけドキまぎしてしまう。

 

「......どうした?」

 

 こっちの目線に気づいていたのか、エレンは切れ長の瞳をうっすらと開けて横目でこちらを見る。見られてたみたいだ。思わずドキリとさせられる。

 ......流石鷹の使い魔、鋭いな。普通の人間なら気づきもしなかったはずなんだが。

 

「いや、何でもない」

「今、私を見ていたのか?見ていたのだな?」

「えっと、その......はい」

 

 ずいと顔を寄せてくる彼女。心音を響かせながら、その迫力に負けて何故か敬語で答えてしまった。

 怒っているのか?と思ったが......エレンは、「そうか」と言って無表情でコーヒーカップの中を覗く。その表情は、何処か嬉しげだった。

 こうした彼女の表情を見るのも、久しぶりな気がする。いつもは、鷹らしく凛々しく振舞っているのだが、こういうプライベートの場になると途端に人間らしくなるのだ。

 こうして過激なスキンシップを取ってくるのも、昔から全く変わっていない。とはいえ、17歳のときがかなりヤバかったので、今はそれほど迄ではないのだが。

 とはいえ、こんなに穏やかな笑顔を見せたのは本当に久しぶりだった。内面で、何かあったのだろうか。

 

「......どうかしたのか?」

「いや、何でもない。何でもないことが、嬉しいんだ。お前と一緒に居られるのが」

 

 俯いてそう呟く彼女の横顔は、やはり今まで見たことのないくらいに優しい笑みが浮かんでいた。

 本当に、今日の彼女はどこかおかしい。表情の移り変わりが妙に激しいのだ。

 すると、突然キッと視線が猛禽の如く厳しくこちらに向いた。

 

「......この頃、お前はよく無茶をする。体を張りすぎたり、魔法を使いすぎたり。私は、お前が心配なんだ。いつかお前が、私の前から居なくなるのではないかと、心配で。でも、お前の傍にいると、お前の鼓動が感じられると、そんなことは無いと安心できる。あの時......私を救ってくれた時のように力強い鼓動を聞くと、お前とまだ一緒に居られるんだと」

 

 胸に手を当てながら、エレンは少し険しい顔を崩す。

 彼女の言いたいことが何となく分かってきたローガンは、思わず驚いた。

 思い返してみればこの頃、彼女はローガンがやろうとしていたことを手伝ってくれる。手伝ってくれることはいつものことなのだが、最近は特に一つの作業を全部やってくれるのだ。新しい兵器を開発しているときとか。

 そういうときはいつも、『また一人でやろうとしている。あまり無理を詰めると、良くない』と叱っていた。

 あれは、彼女なりの優しさだったのだろう。ベタではあるけれども。

 彼女は、優しい女性だ。面倒見もいいし、頭も良い。たまに変なことをするときもあるが、それも彼女の面白いところでもある。

 彼女は、ローガンのことを心底心配してくれているのだ。

 

「......そんな心配事ばっかりだと、良くないぜ」

「いいんだ。私は鷹だ。心も体も普通の使い魔よりも強い。それに......お前には、一生かかっても返しきれない恩があるんだから」

 

 彼女のいつものセリフを交えながら頬の火照りを誤魔化そうとふざけてみたのだが、エレンはその表情を解く事は無かった。

 絶えずこちらに柔らかな笑顔を向けるエレンに、ローガンは少し恥ずかしくなって目線をそらした。

 恩。彼女は、使い魔になる前はとある次元世界にいた。昔、まだ小さかったローガンが助けた鷹だ。

 怪我をして動けなくなったところをローガンが治療し、帰してあげようと思ったらなかなか離れなくて。それで、帰ってから母に使い魔としてもらったのだ。

 思えば、あれからもう9年も経っている。懐かしい話だ。

 

「あの時のことを、私は忘れていない。傷だらけで、もうダメだと思ったとき......お前が助けてくれた。あの時の力強い瞳は、今でも私の励みになっているんだぞ?」

「......そいつはどうも」

「お前がいたからこそ、私はここにいる。私は私でいられる。お前がいなくなれば、私も消える。それまで私は、お前を支え続ける。隣に居続ける。例え世界が敵になったとしても、私は......お前の傍にいる」

 

 優しく頭を下げながら、エレンはローガンの手をその綺麗な両手で包み、額をつける。

 ......おかしいな。不思議なくらいに体が火照っているように感じる。確かに、今は冬だから暖房は効いている。でも、こんなに熱くなるほどではないはずだ。

 

「......何だか、気恥しいな」

「そんなことは無いだろう?私は使い魔、お前は私の主。このようにするのは別に不思議なことではない」

 

 そう言いつつ、エレンはその自慢の胸(本人談)をローガンの腕に押し付けて、少しだけこちらに体を寄せてくる。

 本当に、こいつは今日はいつになくおかしい。こんなに過激に攻めてきていたことは、今までなかった。

 そこまでくると流石に恥ずかしくなったローガンは、恐らく彼女から見て顔が真っ赤になっていることだろう。それを知ってか、彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 ローガンは、今年20歳になった。成人になるまでは許されたのかもしれないが(?)、今こんなふうにベッタリしているのをほかの人に見られでもしたら、本気で誤解されるだろう。まあ、公ではやることはないだろうけど。

 自分の鼓動が耳に届く。もしかすると、それはエレンにも届いているのかもしれない。

 いつも共に過ごしている彼女は、今日はまるで......1人の女性のように接してきている。

 身内だとはいえ、ローガンは20歳の男性である。そういったことに耐性のないローガンの心臓の鼓動は、1個のドラムと化したように騒いでいた。

 

「......良いものだな。私は、貴方に異性として見られているんだな」

「......分かっていて、どうしてやるんだ?」

 

 恥ずかしさに声が上ずりかけるのを抑えながら、羞恥を抑えるつもりでそう言ったローガン。それが、言ってはならない禁断の語句であると気づいたのは、それからもう少し経ってからだった。

 

「決まっているだろう?私は、お前のものだからだ」

 

 その白く美しい細腕をローガンの肩にかけたエレンは、さも当たり前のようにそう言うと............

 いつの間にか、ローガンの視界は天井を向いていた。目の前には、マウントを取るようにして自分の体を抑えているエレンの姿が。いつになく冷静そうに見える。

 もう、何がなんだか分からなくなった。

 正常に機能していなければならない脳は、気が動転すると同時に真っ白な蒸気を吹き出してショートしてしまっていた。

 ......一体彼女は何をしているのだろう。

 壊れてしまった頭はぼんやりとそんなことを言っていた。それも、主従関係にあるエレンに。予想すらしなかったこととあまりの恥ずかしさに、頭の中が真っ白になった。

 何故?一体何が起こった?どうして背中に床が密着しているのか?どうして、さっきまで横にいたエレンが、真上に居るのか?

 いろんな疑問が脳内で再生されては消え再生されては消えを繰り返す。まるで、壊れたラジオのように。

 魂を抜かれたように呆然としているローガンに、エレンは構わずこちらの瞳を見詰め続けていた。

 

「な......何をしているのでしょうか?」

 

 しばらくしてようやく口が開けるようになったローガンが捻り出せた言葉は、ただのそれだけだった。

 鼓動の響きはピークに達していた。

 だって、こういうのもなんだが、モデルに匹敵するくらいの美人が自分の真上に乗ってこちらをじっと見詰めているのだ。頬の火照りは血液を沸騰させるのではないかと思えるくらいになり、正常な思考がまるで出来ない。

 これを俗に......パニクっている、とでも言うのだろうか?いや、これは完全にパニックに陥っている。

 しかしエレンは、そんな質問は無視してこちらに顔を近づけてきた。いや、ローガンがエレンに近づけさせられているようだ。

 抱き寄せられていることに気づいたののは、その時だった。

 

「私は、お前のものだ。だから、どこへでも付いていく。“どんなことも”する。私はお前のものだから、お前の好きなようにしても良い」

 

 ......こいつ、ガチなのだろうか。

 もう何がなんだか分からない状況で思ったことはそれだった。

 急に押し倒されて、言われた言葉がそれだ。......こんな状況でそんな事言われたら、“そっち”の意味にしか取れないじゃないか。

 と、一人で訳の分からないことを考えていたローガンを他所に、エレンはさらにローガンを抱き寄せ、整った顔がすぐ目と鼻の先にあった。

 もう何がなんだか分からなくなった。

 絡んだ釣り糸のように思考が回らなくなり、視線すらも動かせない。喉が水を欲している。

 あまりの心臓の暴れ具合に何も言えなくなった時、彼女の口から、何か漏れ出すような声が聞こえた。

 

「ローガン......私は、お前と共に居る。これから、とても辛く困難なものに立ち向かっていくことになるが、私はお前を守る。お前の11年前の無念を果たすまで、私は共に戦う。一緒に......」

 

 ローガンの頬に、冷たい物が一滴落ちてきた。

 その一滴は、ローガンの思考の歯車をようやく噛み合せた。

 幾分か冷静になってきたローガンは、目の前にあった美しい女性の顔を見た。

 彼女は、出会ってから9年間......本当に、いつもローガンの面倒を見てくれた。彼の弟のことも。その心労は、かなりのものであったに違いない。

 それほどまでに、彼女はローガンのことを想ってくれている。この先、確かに辛いものが待っている。それも、人生の中で最も辛いものが。それにも、彼女は覚悟をもって付いてきてくれる。

 ......彼女は、普段あんなに凛々しく冷静だったが、こんなにも、俺のことを想ってくれていたのか。

 普段の彼女は、凛々しくて優しく、かつ冷静なクールな女性であるが、本当はとんでもなく心配性で、ローガンになにかあってはならないと、無茶しようとしたならばすぐに止めさせていたのだ。

 彼女は、一体何を思って、何を願っていつもローガンを叱っていたのだろうか。

 その答えは......意外に、近くにもあるのかもしれない。

 その彼女の表情に冷静になったローガンは、彼女の頬のそれを人差し指で優しく拭う。

 

「ああ......俺は、常にお前と共にある。死ぬ時も、一緒だ」

「それは......約束、か?」

「いや、違う。“未来”だ。俺にはもう、明日を見ることはない。だけれども、唯一見れるのは夢か未来だけだ」

 

 それを聞き終えると、エレンは優しい笑みを見せ、ゆっくりと、さらにローガンを抱き寄せた。

 彼女の嗚咽は、聞こえないことにしておく。それは、彼女の揺るぎない意思の現れだ。彼女は、俺と共に地獄に落ちるだろう。それは、とてつもない恐怖に違いない。

 彼女は、それを受け入れてくれた。俺と共にいることを誓った。恐怖を乗り越え、勇気を出して俺に従うことを受け入れた。

 俺には、否定する理由はない。

 彼女と共に行けるのであれば、もう怖いものはない。

 

 彼女の震える体を抑えるように、ローガンは......そっと、彼女の肩に手を置いた。




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