聖夜よ、永遠に【完結】   作:皮下脂肪弁慶。

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願わくは、いまよりもっと多くの人に私の小説を読んでもらいたいですね!もっと面白い作品になるよう、努力いたします。これからも、よろしくお願いします

それはそうと、私のこの小説で『ここは直した方がいい』とか『こういう書き方はあんまり伝わってこない』とか、なにか書き足りていない部分がありましたら、メッセージにでも感想にでも送ってください。私の作品の質向上のため、努力します。


第6話 全てはあの日のために
1.


 本局内に、喧しいほどのアラームが鳴り響いていた。

 次元航行艦『アースラ』の強化改修作業もあと少しで完成というときのこの非常時。忙しそうに通り過ぎる局員たちを横目に、黒いスーツの上から砂漠迷彩のコートを着込んでいるエレンと、同じように真っ黒な野戦服の上から砂漠迷彩のポンチョを着たローガンは装備を持って転送ポートへと急ぐ。

 

「出向しにきた途端にこれかよ。愛されてるみたいだぜ、俺たち」

「そうだな。だが、退院して4日経つが体の方は大丈夫なのか?」

「4日空ければ何とかなるって。安心しろ、怪我でもしない限りは絶対大丈夫だから」

 

 不安そうな視線を向けてくるエレンにそう言って、体の調子を振り返る。

 魔力行使のしすぎで倒れてから4日経った。その日に退院できたのだが、医者からは大事をとって3日間は絶対安静を言い渡されたのだ。

 闇の書事件の解決の糸口までもう少し、といったところでのこれだったのだが、次に発作が起こったらもう後が無いと言われてしまったのなら、従うほか無かった。ここで死ねば、彼が今まで積み重ねてきたことが水の泡となってしまう。それだけは避けたかった。

 そして言われた通り、エレンの過保護な世話もあって、3日間確かに療養生活を送った。色々大変ではあった。今まで戦闘と開発しかしてこなかったローガンにとっては少し暇な休暇になったくらいのものであったが、やはり今までの疲労が蓄積していたのだろう。今こうして歩いているが、ついこの間よりも軽快に歩けるのだ。

 

「あまり無理しないでくれよ。お前が死んだら元も子もないんだからな」

「分かってるって。怪我さえしなければいいんだから。狙撃には魔力はそこまで使わないし」

 

 そんな問答を続けて歩き、ようやく転送ポートまで到着した2人は、装備のチェックを終えてポート上に足を運んだ。

 この転送ポートからは、ほとんどどんな場所にでも転移できる。異世界だったりミッドチルダだったり、あるいは上空からの降下をするなら空にだって飛ぶことができる。

 そして、今からエレンとローガンが行こうとしているのは......地球とは別の世界、ある二つの無人世界だった。

 つい先程、その両方の無人世界で守護騎士たちの蒐集行動が確認された。主にそこに住んでいる大型生物を狩猟し、それから魔力を奪っているのだという。現在、高町なのはとフェイト・テスタロッサがそれぞれの世界で守護騎士たちと交戦しているという。

 だがもちろんローガンが二つの世界両方同時に救援に駆けつけるわけには行かない。エレンと二手に分かれるという手も無いこともないが、それは今回の無人世界の環境が許してはくれなかった。

 そんなわけで、どちらか片方を優先させるならば、救援に駆けつけるべきは、まだリンカーコア蒐集の被害に遭っていないフェイトの方だろう。

 高町なのはもフェイト・テスタロッサも、訓練や魔法制御の練習、そして場数もどんどん踏んでい来ている。その成長速度は凄まじいもので、ついこの間までよりも格段に強くなっていることが、以前格技場でやっていたリーゼ姉妹との模擬戦を見ていて確信した。

 だが、闇の書の完成は即ちこの世の終りを意味している。ここでリンカーコアを盗まれてしまえば、それにさらに拍車をかけてしまうことになる。

 

『ローガン・ハンニバル一等陸尉、エレンさん、準備完了。転送まであと1分!』

 

 エイミィの声がアナウンスされると、ローガンは黒いブー二ーハットの鍔をクイッと上げ、背中に背負った、MBR-9とはまた別のスナイパーライフルの大きなマズルブレーキを触った。

 今回の転送先の無人世界は、一帯が砂漠になっていて、遮蔽物がない。近くに山があったりするのだが、それでは場所が限られているため、発見される確率が高い。

 知ってのとおり、スナイパーという兵士は相手に見つからず相手を仕留めなければならない。いくら任務が援護射撃だからとはいえ、敵はフェイトと戦っている1人だけとは限らない。バックアップするためにもう一人くらいどこかに潜んでいてもおかしくない。

 広大なフィールドで、敵に見つからないように狙撃する。そんなニーズに答えるために開発したのが今ローガンが背負っているボルトアクションスナイパーライフル『ULR-24』超長距離狙撃銃である。

 .408口径という50口径にも近い大型の狙撃弾を使い、ボルトアクションの精密な射撃を再現したこのライフルは、有効射程約2400メートル、最大射程3000メートルオーバーという化け物じみた長大な射程と威力を誇る。各部に反動を和らげるコンペンセーターが組み込まれており、その肩を押す力は本来は強烈であるはずのその反動の8分の1まで吸収する。

 スコープには測距機能搭載、風向きと距離の計算も楽になっている。

 今回の任務では、長距離でかつ正確な射撃を行わなければならない。そのためには、BMR-9では射程の面でも命中精度の面でも今任務には不向きだ。

 長距離になればなるほど着弾までの時間も計測する必要があるが、それでも、ローガンにはエレンがいる。彼女のような優秀なスポッターがいてくれるなら、そんな困難な狙撃も楽々終わらせてみせるだろう。

 互いに拳をぶつけ合うと、2人は深呼吸をした。

 

『転送、5秒前!』

「いくぞ、エレン」

「ああ」

 

 エイミィのアナウンスが響く。足元が発光し、体が包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の心を満たしていたのは、戦いを楽しむ快感と騎士としての誇りを捨てなければならない悔しさだった。

 特に、今目の前で彼女を止めようとしている黒いマントに身を包んだ金髪の少女との戦いは格別だった。今まで戦ってきたどんな騎士、あるいは魔導師よりも強く、真っ直ぐで、ブレがない相手と相見えたのは、長らく生と死を繰り返してきた歴史の中でも、これが初めてだろう。

 最近の交戦でも感じたことではあるが、半月前対峙したときとはまるで別人のような彼女の太刀筋と巧妙な戦術には、無意識に誇り高きベルカの騎士の血が騒ぐ。

 レヴァンティンの切っ先を少女、フェイト・テスタロッサに向けながら、シグナムは思わず口元を緩めた。

 

「ついこの間とは全く別人のようだな。鍛えたのか。......それとも、あの時は動揺が激しかったのか?」

「はい。今日は心も安定していますし、鍛えても来ました」

「これほどまで楽しい戦いは、久しぶりだ。お前のように真っ直ぐな人間は嫌いじゃない。こんな状況でなければ、さぞかし心躍る戦いだったろうな」

 

 相棒を握る両手が小刻みに震える。これが、武者震いというやつだろうか。

 体の隅から隅までが、まるで煮えたぎるかのように熱くなり、高揚感から心臓も鼓動をドラムのように鳴り響かせる。

 確かに、もし......シグナムに別の目的が無かったなら、何も気に止めることなく、心地よく剣を振りかざし、彼女、フェイト・テスタロッサの前に立ちはだかっていられただろう。

 シグナムを......いやシグナムたちを縛り付ける呪いは、いつまでも彼女たちを鎖で繋ぎ続けているのだ。

 

「我々には、やらねばならないことがある。我が主のために、私はお前を倒す。殺さずに済ませる自身は、無い。......この身の未熟さ、赦してくれるか?」

「はい。ですが......勝つのは、私ですから。『あの人』に、教えてもらったんです。私が何のために生きるのかを。その理由のためにも、私はあなたと戦います。全力、全開で」

 

 斧型のデバイスのカートリッジをリロードしたフェイトは、不敵な笑みで構えを整えた。彼女も、やる気だ。

 

「......本当に、惜しいものだ。それでは、いざ......参る!」

 

 先に仕掛けたのは、シグナムだった。

 防御力の低さをスピードでカバーしたフェイトに一方的に攻撃されれば、いくらシグナムでも捌き切るのは困難になる。先に相手を封じ込めることで、相手を力押しで潰そうと判断したのだ。

 

「ハァッ!」

 

 烈拍の気合いと共にシグナムの鋭い一撃がフェイトのか細い首元に向けて振り抜かれる。凄まじい金属音と共にそれは防がれる。が、それは予想の範疇だ。

 弾かれる力を利用して篭手返しの要領で素早く逆に振りかざし、またうち下ろす。

 対するフェイトは、空中という彼女の箱庭的領域をふんだんに利用し、空を舞うように回転しそれを避けながら、同時にシグナムの腹部を横凪に切りつける。

 

「やるなっ......!」

「そっちこそ......!」

 

 それを剣を縦に構え、体を拗じるように捻りながら弾き飛ばし、無防備になったフェイトの胴体目掛けて腰の捻りを利用しての神速の一撃が抜かれる。

 これも、シグナムの予想に反して簡単に防がれ、斧の石突部分で背中を叩かれる。

 そこまで強い衝撃でなかったことが幸いしたのだが、これはこの日シグナムが貰った最初の一撃に他ならなかった。

 ......これは、負けていられないな。

 その痛みに耐えながらも、しかしシグナムは笑っていた。

 フェイトの放った鋭く速度のある射撃魔法『フォトンランサー』の弾幕を掻い潜りながら彼女の懐に潜り込み、そして斬撃を見舞わせる。

 流石は管理局の魔導師、普通の局員なら全く追いつかないほどのスピードで放たれたそれを簡単に弾き、僅かな隙をも狙って確実に攻めてくる。

 

 

 

「シッ!!」

 

 肺に溜まっていた余分な空気を一気に吐き出し、力任せにしかし予備動作無しで彼女に斬り込む。もちろん防がれるが、シグナムの目的はそれでは無かった。

 あまりの威力に相殺しきれなかったフェイトは、大きくシグナムとの間を引き離された。

 その隙を利用し、シグナムは一瞬で剣を鞘に戻し、カートリッジを2発使用した。軽い反動と共に深紅の薬莢がエジェクションポートから排出された。

 

『Schlangebeißen』

 

 デバイスの声とともに鞘から抜きん出たその白銀の刀身は、魔力結合の鎖となって何個にも分裂し、相手を威圧する蛇のようにうねり空を舞う。

 レヴァンティンの第二形態、シュランゲフォルム。長大な連結刃により相手の動きを阻害・牽制しながら360度全方位から攻撃を仕掛けることができる、『シュランゲバイゼン』は、紫電一閃に継ぐ必殺の攻撃魔法だ。

 これにはフェイトも驚き、フォトンランサーを撃ち込むその魔法陣を消してすぐ様回避に専念する。

 今しがたフェイトが放った弾はすべてその連結刃に阻まれ撃墜される。その刃は今度はフェイト本人を狙い、その退路を断つように唸りを上げる。

 彼女は、その連結刃の隙間という隙間を縫うように高速で飛翔しながら紙一重でダメージを避けている。装甲の薄いフェイトは、一撃一撃のダメージ量の大きいシグナムの大技を食らうだけでもまた致命傷になりかねないのだ。

 

「っ......!」

 

 だがここでフェイトは意地を見せる。

 まるで何かの導きのように、シグナムの懐に直行できるような隙間が連結刃との間に生まれたのだ。この隙を見逃さず、フェイトは急ブレーキを掛けてその穴に全速で突入した。

 

「なっ......!?」

 

 これにはシグナムも驚かされた。

 自分の元に直接迎える小さな隙間画できたことには気づいた。しかしそれは人が1人、それも小柄な人間が1人通れるか否かくらいの小さなものだったのだ。

 あのフェイトの装甲は、前述の通り回避に専念するため薄くなっていて、一撃のダメージは即撃墜に繋がりかねない。それを考慮すれば、その穴をくぐり抜けるのは余程の大バカ者か......あるいは、覚悟のある戦士でしかない。

 フェイトが一瞬で間合いに入る。目の前に現れたときには、すでにその大鎌を構えていた。彼女の瞳には、確信に満ちた紅蓮が滾っていた。

 ......やられる。

 振りかざされようとしている刃を見て、シグナムの脳は無意識に自分自身に警告していた。

 これが当たれば、ただでは済まない。撃墜されることもありうる。そうなれば......魔力の蒐集どころの問題ではなくなるのは明らかだ。

 守護騎士たちをまとめる立場にある将が墜ちれば、それはつまりヴィータやシャマル、ザフィーラたちを裏切ることになる。

 それはつまり、愛するあの優しい主の元に、二度と帰れなくなるということだ。

 それだけは......嫌だった。

 

 その時、シグナムの脳裏に1人の少年の笑顔が浮かんだ。

 

「ぐっ......ぁぁあああっ!!」

「っ!?」

 

 一瞬後に、吹き飛ばされていたのは......フェイトの方だった。

 彼女には、今の瞬間に何が起こったのか分からなかっただろう。

 気がつけば、フェイトは先程までいた空中から地面にたたき落とされ、岸壁の切り立った山を砕きながら衝突。力なく、砂漠に落ちた。

 フェイトは、彼女でさえ捉え切ることができないほどの神速の一撃を腹部に思い切り貰い、地面に叩きつけられたのだ。腹部に貰った斬撃と激しく打ち付けられたこととが重なり、フェイトの意識は完全に失われていた。

 肩を激しく上下させながらシグナムは自分の手をまるでそうでないかのように見つめた。

 自分でも驚きだった。何があったら、あんな絶望的な状況を覆すことができるような芸当ができるのか。今まで様々な戦争や紛争に参加し戦ってきたが、あんな速度の斬撃は初めてだった。

 あの時、何を思ったのだろうか。

 優しい主、はやてのことか?家族でもあった守護騎士たちのことか?

 

「......ローガン。私は、どうも、お前のことを忘れられないみたいだ」

 

 馬鹿みたいに広大な大地を眼科に、シグナムは自嘲気味に笑った。

 あの一瞬で頭の中にあったのは、愛する主でも家族でもなかった。

 『あの時』......共に過ごし、自分たちに生きる意味と人としての心を取り戻す切欠をくれた、彼のことだった。

 シグナムたちが目覚めてから早くも半年近くが経とうとしている。主はやてとの出会いは、今まで戦うことしか出来なかった守護騎士たちに大きな衝撃と変化を与えた。

 戦うための道具としてではなく、新しい家族として自分たちを迎えてくれたはやては、氷のように凍てついた守護騎士たちの心を融かし、そして優しい気持ちをくれた。

 『守護騎士たちの主』として優しく迎えてくれたのは、はやてが初めてだった。

 だが......シグナムたちが人としての心を取り戻すきっかけとなったのは、ひとえに、彼のおかげなのだ。

 

「......どうして、今になって思い出すんだ」

 

 奪ってしまったものに対する罪はあまりにも大きいものを背負うことになったシグナムを赦し、今までのどんな主の元での生活よりも苦難の道を歩むことになってしまった彼女たちを優しく諭し、生まれや育ちは違えども、心は一緒だと、家族になれると教えてくれた彼。

 あの優しくも心強い、しかし誰よりも悲しみに溢れていたあの笑顔を、目覚めてからは、気がつけば思い出していた。

 思えば、あの狙撃手との交戦を境にそんな時が多くなっている気がする。

 あいつさえいなければ、蒐集はもっと捗るだろうし、何より......蒐集が終われば、あの時の約束を果たすために行動を起こせる。

 あのスナイパーは、自分たちが思っている強敵中の強敵だ。だからこそ、あのスナイパーだけは早く倒さなければならない。

 

「......済まないな、テスタロッサ」

 

 だが、今は蒐集を終わらせるのが最優先だ。

 墜落したフェイトの元に降り立ったシグナムは、闇の書を呼び寄せてページを開き、彼女の隣にかがみ込んだ。

 フェイトの金色のリンカーコアが、光の粒となってゆっくりと闇の書に吸い取られていく。まるで、命そのものを刈り取っていくかのように。

 ここまで近くで見たのは初めてだが、フェイト・テスタロッサという少女は予想以上に小柄な少女だということに気づく。

 こんな小さな少女が、桁外れの魔力量を持ち、さらに速度と攻撃数を生かして自分をあそこまで追い詰めてきていたのだ。こうしてみれば、普通の少女のようにしか見えない。

 その思考を阻害してくるのは、先程斬撃を入れた腹部の切り裂かれた痕と血痕、そして傷だらけのバリアジャケットだった。そのボロボロになったバリアジャケットから、あのときの衝撃とダメージが相当なものだった事が予想できた。恐らくフェイトはかなりの重傷を負っているに違いない。

 

「魔力蒐集......終了」

 

 自動的に閉じた闇の書を元に戻すために魔法陣を展開する。

 本来の所有者であるはやて(の元)に明け渡したシグナムは、フェイトを見据えながら立ち上がった。

 蒐集は思いの外進んだ。20ページ近くもの魔力を蒐集することが出来たのだ。あの白い、フェイトと同い年くらいの少女のときもそうだが、やはり若いということはいい事なのだろう。

 少しの罪悪感と多くの無慈悲に心を痛ませながら、シグナムは少女を介抱するために抱き上げようとした。

 ベルカの騎士としての第六感が働いたのか単純に何かからの恐怖に戦いたのか、唐突にシグナムの背中に冷たいものが流れ、一瞬の判断でその場を飛び退いた。

 シグナムのいた場所から真っ黒な、しかし鋭い剣のような巨大な物体が突き出たのは、その瞬間だった。

 空から見た地揺れは初めてだった。その巨大な物体がゆっくりと地上に生え出てきて、その全貌が明らかになる。

 

「......何てでかさだ」

 

 今まで狩猟してきた巨大なモンスターの中でも、極めてデカい部類に入るだろうそれは、真っ黒な尻尾とは対照的に砂漠の砂と同化するような肌色を持つ、まるで恐竜のような姿の生物だった。

 全長は7mを悠に越し、長さ的には10mもあるのではないかと思えるほどに長い。その大きな頭部には、岩石のように切り立った冠のようなものまで付いている。

 背中の皮はもはや装甲のようで、見た感じでもかなり硬そうだ。

 

『オオォォォオオォォォォォォォ......!!!』

「くっ......!」

 

 あまりに凄まじい咆哮に思わず引き下がったシグナムは、近くの岸壁の上に着地し、フェイトをゆっくりと寝かせた。

 彼女の傷は酷い。早急に手当をしなければ死んでしまうかもしれない。こいつを早く叩き潰して、治療してやらねばならない。

 目の前の、高い岸壁に登ってようやく頭を直視できる

この巨大なモンスターを見据える。

 正直、こんなにも巨大な怪物を相手にするのは初めだ。あの凶悪そうな尻尾に当たればいくらシグナムでも致命傷で済む保障はない。あの頭をぶつけられれば骨という骨が砕け散るかもしれない。あの装甲は、生半可な攻撃は通用しないだろう。

 だが、シグナムには自信があった。レヴァンティンの刃なら、あの装甲でも何とかなるかも知れない。

 それに、あの怪物は......見た目、多くの魔力を持っているように見える。となれば、あいつを倒して蒐集すれば、事はさらに捗るに違いない。

 

「......いくぞ、怪物!」

 

 レヴァンティンを抜いたシグナムは、果敢に彼女を見据える化け物に斬り掛かる。

 予想に反してかなり素早い動きを取ってくるこの生物は、シグナムの接近にも機敏に反応した。その岸壁目掛けて頭部を突き出し、シグナムを押しつぶそうとする。

 もちろんシグナムも簡単にはやられるはずがない。難なく避け、そのモンスターの大きな体を逆に利用して接近。レヴァンティンを、振りかざした。

 

「はぁぁっ!!」

 

 カートリッジを2発使用。自身の炎熱変換を生かして刀剣に火焰を迸らせ、そのままの勢いで斬撃を食らわせる。シグナムの十八番......

 

「紫電......一閃!!」

 

 裂帛の気合いと共に放たれた必殺の攻撃魔法は、狙い過たずモンスターの首元に直撃した。人間なら即死レベルの高エネルギー魔法だったが、しかしそれは意図も簡単に弾かれてしまった。

 ガキン、という今まで聞いた中でも最も鈍い金属音と共にレヴァンティンを握る手がそのあまりの衝撃に激痛を走らせた。剣を手放さなかったことを褒めてやりたいほどに、しかし派手にはじき返されてしまったのだ。

 1日に二度も驚かされるとは、シグナムも思っても見なかっただろう。その一瞬の隙を突いて、怪物は体を移動させると同時に首を捻り、シグナムにその巨大な頭部を向けた。

 口を大きく開き、シグナムを丸呑みにでもしようとしているのか、そのまま頭を振り切っていた。

 もうダメか。

 体制を立て直すまもなくそう思った瞬間、シグナムは奇妙な音を聞いた。

 パコン、という硬いものに思い切り硬いものを当てたかのような小さな、しかしこの上なく驚異的なその音の発生源に目を向けると、その部分には......小さな穴が空いていた。

 気がつけば、目の前でシグナムを食らおうとしていた怪物は、その巨大な頭を真上に振り上げ、苦し紛れの悲鳴を上げていた。

 

『オオォォォッ!?』

 

 一体、何が起こったのか。

 自分の攻撃は弾かれた。ましてや、あの小さな穴を開けるのははシグナムのレヴァンティンでは絶対不可能であることは百も承知だった。

 それなら、どうやって?誰が?

 その答えは、あの奇妙な音から4、5秒後に明らかになるのだった。

 

 タァン......…

 

「この音は......!?」

 

 その遠距離から聞こえてくる破裂音に、シグナムは、全く同じものではないのだが聞き覚えがあった。

 これまで、二度もやられてきたあの......一撃必殺の、爆発音だ。

 

「狙撃、だと......?一体、どこから......」

 

 目の前に自分を殺そうとしているモンスターがいることにも構わず、シグナムは辺り一帯を見回した。

 どこまでも続くのではないかと思えるほどに馬鹿みたいに広大な大地を見渡す。だが、彼女の知っているそいつは、何処にもいない。

 思えばあいつは、一度たりとも自分の目の前に姿を現してはいない。それがどんな者なのか、どんな格好をしていてどんな戦い方をするのかも、全く一切の情報が無い。彼女たちの天敵のような存在だ。

 こんな辺境の地までやってきているとは、思いもしなかった。

 

『ゴオォォォオオォァァァァァッ!!!』

 

 その雄叫びに、シグナムは不覚にも戦いてしまった。

 だが、その瞬間に彼女のすぐ耳元を風切り音が通過していった。そして、次の瞬間には、まるで何かに当てられたかのように頭を震わせたモンスターが、その巨体をゆっくりと倒しながら、砂埃と地響きを伴いながら地面に落ちたのだった。

 

 またしても、時間差で到達する銃声。シグナムは、ようやく理解した。

 着弾と銃声がこれほどまでに離れている。シグナムがその銃声を初めて聞いた時は、着弾のほぼ直後に銃声が耳に届いていた。

 それが意味することは、つまり......。

 

「......化け物か」

 

 砂漠の稜線を呆然と見つめたシグナム。

 彼女のその美しい瞳には、『彼』が映っていたのかもしれない。

 

 

 

 




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