インフィニット・ストラトス 恥ずかしがり屋で臆病なメイド? 作:リファイン
この存在が、澪にどのような影響を与えていくのか……
楯無「澪ちゃん、また腕上げたんじゃない?」
澪「そんなことありませんよ。」
虚「澪ちゃんは飲み込みがいいから、上達も早いのよ」
ある日の放課後にお嬢様から生徒会の手伝いを命じられたボクは、生徒会室にて虚さんと一緒に会計の資料を纏めていた。
虚さんも楯無お嬢様のメイドでボクの師匠でもある。幼い頃から指導して貰い、認めてもらったのは結構最近の話だ。時には厳しく、時には優しく……そんな虚さんとの付き合いはお嬢様と同じで10数年になる。
休憩がてらに淹れた紅茶を二人に飲んでもらったのだけど、どうやら美味しいみたいでボクも嬉しい。これに関しては、虚さんから一番指導を受けたといっても過言では無い量の紅茶を淹れた自信がある。
澪「あれだけ扱かれたら嫌でも上手になりますって」
楯無「紅茶の指導をする時に虚ちゃんって人が変わったみたいだったわね」
虚「そんなことないわよ! もう……」
優しそうに見える虚さんも、指導してくれるときは人が変わったように怖い。二重人格じゃないのかと疑うくらいに。しかし、今ではそのおかげで、お嬢様のメイドという形で一緒に居られるので感謝はしている。
頼まれた資料を纏めたボクは、それを虚さんに渡す。会計の仕事って意外と多くて虚さんだけでは厳しいときはボクがこうして手伝っているのだ。まぁ師匠を助けるのは弟子の仕事でもあるしね。
澪「とりあえず頼まれた資料は全部出来ましたけど、他に何かあります?」
虚「さすが、澪ちゃんね。間違いもないし、大丈夫かな。どこかしらの生徒会長様が仕事をサボったりするから助かるわ」
楯無「別にサボってた訳じゃ――」
虚「は い?」
楯無「すいませんでしたぁ!」
出た……楯無お嬢様渾身の土下座。虚さんに怒られる度にやっているのだけど、他に芸は無いんだろうか? という私も大概酷いのだろうけど、普段飄々としているお嬢様にはこれぐらいが十分だ。
???「失礼する」
そう言いながら入ってきたのは、いつか放課後に出会った金髪の先輩だった。虚さんの方に歩くのを見ると、相変わらず優雅で貫禄があり、いい匂いもするし同姓なのにドキドキしてしまう。
虚「あらシャナルさんじゃない。今日はどうしたの?」
シャナル「バスケット部の予算申請を提出しに来ました」
シャナルと呼ばれた先輩は、部活の資料である冊子を虚さんに渡した。ボクもそっと脇で資料を見ていたが、ボク以上に纏めるのが上手く分かりやすい資料だった。なんだか負けた気分……。
虚「相変わらず分かりやすい資料をありがとね。とても助かるわ」
シャナル「いえ、このぐらいお安いごようです。……ところで楯無はなぜ土下座をしている?」
楯無「……いろいろと訳があったのよ」
シャナル先輩は若干引いたような感じでお嬢様を見る。冷や汗を出しながら立ち上がるお嬢様だが、同級生にこんな姿を見られたら焦るだろうに……冷静っぽく見えるけど、焦っているのが分かる。
シャナル「まぁ、いつものことなのは見当がつく。生徒会の仕事ぐらい、真面目にするのだな」
楯無「じゃあ貴女が生徒会長してみる?」
シャナル「私は遠慮しておく。と言いたいが、手伝えることは何でもするつもりではいる」
この二人、なんだか仲が良さそうと言うかいいな……このシャナル先輩は何者なんだろうか?
ボクの視線に気付いたシャナル先輩と眼が合う。その蒼い瞳を見つめていると、全てを見抜かれそうで視線をはずした。
シャナル「どこかで見覚えがあると思ったが、いつぞやの新入生ではないかね? 水色の髪をした少女と一緒に居ただろう?」
澪「は、はい。よく覚えていますね」
シャナル「人を覚えるのは得意でね。もしかして君が楯無の専属メイド、とやらかな?」
澪「なぁ!? そこまで知っているなんて……お嬢様とはどういう関係なんですか!?」
あまり人前でメイドと呼ばれたくないのに……まぁいつかは見破られるのかもしれないけど、それでも公表してほしくないのがボクの本音だ。メイドが嫌とかそういう訳じゃないけど、なんか恥ずかしいんだよ。
楯無「彼女はアメリカの代表候補生で、アナハイム・エレクトロ二クス本社のテストパイロットでもあるの。澪ちゃんのご両親の親会社のテストパイロットになるわね」
シャナル「澪? そうか君が天羽澪君か。私はシャナル・アズナムだ。本社でも君の噂は常々聞いているよ」
澪「そう、だったんですか……失礼致しました!」
アナハイム・エレクトロ二クス(以下AE社)――ISの武装を中心に開発を進めている企業だ。アメリカに本社があって、第二号として1年と少し前に出来た日本支部がある。
ISが世界に出てきて1年程で進出してきた企業で、元々は電化製品を扱っている大手の企業だった。ISの存在が公になると、様々な場所から技術を取り込み元々高かった技術力を生かして、有名メーカーとなった。
IS本体ではなく、ISの装備品を主としているAE社はどちらかと言うと軍事目的の装備品を開発してあり、各国から様々な注文を受けて発注している。昔の名残として、家電製品も同時に販売しているが、あくまでもメインは装備品なので売れ筋はまぁまぁと言った所だ。
アメリカ本社は先ほど言った軍事目的の面が大きいが、ボクが属している日本支部は本社から少しの支援を受けながら独自の物を開発することを主としている。例えば、リ・ガズィに装備されている試作品のビームライフルは本社で開発したものを改良したものだし、リ・ガズィの変形機構だって、日本支部の考えたものだ。
頭を下げるボクをシャナル先輩は、ふんぞり返ることも、本社の人間と言うことを棚にも上げずに僕を諭してくる。
シャナル「頭を下げることは無い。確かに私は本社の人間であるが、その前に一人の女だ。そのような態度を取られると困ると言うか、疎外感を感じてしまうのだ。楽にしてもらいたいよ」
澪「……分かりました。それで、お嬢様とはどのようなご関係で?」
シャナル「そうだな、私のライバルといった所か。戦闘能力、人を惹きつける魅力、その他様々な事柄でも私は彼女をライバルとしている」
楯無「私はそんなつもりは無いけれど……でも仲良くしてくれる大切な友達よ?」
シャナル「面と向かって言われると、気恥ずかしいな……」
少しだけ顔を紅くしたシャナル先輩はわざとらしく咳き込んだ。クールなシャナル先輩は同時に恥ずかしがりやなのかもしれないけど、二人の仲は結構いいらしい。お嬢様に友達が増えるのは嬉しいけど、なぜだろうか、少しばかり嫉妬してしまう……。
シャナル「時に澪君。君のISを見せて貰いたいのだが、いいかな?」
澪「万全の状態じゃないですがそれでもいいなら……」
シャナル「構わんよ。それじゃ楯無、少しの間澪君を借りるぞ?」
楯無「私も行く――」
虚「会長はまだお仕事がありますよね?」
楯無「このぐらい明日でも……」
虚「あ り ま す よ ね?」
虚さんは怒涛の威圧でサボろうとするお嬢様を言い負かせた。でもこの二人はこれぐらいが丁度いいのだ。呆れる僕の横で一緒に見ているシャナル先輩は、なぜか羨ましそうに見ていたのは気になるけど。
またお願いね、と言う虚さんの言葉を聞いて生徒会室を後にした。
シャナル「君のご両親は日本支部の技術部長でもあると聞いたが、その娘でもある君の技術力もたいしたものだな」
澪「そんなことないですよ。この前だって万全でもないのに運任せで無理矢理な変形しちゃったし……」
整備室で、背部ブースター以外修理が終わったリ・ガズィと、まだ手の付けられていない損傷したままのBWSの鎮座した姿を、真剣な表情で見るシャナル先輩。
先輩自身は最低限の整備しか出来ないので、3年生の本社から着た優秀な技術者に任せているらしい。本当に急だったり困難な場合は、本社から技術者が来て一緒に整備とかしてくれると言う。日本支部は最低限の人員しか居ない為に、そんなことをする余裕がない。だからこうして損傷したリ・ガズィはボクが修理している。一ヶ月に一回は日本支部にデータを提出しに行かないといけないので、その時にでも修理すればいいのだが、ボク自身がそれが嫌でこうして自分でやっているのだ。それでも難しいと助けを請うときもあるけど……。
シャナル「変形機能を持ったISは日本支部での開発が世界初だろう。今までとは違う調整をしなければならないし、それを分かった上でこうして整備をしているのだから君はたいしたものだ」
澪「先輩は人を褒めるのが上手なんですね。純粋に嬉しいです」
シャナル「これでも軍では隊を率いる身でね、元気付けるのは慣れている」
澪「それって一種の才能じゃないですか……先輩のISはどんなものなんです?」
シャナル「今は、ラファール・リヴァイブを私用に調整したものを使っている。本来の私のISは本社で大規模な改修――いや、作り直していると言った方が正しいか」
どうやら、本社で新たな武装のテストをするのにそれを装備するのと同時に、IS自体を戦闘データを元に、先輩が使いやすいように一から作っているらしいのだ。
そこまでしてもらえる先輩の実力が相当のものだと判断できる。ボクもデータが集まれば、リ・ガズィを本格的な改修をしてもらえるんだろうか? ちょっとだけ楽しみだ。
AE社本社と日本支部にはISのコアが2つずつある。一つはボクや先輩のように実践的な戦闘データを収集する用に。もう一つは社内でのテスト用である。
しかし、本社のもう一つは先輩の一時的な専用機ということで、改修を行っている最中は自分用に調整を施したラファール・リヴァイブを使っているらしい。
見てみたいとお願いすると快く承諾してくれた。先輩は待機状態からラファールの装甲を鎮座させると、そこには真っ赤に染まったラファールがいた。うん、滅茶苦茶派手だ……。
澪「先輩ってこういう色が好きなんですか?」
シャナル「好き――というよりは、私にはこの色しかない! と感じて以来、私が使うISは赤に染めている。もちろん、例外もいるが」
澪「な、なるほど……」
色は置いといて、このラファール、見た目は量産品とほとんど変わらないように見えるが、よく見てみると装甲が薄く、各部に小型のスラスターを追加していた。どうやら機動性を上げているようだ。
基本データも見せてもらうと、装甲を極限まで薄くして運動性を限界まで引き上げているようだった。回避することを前提にしたかなりピーキーなISに仕上がっている。武装はアサルトライフル二丁とヒートソード二つだけだ。
シャナル「火力は乏しいが、機動性や運動能力、反応速度を上げている。私自身が火力より機動性を重視しているから、いつもこんな感じになるのだ」
澪「でもデータを見る限りじゃ、ISが過敏過ぎてこんなの並の人に扱えませんよ。それを扱う先輩って……」
ちょっと引いてしまうぐらいのレベルだ。ボクが扱うISも反応速度を重視しないといけないが、先輩のISはそれ以上だ。そして扱う先輩自身の実力も、ボクなんかよりずっと上だ……。
でもこの時ボクはこの先輩に勝たなきゃならない、なぜかそう思っていた。理由なんて自分でも分からないけど、自分の中の何かがそう囁いた気がした。
ちょっと強引な箇所もあるかもしれませんが、多めに見てもらえると助かります……