やはり喰種の俺が青春ラブコメをするのはまちがっている。 作:Daiki0426
部室から出た俺は適当に時間を潰すために自販機に向かっていた。
特別棟の三階から一階までは往復で十分もかかからない。あいつ等の話している時間にもよるがとりあえずに十分くらい時間を潰せばいいだろう。
おっと、そろそろ自販機の場所だな。昔、ボケーとしすぎて知らない場所まで歩いて、泣く破目になったことを思い出す。
――ん、どうやら先客がいるようだ。糞リア充共だと面倒なことになりそうなので取りあえず身を隠そうとする――が、隠れるまえに見つかってしまった。
「誰⁉ ……何だ比企谷か」
「俺で悪かったな」
こいつは川……川村? じゃなかった。えーっと川越? ……でもない。そうだ分かったぞ、川沙希だ! ……やっぱ違うな。もう川なんとかさんでいいや。
「いや、あんたで良かったよ。正直いって他の奴等だとめんどくさいしね」
そう言い川なんとかさんは自販機の近くの椅子に座った。
俺は取りあえず自販機で『マックスコーヒー(略してマッカン)』を買い、川なんとかさんと同じ椅子に座った。
「あんたよくそんなの飲めるよね」
「まあな。いつも飲んでいるから慣れてるし、それにもはや習慣みたいなものだからな」
正直いってマッカンは糞不味い。コーヒーの風味がなければ耐えきれないレベルだ。そもそもマッカン自体がコーヒーよりも練乳などの方が多い。
しかし、先ほど言ったように習慣みたいなもので、さすがに慣れた。それに……
――マッカンは母さんとの思い出だからな……。
「ところで、それでシスコンの塊みたいなあんたが家に帰らずに学校にいるの?」
「部活に入ったからだ」
「へー部活に入ったんだ。……てっ部活に入った⁉ 専業主婦志望のあんたが⁉」
川なんとかさんは驚愕といった表情をしている。確かに俺は昔、専業主婦とか言っていたが、今は大学を卒業して真面目な社畜になると決心をしたんだぞ! ……やっぱり専業主婦にしようかな。
「まあ、強制入部させられたんだよ、平塚に」
「ああ、平塚か。あの先生はかなりの自己中だからね。あんたも、あんなアラサー独身教師と一緒にいるなんて大変だね」
川なんとかさんはやれやれといった表情をしていた。どうやら川なんとかさんも独神の自己中心的な考えの被害者であるようだ。……あいつ、そのうち教育委員会に訴えられそうだな。
……そういえば、こいつ弟に相談事をされたのを思い出した。今は川なんとかさんも一人でいるみたいだから、今が聞くチャンスだ。そう思い俺は川なんとかさんに聞いてみることにした。
「そういや、大志の奴が心配していたぞ、お前が帰ってくるのが遅いって」
「っ⁉ あんたには関係ないでしょ!」
川なんとかさんは一瞬驚いたようだが、そのあとすぐに怒りの混じった表情し、椅子から立って俺にそう言った。
……どうやら川なんとかさんにとっては触れられたくないことだったらしい。まあ、当たり前か。家族にも話せないことを友達ですらない俺に話すわけがないか……。
「……悪かったよ。だがな大志もお前のことを心配して俺に相談してきたんだぞ。まあ、無理に話せとは言わないが、少しは頼ってやれよ」
「……」
川なんとかさんはしばらく無言のままその場に立っていた。
どうやらこいつの悩みはかなり重いようだ。だが、頼れる人に頼るのは悪いことではない。むしろ案外楽になったりする。まあ、こいつの悩みがどれほどのものか知らない俺が言ったところで、どうこうなるものでもないが。
とりあえず言いたいことは言ったし、俺もそろそろ部室に戻るとするか。
「じゃあな、川なんとかさん。お前も気を付けて帰れ――あっ」
「あんた……、もしかしてあたしの名前覚えていなの……?」
川なんとかさんは俺に向かって怒気をまとった視線を向ける。やばい、このままだと殺されるかもしれん……。そう思った俺は取りあえず思った名前を口にした。
「……い、いや、ちゃんと覚えているぞ。確か川村。いや川越だったか……。そうだ川沙――」
「川崎沙希だぁぁぁ‼」
「ぐふぇ⁉」
俺は川崎に拳を腹部に叩き込まれた。
……そうか、そうか、川崎……、川崎沙希か……。
川崎は帰るために歩き、俺はしばらくその場でもだえ苦しんだ。
******
「遅い」
部室に戻ってそうそう、雪ノ下にそう言われた。仕方がないだろ。格闘術が得意な川崎の拳をおもいっきりくらったんだから。
「悪いな。知り合いとばったり会って、長く喋りすぎた」
「あら、友達がいないあなたに喋る相手がいるの?」
……俺をここまで怒らせたのはこいつが初めてだ。そもそも友達がいないのに知り合いがいないという理論が分からない。大体、お前も友達いないのに同級生と喋ってるだろ。
「生憎、知り合いは結構いるんでね」
「嘘はいけないわよ、嘘吐き谷君。あなたは友達はおろか知り合いすらいない、一人ぼっちの哀れな人ということは分かっているのよ」
駄目だなこりゃ。確かめもせずに人を見下す奴だとは前々から思っていたが、俺に何度も言わにれても改善しようとしない。こいつは俺に『変わらない事はただの逃げよ』、とか言った癖に自分は変わろうとしていない。いや、そもそもこいつは自分を完璧と思っているんだ。完璧であるのなら変わる必要もないし、変わる必要もない。そう思いこんでいるからな。
まあ、雪ノ下の精神事情などどうでもいいから依頼内容を聞くか。
「ところで依頼内容は何なんだ?」
俺がそう聞くと由比ヶ浜は恥ずかしそうに言った。
「クッキー……。クッキーを焼くの」
……あまりにも簡単そうな依頼で逆に驚いた。クッキーは母親にでも聞けばいいし、それが無理なら友達に聞けばいい。最も俺みたいに母親がいないなら別だが、葉山グループに属している以上は友好関係は俺なんかの友好関係(友達一人)よりも遥かに多いだろう。
「そんなもん友達に聞けばいいだろ。わざわざここに来る必要なんて普通ないだろ」
「う……、そ、それはその……、あんまり知られたくないし、こういうことしてるの知られたら多分馬鹿にされるし……、こういうマジっぽい雰囲気、友達とは合わない、から」
「それって友達っていうのか?」
「そっそれは……」
由比ヶ浜は口籠ってしまった。本当の友達なら普通は笑わないし、むしろ親身になって一緒に手伝ってくれるだろう。それが本気ならなおさらだ。
由比ヶ浜のいう友達とは俺からすれば友達とはいわない。多分、良くて知り合い。悪ければ都合のいい奴といったところか。まあ、俺のことを友達という奴は義輝以外は俺を都合のいい奴と思っていたから、一応、間違っていないのかもしれないが……。
「友達がいないのに人の友達を馬鹿にするなんて最悪ね、ゴミ谷君」
此奴はどんな解釈をすればそんな結論に至るんだ? あと、俺には友達がいるから問題ない。
「そんな事よりもクッキーを作るんだろ。だったら家庭科室に行く必要があるだろ」
「それもそうね。あなたの意見に賛同するのはかなり嫌なのだけれど……」
……めんどくさいな此奴。というか俺の考えじゃなく俺の存在そのものが嫌いの間違いだろ。
「じゃあ、俺は役に立ちそうにないし、ここで読書でもしてるぞ」
「何言ってるの? あなたも手伝うにきまってるでしょ。断っても無駄よ。貴方に人権なんてないのだから」
俺の基本的人権を否定したぞ。確かに喰種の俺に人権なんてないが、それを知らないで言っている時点でこいつは平気で人を差別し、見下している人間だ。本当に哀れな奴だ(笑)。
「手伝うといっても俺に出来ることなんて何もないぞ?」
「あなたには味見をしてもらうわよ」
「ああ、分かった……、え」
嘘だろ。味見なんて喰種の俺が一番出来ないことだ。人間にとってはどんなに美味い物でも、俺にとってはすべて不味い物だ。これで出来た物の味と逆の意見を言えば俺が喰種であることがばれる恐れがある。
……こうなったらもうやけだ! 一か八かやってみるか。
******
家庭科室に着いた俺達はそれぞれ準備に取り掛かった。雪ノ下は必要な食品や器具を用意し、由比ヶ浜はエプロンを着ようと頑張っている。……ん、俺、俺は特にすることがないから椅子に座っている。
……にしても、由比ヶ浜はエプロンを着るだけにやけに時間が掛かっている。雪ノ下は我慢の限界に達したようで由比ヶ浜を手伝いはじめた。
「曲がっているわ。あなた、エプロンもまともに着れないの?」
「ごめん、ありがとう。……えっ⁉ エプロンくらい着れるよっ⁉」
「そ、ならちゃんと着なさい。適当なことをしているとあの男のようにとりかえしがつかないことになるわよ」
「人をしつけの道具に使うな。なまはげじゃあるまいし」
「初めて人の役に立てたのだからもっと喜びなさいよ」
「生憎赤の他人の役に立ったところで喜ぶほど自己犠牲精神があるわけじゃないんでな」
俺は自己満足のための自己犠牲はするがさすがにそれに喜びは感じない。まあ、自己犠牲なんてものは基本的にろくでもないことだ。もし、俺が自分を犠牲にしてまで何かを成そうとしたときは、おそらく家族と義輝の為であろう。
「まだ着ていないの? それともやっぱり着られないの? ……はぁ、結んであげるからこっちに来なさい」
「なんか……雪ノ下さん、お姉ちゃんみたいだね」
「私の妹がこんなに出来が悪いわけがないけれどね」
そして人格破綻者だろうな(笑)。
そういやこいつの姉もかなりのキチガイだった。笑いながらクインケを振るって喰種を次々に倒していくさまは軽くホラーだった……。
「あ、あのさ、ヒッキー……」
「なんだ?」
「か、家庭的な女の子って、どう思う?」
家庭的な女の子か……。俺としては働く予定だから家の家事や洗濯をしてくれる人がいると楽だろう。
「好きというわけではないが悪くはない」
「そ、そっか……」
由比ヶ浜は何やら嬉しそうな表情をした。何がともあれやる気をだしてくれることに越したことはないがそれが空回りしなければいいが……。
******
俺の嫌な予感は的中した。それも最低最悪ともいえるくらいだ。
由比ヶ浜は料理を作る才能がないというよりも欠落しているといった方がいいだろう。少なくともクッキーを食べられるくらいはレシピに沿って作れば簡単にできる。だが由比ヶ浜は初歩的な失敗を繰りかえし続け、挙句の果てには塩やコーヒー豆の粉などレシピに載っていない物を大量にいれた。これにはあの雪ノ下も青ざめていた。
出来あがったクッキーはとてもじゃないが木炭と言っても信じられるレベルの物だった。
結論を言おう……。
「これって味見ってより毒見だよな……」
「どこが毒よ!……毒、うーんやっぱ毒かなぁ?」
「俺はこんなジョイフル本田で売ってる木炭みたいなクッキーを食わなきゃならんのだ」
「心配いらないわ。別にあなたが死んだところで誰も悲しまないのだから」
失礼な。俺の家族(親父は除く)、少なくとも小町は悲しんでくれるはずだ。……多分。
「まあまあ、食べられない物はいれてないから食べられると思うよ」
その根拠はどこから出てくるんだ? あとコーヒー以外は全部食べられない物だ。
「ね、ねぇヒッキーあーんして」
由比ヶ浜は恥じらいながら俺にクッキーを食べさせようとする。普通ならこの光景は彼女がいない奴がリア充爆発しろと叫びたくなるだろう。しかし俺からすれば悪魔がヘドロの塊を俺の口にいれようとする最悪な光景だ。
俺は後ずさりをしてなんとか回避しようとしたが遂に背中に壁が触れた。
「もう逃げられないよヒッキー」
「よ、よせやめろ由比ヶ、ぐっ⁉」
遂に俺はクッキーを口の中に押し込まれた。
……なんだこの味はゴムや嘔吐物を食べている感じだ。次第に俺の意識はもうろうとしてきた。小町……もうだめかもしれん……。最後に見た光景は心配する由比ヶ浜と俺をあざ笑う雪ノ下。
俺は意識を手放した。
未だに漢字とひらがなの使い分けが分からない(汗)。
取りあえずあと一話終わったら職種関連の話をしたいと思います。
これからもよろしくお願いします。