いろはす短編   作:ちゃんぽんハット

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今回初めて雪ノ下と由比ヶ浜を出してみました。

会話が盛り上がって書いててとてもたのしいです!

それではどうぞ!


いろはす虫歯になるの巻 前編

「しつれーしまーす!」

 

ある日の放課後、奉仕部の扉がガラリと開けられ一色がパタパタとやって来た。

 

「やっはろーいろはちゃん!」

 

「こんにちは一色さん」

 

「……よう」

 

「やっはろーです結衣先輩、雪ノ下先輩!ついでに先輩も!」

 

いつも通りの挨拶を交わすと、勝手知ったる体で教室の後方から椅子を引っ張り出し、ごく当たり前のように俺の隣に座る。

 

「……だからなんで俺の隣に来るんだよ」

 

「えー、そんなのー、先輩がお二人に変なことをしないか見張るために決まってるじゃないですかー」

 

「あら一色さん頼もしいのね。でもそんなことしなくても大丈夫よ?いざというときはボタン三つ押せば済むことなのだから」

 

「なにさらっと警察呼ぼうとしてんの?そんなことするわけねえだろ。……おい由比ヶ浜ボタンを三つ押そうとするな。ついでにそれは時報の番号だ」

 

ふぇ?と言って画面を確認する由比ヶ浜。

いや、なんで怪訝そうな顔してんだよ。

あほの子過ぎるだろ。

 

「もー先輩ったら、こんな可愛い子が隣に座ってくれるなんて今後一生訪れないんですから、素直に喜べばいいのにー」

 

きゃるん☆とあざとくウインクをする一色。

ざ~んねんでした~!お金払えばいくらでも女の子隣に座ってくれますう~!……今のは絶対声に出してはいけない、うん。そもそもそういうお店に行く気は全くないけどな。

 

溜め息を一つ吐き、何を言っても仕方がないと諦めて読書へと戻る。

 

最近の奉仕部はいつもこんな感じだ。

一色の遊びに来る頻度もほぼ毎日と言っていいくらいに増え、すっかりここにいるのが当然のようになってきつつある。

てかお前生徒会の方は大丈夫なの?

ちゃんと仕事してんだろうな?

 

「一色さん、紅茶はいるかしら?」

 

「あ、いただきます!」

 

「いろはちゃん今日はね、美味しいクッキーもあるんだよ!」

 

「ほんとですかー!嬉しいですー!……ちなみに結衣先輩が作ったのじゃないですよね?」

 

「違うけど、なんで?」

 

「いえいえー、なんとなく聞いてみただけですー!」

 

「ふーんそっか。あのねあのね、今日のクッキーはー、ゆきのんの手作りクッキーなんだよー!」

 

「わーい!雪ノ下先輩のなら美味しいこと間違いなしですね!」

 

「……別に大したものではないわ。あまり期待しないでちょうだい」

 

「あ~雪ノ下先輩ってば照れてるんですか?」

 

「照れてるゆきのんもかわいいー!」

 

「…ちょっと由比ヶ浜さん抱き着かないでくれるかしら。紅茶が入れずらいのだけれど」

 

きゃっきゃうふふと目の前で繰り広げられるゆるゆりに、八幡の心はぴょんぴょんした。

仲良きことは美しきことかな。

まあ、一色がさりげなく自分の安全を確保してる抜け目のなさには感心したけどな。

てか由比ヶ浜も少しは気付けよ。

それからゆきのん、お顔真っ赤だけど大丈夫なのん?

あ、目が合ったのん。ものっすごく睨まれたのん。やだ怖いのん。

 

「それじゃあこのクッキー、いただいてもいいですか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

そう言って差し出された包みの中からひょいとつまみ上げると、いただきますと言ってパクりとクッキーを食べる。

 

「もぐもぐもぐ……うーん!おいひいです!」

 

「食べながら喋らないの。でもよかったわ、気に入ってもらえたみたいで」

 

「とっても気に入っちゃいました!これなら何枚だって食べられちゃいます!」

 

再び包みに手を伸ばして次のクッキーをつまみ上げる。

由比ヶ浜も「ほんと止まんなくなっちゃうよねー」とか言いながら一緒にクッキーを食べていた。

あれ、お前さっき一袋食べてなかった?

 

まあ雪ノ下の作ってきたクッキーは本当に美味いから、その気持ちはよくわかる。

え、俺もクッキー貰ったのかって?

バカお前そこんとこはイマジネーションだよ。

 

なおもポリポリとクッキーを食べ続ける一色と由比ヶ浜。

二人の食べ方は小動物のようでとても可愛らしいなあ。

そんな呑気なことを考えていると……

 

「いやーもうほんとおいしいでげぐぅぉっ!!」

 

突然、一色が変な声をあげた。

 

……今の声、一色が出したのか?

聞いたことない声だったぞ。

 

不思議に思ったのはどうやら俺だけではないらしく、雪ノ下が尋ねた。

 

「一色さん…今の声は……」

 

「へっ!?い、いやーなんでもないですよ!何か聞こえましたか!?」

 

「いえその、とても言いづらいのだけれど……」

 

「カエルみたいな声だった!」

 

おいそこのあほの子!なんでそんな直接的な表現使っちゃうの!?悪魔なのか?悪魔なんだなこのメロン悪魔!

 

「あぐぅ……カエル、ですか……」

 

ほーらー、一色さんあからさまにへこんじゃってるじゃねえか。

わかる、わかるぞ一色!辛いよな、カエルみたいな声だなんて言われるの。俺も経験あるからよくわかる。

俺の場合は存在そのものがカエルらしいんだけどな。

 

「おい一色、お前どうかしたのか?」

 

「……いえ、あの……別に大したことでは……」

 

「一色さん、何か悩みがあるのかしら?よかったら聞かせてくれない?きっと力になれるわ」

 

「なんてったって私たちは奉仕部だからね!」

 

回りからの心配に耐えきれなくなったのか、一色はゆっくりと口を開いた。

 

「…………実はわたし、その、む……ぁなんです」

 

「え?何だって?」

 

「……しば」

 

「柴犬?」

 

「だから!む、し、ば、なんですぅーーひぎぃっ!?」

 

「「「………………え?」」」

 

どうやら一色は虫歯になったみたいだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「なんだただの虫歯かよ」

 

「あー、先輩虫歯のことバカにしてますね!虫歯ってすっっっごく痛いんですよ!」

 

「いやそれは知ってるけども」

 

ぷんぷんと頬を膨らませ…………ることなく、一色は俺を睨み付けてくる。

虫歯のせいで頬を膨らませることが出来ないようだ。

おかげであざとさ半減である。(当社比)

ついでに声も心なしか抑えめだ。

さっき叫んだ時に痛かったのだろう。

 

「とりあえず、さっさと歯医者に行って治してこい」

 

「ええ、それが一番いい方法だわ」

 

「今からでも行った方がいいよ!」

 

しかし一色は俺達の提案に首を縦に降らず、黙って俯いている。

 

おや、これはもしかして……

 

「まさかお前、歯医者怖いのか?」

 

ピクリと一色の体が反応する。

ゆっくりと顔をあげると、若干瞳を潤ませて下から俺を睨んできた。

 

「……だって、歯医者さんって、痛いじゃないですか」

 

「そりゃまあ仕方ねえだろ。歯を削るわけだしな」

 

「せ、先輩!そんな怖いこと言わないでくだひきゅ!?」

 

またもや声が歯に響いたらしい。

ちなみに、もう先程のようなひどい声をあげてはいない。

むしろちょっと可愛いまである。

さっすがあざとさに定評のある一色さん、無意識に襲いかかる痛みまでもあざとさに変換できるなんてさすがっす!

 

「こればかりはどうしようもないわ。少し我慢して、早めに治療するべきよ」

 

「だとよ」

 

「うぅぅ、いやですぅ、行きたくないですぅぅ」

 

駄々っ子のようにイヤイヤと首をふる一色。

このままでは泣き出すのではというくらい、目に涙を溜めている。

どんだけ歯医者いやなんだよ。

 

「うーん……じゃあさ、私達で何か虫歯を治す方法を考えようよ!」

 

「本当ですか結衣先輩!」

 

「まっかせてー!奉仕部に不可能はないんだから!」

 

えっへんと胸を張って得意気に宣言する由比ヶ浜。

お前そんな無責任なこと言って、どうなってもしらねえぞ。

あとその無責任な胸も早く引っ込めて下さい目のやり場に困りまする。

 

「そう言うからには、何か考えがあるのかしら由比ヶ浜さん?」

 

「ふふーん、実はね、紅茶が虫歯には効果的ってこの前雑誌でみたんだあ!」

 

由比ヶ浜が言ったのは、意外と一般的なものだった。

確かにそれは俺も聞いたことがある。

 

ただ、それは予防にいいとかではなかっただろうか?

そもそも効いたとして即効性があるのか?

 

しかし歯医者には何としても行きたくない一色は、由比ヶ浜の言葉に目をキラキラと輝かせて食いついてきた。

 

「やりましょう、今すぐやりましょう!紅茶を茶々っと飲んじゃいましょう!」

 

あれ?今のダジャレ?それ言い出すとかいろはすどんだけ焦ってんだよ。必死すぎだろ。

雪ノ下もあまり納得はいっていないようだったが、とりあえず由比ヶ浜の案に乗ることにした。

そこでふと、あることに気がつく。

 

「そういえば、まだ一色に紅茶出してなかったな」

 

「ごめんなさい、すっかり忘れていたわ。今新しいのを用意するから」

 

そう言ってお湯を沸かしにと立ち上がろうとする雪ノ下。

しかしそれを、一色は左手で制した。

 

「いーえ、雪ノ下先輩それには及びません。私の紅茶はここにちゃんとありますから」

 

見ると右手にはすでに紅茶の入ったカップが握られている。……てかそれ俺のじゃねえか。

 

「なに人の取ってんだよ」

 

「先輩!今は一刻をあらそふぃ!?……一刻を争うんです。この際先輩のだろうと我慢して飲みますよ」

 

再び歯が痛かったのだろう、声のトーンを下げて冷静にそう告げる一色。

 

「一色さん、別に比企谷君のを飲む必要はないのよ?新しいのはすぐに出来るのだから。それに今度は虫歯菌ではなく、比企谷菌があなたを苦しめるわよ?」

 

「そーだよいろはちゃん!比企谷菌は虫歯よりずっとずーっと辛いんだよ?」

 

「おいそれどういうことだ。え、比企谷菌って虫歯より強いの。ヤバすぎだろそれ」

 

「先輩方、お気持ちは嬉しいですが私にはこうするしかないんです。大丈夫、比企谷菌にも打ち勝ってみせます!」

 

「そろそろ俺泣いちゃうぞ」

 

謎のシリアス?展開に完全置いてけぼりな俺。 本当、皆揃って俺のトラウマえぐるのやめてくんない?

 

一色は一度カップに目を落とし、コクりと喉を小さく鳴らす。

俺の紅茶はそんなに覚悟がいるのか。

なんかごめんね。

 

意を決してぐいっと一気に紅茶を飲み干す。

 

そこで俺は一つ重要なことを思い出した。

あ、これアカンやつや。

 

「○△☆□※★◆▽○※★□○△◇!!!」

 

声にならない悲鳴が部室にこだまする。

そして一色は、力尽きた様にガクリと机に倒れこんだ。

 

 

 

「…………そういえば比企谷君、あなたお砂糖はいくつ入れたのかしら?」

 

「……そんな入れてないぞ。今日はたったの……八個しかいれてない」

 

「い、いろはちゃあーーーんんん!!!」

 

 

 

 

 

………………はっちゃん、やっちゃったあ☆

 

 




後編もできるだけ早くあげたいと思います!

後編は虫歯のいろはすにあんなことやこんなことを……
するかもですししないかもです。

ところで紅茶は本当に虫歯に効くのでしょうか?
それと声って虫歯にひびくんですかね?

私は虫歯になったことがないものでわかりません!

それでは今日はこの辺で。

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