いろはす短編   作:ちゃんぽんハット

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お久しぶりです!

すみません、不定期で。

元々書くのが遅いのですが、もうひとつ書いてる方に集中してまし……

今後も不定期ですが、気が向いた時にふらっと読んで言って下さい。

今回は全く別世界のいろはすと八幡です!

それではどうぞ。


ヤンキー少女いろはちゃん!

「てめーちょっと待ちやがれ」

 

「…………」

 

「おい無視すんなよ!」

 

「…………」

 

「おいそこの腐り目野郎!」

 

「……あ、俺ですか?」

 

「そうだよてめーだよ、ああん?」

 

午後の授業が終わり音速で教室を後にした俺は、愛する妹の待つマイホームへと帰るべく、自転車置き場へとやって来ていた。

すると突然ヤンキー少女に絡まれてしまったのだ。

やだなにこれ超めんどくさそう。

 

がに股でこちらへと歩いてくる少女は、膝下まで長く伸ばしたスカートのポケットに手を突っ込みながら、ガム風船をぷくーと膨らましている。

 

一見こてこての昭和ヤンキーかと思ったのだが、顔はとても整っており化粧は大してしておらず、髪も地毛らしき亜麻色のさらさらとした毛で、容姿だけならどちらかというと優等生のようにも見えた。

なんなら生徒会長とかしていそうである。

 

恐る恐る彼女に話しかけてみる。

 

「あのー」

 

「ああん?」

 

「何かようですか?」

 

「用があるから呼んだにきまってるだろ?頭おかしいのか?ああん?」

 

「あははー、ですよねー」

 

敬語で答えて柄にもなく愛想笑いもしてしまう。

だって何かこの子すごく怖いんだもーん!

ガン飛ばしてくんのが怖いとかじゃなくて、下手なこと言ったら何しでかすかわからない怖さ。

俺のぼっちセンサーがビンビンに反応してる。

ものすごく帰りたい。

 

「それでーあのー、ご用件とは?」

 

「ああそうそう、あんたさ、金持ってる?」

 

あちゃーカツ上げかー。

何この子すごい典型的なヤンキーじゃないの。

 

まあだがこれは好都合。

学校帰りに友達と遊ぶことのない俺は、普段から昼飯代くらいしか持ち合わせていないのだ!

しかもそれは今日の昼に使いきっている。

無いものを渡すことはできない。

どうだ参ったか!!

……別に悲しくなんかないぞ?

 

「悪いけどお金持ってないんですよね」

 

「嘘つくんじゃねえぞ、ごらぁ?」

 

「いや本当にまじで。勘弁して下さい」

 

「ほーん。じゃあちょっとジャンプして見ろよ」

 

わーおなんとこれまた古典的な。

今時飛んでみろとか言うヤンキーいんのかよ。

 

軽く笑いそうになるのを堪えながらも、指示された通りに数回ジャンプをする。

しかし当然小銭の鳴る音はしなかった。

 

「ほら、ね?」

 

「っち。しょうもねーやつ」

 

わざとらしく舌打ちをし、俺を小馬鹿にしてくるヤンキー少女。

おお?今のは少しイラッとしましたぞ?んん?

 

しかし面倒なことはできるだけ避けたいので、怒りをなんとか飲み込む。

さあ、早く帰りましょったら帰りましょ!

 

「それじゃあ俺はこれで……」

 

「あんた昼飯は?」

 

「…………は?」

 

「昼飯はどうしてんのかって聞いてるんだよ!」

 

「……購買でパン買ってますけど?」

 

「金持ってないくせに?」

 

「いや、パン買う金だけ持ってきてます」

 

「何個?」

 

「……へ?」

 

「何個買ってんのかって聞いてんの!」

 

「……一個だけど」

 

「いっこぉ!?育ち盛りの男子高校生が昼飯にパン一個とか信じらんねえ!」

 

「……少食なんで」

 

「少食でもあんまし少なすぎんだろ。てか栄養偏っちゃうし」

 

「はあ、まあ」

 

「……ったくしゃあねえな。明日からあたしが作ってやるよ」

 

「………………ふぁ?」

 

「んじゃ明日の昼休みに屋上で、しくよろー」

 

そう言って去って行くヤンキー少女。

 

 

 

 

…………いやちょっと待て。

え、なにこれ、どゆこと?

話が急展開すぎて全く着いていけないんだけど。

カツ上げかと思ったら弁当の約束?

ちょっと初体験過ぎて理解しかねますね。

誰かー説明してー…………

 

かくして、比企谷八幡はヤンキー少女に弁当を作って貰えることになった。

 

うっそなにこれ訳ワカメ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

次の日の昼休み。

俺は約束通り屋上にやって来ていた。

ぶっちしたら何をされるか分からなかったから仕方なくである。

別に期待してたからとかでは断じてない。

ほ、本当だからね?

 

扉を開けて外に出ると、屋上のど真ん中で素振りをしている人がいた。

ちなみに竹刀でである。

ちなみにちなみにその人物は昨日のヤンキー少女でである。

 

…………どういう状況?

お弁当食べに来たら竹刀で素振りって……これ殺られちゃうのかしらん?

 

呆然と立ち尽くしている俺に気付いたのか、ヤンキー少女は素振りを止めてこちらに歩いてきた。

 

「よう、よく来たな」

 

「はあ、どうも」

 

「にしても遅かったじゃねえか。待ちくたびれたぞ」

 

「いや、まあ、ちょっとあれがあれで」

 

「なんだよあれがあれって?」

 

「いや、まあ、すみません」

 

「何で謝んだよ……まあいいや、早く飯にしようぜ」

 

「あのー……一つ聞いてもいいですか?」

 

「あんだよ?」

 

「そのー……どうして竹刀持ってるのかなーって」

 

「ああこれか。あんたが来るまで暇だったからさ、ちょいと鍛練をね」

 

「たんれん?」

 

「そそ。んなことより、さっさと昼飯食おうぜ」

 

「あ、はい」

 

そんな会話をした俺たちは昼ご飯を食べるべく、適当な場所に座るのだった。

 

てか鍛練って……

なにあの子、何かと闘ってるわけ?

ヤンキー少女は実はプリティーでキュアキュアな皆のヒーローなのか?

なにそれ凄いギャップ萌えなんだけど。

毎週日曜朝八時半からテレビの前に正座しなくっちゃ!

絶対違うがな。

 

「ほら、あんたの弁当」

 

「あ、ども」

 

手渡されたのは大きめの二段弁当で、手にずしりとした重さが伝わった。

 

うわー、これかなりの量あるぞ。

食いきれるかな……

いや、貰っておいて文句は言えん。

とりあえず開けてみよう。

 

まずは恐る恐る上の段の蓋を開けてみる。

するとそこには卵焼きやウインナーをはじめとした、弁当の定番オカズが綺麗に盛り付けられていた。

種類も豊富でどれも旨そうである。

 

「おお、すげえなこれ」

 

「ふふーん、そうだろそうだろ♪」

 

得意気に小鼻を含ませるヤンキー少女。

素直に誉められたのが嬉しかったのか、少し頬が赤かった。

 

意外にこういう反応は年相応で可愛いなと思いながら、今度は下の段の蓋を開けてみた。

 

「おお!これまた綺麗だな」

 

中に入っていたのは、お握りだった。

それはただの塩お握りではなく、ワカメや梅やおかかが混ぜ込まれていてとても鮮やかだった。

とても目の前の、見るからにガサツそうなヤンキー少女が作ったとは思えない弁当だった。

 

「お、おい!早く食えよ!」

 

あまりの見事さに見とれていると、恥ずかしかったのか急かされた。

さっきからこいつ、反応が可愛いな。

 

まあ俺も腹が減ったので、箸を持っていただきますと言って食べ始める。

 

まずは俺の好物の唐揚げから。

 

モグモグ……

 

「んんんんん!!!」

 

「ど、どうした!?何かマズッたか!?」

 

「うまい!」

 

「…………へ?」

 

「この唐揚げメチャメチャうめえ!!今まで食ったやつの中で一番うまい!!」

 

あまりのうまさに、らしくない大きなリアクションをとる。

いや本当にうますぎる。

見た目だけじゃなく味も最高だ。

日頃パンばっか食ってるから、昼にこんなうまいもんが食えるなんて感動的すぎる!

 

ちらっとヤンキー少女を見ると、ポカーンと口を開けて間抜けな顔をしていたが、すぐにハッとして顔を真っ赤にした。

 

「ああ、あ、あ、当たり前だろ!あたしが作ったんだから!てゆーか、うまいならあんな変なリアクションすんなっつーの!!」

 

グーで肩を殴ってくる。

って痛ああ!!!!

こいつマジで殴ってきやがった。

予想よりずっと力強いぞ。

さすがにプリキュアなだけのことはあるな。

え、違いましたっけ?

 

肩の痛みはひとまず無視して、俺は残りの弁当にがっついた。

ウインナーもお握りもハンバーグもサラダも、どれもかれもがメチャメチャ美味しかった。

 

そしてあっというに間にたいらげる。

ぷはあー、食った食った。

初めは食えないとか思ったが、こんだけうまけりゃいくらでも食えるな。

八幡大満足なりよ!

 

「あんたすっごい食べっぷりだったな」

 

「いやー、本当に美味しかったです。ごちそうさまでした」

 

「そ、そうか、うまかったか……///」

 

顔をニヘラっとして嬉しそうにするヤンキー少女。

てかこいつ、本当に可愛いな。

ギャップ萌えってやつか。

ヤンキーのくせに料理上手で笑うと可愛くてプリキュアとか、確かにすごいギャップだ。

 

ふとそこで気になっていたことを思い出す。

 

「あのー……」

 

「なんだ?」

 

「俺は、お返しに何をすればいいんですかね?」

 

そうなのだ。

昨日突然言われて完全に忘れていたのだが、弁当のお返しを何も聞いていなかったのだ。

当然ただ飯という訳がない。

金だろうか?それともサンドバッグかしら?

まあ靴なめるくらいならすぐにでもやれるぞ?

 

しかし、彼女は不思議そうな顔をしていた。

 

「おかえし?」

 

「ええ、お返しです」

 

「うーん…………何も考えてなかったな」

 

「……………………へ?」

 

腕を組んでうんうん唸っている。

こいつ、もしかして何も考えてなかったのか?

本当に俺のことを心配してなのか?

だったらいいやつすぎるだろ。

 

まさかとは思ったがどうやらそれは本当だったみたいだ。

 

「別に欲しいもんねーし、何もいらねえわ」

 

「いや、そういうわけには」

 

「でもなー、本当に何もねえし」

 

「じゃあお金払いましょうか?」

 

「いいよそんなの、自分のやつのついでだし」

 

「でも……」

 

「あーもうしつけいな!!あんまし言ってると殴るぞ!」

 

そう言って殴ってくるヤンキー少女。

ってもう殴ってるじゃないのあなた。

しかもまたまた超痛いし。

 

今度は耐えきれず痛みに悶える。

 

すると唐突に、あっという声が聞こえた。

 

「じゃ、じゃあさ……その…………敬語、やめてくんね?」

 

「…………へ?そ、そんなんでいいんですか?」

 

「うん……てかそもそもあんたのが年上だし……」

 

「…………は?もしかして、1年生?」

 

「はあ?気づいてなかったのかよ。リボンの色見りゃわかんだろ」

 

軽くイラついたように自分のリボンを指差しながら言ってくる。

本当だ。

確かによくよく見てみると、それは1年生のものだった。

 

「てことはなんだ?俺はずっと年下に敬語使ってたのか?てかお前は敬語使わねえのかよ?」

 

「あたしはいーんだよ。つーか何でおめえみたいなのに敬語使う必要があんだよ?ああん?」

 

おお?ちょっとイラッときましたぞ?

これは日本の縦社会というものを教えてあげるべきですかな?

 

年下だとわかった途端に余裕が出てくる俺ってなんて素敵!!

まあ弁当を貰った訳だし勘弁してやろう。

 

「まあそれはわかった、言う通りにする。だけど本当にそんなのでいいのか?金はないが出来るだけのことはするぞ?」

 

等価交換はいいが施しは受けない。

それが俺の信条だ。

これで何も言って来なかったら、無理にでも靴をなめよう。

べ、別にやりたくてやるわけじゃないんだからね!

 

俺がいつでも靴をなめられるように準備していると、彼女は顔を赤くして小さな声で何かを呟いた。

 

「そんじゃよ…………な……え……」

 

「え、なんだって?」

 

「…………なま…ぇ」

 

「え、なんだって?」

 

「だ、か、ら!!名前を呼べっつったの!!」

 

「は、はひ!?」

 

耳元で怒鳴られてビビりまくる。

そ、そんな急に怒鳴らないで!

赤ちゃんが起きちゃうじゃないの!

てか……

 

「名前、呼べばいいのか?」

 

「…………うん……///」

 

「本当にそんなのでいいんだな?」

 

「いいって言ってだろ!早くしろよ!」

 

「わ、わかったよ」

 

何で突然そんな事を言い出すのかは分からなかったが、名前を呼ぶだけなら楽勝だ。

サクッと終わらせよう。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………お、おい、早くしろよ」

 

「……いや、その、なんだ……」

 

「な、なんだよ……もしかして、て、照れてんのか?男のくせにだらしねーな!」

 

「……えと、そうじゃなくてだな……」

 

「じゃあなんだよ!あんまし焦らすなよな!」

 

「…………俺、お前の名前知らないや」

 

「……………………は?」

 

「いや、昨日会ったばっかだし……名乗られた記憶もないし……」

 

「……………………ッッッ///」

 

ボンっと、ヤンキー少女の顔が爆発する。

顔がリンゴのように真っ赤になった。

 

「……えと、なんか、すまん……」

 

「………………いろは」

 

「え、なんだって?」

 

「一色いろは!あたしの名前!!」

 

「は、はひ!?」

 

だから急に怒鳴らないでって!

赤ちゃんが……いやそれはもういいか。

なるほど、一色いろはね了解した。

 

「それじゃ……呼ぶぞ?」

 

「…………うん///」

 

「…………一色」

 

「…………………………は?」

 

「え、一色って呼んだけど……聞こえなかったか?」

 

名前を呼べと言われたから呼んだのだが……はて、何かおかしかっただろうか?

 

彼女を見ると、今までに見たことがないくらいにポカーンとしていた。

それはもう、今なら口のなかにリンゴ丸々1個入りそうなくらい。

 

次第に俯いて、体をぷるぷると震わせるヤンキー少女。

 

「お、おい、大丈夫か?どこか痛いのか?」

 

「…………こ……じん……う」

 

「え、なんだって?」

 

「……この……けい……う」

 

「え、なんだって?」

 

「この!難聴系主人公がぁぁぁぁ!!!」

 

渾身のストレートが鳩尾にクリーンヒットする。

ぐおほぉぉぉぉ!?!?

なん、て、いりょく、だ……

あやばい、食べたもの全部吐きそう。

 

痛みと吐き気に襲われて、のたうち回る俺。

 

その力……君なら、世界を救えるよ。

君こそ真のプリキュアだ。

ちなみに俺は難聴系主人公ではけしてない。

そんなの小鷹さんとかに任せとけ。

 

「もういいです!あたし帰ります!」

 

勢いよく立ち上がると、弁当箱を持ってすたすたと歩き出してしまう。

 

「ちょ、おおい!待てって!」

 

「ふん!」

 

「おい一色!一色って!……ああ、もう!おい、いろは!!」

 

「……!!……なん、ですか、先輩?……///」

 

「いろはお前……」

 

「…………///」

 

「竹刀忘れてるぞ!」

 

「……………………ふぇ?」

 

「し、な、い!忘れてるぞ!」

 

女子の忘れ物に気付いてあげる俺マジ紳士!

これであいつも機嫌を治して……

 

「先輩のヴァァァァァカァォァァァ!!」

 

……くれなかった。

さっきよりだいぶキレてらっしゃる!

てかさっきからなんかキャラ変わってない?

ヤンキーどこいった?

 

「何なんですか、この先輩!!さんざん人の心もて遊んで!!」

 

「いや別にもて遊んでなんか……」

 

「うるさいです言い訳しないでくださいてか呼吸しないでください比企谷菌が感染しちゃいますお願いですから黙ってそのまま一ミリも動かないで下さい」

 

「お、おーい、いろは?なんかキャラ変わってるぞ?てか何で俺の名前知ってるの?」

 

「やめて下さい気軽に名前で呼ばないで下さい寒気がしますあやっぱり止めないで下さい何だかんだ嬉しいのでだからっていい気にならないで下さいまだ彼氏とかはちょっと早いんでそこは少しずつでお願いしますごめんなさい」

 

「…………」

 

「という訳で私はこれで失礼します」

 

「あ、おいって!」

 

「しつこいですね、なんですか?」

 

「竹刀忘れてるって……」

 

「明日のお昼にここに持って来て下さい。では」

 

今度こそ完全にいなくなってしまうヤンキー少女、もとい一色いろは。

いや、もう最後とかヤンキーの欠片もなかったんだけど。

…………なにこれどういうこと?

 

昨日といい今日といい、完全においてけぼりになってしまった。

まあとりあえず、明日の昼もここに来ればいいみたいだ。

ったくめんどくせえ。

けどまあ、自分で蒔いた種だししゃあねえか。

…………明日も弁当作ってくるかな?

 

よっこらしょっと痛む腹を押さえながら立ち上がる。

そして、鍛練に使っているという割りには新品の竹刀を手に、俺も屋上を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が屋上を出ていく少し前、階段を降りながら「……まあ何はともあれ、これで先輩に近づけた…………明日のお弁当もがんばろ…………///」と呟く一色いろはがいたのだった。

 

彼女が本当にヤンキーだったのか、はたまた演技だったのか、そもそもなんのためにあんなことをしたのか、それは分からない。

 

ただまあ、この世界の一色いろはは、少しだけ不器用だったらしい。

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございました。

やっぱりいろはは本当に可愛くて、書いてて楽しいです。

今後も息抜き感覚で書いていきますが、お付き合い願います。

それでは今日はこの辺で。

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