銀の狐と幻想の少女たち   作:雨宮雪色

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東方地霊殿 ⑬ 「変わる想い、変わらない想い」

 

 

 

 

 

 その後月見は、しばらくの間まるで目を覚まさなかった――

 ――ということはまったくなく、次の日の朝には普通に目を覚ましてそのへんを徘徊していた。目を覚ましたばかりの怪我人相手に『徘徊』はひどいんじゃないかと思われるかもしれないが、事実そうだったのだから仕方がない。

 具体的には、以下のような有様だった。

 

「お姉ちゃん……月見、大丈夫だよね。絶対、目を覚ましてくれるよね……?」

「……ええ、大丈夫よ。絶対に」

 

 地霊殿の一室で眠る月見の容態を確認するため、さとりがこいしと一緒に廊下を歩いていた折。

 

「おや。おはようさとり、こいし」

「あ、おはようございます、月見さん」

「おはよーっ」

 

 途中で月見とすれ違い、挨拶をして、

 

「……月見さんのことだもの。さっきの月見さんみたいに、きっとすぐ元気になってくれるわ」

「そうだよね、さっきの月見みたいに――待って待って待って」

「月見さん!?」「月見!?」

「ん?」

 

 いや「ん?」じゃない、

 

「ちょっと待ってください本当に月見さん!? い、いつの間に目を覚まして!?」

「ついさっき」

「なにやってるんですかあなたは!?」

「散歩」

「散歩!?」

「普通に歩いてたから普通にすれ違っちゃったんだけど!? 完全に私たちの無意識に入り込んでたよ!?」

「すごく真剣な顔で歩いてたからじゃないかい」

「月見さんの様子を見に行こうとしてたんです!!」「月見の様子を見に行こうとしてたの!!」

「そ、そうか」

「だ、だいたいどうやって抜け出して! お燐が見ていてくれたはずじゃあ、」

 

 見計らったように廊下の彼方からお燐の声が、

 

「おにーさあああああん!! どこ行っちゃったの――――――――っ!?」

 

 更に霊夢と天子の声まで、

 

「うっさいわねー、なによまったく」

「つ、月見がどうかしたの?」

「おにーさんがいないの! あ、あたいがちょっとお菓子を取りに行った間に、忽然と消えちゃって!」

「え!? どどどっどうして!? まさか誘拐!?」

「わかんないっ! とにかくいないの!」

「……はあ。あんたたちねえ、月見さんのことだからどうせ目を覚ましてそのへんほっつき歩いてるに決まって」

「月見――――――――っ!! どこに行ったの――――――――っ!?」

「おにーさ――――――――ん!!」

「だからうっさいっつーの!?」

 

 そのときにはすでに、さとりとこいしは月見の腕を掴んで引きずる体勢に入っており、

 

「ほら月見さん戻りますよ、みんな心配してるじゃないですか!?」

「おり――――――――んっ!! 月見はここにいるよ――――――――っ!!」

「いででででで」

 

 と。

 恐らくはそれなりに長い地霊殿史の中で、最も騒がしく混沌とした瞬間だったはずである。

 そんなこんなでさとりとこいしは、徘徊する月見を無事元の場所に連れ戻したのである。

 

「なんだろう……いま私、月見が目を覚ましてすごく嬉しいはずなのに……なんか素直に喜べない」

「月見さん、勝手なことして心配掛けないでくださいっ」

「悪かった、悪かったよ」

 

 地霊殿の空き部屋だ。そこは、元々物置同然に使われていたのを急ごしらえした即席の病室で、ベッドと小さな丸テーブルと腰掛け数脚以外にはなにも置かれていない殺風景な空間だった。月見をベッドの方へぐいぐい押し込みながら、さとりは速やかにお燐へ命じる。

 

「お燐、おくうを連れてきて頂戴」

「わっかりました!」

 

 おくうー! おっくうー! とお燐が元気に飛び出していく。

 月見が、よっこらせと難儀そうな声をあげてベッドに腰掛けた。まるでおじいちゃんだが、こればかりは彼の体を考えれば無理もないと言わざるを得ない。

 大部分が焼けて使い物にならなくなった着物の代わりに、藤千代が超特急で調達してきた着流しを一枚だけまとっている。冬の恰好としてはあるまじき薄着だが、地霊殿は床暖房完備なので特に問題ないのだ。しかしそれ故に、月見のほぼ全身を覆う包帯の層がまざまざと目に飛び込んできて、彼の火傷がどれほど凄惨なものだったのかを改めて突きつけられる思いがした。

 体と両腕両脚はもちろん、顔の左半分まで徹底的に巻かれている。助けられた身でありながらこう例えてしまうのもなんだが、これでは墓場から抜け出してきたミイラと比べてもそう大差ない。そして無残な黒へ変わってしまった尻尾は、妖術で影も形もなく隠されている。

 

「私は、どれくらい寝ていた?」

「まだ昨日の今日ですよ。しばらくは目を覚まさないんじゃないかと思っていたので、本当によかったです」

「そうか。……やはり妖怪の体は丈夫だね。てっきり永遠亭に担ぎ込まれるものと思ってたけど」

 

 月見の言う通り、本来であれば、彼は地上に戻って然るべき場所で然るべき処置を受けるべきだったのだろう。地上には『永遠亭』という名の診療所があり、幻想郷最高の医療技術であらゆる病気と怪我に対処してくれるという。それを考えれば、置き薬程度の備えしかない地霊殿で彼を休ませるという選択が、お世辞にも最適解といえないのは誰の目にも明らかだった。

 ならなぜ、月見がここにいるのか。

 みんながそれを望んだからだ。たとえ治療のためであったとしても、月見を目の届かない遠くへ連れて行かれてしまうのが嫌だったからだ。

 さとりもこいしも、お燐も、そう思っていた。

 そして――おくうだって。

 

「とはいっても、起きていきなり歩き回るなんて……月見さん、それじゃあ人里で夜な夜な徘徊してるおじいちゃんと変わりないわよ」

「……まあ、実際歳が歳だけに、なかなか刺さるね」

 

 ところで現在この部屋には、普段の地霊殿ではまず考えられない珍しい来客の姿がある。今し方月見をおじいちゃん扱いした霊夢と、その隣で小さく苦笑いを浮かべた天子である。

 この二人も月見と同様に、冬らしくない涼しげな装いに様変わりしている。霊夢なら赤、天子なら青の木綿着物は、これもまた藤千代が旧都から調達してきたものだ。異変を通してすっかり傷んでしまった元々の服は、裁縫上手なペットたちによって手厚く修繕が行われている。昨日から取り掛からせているから、どんなに遅くとも今日のうちに仕上がるだろう。

 

「ところでお前たち、もしかして昨日から地上に戻ってないのか?」

 

 そう。つまり月見のこの推測はまったくもって大当たりで、彼女らは異変が終わったあとも地上に戻らず、地霊殿でまことしたたかに一夜を明かしてしまったのだ。

 天子はさておき、霊夢の肝っ玉の太さは相当すごい。普通、自分の命すら脅かしたと言っても過言ではない相手と、その日のうちから同じ屋根の下で寝ようなんて考えるだろうか。……もっとも今回の場合に限っては、だからこそというべきなのかもしれないけれど。

 

「まあそうね、ちょっと個人的にやり残してることがあるから。魔理沙とアリスは先に帰ったわ」

「やり残してること……?」

「いいのいいの、ほんと個人的なことだから」

 

 月見がつとさとりに目配せをしてきた。自分が寝ている間に、霊夢とこいしの間で『なにか』がなかったかどうかを心配しているようだった。

 こいしは、かつてさとりを退治しようとした博麗の巫女を恨んでおり、それ故に同じ巫女の血筋である霊夢に強い敵愾心を見せていた(・・・・・)

 過去形だ。そのあたりについてはいま手早く話せるようなことではないので、ひとまずさとりは唇だけで、大丈夫ですよと答えた。

 さとりの唇を読んだ月見は、お前が言うなら信じるよ、と心の声で答えてくれた。霊夢に目を戻し、

 

「でも、戻らないと藍が心配してるだろう」

「あー、それなんだけどね。昨日月見さんが眠ったあとに、藍から式が飛んできたのよ。私の方で適当に返しといたから。それに、一応魔理沙に伝言も頼んだし、たぶん大丈夫でしょ」

「そうか……なら、あとで私からも式を飛ばしておくよ」

「ちなみに天子は、ただ月見さんが心配だから残ってるみたいよ」

「だ!」

 

 いきなり話を振られた天子はびくっとして、

 

「だっ、……だって、ほんとにひどい怪我なんだもん!? なのに月見だけ置いて帰ったら、心配で夜も眠れなくなっちゃうでしょ!?」

「いや、さすがにそこまでではないかな……」

 

 天子は顔を両手で覆ってぷるぷる震えている。

 月見が目尻を緩め、

 

「心配ありがとう。お前の方こそ、怪我の方は大丈夫か?」

「あ……う、うん」

 

 着物の袖に隠れてわかりづらいが、天子もまた両腕に包帯を巻いている。

 

「こんなの、ぜんぜん平気。天人は体だって丈夫なんだから」

 

 月見の前で虚勢を張っている――わけではなかったので、安心した。もちろん、ここで嘘などつこうものならさとりがぜんぶバラしてしまうが。さすがに妖怪並みではないものの、天人は普通の人間と比べれば段違いに怪我の治りが早く、すでに痕が消えるのを待つだけとなっているらしい。

 老婆心ながら、月見のために補足しておく。

 

「本当みたいですよ」

「……そうか。よかった」

 

 小さく安堵の息をついた月見は、それからやにわに、

 

「ところでその着物、随分と似合ってるね。お前の着物姿を見るのははじめてだから、余計目に映えるよ」

「えぅ、」

 

 予想外の一言に天子は思考停止し、五秒くらいしてからゆっくりと再起動して、きゅっと縮こまりながらぽそぽそと、

 

「ぁ、ぁりがとう……」

 

 そのとき天子がなにを考えていたのか、バッチリ読み取ったさとりは愉悦の表情で親指を立てた。

 

「天子さん、素敵な着物が見つかるといいですねっ」

「わー! わーっ! うわあーっ!?」

 

 もちろん天子が考えていたのは、「地上に戻ったら着物買おうかな……」である。

 霊夢がニヨニヨしている。さとりの方を見て、「いやー心を読む能力ってこういうときに便利ねー」と考えている。なのでさとりもニヨニヨしておいた。天子は再び顔を覆ってぷるぷるしていた。

 こいしがなにかを決意した目でさとりを見つめ、

 

「お姉ちゃん……! 私、着物買う!」

「お小遣いを貯めて買いなさいね」

「ケチッ!!」

 

 ウチにそんな贅沢をする余裕はありません。

 

「こいしさん、私の着物でよければお貸ししますよっ。身長がそんなに変わらないので、きっといけると思います!」

「ほんとにっ? わーい!」

「もー藤千代さん、あんまりこいしを甘やかさないでくだ」

 

 強烈な違和感、

 

「……藤千代さん。一応訊きますけど……いつからここに?」

 

 この部屋にいたのは、さとり、こいし、月見、霊夢、天子の五人だけだったはずだ。間違いない。おくうを連れてくるようお燐に頼んだとき、さとりは部屋全体を見回して確認している。

 なのにいつの間にか、藤千代が当たり前みたいに増えていた。

 霊夢と天子はもちろん、こいしすら時間差で驚いた。

 

「わっ! ほんとだ、よく見たら鬼子母神様だ!」

「あんた、ほんとに突拍子もなく湧いてくるわね!?」

 

 月見がげんなりとため息をついている。

 

「ついさっき、普通に入ってきてたよ……」

「月見くんが目を覚ましたと私のゴーストが囁いたので、居ても立ってもいられず駆けつけてしまいましたっ。思わず能力が暴発しちゃうほどでしたよ!」

 

 旧都の皆様、鬼子母神様は本日も快調にぶっ飛んでおられます。

 お燐が戻ってきた。

 

「さとり様っ、おくうを連れてき――あれ、なんだろこの空気。あ、藤千代がいる」

「おはようございます、お燐さんっ」

「うん、おはよう……?」

 

 お燐は少しの間首を傾げて、それから「まあいいか、どうせ藤千代がなんかしたんだろう」と納得したようだった。実際大正解なのがなんとも言えない。

 ともあれさとりは気を取り直し、

 

「お燐、おくうがいないようだけど」

 

 おくうを連れてきたと言う割に、お燐の後ろには誰の姿もない。

 

「え? なに言ってるんですかさとり様、ちゃんとここに」

 

 後ろを振り向いたお燐が真顔で外に飛び出していき、

 

「こらーっおくう!! ちゃんとついてきてって言ったでしょーっ!?」

「だ、だってぇ!!」

 

 おくうの声は、なぜかだいぶ遠いところから聞こえた。なにやってるんだろうあの子、とさとりは思う。

 およそ五秒をかけて、お燐がドタバタと廊下を走っていく。

 

「ほらっ、みんな待ってるから来るのーっ!」

「うにゃー!?」

 

 そこからおくうがやっとこさ姿を現すまでには、更に十秒ほど時間が掛かった。お燐にぐいぐい手を引っ張られ、半分転びかけながら部屋に一歩を踏み入れたおくうは、その瞬間まっさきに月見と目が合って、

 

「っ……!」

「にゃっ」

 

 お燐の手を強引に振り払い、入口の壁の後ろに光の速さで逃げ込んでしまった。

 もー! とお燐が尻尾を逆立てて怒る。

 

「なにしてるのおくうーっ! ちゃんとみんなに顔見せなよぉ!」

 

 おくうは答えず、体隠して翼隠さずの状態で縮こまっている。壁を突き抜けて、おくうの思考がさとりのところまで漂ってくる――やはりおくうは、緊張で月見の顔を真正面から見られないらしい。

 お燐がぷんぷんしている脇で、さとりはそこはかとなく笑顔になった。一見すると今までとなにも変わらず、おくうが月見を避け続けているように見える。しかし避けているのは同じでも、心の中で暴れている感情は――もう決して、彼への嫌悪などではない。

 恥ずかしい。

 なら、なぜ、恥ずかしいのか。

 

「……ごめんなさい、月見さん。おくうったら、まだ心の整理がつけられていないみたいで」

「仕方ないさ。あれだけのことがあったんだから」

「あ、でも、勘違いなさらないでくださいね。月見さんのこと、おくうはもうとっくに」

「うにゃあああああ――――――――ッ!?」

 

 おくうが絶叫しながら部屋に飛び込んできて、さとりの背中に体当たりをした。ぐるぐるおめめで激しく揺さぶる、

 

「さ、さとり様のばかぁっ!! どどどっどうしてそんなこと言うんですか!?」

「あら、『そんなこと』ってどんなことかしら。教えてくれない?」

「うわあああん!!」

 

 なんだか、さとりが覚妖怪らしいところをはじめて見たな――と月見の心が言った。確かにさとりは、己の能力を比較的悪用はせず、『人の思考や行動を逐一先読みし、口に出してからかう妖怪』という世間一般的なイメージとは異なる生き方をしている。だが、それも『比較的』であり、時と場合による話である。

 地霊殿の外の知人――とりわけ月見と話をする際は、悪い思いをさせないようにいい子ぶっているけれど。

 おくうやお燐を始めとするペットたちに対しては、この読心の能力の下、割と容赦なくズバリと接したり、からかったりするのも珍しい話ではないのだ。

 こいしが、嬉しそうに月見のベッドに飛び乗って言った。

 

「要するにっ。これからはおくうも、月見といっぱい仲良くなりたいんだって!」

「だ、誰も『いっぱい』なんて言ってないです!」

「ふふ、『仲良くなりたい』ってところは否定しないのね」

 

 おくうはそろそろ涙目だった。これ以上はやめておこう、おくうが拗ねて灼熱地獄跡に引きこもりかねない。

 話題を替えてあげることにする。

 

「月見さん、お体の具合はどうですか? ……まあ、勝手に歩き回っていたくらいなので、心配はいらないと思いますが」

「ッハハハ、これは手厳しい。だがそうさな、気遣いは不要だよ。歩く程度ならぜんぜん問題ないからね」

「尻尾は? 尻尾は元に戻る……?」

 

 こいしが不安げな上目遣いで月見を覗き込む。その頭の上に、月見はぽんぽんと手を置いて、

 

「大丈夫さ。歳だけは無駄に食ってるからね、尻尾が焼けるのだって別に今回がはじめてじゃない。さすがに十一本ぜんぶとなると時間は掛かるだろうけど、ちゃんと元通りになるよ」

「そっか……よかったぁ……」

 

 こいしが、へたり込むように深く深く胸を撫で下ろした。安堵したのは彼女だけではない。さとりもお燐もおくうも、月見のその言葉だけで随分と救われたような心地がした。

 尻尾が焼けたまま元に戻らない――もしも月見の怪我がなんらかの決定的な形で残り続けたなら、それはさとりたちの心を蝕む呪いとなっていただろう。

 

「ところでこの包帯、随分としっかり処置されてるけど誰が?」

「あ、それは映姫さんが手配してくださったお医者様です。……ちゃんと、男のお医者様でしたよ」

 

 月見の気にしているところはわかる。彼の火傷は背中を中心にして腕や脚まで及んでしまっているので、もしも包帯を巻いたのがさとりたちの中の誰かであるなら、つまりその人は月見の服を脱がして――

 ……これ以上考えるのはやめておこう。なにをとは言わないが、想像してしまって、無性に顔が熱くなってきた。

 そんな小心者なさとりとは対照的に、藤千代は大変たくましく憤慨していた。

 

「本当は私が隅々まで手当するつもりだったのに、映姫さんったら『ここは同じ男性が手当に当たるべきです!』なんて堅っ苦しいこと言って、やらせてくれなかったんです! ひどいと思いません!?」

 

 地団駄を踏む藤千代に月見は笑顔で、

 

「あとで、映姫に礼を言わないとね」

「ぶーっ!」

「――あれちょっと待って」

 

 そのとき、突拍子もなくお燐がぽつりと、

 

「おにーさん……さっき、『十一本ぜんぶ』って言った?」

「「「…………」」」

 

 沈黙。はじめはお燐の質問の意図がわからず、五秒くらいじっくりと反芻させてから、さとりはようやくとんでもない違和感を見逃していたことに気がついた。

 ――さすがに十一本ぜんぶとなると時間は掛かるだろうけど、ちゃんと元通りになるよ。

 十一本。

 なにが。

 

「……そ、そういえば!? 十一本って、まさか月見さんの尻尾の数ですか!?」

「……あ!? ほんとだ! そうなの月見!?」

 

 目を剥いてびっくりする古明地姉妹に、霊夢が「はあ?」と眉をひそめて、

 

「なに、あんたたち知らなかったの? 今の幻想郷じゃあもう割と常識よ?」

 

 以前までは幻想郷でも一部の住人しか知らなかったが、夏の異変を通して大々的に知れ渡るようになっており、いやそんなのはどうだっていい、

 

「そ、そんな常識知りません!? きゅ、九尾ならともかく、十一ってなんですか!? 藤千代さんも、そんなのぜんぜん教えてくださらなかったじゃないですか!」

「それは、私が勝手に話していいことではないので……といいますか、月見くんの心を読んでとっくに知っているものと」

「そんなのちっとも考えてませんでしたよこの人ッ!!」

 

 もちろん、普通の妖狐であるはずがないと前々から確信はしていた。でなければ大昔の話とはいえ藤千代に勝てるわけがないし、他の鬼から一目を置かれる道理もない。けれど、だからといって十一尾なんて、一体誰に想像できるというのだろう。

 

「でもほら……異変で月見くんがやられて勇儀さんに運ばれてるとき、十一尾出してたじゃないですか」

 

 そんなの気づけるわけがない。あのときは状況が状況だったし、月見の尻尾はぜんぶ真っ黒に焼けてしまっていたし、『妖狐の尻尾は最大で九本』という先入観だってあったのだ。月見の尻尾が何本あったかなんて、数えようとも思えなかった。

 

「つ、月見さん! そんな大事なこと、どうして教えてくれなかったんですか!」

「そうだよ! 隠してたの!?」

 

 詰め寄る古明地姉妹の剣幕に、月見は若干面食らいながら、

 

「あ、いや……とっくに話してるものだと思ってた。そういえば、話してなかったんだったかな」

「えぇ……」

 

 まさかこのおじいちゃん妖怪、ボケの兆候が見られるのでは。

 今のさとりたちの姿に重なるものがあるらしく、天子は乾いた苦笑いだった。

 

「あはは……あいかわらず月見は、自分の尻尾の数に無頓着だよね……」

「十一もあるとさすがに邪魔でね……。昔から隠して生きてきたせいか、時折十一あるって忘れてしまうくらいだよ」

「……」

 

 さとりは手近な腰掛けにゆるゆると崩れ落ち、覚めやらぬ衝撃をぜんぶ深いため息に変えて吐き出した。

 一周回って、安心したというべきなのかもしれない。十一もの尻尾を持つ規格外の妖狐なら、やはりその分妖怪としての力も強いはずだから、多少の怪我なんてあっという間に治ってしまうのだろう。今回の怪我に関して、月見の心配をするのは金輪際やめよう、とさとりは心に誓った。

 おくうに袖を引かれた。おくうはさとりの耳元に顔を近づけて、

 

「さとり様……尻尾が十一本あるのって、なにかすごいんですか?」

「そうね……もしもおくうが、羽が四枚や六枚もある仲間を見たらどう思う?」

「すごい! って思いま――あ、なるほど」

 

 極端な例えではあるが、そういうことだ。

 

「ねえねえ月見、尻尾治ったら触らせてっ! 十一本ぜんぶ!」

「ああ、いいよ」

「わーい!」

「はいはいっ! 月見くん、私も是非触りたいです!」

「お前はダメ」

「いけず!!」

 

 こいしたちがわいわいやっている隙に、さとりもまたおくうに耳打ちを返した。

 

「ところで、おくう。月見さんが目を覚ましたんだから、あの約束、忘れないでちゃんとやるのよ?」

「う、うにゅ……!」

 

 その途端、おくうの顔が明らかに赤くなって、さとりの頭に伝わってくる思考がぐちゃぐちゃに乱れた。羞恥と緊張の感情に基づく典型的な動揺。暴走する思考の渦が、さとりに面白い事実を伝えてくれる。

 鳥頭のおくうには珍しく、忘れないでちゃんと覚えていたとか。

 昨日の夜は、そのせいでなかなか寝付けなかったとか。

 

「あらあら」

「う、ううっ……」

 

 おくうがしおしおと縮こまっていく。素直になりたい自分と、みんなの前では恥ずかしくてとてもできないと逃げ惑う自分。せめぎ合うもどかしさが背中越しでもはっきりと伝わってきて、さとりはますますあらあらうふふと笑顔になる。

 別に、変な約束をしたわけではない。『月見が目を覚ましたら、ちゃんと助けてもらったお礼を言う』だけだ。しかしそのたったそれだけが、今のおくうにとっては並々ならぬほどに恥ずかしいことなのだった。

 月見に気づかれた。

 

「……さとり、なんだかすごく楽しそうだけどどうかしたのか?」

「あ、いえ、なんでもないんです。……ええ、なんでも」

「うわあ、お姉ちゃんがすごくいい笑顔……」

 

 こいしが若干引いているが、だって仕方ないじゃないか、こんなの微笑ましくなるなという方が無理な話だ。かたくなに月見を拒み続けていたおくうが、昨日の異変を通して少しずつ考えを変え始めていて。でも今はまだ、恥ずかしくて素直になれない気持ちの方が勝っていて。

 昨日の異変でさとりも痛感したのだが、おくうはただ優しく思いやりがあるばかりでなく、家族や仲間といった関係に強く執着し、依存する少女だったらしい。それは、『こいしに見てもらうために人を傷つける力を欲した』ことからも明らかだったといえよう。

 だからおくうは、今まで余所者だった月見を拒絶し続けていた。

 そう――今まで余所者だった(・・・・・・・・・)、だ。

 つまり現在は――そういうことである。

 そういうことであるならすなわち、おくうは家族や仲間に依存しがちな少女なので――そういうことなのである。

 あらあらうふふが止められない。ぶっちゃけて言おう――これだけでご飯三杯余裕でイケます。

 

「月見……なんか、お姉ちゃんが気持ち悪い……」

「さとり様、案外妄想豊かなトコがあるから……。普段書いてる小説も結構」

「お燐、一ヶ月おやつ抜きね」

「ぎにゃああああああああああ!?」

 

 お燐が膝から崩れ落ちた。人のヒミツの趣味を暴露しようとする輩に慈悲などない。

 

「へえ、さとりがそんなことを……よかったら今度読ませて」

「月見さん、トラウマ抉り取りますよ?」

「……わかった、触れないよ」

 

 よろしい。

 もー、と藤千代が人差し指を立てて、

 

「ダメですよ月見くんっ。乙女たるもの、男の方には言えないヒミツをいくつも抱えているものなのです。ねえ、天子さん?」

「へいっ!?」

 

 まさかの振りにめちゃくちゃ驚いた天子は、咄嗟に月見を見てしまい、

 

「……そ、そうですね! そうだと思いますっ」

 

 ……天子さん。私、それ(・・)はいつまでもヒミツにしてたらダメだと思いますよ。

 なお『それ』がなにかは、個人情報保護の観点から触れません。

 

「でも私は、月見くんにならなんだって打ち明けますよっ! スリーサイズは最近成長しまして上から」

「よしみんな、話を戻すぞ」

「なんでですかーっ!!」

 

 さとりはある意味、藤千代を心の底から尊敬する。

 緩い吐息ひとつで、月見は表情をフラットに戻した。

 

「私の体ついでで、確認させてくれ。……空、体の具合はどうだ? なにも違和感がなければいいんだけど」

「っ」

 

 びくっと震えたおくうが、さとりの背中に隠れて小さくなった。

 

「ぇと……だ、だいじょうぶ……」

「そうか。ならいいんだが……なにか妙な感覚があったら、どんなに小さなことでもすぐに教えてくれ。必ず、私がなんとかするから」

「……ぅ、うん」

 

 ああもう、背中越しでもじわじわ伝わってくるおくうの気持ちがくすぐったい。恥ずかしさが先立って心の底からは認められずとも、否応なく感じてしまう安心感。ひょっとしたら彼なら、もし自分がまた危険な状態に陥っても、助けに来てくれるのではないか。どんなに怪我をしても絶対に諦めず、自分に手を伸ばしてくれるのではないか。

 ずっと、守ってくれるのではないか。

 さとりがますますあらあらうふふするのをよそに、話は進む。

 

「月見……おくうって、どうなったの? もう、あんな風に暴走しちゃったりしない?」

 

 こいしが表情を曇らせ、月見の袖を小さな指先でつまむ。対して、月見は笑みを以て即答した。

 

「しないよ。させるわけがない」

 

 背中から伝わるおくうの気持ちがあらあらうふふ。

 

「そうだね、少しその話をしようか。今の空は、言葉で説明するとちょっとばかりややこしい状態でね」

 

 月見は少し考える間を置いて、それから言った。

 

「――八咫烏の荒御魂を私が降ろした別の神の御魂で鎮めて、かつ空を強引に式神にすることで、八咫烏の力を無理やり私の力で制御している状態」

「「「…………」」」

 

 約五秒の沈黙を置いてから、代表して霊夢と天子が、

 

「ん!? 待ちなさい、つまりこの鴉にはいま二柱の神様が宿ってるってこと!?」

「しかも月見の式神になってるの!?」

「そういうわけだね」

 

 ――こういうことを考えるのは、なんというか、ひどく不謹慎なのかもしれないけれど。

 面白いことになって参りました。

 

「……さとり様、『シキガミ』ってなんですか?」

 

 後ろからおくうが尋ねてきたので、さとりは満を持して答えた。

 

「つまりこれからは、月見さんがおくうの三人目のご主人様ということよっ」

「!?」

「こらこらさとり、誤解を招くようなことは言わないでくれ」

「でも、式神ってそういうものですよね?」

「……まあ、決して間違いとも言えないけど。しかし断じて、いたずらな目的で式神にしたわけじゃあないよ」

 

 月見は吐息、

 

「現時点で、なにがあってもあんな暴走を繰り返させないための、あくまで暫定的な措置だと思ってくれ」

「暫定、ですか」

「私が空に打ち込んだ式は、主従の契約を結ぶものではなく、空の力を私の力で制御するための(くさび)となるもの。要するに、私の降ろした神の力で内側から。そして私自身の力で外側から、空の力を二重に封じているわけだ。今の空は、力を使おうとしてもまったくできないはずだよ。そもそも力が使えないのなら、暴走する心配もないだろう?」

 

 確かに。

 月見は続ける。

 

「……しかしそれ以前に、私は、八咫烏の力はもはや必要のないものじゃないかと思ってる。あれだけのことがあったわけだしね」

「……」

「もし本当にそうならば、八咫烏の御魂にはお帰り頂けばいい。それで、私が空を式神にする理由もなくなる。……空も嫌だろう、仕方ないとはいえ私の式神なんて」

「えっ……え、と」

 

 おくうが言い淀む。月見はそれを図星を衝かれて答えに窮したと解釈したようだが、しかし待ってほしい、彼を拒絶していた頃のおくうならはっきり嫌だと即答していたはずだ。

 おくうは、図星を衝かれたからではなく、自分の気持ちがわからなかったからこそ答えられなかった。

 つまりは少なくとも、戸惑いこそすれ、はっきりと『嫌だ』とは思わなかったのだ。

 ああ、許されるのならばおくうの気持ちをぜんぶ月見に代弁してやりたい。素直になれるまではもう少し時間が掛かりそうだけれど、おくうはあなたのことを受け入れ始めているのだと。絶対に許してもらえないだろうし、勝手にやろうものなら世を儚んだおくうが家出するかもしれないので、できないけれど。

 

「ともかく、今だけだよ。我慢してくれ」

「……、」

 

 おくうはなにも答えず、さとりの後ろで小さくなったまま動かない。さとりの『月見が三人目のご主人様』発言が、おくうを盛大に困惑させているのは一目瞭然だった。

 霊夢が思案顔で腕を組んだ。

 

「それにしても……この鴉に宿ってるのって、あの(・・)八咫烏なんでしょ? その荒御魂を鎮められる神様って、月見さんなに降ろしたのよ」

「宇迦之御魂」

「う、」

 

 霊夢は束の間石化し、眉間を押さえながら俯いて、それから呻き声とともに天井を仰ぎ、湧き上がってくる感情をすべてため息に変えて吐き出した。

 

「……まあ、月見さんだしね。どうせ昔からの知り合いだとか言うんでしょ」

「まあ、そんなところかな」

「……もうなにも言わないわ」

 

 霊夢はもはや呆れ返っていた。天子もその横で半笑いを浮かべている。生憎神道には明るくないさとりだけれど、二人の心が教えてくれる――宇迦之御魂神。狐を自らの遣いとする天津神で、五穀豊穣や国家安寧を始め、病気平癒や商売繁盛、果ては芸能上達や家内安全などなど、ありとあらゆる災いを退け福と成す万能の守護神である。特筆すべきはなんと言っても人々から集まる信仰の篤さで、彼女を祀る稲荷神社は日本全国で三万社以上にも及び、数だけならば正真正銘の日本一に君臨する。人里では主に商家が、家の敷地内に個人的に稲荷を祀って信仰している場合もあり、博麗神社にとっては守矢神社に次ぐ憎っくき商売敵となっている。ってか最近月見さんの影響で稲荷を信仰し出す人が増えてるのよね、月見さんには世話になってるけどあれだけはほんと困ったもんだわ云々。

 要するに。

 

「……ねえ、そのウカノなんとかってすごい神様なの?」

「日本中の人たちから信仰を集めてる、すごく格の高い神様だよ」

「へえーっ!」

 

 こいしと天子の問答通り、『信仰の強さ』という観点で見れば日本トップクラスといっても過言ではない、大変ありがたい神様であるようだった。

 しかし、それはそれで不安になってくる。ちょうど同じことを考えていたお燐が、

 

「でも……大丈夫なの? 格が高い神様ってことは、それだけ、その……荒御魂ってやつも」

「それだったら心配無用だ」

 

 月見はこれもまた即答する。

 

「宇迦は、空ではなく私と契約を交わした神だ。加えて、契約の上下は私が上で向こうが下。私がわざとそうしない限り、勝手に暴れたりはしないよ」

「ちょっと待ちなさい」

 

 霊夢が割り込む、

 

「普通私たちは、神様に力を『お貸しいただく』立場でしょ。月見さんの方が上って」

「知人友人の(よしみ)というやつさ。……もちろん、それでも、相応の対価を払う条件だけどね」

 

 月見が払う対価――それを彼の心から聞いて、さとりは思わず呼吸を失った。

 莫大な量の妖力。どんなに少なく見積もっても半分、多ければ八割近くまで。

 それはつまり、至極単純に考えて、月見の力が本来の二割にまで削がれることを意味している。

 顔に出ていたらしく、彼に心の声で言われた。――いいんだ。今のご時世、妖力なんてたくさんあっても持て余すだけだからね。こういうときこそ迷わず使っていかないと。

 そして、おくうにはこのことを黙っているように、とも。恩を売ろうとするみたいで、気分が悪いから。

 

「空が力を手放すのかどうかはわからないけど、少なくとも私の式神である限り、八咫烏は私が責任を持って制御する。だから心配は要らないよ」

「そっかあ……っ」

 

 胸を撫で下ろしたこいしが、おくうに無垢な笑顔を向けて言った。

 

「よかったね、おくうっ」

「い、いや……あの、私は、その」

「えーっ? おくうはよくないの?」

「そ、そういうわけではなくて……えっと……」

 

 おくうが頑張って言葉を紡ごうとしたが、その前に月見と目が合ってしまって、

 

「……あぅ」

 

 あらあらうふふ。

 

「お姉ちゃん、さっきからおくうが変だよ!」

「ふふ。やっぱり、月見さんの式神っていうのはいろいろと複雑みたいね」

「う゛ー…………」

「安心してくれ、だからってなにかをするつもりはないさ。形だけだよ」

 

 違うんです月見さん、そうじゃないんです。何度も言うが、おくうの気持ちを代弁できない今の状況がこの上なく歯がゆい。というか月見さんもちょっとは察してください、そりゃあ今までずっと嫌われていたから想像できないかもしれませんけど今のおくうは明らかに

 

「……空については、こんなところかな」

 

 吐息ひとつで、月見が思考を切り替えてしまった。

 

「あとは、私が眠っていた間のことを教えてほしいんだが……」

「……そうですね。お話しします」

 

 さとりは渋々言われた通りにした。しかし、大丈夫だ、まだ慌てるような時間ではない。今後月見には、少なくとも怪我が完全に治るまでの間は地霊殿でゆっくり休んでもらうのだから。頃合いを見計らって、少しずつでもおくうと月見の距離が縮まるようお節介を焼いていけばいい。

 今はそう割り切って、さとりは己の記憶を遡った。

 

「昨日は、あれから……」

 

 月見が眠ったあとに起こった出来事は極めてシンプルだ。そう、こうして軽く思い出すだけで、さとりもこいしもお燐もおくうも霊夢も天子も藤千代も、

 

「「「……………………」」」

「ど、どうした?」

 

 突如として少女たちを支配したお通夜みたいな空気に、月見が珍しくどもる。さとりは中身のない薄っぺらな微笑みで答える。

 

「いえいえ、大したことじゃないんです。大した……ことじゃ…………」

「「「……………………」」」

「……あ、なんだかわかった気がする」

 

 結果だけいえば、月見の想像は大正解である。

 そう。とどのつまりさとりたちは、あのあと、みんな揃って――。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 とどのつまり月見が眠ったあとになにがあったのか、単純明快にまとめるならば。

 

 映姫にめちゃくちゃ説教された。

 

「……うん、そうか」

 

 ひと通りの話を聞き終えた月見は、大変微妙な心持ちでそうこぼすことしかできなかった。ある程度賑やかだった部屋の空気は打って変わって、そのまま地の底までズブズブと沈んでいってしまいそうな、憔悴し暗澹(あんたん)とした重苦しさで満たされていた。

 そりゃああれだけのことがあったのだ、閻魔様のお説教はまこと大惨事の一言だったらしい。それは、みんなの表情をひと目見れば嫌というほどよく伝わってくる。まず、さとりとこいしが虚ろな目でひくひくと笑っており、

 

「私、はじめてでしたよ。途中で十分休憩を三回も挟むお説教なんて……」

「何時間やってたんだろー、あれ……」

「……」

 

 藤千代の微笑みは、空っぽで虚しい。

 

「私、途中から月見くんの幻覚が見えたんですよ。幻の月見くんはすごく優しくて、うふ、うふふふふ……」

「…………」

 

 霊夢は目が死んでいる。

 

「ふふふ、聞いてよ月見さん。魔理沙とアリスがね、説教終わったあとに空を見上げて『星が綺麗だ』って笑ってたの。地底じゃ星なんて見えないのに。精神崩壊って、ああいうのを言うのよ。ふふふふふ……」

「………………」

 

 お燐とおくうも目が以下略。

 

「そういえばおくうは、ちょうちょがいっぱい飛んでるって言ってたよねー……」

「うにゃー……」

「……………………」

 

 天子も以下略。

 

「私、最後には悟りが開けそうになって……ああ、本当の天人になるってこういうことだったんだって……」

「…………………………」

 

 ……映姫ィ。

 もちろん、わかっている、本人に悪気は一切ないのだ。神の荒御魂が暴走し、地底の土地を灼熱地獄まで届く大規模な崩壊が襲ったとなれば、彼女はなんとしても原因を明らかにし、断たねばならないと強い使命感に駆られたのだろう。月見と同じで、あの悲劇を二度と繰り返してはならないという想い故の行動だったのだろう。

 

「……いえ、それだけでもなかったようですよ」

 

 いくらか正気を取り戻したさとりが、口元に指を遣って小声で、

 

「……まあ、ちょっとくらいならいいわよね。散々説教されたお返しってことで……」

 

 それから改めて語って曰く、

 

「一番の理由は、月見さんにあとのことを任されたから……だったみたいですよ。もう、本当に一生懸命になってまして」

「……えーと、」

 

 月見は可及的速やかに記憶を遡る。おかしい。自分の記憶に混乱がなければ、『あとのことは任せた』なんて大仰な頼みを映姫にした覚えは一切ない。なにか誤解があったのではないか、あったとすれば一体どこで、

 

(……あ)

 

 気づいた。あのとき、映姫の結界に守られる中で。

 

 ――ぜんぶ終わったらぶっ倒れるかもしれないから、よろしく頼むよ。

 ――まあ、いいでしょう。そのあとの面倒(・・・・・・・)は私が見ますから、終わらせてきなさい。

 

 あれか。まさかあれだったのか。いや違うのだ、月見としては単に「倒れたら手当は頼むよ」くらいの意味合いだったのであり、まさか異変の後始末一切を任せるような意図はこれっぽっちもなかったのだ。しかし、確かに「あとのことは私が引き受けます」だから、映姫は月見の頼みを大変オーバーに解釈してしまったのかもしれない。

 ということは、つまり、

 

「私の……せいか……」

「い、いえいえ決してそういうつもりでは!? 映姫さんの勘違いですし、仮に勘違いじゃなかったとしてもお説教でぜんぶ片付けようとするのがおかしいのであって!」

「すまない……みんな……」

「月見さーん!?」

 

 藤千代がため息をついている。

 

「……やっぱり映姫さんって、月見くんのことすっごくよく考えてあげてますよね……。口ではあれこれ言ってても体は正直です……」

 

 映姫は今でも、閻魔の仕事が忙しい中で水月苑のお手伝いに来てくれている。それ自体は大変助かっているのだけれど、近頃は月見の献立にまで気を配り始める有様で、月見としては「そのうちなにもかもこいつに管理されるのでは……」と若干怖かったりする。咲夜や藍とも火花を散らしているし。

 霊夢が眉間の皺を揉みほぐしながら、

 

「……でもまあ、閻魔サマがなにからなにまで白黒つけたお陰で、いろいろ片付いちゃったのも事実よね。昔の話とか……」

 

 映姫が引き受けてくれたのは、なにも異変を事後処理だけではない。今回の異変よりも過去――博麗の巫女と古明地姉妹の因縁についても、問答無用で聞き出して白黒つけてしまったらしい。本当に、なにからなにまでぜんぶ引き受けてくれたのだ。

 白黒つけたといっても、そう大した話ではない。そもそも今回の異変に関して、こいしとおくうは己の過ちを深く深く反省していたので、

 

「……勝っても負けても恨みっこなしの弾幕ごっこで決着をつけて、ぜんぶを水に流す、か」

「ええ」

 

 霊夢が、そう希望したらしい。自分より何代も前の巫女の話なんて知ったこっちゃない。それよりもなによりも、自分は卑怯な不意打ちで勝負を台無しにされたのが許せないのであり、だからもう一度、正々堂々スペルカードルールに則って闘えと。それ以上に望むものなんてなにもないと。

 口で言うのは簡単だ。だが、

 

「霊夢、お前は――」

 

 そこから先の言葉を、月見は噤んだ。

 勝っても負けても恨みっこなしとはいうけれど、それで本当にすべてを水に流すのは難しいことだ。自分が生まれてもいない大昔の因縁でとばっちりを食った、一方的な被害者といえる立場ならなおさらだろう。

 本当に、それ以上に望むものなんてなにもないのか――そう思わずにはおれない。

 

「……月見さん。私ね、」

 

 月見の言葉なき問いに、霊夢はゆっくりと息を吸って答えた。

 

「正直言うとはじめは、まあ、こっぴどく懲らしめてやろうとか思ってたのよ」

 

 こいしとおくうの体が、わずかに強張る。

 

「でも、閻魔サマに説教されながらいろいろ事情を聞いてたら……なんか、天子のときの異変に似てるなあって、思っちゃって」

 

 そのとき霊夢は、笑っていた。

 呆れ果てて、天を振り仰ぐような笑みだった。

 

「はじめはほんとに小さな願いがきっかけで、根本的な悪人なんて誰もいなくて。でも不思議と、どういうわけか歯車が上手く噛み合わなくて、気がついたら理不尽なくらい取り返しのつかないことになっちゃってて」

 

 こいしとおくうに、順に目を遣って、

 

「こいつらは、あのときの天子と同じ。こんなつもりじゃあぜんぜんなくて、自分が一番、自分がやってしまった過ちの重さをわかってて。……泣いて謝られたわよ。まったく、幻想郷の一体どこに、博麗の巫女に泣いて謝る妖怪がいるんだか」

 

 肩を竦め、ため息をつき、

 

「月見さんは言うまでもなく、天子も怪我までしてこいつらを助けて。……あんた、こいつらが妖怪だってわかってる? しかも、『絶対にやり直せるから』なんてカッコつけたことまで言ったっていうじゃないの」

「あ、あはは……」

 

 バカにつける薬はなしと言わんばかりに首を振り、やれやれ調子で、

 

「そしたらなんか、怒る気持ちも失せちゃって」

 

 腕を組み、小鼻を鳴らして、

 

「……月見さんが、そこまでしてでも助けたかった相手なんでしょ。だったら、天子のときと同じ。悪いやつじゃないってことで、大目に見てあげるわよ」

「……、」

 

 霊夢の言葉がひとしきり心の奥に響いていったのを感じながら、月見は音もなく喉で笑った。

 なんて。

 なんて、強い子なのだろう。まだ年端もいかない人間の少女がどうしてこんな風に言えるのかと、何千年も生きた化石のような妖怪が、たった十数歳の赤子のような人間に、言葉で完全に圧倒されていた。

 

「……魔理沙は、なんて?」

「『いつか私が困ったとき、今度は助けてくれよ。それでチャラにしてやるぜ』」

「……まったく」

 

 本当に、この子たちは。

 

「お前たちは、強いね。私なんかよりもよっぽど」

 

 霊夢は緩いため息で答える。

 

「……別に、はじめから強かったわけじゃないわよ」

 

 ねえ、知ってた? ――そう言って、なんともいじわるに口端を曲げて、

 

「私の目の前にいる、どこかの誰かさんのお人好しってね。見境なく人に伝染する、タチの悪い病気みたいなもんなのよ。そう――名付けるなら月見ウイルス。ちなみに天子は手遅れよ。もうどうしようもないわ」

「!?」

 

 瞠目する天子をさらりと無視し、

 

「昔の私なら、そんなの知ったこっちゃないって言ってこいつらを懲らしめてたかもね。魔理沙も、紅魔館でコソドロ繰り返してた頃のままだったらああは言ってなかったでしょう」

「……」

「月見さん。あなたは自分で思ってる以上に、いろんなやつらに影響を与えてるのよ」

 

 そこで不意に、今までずっとはきはきとしていた霊夢の口調が、突然曇って。

 

「……だから、あー、なんて言うのかしら」

 

 最後だけは、少し気恥ずかしそうにそっぽを向いて。

 

「……そんな気に病んで、一人で背負い込もうとしなくたって。案外、大丈夫だと思うわよ」

「……」

 

 ……そうだったのかもしれない。今回の悲劇の根本的な原因はおくうを苦しめ続けた自分にあるのだと、強い自責と後悔に駆られていたのは事実だ。だから、せめて自らがおくうを連れ戻さなければ自分自身への怒りが収まらなくて、最後はもはや意地だけで己を突き動かしているような状態だった。

 一人で背負い込もうとしていた――そう言われてしまえば、そうだったのかもしれないなと、月見は思う。

 

「……?」

 

 物思いに耽っていたら、いつの間にかこいしに抱きつかれていた。こいしは月見の胸元にぎゅっと顔を埋めて、

 

「月見は、悪くないもん。私たちのこと、助けてくれたから……」

「そうですよ、月見くん。今回の異変、誰か一人だけが悪いというものではないのです。こういうときは、みんなで一緒に背負っちゃえばいいんですよ」

「……そうか」

 

 つくづく己は、強くて頼もしい仲間に恵まれたと痛感せずにはおれない。おくうを助けるのに力を貸してくれたのはもちろんのこと、異変が終わったあとになっても、こうして月見を支えてくれる。

 何千年を生きた大妖怪だろうがなんだろうが、やっぱり、一人は一人なのだ。

 

「……今回の私は本当に、みっともない恰好を晒してばっかりだね」

 

 天子が、微笑んだ。

 

「そんなの、誰も気にしたりしないよ。……いつもは、私たちの方が支えてもらってるんだもん。ぜんぜん、みっともなくなんてない」

「……ありがとう」

 

 情けないけれど、今はどうも、それ以外の言葉は出てきそうにない。そんな自分を誤魔化すように、月見はこいしの背中を静かに撫ぜた。

 救われる、とは。きっと、こういうことを言うのだろう。

 

「――月見さん」

 

 そしてさとりには、月見を翻弄するすべての感情が筒抜けだったはずだ。

 

「おくうと、二人で、話をしてあげてください」

「えっ……さ、さとり様?」

 

 思わぬ提案におくうがたじろぐ。しかし見返すさとりの瞳は真剣そのもので、ただ一言、

 

「お願い、おくう」

「……」

 

 変にからかっているわけではないと、おくうにも一発でわかったのだろう。おくうはほんの束の間月見を見て、すぐに逸らし、せり上がってくる緊張を唾と一緒に飲み込んで、

 

「……わかり、ました」

「ええ。……頑張ってね」

 

 おくうの月見に対する態度が、妙によそよそしくなったのはわかっている。以前は言うこと為すことすべてが月見を拒絶するものだったが、今は「あの」「その」と意味のない言葉ばかりを繰り返すようになった。さとりの口振りからしても、おくうの心境に様々な変化があったのは間違いないのだと思う。

 しかし、それ幸いにと有耶無耶にしていいものではない。

 月見はおくうに、言わなければならないことがある。

 月見の前にたった一人で取り残され、おくうはそのまま消え去ってしまいそうなほど小さくなっていた。ベッドと腰掛けしか置かれていないがらんどうな部屋で、身を隠せる物がなにもなくなってしまって、おろおろと心細く立ち尽くしている。お前なんてキライだと忌憚なく言ってのけた昨日のおくうは、一体どこに消えてしまったのだろう。なんだか、今日になってはじめて霊烏路空という少女と出会ったような、そんな不思議な心地がした。

 

「とりあえず、座らないか?」

「……!」

 

 まるで今はじめてその存在に気づいたように、おくうが小動物顔負けの機敏な動きで腰掛けに座る。それからまた縮こまって、戦々恐々としながら月見の言葉に身構えている。

 月見は苦笑、

 

「そんなに怖がらなくても、なにもしやしないよ。楽にしてくれ」

 

 と言ったところで、まさかおくうが本当に楽にしてくれるはずもなく、已むなく月見はそのまま話し始める。

 

「……お前とこうして話をするのは、昨日、お前の心の中以来か」

 

 けれどあれは、ある意味夢の中の出来事ともいえるものだから、二人で話をするのは今がはじめてというべきなのかもしれない。誰の存在も気にしなくていい二人だけの空間。単純に出会ってからの月日を数えれば、およそ半年。およそ半年が経ってようやくはじめて、月見とおくうは会話らしい会話をしようとしている。

 今まではただ、おくうが一方的に月見を拒絶するだけだった。

 月見の話なんて、一度も聞いてなんかもらえなかった。

 だからだろうか。改めてこうして向かい合うと、なんだかどうにも、上手く言葉が出てこない。

 

「さて、どこから話をしたものか……」

 

 おくうは、なにも言わない。

 強張った体で浅く俯き、緊張と不安が半々に混じった瞳で、じっと月見の言葉を待ち続けている。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 月見の部屋をあとにしたお燐たちは、地霊殿の中庭にいた。

 弾幕ごっこをするには、ここから外に出て地霊殿の上空を使うのが一番の近道だからだ。そしてなぜ弾幕ごっこをするのかといえば、こいしと霊夢が約束していた『勝っても負けても恨みっこなしの一発勝負』のためなのだった。

 

「――言っておくけどね。昨日の異変に負い目があるからって、わざと手加減して負けようなんて考えるんじゃないわよ。そんなナメた真似したらぶっ飛ばすからね」

「……うん」

 

 中庭のステンドグラスを五枚ほど隔てた距離で、こいしと霊夢が向かい合っている。やる気満々で準備体操をする霊夢に対し、こいしは思い詰めた表情で立ち尽くし、腕の一本も動かそうとする気配がない。霊夢が提案しこいしが了承した同意の上での勝負とはいえ、こうしてみると霊夢が強引かつ一方的に闘いを吹っかけたようにも見える。故に見守る方としては気が気でなく、事実お燐は、このまま二人を闘わせていいのかとずっとハラハラおろおろしていた。

 

「さ、さとり様……大丈夫、なんですよね?」

「……少なくとも、霊夢さんの方は大丈夫よ。嘘は、一切言っていないから」

 

 それはお燐にも、なんとなくはわかっている。霊夢は竹を割ったような少女で、嘘をついているのかどうかが言動から判断しやすい。そうでなくとも、まさか月見の前で語った言葉が、彼にいい顔をしたいがための嘘ということはないだろう。

 問題はこいしの方だ。月見の部屋を出た霊夢がさあ決着つけるわよ勝負しなさいと騒ぎ出してから、明らかに様子がおかしくなった。一心不乱になにかを考え続けている。だがこいしの心が一体なにに囚われているのか、お燐にもさとりにも知る術はない。

 屈伸をした霊夢が、判然としないこいしの態度に顔をしかめた。

 

「……さっきからぼけっと突っ立って、あんたやる気あるわけ? なにか言いたいことがあるならはっきり言いなさい」

「……」

 

 こいしは俯いてしばらく考え、やがて顔を上げて答えた。

 

「……あのね。昨日のことは……ごめんなさいって、思ってます。私がおくうにやらせたのは、きっと……あの頃の博麗の巫女が、お姉ちゃんにやったことと同じだから」

 

 でも、と、彼女は続ける。

 

「やっぱり……博麗の巫女がお姉ちゃんにやったことを、なかったことには、できない」

「……つまり、この勝負で水に流すつもりはないってこと?」

 

 低い声音で答えた霊夢が両目を眇めた。ピリピリと肌を刺すような、一触即発の空気が彼女の周囲に充満する。

 血の気が引いていく感覚。

 ――もしかして、せっかく異変が終わったのに、また。

 そんな悪寒がお燐の心を絡め取ろうとしたとき、

 

「ううん、違う……!」

 

 こいしが、強くかぶりを振った。自分の胸の中でくすぶる感情をどう言葉にすればいいのか、少し苦心するような間があった。

 言う。

 

「……勝っても負けても、恨みっこなしなんだよね」

「そうね」

「じゃあ……私が勝っても、恨みっこなしだよね」

 

 霊夢はわずかな間を置いて、

 

「……そうね」

 

 まぶたを下ろしたこいしが、ゆっくりと深呼吸をした。

 そして、改めて霊夢を見据えた彼女は。

 

「じゃあ――本気で行くから」

 

 お燐が思わず息を呑むほど、堅い決意に満ちた、芯のある表情をしていた。

 

「誰かにもらった力じゃない。卑怯な不意打ちも使わない。私自身の力で、ちゃんとした勝負で、あなたに勝つ」

 

 今までの、いつもにこにこと笑っていたこいしとは、まるで違う。

 その瞳に宿る力は、博麗の巫女への復讐心ではない。

 

「そうすれば……あのときの記憶に、終止符を打てる気がするの」

 

 そんなものよりもずっとずっと透明で、綺麗な意志。

 

「そうすれば、みんなと一緒に、前に歩いて行ける気がするの」

 

 見下ろした掌を、拳に変えて。

 彼女は、強く、宣言した。

 

「――だから、絶対に負けないから」

「……はン」

 

 霊夢の返答は、至極単純だった。小鼻を鳴らし、歯を見せる大胆不敵な笑みを以て、こいしの眼差しを真正面から弾き返した。

 

「上等よ。――やれるもんならやってみなさい!」

 

 飛翔する。霊夢が先行し、こいしが一拍遅れてあとに続いて、舞い上がった風がお燐の髪を撫でるように吹き抜けていく。二人の姿はあっという間に地底の薄闇に紛れて、流れ星のような弾幕の応酬が始まる。

 上手く言葉が出てこないお燐の代わりに、藤千代が柔らかな吐息とともに言った。

 

「こいしさんも……こいしさんなりのやり方で、前を向こうとしてるんですね」

「あ……」

 

 ようやく、お燐とさとりの肩からふっと緊張の糸がほどけた。

 

「こいしさん、まっすぐで、素敵な目をしていました。だからきっと、心配は要りませんよ」

「……」

 

 空を見る。わかるのは光を放って飛び交う弾幕の流星群だけで、こいしと霊夢の姿は闇に巻かれ、どちらが優勢なのかも、どちらが勝つのかもまるで想像ができない。

 けれど、空を彩る光の弾幕よりもはっきりわかるものが、ひとつだけある。

 地霊殿が、変わり始めている。昨日の異変で、一度は壊れてしまいそうになった。それでもたくさんの人たちが駆けつけてくれて、助けてくれて、その想いに突き動かされるように、前に一歩を踏み出そうと頑張っている。

 だからきっと、明日は今日よりも素敵な一日になる。そして明後日は、明日よりも素敵な一日になるに決まっている。

 未来で、笑顔であること。

 それが、助けてくれた人たちに――月見にできる、お燐たちの恩返しに違いない。

 

「……?」

 

 そのときふと、さとりに手を握られた。不思議に思って見てみると、さとりは一輪の微笑みを花開かせ、お燐をまっすぐに見つめている。

 ――あ、そっか。

 今まで考えていたことがすべて、さとりには漏れなく筒抜けだったのだと――そう今更ながら気づいて、お燐は。

 尻尾の付け根がムズムズするこそばゆい感覚に、はにかんで。

 重ねられたさとりの掌を、ぎゅっと、少しだけ強く、握り返してみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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