銀の狐と幻想の少女たち   作:雨宮雪色

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東方星蓮船 ⑧ 「日が落ちれば、ひと時の休息と昔話を」

 

 

 

 

 

「――はい、毎度あり。お代は確かにいただきましたよ」

「ああ、宝塔……っ!」

 

 森近霖之助から宝塔を受け取るこの瞬間が、星にはまるで我が子との再会にも等しい尊きものだと感じられた。子どもなんていないくせにいっちょ前にそう思った。未だかつて抱いたことのないえも言われぬ慈愛の感情が萌えあがり、思わず胸の中できつく宝塔を抱き締める。もう絶対になくしたりしないからね、と星は堅く己の心に誓う。

 結局のところ星は、ナズーリンと一緒にもう一度香霖堂を訪れていた。それが叶ったのはひとえに天狗の長である天魔様と、伊吹萃香という名の鬼のお陰であった。もしも彼女たちがいなければ今頃星は、聖輦船の宝を狙うあの強盗みたいな二人組によって袋叩きのボコボコにされ、ナズーリンの大変冷ややかな眼差しでトドメを刺されてしまっていたのだろう。

 幻想郷ではあのようなとき、『スペルカードルール』と呼ばれる決闘方式で雌雄を決するのが習わしであるという。しかし星は幻想郷にやってきて高々数日であり、当然スペルカードルールのなんたるかなどはいろはも知らない。おまけに荒事も得意ではない。よって相手が妖怪であろうが人間であろうが、ひとたび戦いとなれば一方的にボコボコにされる以外はありえないのだ。天魔様、萃香さん、本当にありがとう。

 そして、名前を挙げなければならないのはもう一人いる。

 宝塔を買い戻すための大金を、一体誰が立て替えてくれたのか。

 それらの助けなくして、いま星の両手に宝塔が収まることはありえなかった。みんなの助けあってこそ今の自分があるのだ。辛いことがあっても、悲しいことがあっても、仏様は決して衆生を見捨てずに救ってくださるのだ。仏はお前自身だろうとか、そんな細かい話は今はどうだってよかった。

 

「もう落とすことのないよう、気をつけてください」

「はいっ、もちろんですとも!」

 

 控えめな営業スマイルを浮かべる霖之助へ、星は力いっぱい頷いて己の幸いを噛み締める。それが今の星にできる、力になってくれた人たちへの精一杯の感謝なのだと思った。

 一方でナズーリンは淡々としていた。宝塔が戻ってきたのに喜ぶどころかうんざりした顔をして、毒のある声音でどこかの誰かをじいっと睨んだ。

 

「やれやれ、これで宝塔はやっと解決か。手間取らせてくれたよまったく」

 

 どこかの誰かはナズーリンに目を合わせようとしない。

 

「まあ君にも君なりの事情があったわけだから、毘沙門天様の宝塔を売り物にしたのは水に流すがね。商人としてではなく、幻想郷で生計を立てる一人として、今回の失態はくれぐれも教訓とするべきだよ」

「わかったよ。わかったからもうやめてくれ」

 

 霖之助が頭を掻いて白旗をあげるも、ナズーリンは胡乱な目のままため息を返す。宝塔の云々よりも、金が底をついてしまうほどいい加減な霖之助の私生活に呆れ、また同時に憤っているのだ。それが意外だったので星はくすりと笑い、

 

「ナズは、店主さんが心配なんですね」

 

 む、とナズーリンは尻尾を揺らした。少し言葉を選ぶ間があって、

 

「……まあ、付き合いだけは幻想郷の男じゃ一番長いからね。野垂れ死なれたら目覚めが悪いのは事実さ」

「そんな大袈裟な。僕だって半分は妖怪なんだ、その気になれば」

「自分一人で物事を完結させるのはやめたまえ。君は誰一人近寄る者のいない孤高の半妖かい? 違うだろう。日頃からこの店にやってきて、君の背中を見ながら育っている人間の子どもがいるはずだよ。そのことを肝に銘じろと言ってるんだ」

「……むう」

「まあまあ、そのくらいで。よかったじゃないですか、大変なことになる前になんとかできて。……お金を出したのは、月見さんですけど」

 

 己の失態を正当化するつもりはまったくないが、もしも星が宝塔を落としていなければ、霖之助は今でもお金を得られず貧困に喘いでいたかもしれないのだ。自分にとっては災難であっても、それがきっかけとなって誰かが命拾いをすることもある。幸と不幸は表裏一体、人間万事塞翁が馬、世の流れは仏にも決して掌握しきれぬ複雑怪奇なものなのだと、星は宝塔を見下ろしながらしみじみと感じ入る。

 

「そういえば月見は、また別のところに駆り出されたそうだね」

「ん、ああ。実は、宝塔以外にもうひとつ捜しているものがあってね。そっちの方でまた面倒が起きたらしい」

 

 あいかわらずだというように、霖之助は音もなく肩を震わせた。

 

「地上に戻ってきたばかりだというのに、まったく、彼の周りは次から次へと話題に事欠かないね」

「話題の当事者としては、なかなか心苦しいんだがね……そういう星の下にあるんだろうさ。ある意味で、幻想郷一のトラブルメーカーだよ」

「周りがいつもトラブルを起こしているから、だね。確かに考えようによっては、彼自身がトラブルメーカーと言えなくもないか」

 

 そうなのかもしれないなあと、今日はじめて彼と知り合った星ですら思う。水月苑で見た光景が脳裏に甦る。人間、妖怪、神、果ては魔法使いや悪魔、亡霊、不老不死まで、様々な境遇の少女たちが月見の周りで同じ時間を共有していた。種族の壁などというものはまったく存在せず、ひとつの場所に集うことを誰しもが疑問に思っていなかった。皆がありのままの心で、ありのままに振る舞って、ありのままの笑顔を弾けさせていた。だからこそあの強盗二人組が押しかけてきたように、ちょっとしたトラブルがあとを絶たなくて、でもそれ故に彼の周りはどこまでも賑やかで。

 それは間違いなく、白蓮が夢見ていた世界の体現だった。

 争いを望まないすべての者たちが、争うことなく平和に生きていける場所。

 白蓮に月見を会わせたい――なぜナズーリンがそう願うのかを、心の底から理解し、共感した瞬間だったのだ。

 

「ところで、もうひとつの捜し物ってなんだい?」

「飛倉という、ありがたい法力が込められた穀倉の破片さ。そうだ、君、実は拾ってそのへんにしまっていたりしないかい? 法力の力で宙に浮いている木の欠片なんだが」

「……ああ、なんだ、あれも君たちの物だったのか」

 

 そのとき霖之助の思わぬ反応に、星の思考が一息で香霖堂まで引き戻された。ナズーリンと顔を見合わせ、

 

「……え。店主さん、飛倉の破片をご存知で?」

「ええ、店の近くで漂っていたのをいくつか見つけまして。これは珍しいと思って、はじめは手元に取っておいていたのですが」

「が?」

「待った、話は最後まで聞いてくれ」

 

 早速喧嘩腰になるナズーリンを霖之助は掌で制し、

 

「チルノ――妖精たちが偶然やってきて、なんだかそれを熱心に集めている風だったもので。珍しい物ではありましたが、畢竟(ひっきょう)法力が込められただけの木の欠片でしたから……まあ、乞われるがまま譲ってしまったのです。つい今朝の話ですよ」

「「……」」

 

 星とナズーリンの間に成立する、全身の力ががっくりと抜ける悄然とした空気。

 辟易されたと誤解した霖之助が顔を歪め、

 

「……あまり偉そうに弁解できる立場でないのはわかっていますが、こればっかりは本当に事情を知らなかったわけで」

「いえ、違うんです。なんというか……結局そうなるのかあ、と言いますか」

「月見が別件で駆り出されたと言ったろう。詳しい説明は省くが、その妖精たちが破片を巡って騒ぎを起こしてるんだよ」

 

 霖之助も露骨に脱力した。

 

「……なんだ、そういうことか」

「これも月見の為せる業、とでもいうべきなのか……」

 

 もはや、幻想郷のあらゆる騒動にはすべて月見が間接的に関わっている、という法則が存在していたとしても星はさほど驚かない。

 

「しかし、結果的には好都合かもしれないね。月見ならなんとかしてくれるだろうから、店主が譲ったという破片もこれでまとめて取り戻せるだろう」

「ちょっと前の聖輦船といいこの宝塔といい、月見さんには助けられてばかりですねえ……」

「……言わないでくれ。私もちょっと気にしてるんだ」

 

 これはいよいよ本格的に、自分が水月苑の招き猫となって彼の生活を潤すのも、恩返しの手段としては悪くないのかもしれないと思えてきた。

 

「月見さん、大丈夫でしょうか……」

「紅魔館のメイドまでついていったんだ、首尾よく進んでるとは思うけど……」

 

 人生万事塞翁が馬。ならばいま月見が直面しているのは、なんだよかったと拍子抜けする幸であろうか、それともあーもーと頭を抱える不幸であろうか――。

 星とナズーリンのため息が、なんとも寂しく香霖堂の床に落ちた。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 元来、妖精とはか弱い生き物だ。

 背丈は大きい者でも人間の幼子と同程度でしかなく、小さな者は月見が掌にも乗せてしまえるほどちょこんとしている。その可愛らしい外見以上の危険な能力は持っておらず、争い事が嫌い――ただしイタズラは大好き――なため、妖怪はもちろん人間にとってもそうそう脅威となる存在ではない。性格は総じて天衣無縫かつ享楽的、日々をのびのびと気ままに生きる姿は幻想郷の微笑ましい清涼剤だ。自然がある場所ならどこにでも生息しており、水月苑にもしばしばやってきてはわかさぎ姫と遊んだり、或いはわかさぎ姫『で』遊んだりして楽しんでいる。

 そんな陽気な彼女たちは、弾幕ごっこを概ね遊びのひとつとして理解している。夏の水鉄砲選手権、冬の雪合戦大会と似たような認識なわけだ。よって弾幕ごっこを決闘として真剣に考える者たちと比べれば、腕前など言うに及ばず、こと『強さ』という視点から評価すれば、妖精たちが今の幻想郷でもか弱い存在であるのは変わっていない。

 が。

 幻想郷はどこもかしこも自然が豊かな土地である。自然が豊かであるということは、それだけ緑の化身である妖精の数が多く、しかもどいつもこいつも元気いっぱいということである。妖精はか弱い存在だが、それ故に仲間意識が一層堅く、みんな集まって家族同然に仲良く生活しているのだ。

 つまり、どういうことかといえば。

 

「それ行け――――――――――――っ!!」

「「「とりゃあ――――――――――――っ!!」」」

「「ん゛あ゛あ――――――――――――ッ!?」」

 

 星たちが香霖堂で宝塔を買い戻すより、少しばかり遡った頃。チルノ率いるチビ妖精大軍団の圧倒的な数の暴力で、はたてとにとりがボッコボコにやられていた。

 無論はたては天狗、にとりは河童という、幻想界隈で一大勢力を築くいっぱしの有名妖怪である。普通であれば、妖精相手に(おく)れを取る道理などまずありはしない。ということはつまり目の前の光景が普通ではないわけで、何十匹にもなる妖精の大群からドーム状に包囲されて一斉掃射を叩き込まれれば、いくら天狗や河童といえどそりゃあ断末魔を上げる他ないのだ。

 湖に立ち込める霧を掻き分け、月見がようやくチルノたちの姿を捉えた瞬間の出来事だった。大妖精に急かされつつ水月苑からまっすぐ飛んできたのだが、どうやらほんの一足だけ遅かったらしい。

 

「……あー、」

「チ、チルノちゃんのばかぁ……」

 

 月見は間延びした呻きとともに肩を落とし、大妖精は激しい頭痛に頭を抱えた。

 或いは水月苑で少女たちの馬鹿騒ぎに巻き込まれていなければ、間一髪で間に合っていたのかもしれない。しかし彼女たちは単に年末の楽しいひと時を過ごしていただけであり、しかも月見の帰りを心から喜んでくれていたのだから悪くは言えない。畢竟は天狗と河童を焚きつけておきながら、こういった事態をまったく予想できていなかった月見たちの不覚だ。唯一、月見の後ろをついてきていた咲夜だけが、

 

「あいかわらず、妖精は元気ですねえ」

 

 と、日頃からこの湖の畔で生活しているだけあって、随分あっさりとした感想であった。

 結局、咲夜にはお手伝いをお願いした。フランからどんな叱咤激励を受けたのかは不明だが、月見が準備をし終えた頃にやってきて、一緒に行きます、お手伝いさせてくださいと言い出して譲らなかったからだ。咲夜を連れて行って困ることはまずないと断言できるので、そこまで言ってくれるならと月見も二つ返事で了承した。並々ならぬやる気を見せる彼女の後ろで、フランがうむうむと満足げに頷いていたのが印象的だった。

 さて、目下の問題は始まってしまった妖精大戦争――には到底程遠い小競り合い――をどうするかだ。弾幕の炸裂によって立ち込めた煙の中から、はたてとにとりがくゆる尾を引く這々の体で転がり出し、けほけほ咳き込みながら涙目で、

 

「ちょ、ちょっと待って待ってってば! 話聞いてよ、私いい天狗っ!」

「そうだよ、私もいい河童! あと躱せない弾幕撃っちゃいけませんっ」

 

 聞く耳を持たないチルノは怪獣みたいに吠える。

 

「うっさいうっさい、あたいたちの宝物を持ってこうとしてる時点で極悪よ! 悪い妖怪はせーばいよっ! みんなやっちゃえ――――――――ッ!!」

「「「あちょ――――――――ッ!!」」」

 

 再度チビ妖精の群れから放たれるゲリラ豪雨の弾幕に、にとりが叫んだ通り躱せるような隙間は存在しない。

 ほんの一瞬の取捨選択の差が、はたてとにとりの明暗を分けた。

 

「ぎゃあああああ!? に、にとりガードっ!」

「ちょってめ」

 

 すぐ隣の競争相手をはたては脊髄反射で切り捨て、にとりは二階級特進を果たし英霊となった。要するにはたての盾にされたにとりが犠牲となり、悲鳴もないまま落下して美しい水柱を上げた。亀みたいに巨大なリュックサックを背負っていたせいか、ぶくぶくと沈んで浮かび上がってくる気配もない。

 

「あっ! 仲間を盾にするなんてひどいやつだわ!」

「別に仲間じゃないしむしろ今はライバルだし!」

「そうなの? ライバルを盾に使うなんてズルいやつだわ!」

 

 大妖精と一緒に月見も頭を抱えている。

 

「でも、これでもう盾にできるものはないわよ! 覚悟しなさい!」

「話聞いてってばー!?」

 

 今日も今日とてあたり一面に霧が掛かっているせいで、チルノもはたてもこちらの存在にまったく気がついていない。大妖精が「つつつっ月見さん早くなんとかしないと!」と月見の袖をぐいぐい引っ張り、チビ妖精たちがみるみる数多の弾幕を作り上げ、はたてが「ひいーっ!?」と悲鳴を上げて、咲夜はなぜか身動きひとつせずじーっと月見の横顔を見つめるばかりで、

 そして月見は妖気を飛ばした。

 相手を威嚇するのではなく、己の存在を知らしめるためのごく微小な力の波動である。突然の気配に不意を衝かれたチビ妖精たちが、一匹残らず目を丸くしてぽかんと動きを止めた。まさに引鉄を引かれる寸前だった弾幕が、一気呵成の空気と併せて風船みたいにしぼんで消えていく。新しい敵がやってきたとでも早合点したか、もう勘弁してくださいとばかりの涙目ではたてが振り向き、その先にいるのが月見だと気づいた途端別の意味で半泣きになった。

 

「……あっ! つ、月見様ぁ!」

「はいはい、邪魔するよ」

 

 月見が緩く飛行して彼女たちの間に割って入ると、チビ妖精たちはあーおきつねさまだーと一瞬で(はたて)の存在を忘れ、チルノは水を得た魚よろしく勢いづいて、

 

「あ、つくみだ! よーし、一緒にこの天狗をぶっ飛ばすわよ!」

「チルノちゃんのばかあっ!!」

「むぎゅん!?」

 

 全速力でかっ飛んできた大妖精が、チルノの脳天に鋭いチョップを炸裂させた。いや、それはもはや『チョップ』ではなく『手刀』という字が相応しい、まさに真剣で一刀両断するかの如き閃きである。唸りを上げる職人技に、チビ妖精の誰か一匹が「撲殺よーせー大ちゃんっ」と小声で戦慄(わなな)く。今回はラリアットじゃないんだな、などと月見は大いに余計なことを考えている。

 

「もぉー、どうしてチルノちゃんはそうやってすぐケンカするの!? 乱暴はダメでしょっ!」

「だ、だってこいつらが、あたいたちの宝物をよこせって!」

「月見さんを呼んでくるから待っててって言ったでしょー!?」

 

 どうあれひとたびこの形に持ち込んでしまえば、大妖精ほどチルノを上手く押さえ込んでくれる者もいない。チルノの手綱を大妖精に任せ、月見はやおらはたてを真正面に捉える。はたての視線は明後日の方向を向いていて、ひきつった愛想笑いを一生懸命顔中に貼りつけている。なにもやましいことがなければ、月見の目をまっすぐに見返せるはずだ。それができないということは、残念ながら月見の邪推は的中しているということだ。

 

「まったく……お前たちは次から次へと」

「ぎく。い、いやいやなにも悪いことしてないですよっ? 私は至って友好的に、あなたたちが集めてた物を譲ってほしいのよーって穏やかなコミュニケーションを」

 

 月見の背中から、チルノがはたてを射るように指差し異議を叫ぶ。

 

「うそつき!! あの河童と二人でいきなり迫ってきて、みんなを怖がらせてたでしょ! 泣いてるやつもいたんだからね!」

「ううっ」

 

 周囲のチビ妖精のうち何匹かが、「こわかったー」「顔がこわかったー」と訴えながら月見の背中にひっついてきた。月見の肩にも乗るくらい小さな彼女たちは心もまた幼く、こういうときに嘘は言わないし、言っていたとしても顔にすぐ出るからひと目でわかる。はたてに他意があったかどうかは別としても、妖怪の一大勢力である天狗と河童から突然同時に詰め寄られたのが、か弱い妖精たちにとってちょっとした恐怖体験だったのは間違いなさそうだ。

 これ以上の言い逃れは不可能と察したはたてが、しおしおと縮って降参した。

 

「ご、ごめんなさい……にとりに負けたくなくて、つい……」

「やる気充分で捜してくれてるのは嬉しいけど、一旦ストップだ。これじゃあ争っているうちに日が暮れてしまうよ」

「はぁい……」

 

 月見は大きめに二度両手を叩く。

 

「さあ、弾幕ごっこはおしまいだ。みんな、最近熱心に集めてるっていう宝物について聞かせてくれないか」

「なに、あんたもあたいたちの宝物を狙ってるの!? よーしみんな、こうなったら天狗もこいつもみんなまとめて」

「チ ル ノ ちゃ ん ?」

「な、なんでもないです……」

 

 幻想郷の妖精最強は間違いなく大妖精なのだと思う。

 いつの間にか月見の肩の後ろで、咲夜が影のように控えていた。メイドとして全身に刻み込まれた職業意識がそうさせるのか、自分はなにをすればいいのかと月見の指示を待ちわびている風に見える。なにかあったかなと月見が考えると、すかさず咲夜の方から先んじて、

 

「ところで月見様、湖に落ちた河童はどうされますか?」

「……」

 

 忘れてた。

 月見は眼下を確認するも、当然ながら水面ににとりの姿はなく、ぷくぷくと物寂しいあぶくが波紋を広げるのみである。水とともに生きる河童なら放置していても命の危険こそなかろうが、かといって本当にほったらかしにするのもどうなのかと良心がそっと疑問を投げかけてくる。

 引き上げるべきではある。引き上げるべきではあるのだ。それは月見もわかっているのだ。

 仕事を見つけた咲夜が嬉しそうに、

 

「では、あの河童は私が介抱いたしますね」

「……どうやって?」

「え?」

「介抱するのはいいんだが……どうやって湖から引き上げるんだ?」

「どうといっても、」

 

 月見の問いがいまひとつ理解できない咲夜は湖面を見て、何事か答えようとした瞬間口を噤んで沈黙した。月見に問われてはじめて、介抱する以前の大問題に思い至ったようだった。

 目を回したにとりは湖の底に沈んでいる。だから普通に考えれば、誰かが寒中水泳を敢行して直接引き上げる以外に助ける方法はない。

 肌も震える真冬のさなか、恐らくは死ぬほど冷たいであろう水の中で。

 そんな、某当たって玉砕な付喪神じゃああるまいし。

 

「……」

 

 しばし黙考した咲夜は小さく首を傾げて、うっかりしていた自分を誤魔化すように、

 

「えーと……根性?」

「いやいや、それだったら私がやるよ」

「で、ですが、それでは私のやることがありません」

 

 でも根性はないだろう、と月見は思うのだ。心頭滅却すればなんとやらと言葉にするのは簡単だが、人が人である以上、生きとし生けるひとつの生命である以上、根性などではどうやっても克服できない限界というものが存在する。燃え盛る火に触れば当然火傷をするし、冷水に浸かって体温が下がれば当然心身に異常を来す。咲夜は普通の人間らしからぬほど優秀な少女だが、それでも体はあくまで普通の人間なのだ。ましてや、今の月見はレミリアたちから咲夜を預かっている身。もしこれで風邪でも引かせたら、特にレミリアからは一体どれほど激しい叱責を喰らうことか。

 せめてにとり以外にも、河童の誰かがいてくれればよかったのだけれど。

 はたてが精一杯知らん顔をしている。

 

「……はたて」

「ぎくっ。あ、あの、確かに私のせいではあるんですけど、でも寒中水泳は勘弁してくださいお願いします死んじゃいます!」

 

 まあ、そりゃあそうだ。

 もしかするとチルノなら大丈夫ではないかと閃くも、小さく非力な彼女に河童一匹を湖の底から引っ張りあげろと頼むのも酷な話だし、そもそも「なんであたいがそんなことしなきゃなんないのよ!」と憤慨されるに決まっている。咲夜はダメ、はたては断固拒否、チルノは論外、大妖精も言わずもがなとなれば。

 

「……よし」

 

 あぶくを見れば、にとりがどこに沈んでいるかは容易に見当がつく。

 月見は妖術で尻尾を伸ばし、腹を括って湖の中に突っ込んだ。

 

「つ、月見様?」

「つ」

 

 死ぬというのは大袈裟にせよ、毛が一本残らずチリチリになって消し飛びそうな冷たさに思わず固い声がこぼれる。咲夜に任せなくて正解だった。人間がこの水で寒中水泳などしようものなら、次の日は間違いなく熱を出してベッドの上だろう。

 岩とも水底とも違う固形物を見つけたので、尻尾を絡めて引き上げてみると、

 

「……うぎゅぅ」

 

 ぐるぐるおめめで気絶したにとりの、見るも哀れな一本釣りであった。

 そのまま尻尾を更に伸ばして、畔の草の上に寝かせてやる。妖術を解き、びしょ濡れの尻尾を元の長さに戻す。

 

「ふう。じゃあ咲夜、あとは頼んだよ」

「……」

 

 しかし咲夜はまったく反応せず、何事か真剣な形相で月見の尻尾を睨みつけている。

 

「……咲夜? どうかしたかい」

「……」

 

 やはり返事はない。月見は首を傾げつつも、ひとまずびしょびしょな尻尾の水気を三度ほど振って払い、

 

「月見様」

「ん?」

 

 目を戻すと、咲夜が両腕にタオルの山を抱えていた。彼女とも半年以上の付き合いになるので、一瞬の出来事にこれといって驚くこともなく、ああ時間を止めて紅魔館から取ってきたんだな、と月見は自然と納得した。

 

「ありがとう。じゃあそれでにとりを、」

 

 とんでもない、と咲夜は血相を変えて月見の言葉を遮る。

 

「月見様の尻尾を拭くのが先です! びしょ濡れではないですかっ」

「ん? それはそうだけど、まずはにとりを」

「彼女は別に河童なので平気でしょう。それより月見様です、体調を崩されたらどうするのですか!」

「いや、私も妖怪だからこのくらい」

「どうするのですかっ」

 

 梃子でも動かない本気(マジ)の目をしている。謎の勢いに月見はやや面食らいつつ、

 

「……尻尾は自分で拭けるから、とにかくにとりを」

「ねえ、天狗さん」

「はひっ!?」

 

 すると咲夜が戦法を変えた。説得のターゲットをいきなりはたてに変え、月見と話をするときとは明らかに違う低い声音で微笑むと、

 

「あの河童はあなたの身代わりになって沈んだんだから、あなたが介抱するべきよね? はいタオル」

「……、」

「ね?」

 

 はたては青い顔で震え上がっている。そういえば彼女は、かつて月見の命を狙う刺客だと珍妙な勘違いをされていた頃、咲夜と妖夢と鈴仙の三人組に追いかけられてひどい目を見たのだったか。曰く、中でも咲夜が一番しつこく冗談抜きだったらしい。

 咲夜は氷の微笑を楚々と深め、

 

「ねえ、天狗さん。あなたもそう思うでしょう?」

「は、はいっ! わかりました、私が介抱してきます!」

 

 問答無用であった。軍隊顔負けの鋭い敬礼を決め、タオルを受け取ったはたてが逃げるようににとりの方へすっ飛んでいく。大慌ての背中をひとしきり見送って、咲夜はなんともわざとらしく困った顔でため息をつく。

 

「ああ、なんということでしょう。私の仕事がなくなってしまいました……」

「……」

 

 月見へ振り向き、心躍るように言葉尻を弾ませ、

 

「というわけで月見様、尻尾をお拭きしますねっ」

「……わかった。頼んだよ」

 

 咲夜がなぜそこまでやる気満々なのかはさておき、月見としても意地を張るようなところではないし、今はそっちに時間を取られている場合でもないので、いっそ好きにさせた方がよいと判断する。

 

「じゃあ、そのへんに座って話をしようか」

 

 チルノがぷんぷん怒り出し、

 

「なに勝手に話を進めてるのよ! どうせあたいの宝物を持ってくつもりなんでしょ、話なんて聞いてやらないんだから!」

「ところで今日は金平糖を持ってきていてね」

「仕方ないわね、話くらいは聞いてやろうじゃない!」

 

 屋敷に金平糖が残っていてよかった。昔から抜群に日持ちがするお菓子として知られている七色の欠片は、月見が妖精を手懐ける際の必須アイテムである。瞬く間に熱狂したチビ妖精たちが、こんぺーとー!と歓声を上げながら、月見の背中やら腰やら頭やらに全身で飛びついてくる。

 

「ああもうひっつくな。ええい顔はやめろ顔は」

 

 耳元でチビ妖精たちがきゃーきゃー騒ぐせいで、月見はまったく気づかなかった。畔へ下りる己に向けて、はたての携帯がさりげなくシャッターを切っていたのだと。

 このときちゃっかり撮られた一枚の写真は、「今週の月見様」と題して花果子念報の片隅を飾ることになるのであるが。

 もちろん月見は、最近の花果子念報がそんな怪しいコーナーが始めていることすら、知らないのである。

 

 

 

 

 

 月見がチルノたちに飛倉の破片について説明している間、咲夜はなんかもうめちゃくちゃ楽しそうだった。ただ月見の尻尾をタオルで拭くだけのことが、一体どうしてそんなにも心躍るものなのか、小さな鼻歌すら口ずさみながら終始ご機嫌にわしゃわしゃしまくっていた。

 

「……なあ、咲夜。もうそろそろ」

「だめですっ」

「いや、もう充分乾」

「だーめーでーすー」

 

 ……本当に楽しそうで、なによりである。ふにふにと緩んだ年相応の笑顔はいっそだらしないくらいで、月見はなお一層、十六夜咲夜という少女の印象を新たな方向へと修正するのだった。

 それにしても、身動きが取れない。尻尾は咲夜に捕まっているし、胡座の上は金平糖を堪能するチビ妖精ズに占領されている。加えて肩にも背中にもこびりつかれているせいで、不自由なく動かせるのは口と両腕くらいしかない。それがあまりに珍妙な光景だったということなのか、ついさっきはたてがやってきて何枚か写真を撮っていった。一体なにに使おうとしているのやら。

 とはいえ、口さえ動かせれば経緯の説明に苦労はないので。

 

「――まあそういうわけで、その木の破片を落とし主が捜していてね」

「なるほど……宙に浮いてるなんて不思議だと思ってましたが、そういうことだったんですね」

「むー」

 

 教えられた事のあらましに、女の子座りの大妖精はしずしずと頷いたが、チルノは唇を尖らせて大いに不満げだった。湖に向けてまっすぐ伸ばした両脚をバタつかせ、

 

「なによぅ、せっかく頑張って集めてたのにー」

「うん。熱心に集めてたお前たちには悪いんだけど、持ち主に返してやってくれないかな。あれはどうしても必要なものなんだ」

「むぅー……」

 

 チルノの反応は芳しくない。もちろん月見も、事情を説明しただけですんなり譲ってもらえるとは思っていない。

 

「タダとは言わないさ。今度、また金平糖でも持ってこよう」

「あたいはお菓子で釣られる安い女じゃないわよ!」

「おや、じゃあ要らないのか」

「要らないとは一言も言ってないわ!」

 

 チビ妖精たちが目を輝かせ、

 

「またこんぺーとーくれるの? じゃあいいよ、あげる!」

「あれ食べられないし、いらない!」

「裏切り者ぉー!!」

 

 チビ妖精たちはみんな単純明快で助かる。一瞬で仲間たちから見放され尚更不機嫌になるチルノを、大妖精が肩に手を添えて宥める。

 

「でもチルノちゃん、返さないとダメだよ。だってこれじゃあ、チルノちゃんが泥棒さんだよ?」

「それは、わかってるけどぉ……」

 

 チルノの葛藤は理解できる。要は霖之助の場合と同じだ。物々交換で手に入れた宝塔を彼がタダでは手放そうとしなかったように、前々から頑張って集めていた宝物を突然すべて譲ってくれと持ちかけられたら、誰だっていい顔なんてできないに決まっている。

 もう少し、カードを切る必要がある。

 

「だいたい、あんたの話もいまいち信用できないわ。空を飛ぶ船ってなによ。あたい知ってるわよ、船は水の上に浮かべるもので、空を飛んだりするものじゃないって」

「うん? なんだ、気づいてなかったのか」

「? なにが」

 

 行動的な彼女のことだから、水月苑に停泊する聖輦船なんてとっくに把握しているものだと思っていた。

 しかし、だとすればちょうどいい。

 

「私の屋敷が見えるところまで行ってご覧。ちょうど、その船が見えるはずだよ」

「ほんとーかしら」

 

 胡乱なチルノに大妖精が口添えする。

 

「本当だよ。月見さんを呼んでくるとき、私も見てきたもん。すごかったよ」

「ふーん?」

 

 チルノが片方の眉を上げた。興味を惹かれたらしくすっくと立ち上がり、

 

「じゃあちょっと見てくるわ! 逃げるんじゃないわよ!」

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 右腕を前に突き出しスーパーマンみたいにすっ飛んでいって、それから彼女は一分ほどで、興奮状態になりながら鼻息荒く戻ってきた。

 

「ちょっと、なによあれ! ほんとに船が空を飛んでるじゃない!」

「だから言ってるだろう。お前たちが集めてたのは、あの船の大事なパーツなんだ」

「なるほど、道理で宙に浮いてたわけね! ねえ、あたいにもあの船見せてよ! 独り占めはズルいわよっ」

 

 悪くない反応だった。実際に空飛ぶ船を目の当たりにしたことで、興味の対象が飛倉の破片から聖輦船に一発変更となったのだ。

 そうだとすれば、こちらとしても切れるカードが増える。

 

「あの船に、乗ってみたいか?」

「乗っていいの!?」

「私は持ち主じゃないからなんとも。でも破片を返してくれたら、持ち主も感謝して、お前たちを船に乗せるくらいはしてくれるかもしれないぞ」

 

 船長の水蜜抜きで勝手に話を進めるのは気が引けるが、背に腹は代えられまい。白蓮の封印を解いたあと、天狗や河童とまとめて適当にそのへんを遊覧飛行してもらえばいいだけだ。たぶん。

 むむっとチルノは思案して、

 

「なるほど、こーかん条件ってことね」

「もぉーチルノちゃん、そもそも落とし物なんだからちゃんと返さなきゃでしょ」

「わ、わかってるわよ」

 

 大妖精の正論にたじろぐもすぐ立ち直り、腕を組んで、えへんと大変偉そうにふんぞり返った。

 

「ま、そういうことなら返してやらないでもないわ! まったく、このチルノ様に感謝するのよっ」

 

 大妖精の虚ろな眼差しが、「ごめんなさいごめんなさいチルノちゃんがおばかでほんっとごめんなさい」と言葉なき謝罪を繰り返している。わんぱく少女の保護者は大変だなあと月見は思う。

 しかし実際、偶然とはいえ、チルノが破片を集めてくれていて助かったのは事実だ。まだ実物を確認したわけではないのでそれ次第だが、ひょっとすると天狗と河童に協力を頼むまでのなかったのかもしれない。

 で、妖精にすっかり出番を奪われそうな天狗と河童であるが。

 

「う、うーん……」

 

 チルノを挟んだ向こう側で、ずっと気絶していたにとりがようやく目を覚ました。両腕を支えにして、のそりと二日酔いの中年みたいな腹這いで起き上がり、

 

「あれ、月見だ……」

「やあ。具合はどうだい」

「具合……?」

 

 妖精の小さな弾幕とはいえ、全身隈なく被弾したせいで記憶が飛んでいるらしい。顔を歪め、こめかみを押さえながら周囲を見回し、そこで彼女は大量の脂汗を浮かべながら後ずさりしているはたてに気づいた。

 

「……なにやってんのあんた」

「え? い、いやー、ええと、にとりが無事でよかったなーもう心配いらないなーって……」

「はあ……? うーん、なにがあったんだっけ……なんか記憶が……」

 

 真実を教えるべきか月見は迷う。或いは、このまま忘れていた方が彼女にとって幸せなのではないか。なにがあったのか思い出したところで、怒り狂ってはたてと弾幕ごっこを始めるだけだろうし、さすがに月見もそこまでは面倒を見切れない。

 もしかしたらこのまま誤魔化せるかも、とはたてが淡い希望を抱き始めたその直後、にとりに気づいたチルノが、

 

「あ、天狗の盾にされたカワイソーな河童じゃん」

「「「……」」」

 

 完璧な説明どうもありがとう。

 真顔になったにとりの体から、ぶわっと暗黒のオーラが噴き出した。

 

「……おーもーいーだーしーたーぞぉー」

 

 幼い少女の外見には到底あるまじき、地獄の底を魔物が這い回るような低音だった。己のさだめを理解したはたてはさめざめ涙を流す。大妖精が「ひえっ」と青くなり、恐れをなしたチビ妖精たちが月見のあちこちに抱きついてくる。咲夜はまったく意に介さず尻尾をわしゃわしゃし、チルノはきょとんと首を傾げている。

 月見は迷いなく決断した。

 

「よし。それじゃあチルノ、お前が集めた破片を一度見せてくれるかな」

「む、しょうがないわね! 言っておくけど、船に乗せてくれるのが条件だからね!」

「あ、あー、じゃあ私も一緒に」

 

 はたての肩をにとりは鷲掴みにし、

 

「はたて? その前にちょっと、私の新しい発明品の実験台になってくれないかなー」

「……きょ、拒否権を」

「へー、あると思ってんだ」

 

 はたてはぷるぷる震えながら月見を見た。月見は気づかないふりをした。

 

「ほら咲夜、もう本当に大丈夫だよ。どうもありがとう」

「え?」

 

 顔を上げた咲夜は、話を聞いていなかったのかぽかんとして周りを見回したが、それでも黒い笑顔のにとりと青い笑顔のはたてからなんとなく察して、

 

「……もうよろしいのですか? まだぜんぜん乾いてないのに……」

「水気は充分取れたし、あとは自然に乾くさ」

「そうですか……」

 

 お気に入りのおもちゃで遊ぶ時間が終わってしまった子どもみたいに、しょんぼり肩を落としながら立ち上がった。

 

「……本当に大丈夫ですか? 紅魔館で暖炉に当たられてはいかがですか? 実は今なら、毛繕いとかもついてきたりするかもしれないんですけど……」

 

 未練たらったらである。まるで最後の抵抗をするように、生乾きな月見の毛並みを両手の手櫛で整えていく。彼女に毛繕いをやらせるとどんなことが起こるのか、まったく好奇心をそそられないわけではないし、状況が状況でなければ頷いていたかもしれないけれど。

 

「時間があるとき、また今度ね」

「わかりました……」

 

 咲夜は大変未練たらったらなまま、大変名残惜しそうに月見の尻尾から手を離した。見るからにしょんぼりしていて月見を良心の呵責が襲う。心の中で首を振ってその罪悪感を追い払い、

 

「じゃあチルノ、案内よろしく」

「じょーとーよ! あたいの動きについてこれるかしらっ」

「素直に『ついてきて』って言えばいいのに……もぉ~……」

 

 元気いっぱい駆け出したチルノの背を、月見はチビ妖精たちをぶら下げたままのんべんだらりと追いかける。「見捨てないでください月見様あああああ」と背後からはたての悲痛な叫びが聞こえたが、月見は有意義に見捨てた。

 

「まあまあはたて。そんな慌てないでさ、ゆっくり私に付き合ってってよ」

「と、とととっところでにとり、今まさにリュックサックから取り出しておられますその発明品って一体なにかなあ! 私すっごく気になるっ!」

「あ、やっぱりー? やっぱり気になっちゃうー?」

「うんうんすごく気になっちゃうー! み、水鉄砲かなにかだよね! そうだよねっ!」

「うん、火炎放射器だよ」

「焼き鳥はいやああああああああああ!?」

 

 それにしてもあの娘、だんだんと操に似てきたのではないか。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 幸せな時間というのは無情に過ぎ去るものだ。

 実際は五分ほど続いていたはずなのだが、咲夜の体感ではほんの一分にも満たない光陰でしかなかった。濡れた月見の尻尾をタオルでわしゃわしゃ拭いてあげるひとときは、それくらい無情に、まさしく光のような速さであっという間に過ぎ去っていってしまった。満ち足りた時間ほど体感が短くなる――そんな不条理な世界を創造した神様が咲夜はとっても憎い。

 けれど、だったらはじめからなにもしない方がよかったかといえば、ぜんぜんそんなことはない。こうしてお手伝いについてきて本当によかった。だって、たとえ体感時間一分未満とはいえ、月見の尻尾を合理的にわしゃわしゃできたのだから。

 仕方がなかったのだ。湖に落ちた河童を助けるため、月見は尻尾を水で濡らしてしまった。であればタオルを持ってきて拭いてやるのがメイドとして当然の務めであり、すなわち咲夜はメイドとして当たり前の職務を全うしたのであり、決して、断じて、月見の尻尾を触ってみたかったなんてちっともさっぱり考えちゃいなかったのである。結果的にはわしゃわしゃせざるを得なかったというだけのことで、決して、断じて、はじめからそれが目的だったわけではないのである。

 うん、仕方ない、仕方ない。

 

 しかしそうはいっても、なかなかもどかしいものではあった。地上へ帰ってきたばかりなのに息つく暇もなく方々(ほうぼう)へ飛び回る月見を、後ろから見つめるだけしかできないというのは。

 水月苑に停泊している空飛ぶ船含め、なにが起こっているのかおおまかな経緯は教えてもらったので、月見が身を粉にするのも仕方のないことだとは思うけれど。地底から息を切らせて戻ってくるなり、まだ日が低いうちから永遠亭を往復し、香霖堂を往復し、今度は霧の湖までやってきては、真冬の凍てつく水に尻尾を濡らして。咲夜が最低限タオルで拭いたとはいえ、そのあともお構いなしに仕事を続け、妖精たちが集めた『飛倉の破片』とやらを確認し、想像以上に数が多いと見るや十一尾を広げ、妖術で風呂敷のような形に変えて破片をすべて包み込み、一人で水月苑まで担ぎ出す有様だった。

 そりゃあ咲夜は、時を止めたり空を飛んだりできるものの、体はあくまで非力な普通の人間でしかないから。片手で持てそうなものから身の丈より大きなものまで、大小様々なパーツの山を運ぶとなれば、役に立てないのはわかっているけれど。無論月見がそう判断したのではなく、人間で女の咲夜よりも妖怪で男の自分がやるべきだという、適材適所の考えなのだってわかっているけれど。

 

「咲夜、あまりむくれないでくれ」

「むくれてなんかないです」

 

 ぷー、とむくれながら咲夜はそう返した。水月苑へ戻る空の道中、咲夜よりやや前を行く月見の横顔は、こんもり膨れたあがった尻尾に隠れてほとんど見えない。地上から見上げれば、人々の目には巨大な風船が空を滑っているように映るだろう。

 尻尾がこんなになるほどの数を妖精が集めていたとは予想外だったらしく、月見はチルノたちを手放しで褒めていた。本当に大助かりだと言っていた。チルノはえへんえへんとふんぞり返って、大妖精はてれてれして、チビ妖精たちはきゃーきゃー月見にひっついたりあちこちを躍り回ったりしていた。

 咲夜がむくれだしたのは、だいたいこのあたりからである。

 だって、ズルいではないか。妖精たちは、あの破片が月見にとって大事なものだと知らなかった。それどころか、なんの破片であるのかすらわかっていなかったのだ。好奇心の赴くまま暇つぶしで集めていただけであり、なのに月見から手放しで感謝され、褒めてもらえる結果となった。まさに棚からぼた餅、濡れ手で粟、海老で鯛を釣るというやつではないか。

 前以てわかっていれば、咲夜だって頑張って集めていたのに。

 いや、別に、褒めてもらえた妖精たちを羨ましく思っているわけではない。今の咲夜は、フランから「ちゃんとお手伝いしてきなさいっ」と送り出された身である。だからちゃんと月見の役に立たなければならないのであり、すなわち妖精たちに活躍の場を奪われてしまったのであり、よってむくれているのは単にそういう意味なのだ。

 断じて、褒めてもらえた妖精たちを羨ましく思っているわけではないのだ。

 

(……はあ)

 

 ……役に立ちたかったなあ。

 ぶんぶん首を振った。

 終わってしまったことは仕方がない。今回はちょっと運が悪かった。だから、不甲斐なかった分はこれから挽回できるように努めればいい。

 具体的には大晦日の夜、水月苑では年越しのスーパー大宴会――命名は伊吹萃香――が予定されている。ここが第一の挽回ポイントだ。当然紅魔館の面々も参加する予定だし、宴会となればメイドの出番である。実はもうすでに八雲藍と手を結び、宴会料理のメニュー開発を着々と進めている咲夜である。

 加えて、己の予想が正しければ。

 

「月見様」

「なんだい」

「もうすぐ大晦日ですが……その、どうでしょう。年越しや新年のご準備などは」

 

 月見は肩の荷が増したようなため息で、

 

「それがぜんぜん。今年は最後の最後で大忙しになりそうだよ」

 

 よし、と咲夜は内心ぐっと拳を握った。やはり予想通りだった。月見は今日やっと地上に戻ってきたばかりなのだから、年越しと新年の準備まではとても手が回っていない。そして、今も手を回す余裕がない。そんなときこそ咲夜の出番である。

 

「では、そのときはお手伝いいたしますね」

「ありがたいけど……いいのか? 自分の屋敷の方だって忙しいだろう」

「大丈夫です。こんなこともあろうかと、余裕を持って進めておりましたので」

 

 月見がいない日々は、例えるなら咲夜の世界からひとつ色が失われたようなものだったが、一方で与えられるものもあった。寂しさを紛らわすため仕事に打ち込んだ結果、紅魔館の年越し、及び新年の準備はもうほとんど終わってしまったのだ。

 きっと、月見の手伝いをしろと神様が言っているのだろう。

 月見は苦笑、

 

「私の手が回らないのはお見通しだったってことか。いやはや、助けてもらってばかりですまないねえ」

「とんでもないです! 月見様は異変を解決したり、お怪我をされてしまったり、大変だったではないですか」

 

 それに、こう言っちゃあなんだが月見一人では手が回らないくらいでちょうどいいのだ。咲夜にとって、水月苑のお手伝いは好きでやっている趣味みたいなものなのだから。咲夜だけでなく、藍も天子も妖夢も幽香もわかさぎ姫も藤千代もその他諸々、水月苑のお手伝いをしている少女はみんなそう思っている。月見が一人でやるなんて言い出したら、絶対に大ブーイングが飛び交うだろう。

 

「月見様が負い目を感じることはありません。みんな好きでやっているのですから」

「……ふふ。本当に、ありがたいことだよ」

 

 息で笑む月見に同じく微笑み、咲夜は年末の水月苑を脳裏に思い描く。年末の大掃除は、咲夜のみならずみんなを巻き込んだ大仕事になるだろう。新年に向けた買い出しや餅つきだって、ひょっとするといろんな少女たちが手伝いに名乗りを上げるかもしれない。咲夜としては、是非ともおせち作りも手伝いたいと思っている。実は少し前から、里で本を集めてこっそり勉強しているのだ。

 

「咲夜」

「はい」

 

 月見に声を掛けられたので、咲夜は素早く思考を切り替える。変わらず咲夜の斜め前を行く月見は、ふっと思ったんだけどね、と前置きをして、

 

「私の字ってどう思う?」

「へ? ……字、ですか」

 

 予想外の問いに咲夜は目を丸くした。

 

「ああ。今日里で、慧音の字を見る機会があってね。教養がにじんだ本当に綺麗な字を書くから、やっぱり字は人を表すんだなあと思って。それでふと、私の字は周りからどう見えてるんだろうとね」

「はあ……」

「ちょうどこのまえ、お前に手紙の返事を書いただろう」

 

 少し、どきりとした。同時に、返事が嬉しすぎてベッドでパタパタしていたところをフランにばっちり見られてしまったという、十六夜咲夜史上最大級の大失態がまざまざと脳裏に甦り、不覚ながら顔が赤くなったのを感じた。

 月見が前を飛んでいるお陰で、命拾いした。

 

「私は、どんな字を書くのかな。下手ではないはずだけど」

「そ、そうですね……」

 

 手で風を送って熱を静めながら、咲夜は少しの間悩んだ。記憶を遡るまでもない。毎晩毎晩宝物のような気持ちで読み返しているのだから、書かれていた文字はもちろん、その文面までしっかりと頭に焼きついている。

 だから悩んだのは、月見の文字をどんな言葉で表現するかということ。

 

「……月見様らしい字だと、思いますよ」

 

 字は人を表す。きっとそうなのだろうと、咲夜も思う。

 

「おおらかな字……というんでしょうか。読んでいて穏やかな心地になれる、素敵な字だと思います」

 

 古くから生きている妖怪の中にはしばしば、漢字なのか平仮名なのか、それどころかどこまでがひとつの文字なのかすらも判別できない、ニョロニョロしたミミズみたいな文字を書く者たちがいる。無論、それがこの国で太古から育まれてきた由緒ある書体なのはわかっているし、書きこなせば立派なステータスになりうるのも承知しているけれど、はっきり言って読めないからやめてほしいと咲夜は常々思っている。

 その点月見の筆は、そんな連中に爪の垢を煎じて飲ませたいくらい洗練されていて達者だ。妙な癖もなくのびやかに、そして優しく穏やかな筆遣いで書かれた文字は、まさに彼という妖怪を的確に表現しているのではなかろうか。

 

「私は、好きですよ。月見様の字」

「おや……なら少なくとも、下手くそではないと安心していいのかな」

「もちろんです。他の妖怪たちにも見習ってほしいくらいですよ。昔ながらの書き方は、私にはちょっと読みづらくて」

「ああ、昔はそうやって書くのが普通だったからね。外の世界でももうすっかり廃れて、特別勉強を積んだ人以外、日本人でも読めないし書けないようになってきているね」

「そうなんですか……」

 

 早く妖怪たちもそうなればいいのに、と相槌を打ちつつ咲夜はふと気になって、

 

「月見様。では私の字は、月見様から見るとどうなのですか?」

 

 字が、人を表すのならば。幻想郷の妖怪で一番おおらかな月見が、同じように優しい字を書くのならば。それは自分の字の印象がそのまま、自分自身の評価につながるということではないか。

 そう考えた途端どうしようもなく不安になってきて、咲夜は今しがたの問いを早速後悔した。紅魔館を縁の下で執り仕切る者として、見苦しい字を書くなどあってはならないと自負してはいるけれど、それでも月見の達者な字と比べてしまえば自信なんて根こそぎ消し飛んでしまう。もし、汚い字だ、なんて思われていたらどうしよう。見苦しい、読み辛いと思われていたら。それがそのまま咲夜自身の評価だ。月見からそんな風に思われているのかもしれないと想像しただけで、もう挫けて立ち直れなくなってしまいそうだったし、目の前が暗くなって真っ逆さまに墜落してしまいそうだった。レミリアに辞表を出して部屋にひきこもりたくなってくる。

 

「咲夜の字か……」

「ぅ……」

 

 まるで、地獄で閻魔様の裁きを待つような時間だった。

 

「そうだね。もちろん綺麗で読み易いけど、意外とかわいらしい字だとも思うよ」

「……そ、そうですか」

 

 下手、汚い、といった言葉が出てこなかったことに、砕けるように安堵して、

 

「って、『意外と』ってなんですかっ」

 

 余計な一言が付け加えられていると気づいて憤慨して、

 

「……か、かわいらしいってなんですか!?」

 

 阿呆みたいな三段階のリアクションになってしまった。

 いや、しかし、想定外すぎる評価だったのだから仕方がない。

 かわいい。

 かわいいって。

 

「初対面の印象があったから、大人びた字を書くんだろうと思ってたんだけどね。小さくて丸っこい、年頃らしい字だったな」

「そ、そそそそそっ、そうですか」

 

 挙動不審な返事をしながら、いやいや落ち着きなさい十六夜咲夜、と咲夜は心の中でぶんぶん首を振った。あくまで字、かわいらしいのは字の話だ。咲夜は未成年なのだから、女の子らしい字を書いたってなにもおかしいことはないしむしろそれが普通であり、よって月見の評価も至って普通であり、そういうわけだからなにを動揺しているのゆっくり落ち着いて深呼吸深呼吸深

 

「私も、咲夜の字は好きだよ」

「…………」

 

 いや、しかし。

 なんというか。

 あくまで字の話、とはいっても。

 字は、人を表すわけで。

 そんな字を、かわいいと、

 好きだと言われたら、

 ちょっと、勘違いしそうになっちゃうわけで。

 

 というか、

 私もさっき、

 月見様の字を、好きだと言ってしまったわけなのですが、

 

「……………………」

 

 全身が、ほっこほこに火照っていく感覚。

 

「――あ、」

 

 頭の中が、ぐるぐると底なしの渦を巻き始める。

 

「あ、ありがとう、ございます……」

「ふふ、お前も字によく人柄が表れてるね。最近は特に」

 

 …………………………………………。

 それは一体、どういう意味で受け取ればいいのかとか、

 

「つ、月見様ぁっ!!」

「うお。なんだどうした」

 

 月見が驚いて振り返ろうとする。咲夜はこんもり膨らんだ彼の尻尾の後ろへ機敏な動きで隠れ、

 

「わ、私、紅魔館に戻りますね! タオルを洗濯しないといけませんのでっ」

「咲夜? どこに隠れて」

「それでは、失礼しますっ!」

 

 月見の返事など聞きもせず、咲夜は全力疾走で逃げた。兎にも角にも、月見に今の顔を見られるのだけは絶対避けねばならなかった。

 まあ鏡があるわけでもなし、どんな表情をしているのかは自分でもよくわからないのだが。

 ほっこほこになった頬から推測するに、どうせロクな顔ではないだろう。

 

「あ、咲夜さんお帰りなさ――って速っ!?」

 

 門番の頭上を高速で通過し、エントランスの扉を撥ね飛ばし、長い長い廊下を音速で駆け抜け、自室の扉をブチ抜き、タオルをそこらへんにぶん投げて咲夜はベッドにダイブした。

 枕に顔を埋め、ばたばたばたばたバタ足をした。そうしてベッドに理不尽な打撃をお見舞いすること二十発、

 

「はあ……」

 

 ぷしー、と熱を蒸気に変えて排出しながら、脱力してベッドに全身を預ける。とろけるようなため息をつく。なにも考えられず十秒ほどぽけーっとする。

 

「はあ…………」

 

 とにかく、忘れよう。お互い発言に深い意味はなかった。咲夜は月見を紅魔館の恩人だと思っているし、月見も何分あの性格であるわけだから、その延長線上の出来事だったのだ。そもそも、あくまで字の話をしていただけであり、字が人を表すとか表さないとかは別の話なのだ。

 そう考えるべきだ。

 わかっている。

 わかって、いる、けれど――。

 

 ――幸せな時間は、あっという間に過ぎ去るものである。

 

 この日の咲夜のゴロゴロタイムは、月見に手紙の返事をもらったときを二十分以上上回る、文句なしの過去最高記録だった。

 

 

 

 

 

 

 

 消し飛ぶような全力疾走で遠ざかっていく咲夜の背を、月見はぽつんと棒立ちで見送る他ない。射命丸文をも唸らせかねないケタ外れの猛スピードを前に、咄嗟に手を伸ばして呼び止めることもできなかった。

 なんだったんだろう。

 タオルを洗濯すると彼女は言っていたが、それでああも派手に吹っ飛ばなければならない道理はない。あの勢いは、恥ずかしい目に遭って耐えきれず逃走するときの妖夢に似ていた気がする。咲夜も意外と年頃らしい一面があるので、決してありえないとは言い切れない。

 もしもあれが咲夜ではなく、妖夢だったとしたら。そう仮定して己の行動を振り返ってみると、

 

「……」

 

 いや、まさか。

 確かに異性への免疫が低い妖夢だったら、たとえ字の話であろうとも「かわいらしい」だの「好きだよ」だの言われたら大ダメージを受けそうだが、まさか咲夜に限ってそんなそんな。

 ……そうだよな?

 そうに決まっている。近頃の咲夜は年相応のお茶目な一面も垣間見えるようになったが、基本的には大人びた少女であり、一人前の従者であり、まだまだ未成熟で半人前な妖夢とは違うのだ。「あくまで字の話なのになんだか自分自身を褒められた気がしてしまい恥ずかしくて逃げた」なんて、まさかまさか。

 そう己を説得して、月見は水月苑への道を再開する。

 ――月見はまだ、十六夜咲夜という少女の評価を修正しきれていない。

 

 

 

 ちなみに月見が水月苑まで戻ってくると、庭の片隅で操がかぐわしい焼き鳥になっていた。

 わかさぎ姫曰く、弾幕ごっこにエキサイトしすぎた結果庭のど真ん中で竜巻を起こしかけてしまい、ブチ切れた幽香と妖夢の阿吽のコンビネーションでボコボコにされたらしい。日本庭園警察の怒りの集中砲火は霊夢や魔理沙をも震え上がらせるほどで、結局勝負自体うやむやになり、操だけが哀れな犠牲となって終結したそうだ。

 椛曰く、あのときの操はめちゃくちゃ恰好悪かったとか。

 

「しくしくしく、なして儂ばっかりこんな……ひどいんじゃよぉ……神様のいじわるぅ……」

「なんというか、お前はほんとに……ダメなやつだよなあ」

「しくしくしく!!」

 

 一応はこいつも、一切おふざけ抜きの本気であれば、ちゃんと天魔の座にふさわしい女傑のはずなのだが――まあ、それをやろうとしないからこその彼女なのであって。

 この駄天魔がカリスマたっぷりに活躍できる日は、未来永劫やってこないに違いない。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

「――藍。今日の夕飯なんだけど、聖輦船のみんなを呼ぼうと思ってね」

「あ、わかりました。大丈夫ですよ、材料はたくさん買っていただきましたので」

「よろしく頼むよ。油揚げ、ぜんぶ使ってくれてもいいから」

「!? い、いいんですか!? ぜんぶ使っていいんですか!?」

「ああ」

「……!!」

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 ――もうぜんぶ、月見さんとナズだけでいいんじゃないかな。

 などと冗談でも口にしようものなら、その瞬間ナズーリンから氷河期の眼差しを送られるだろうが。しかし今日という長い長い一日を乗り越えた所感として、「あれ私ってみんなの足引っ張ってただけじゃ……」とか考えてしまって、寅丸星はどんより雲をまといながらこたつでぬくぬくしているのだった。

 今日一日の自分を、ひとつずつ思い返してみる。

 早とちりとはいえ志弦の誘拐に思いっきり加担し、毘沙門天の力を悪用してしまったのみならず、かの洩矢神から壮絶な怒りを買った。

 宝塔を落とした。重大なことなのでもう一度言うが、宝塔を落とした。

 天狗と河童に破片捜しを手伝ってもらうはずが、「取材させろー!」「改造させろー!」と揉みくちゃにされて事情の説明すらできなかった。

 宝塔を買い戻そうとするもお金がなく、月見に代金を立て替えてもらった。

 宝塔を取り戻したあとは破片捜しに合流するも、山犬の尻尾を踏んでは追いかけ回され、足を滑らせては崖から転げ落ちた。しかも、星だけが破片をひとつも見つけられなかった。

 そんな感じで、本当に散々な一日だったのだ。

 というか、

 

「――ふうん。私がいない間に志弦をねえ……」

「は、はい。本当に、も、申し訳ありませんでした……」

 

 そんな散々な一日は、最後の最後にトドメの一撃が待っていたのだが。

 八坂神奈子である。

 守矢神社の、もう一柱の祭神である。

 洩矢諏訪子とはまた違う意味で、神に関わる身分ならば知らぬ者のいない神である。

 わーい今日一日で洩矢様と八坂様両方からお叱りいただけるなんてすごいことだなーと、星は段々白目を剥き始めている。横の一輪と水蜜も相手の神格にすっかり気圧され、私たちが一から十までぜんぶ悪かったですごめんなさいの完全降伏状態になっている。雲山は綿毛をつけたたんぽぽみたいに小さくなり、ナズーリンは素知らぬ顔をしてお茶をすすっており、ぬえはこたつで丸くなって惰眠を貪っている。

 水月苑の茶の間にて、みんなで八雲藍特製の夕飯を待つ頃合い。遅れて合流した神奈子から、諸々の事情を根掘り葉掘り訊かれている最中であった。

 

「まあ諏訪子も早苗も許してるみたいだから、今更私がとやかくは言わないけどさ」

 

 神奈子は、その神格にふさわしい清澄な神気をまといながら緩く息をつく。その小さな息遣いが星の耳にはよく通る。宵闇の水月苑は昼間とは見違えるほど静かで、時折思い出したように玄関が開いては、温泉を求める少女たちがぱたぱたと風呂場の方へと進んでいく。かすかながら、少女たちの湯を楽しむ笑い声が聞こえる。

 昼間に集まっていたあの元気すぎる少女たちは、一人残らず月見が追い返した。なんでも夕食の席を使って話をしたいことがあり、余計な邪魔はされたくないらしい。宴会をしたい少女たちはみんなぶーぶー言っていたが、それでもちゃんと言われた通りに帰るあたり、幻想郷における月見の立ち位置がよく表れていた気がする。

 

「それで、その聖白蓮とかいうやつは復活させられそうなのかい?」

「は、はい。月見さんをはじめとするたくさんの妖怪方のご協力もあって、問題なく船の修理を進められるまでになりました。ですので、明日には間違いなく」

 

 飛倉の破片は、月見が妖精から取り戻してくれたもの、そして天狗と河童含めみんなで新しく見つけ出したものを合わせ、今日一日だけで充分すぎる数が集まった。あとは修理さえ終わらせてしまえば、聖輦船の機能が完全に復活し、破片に宿る法力を使って魔界へ転移できるようになる。

 やっとこのときがやってきたんだなと、星は筆舌に尽くしがたい感情に駆られる。

 白蓮が『悪魔』と呼ばれたあの日から、後悔しない日は一日だってありはしなかった。白蓮を助けたいと、身がよじれるほど強く強く想っていたのに、すでに神となってしまった己にはそれができなかった。同じ毘沙門天の信徒であるなら、裏切ったたった一人の人間ではなく、裏切られた大勢の人々の味方でなければならなかった。

 白蓮もまた、裏切られた人間の一人だったはずなのに。

 だから、このときのためにずっと修行をやり直していたのだ。もう充分すぎる罰を受けた白蓮が、もう一度太陽の下で笑えるように。みんなでもう一度、笑って暮らしていけるように。

 膝の上の宝塔を、両手できつく握り締める。

 それとほぼタイミングを同じくして、月見が部屋に戻ってきた。途端に諏訪子が飛び跳ね、畳を一生懸命てしてしと叩いた。

 

「あ、月見ーっ! 月見はここ、ここ! 私の隣だよ! ここーっ!」

「はいはい」

 

 言われるがまま月見が諏訪子の隣に腰を下ろすと、彼女はすかさず月見の尻尾を全身で抱き締め、こたつをお布団代わりにしてもそもそと丸くなってしまった。同じく丸くなっているぬえと大変いい勝負だ。早苗が苦笑し、

 

「諏訪子様は、月見さんの尻尾が本当に大好きなんです」

「もふー……」

「そ、そうなんですか」

 

 諏訪子がとろけている。そういえば香霖堂から帰ってきた月見をみんながお出迎えしていたとき、尻尾で締められる萃香を見てなぜか諏訪子がブチ切れていた気がする。紅黒コンビに絡まれていた最中の出来事だったのでうろ覚えだが、あれはひょっとするとこういうことだったのかもしれない。

 星はややコメントに困りながら、

 

「ええと、洩矢様をも虜にする触り心地ということなんですね」

「あげないよ!」

「そもそもお前のじゃないよな?」

「え? なんで?」

「え?」

「え?」

 

 あまり触れない方が月見さんのためかも、と星は悟った。

 

「そ、それで月見さん! なにか、お話したいことがあると仰っていたと思いますがっ」

 

 我ながら、なかなか上手い話題逸らしだったのではなかろうか。途端に月見の表情が神妙なものとなり、頷いたようにもただ吐息しただけのようにも見える、小さく中途半端な返事が返ってきた。

 やや出だしを迷うような間があり、

 

「……志弦のことは、どこまで聞いた?」

 

 その問いが神奈子に向けたものだったのだと、星は実際に神奈子が答えるまでわからなかった。

 

「永遠亭で眠ってるってのは聞いたよ。あとは、そう……こいつらの主人だっていう聖白蓮とかいうのが、志弦の先祖に封印されたかもしれないってこととか」

「……そうか」

 

 今度は、腹を括るような間があった。

 

「――話はふたつある」

 

 神奈子が身にまとっていた神気を解いていく。初対面の星たちに己の神格を誇示するより、皆が月見の話へまっすぐ耳を傾けられるように。夕食の席を使うくらいだからあまり畏まった話ではないのだろうと軽く構えていたが、どうやらとんだ思い違いだったらしい。

 月見の表情は、そんじょそこらの世間話をする顔とは明らかに違う。

 

「確証を取ってきた」

 

 一枚の書簡紙を、テーブルの上に広げる。

 たくさんの名が書かれている。上下段に分かれ、右上の名が『神古秀友』、左下の名が『神古志弦』。それだけで星は、ここに書かれている名が志弦のご先祖様たちなのだと理解した。

 そして月見がこんなものを広げる理由が、たったひとつしかないことも。

 

「――志弦は間違いなく、白蓮を封じた『神古』の子孫だ」

 

 予想できていてなお、己の呼吸が止まったのをはっきりと感じた。

 一輪と水蜜も、ナズーリンと雲山だって、それはきっと同じだっただろう。

 

「人里に、上白沢慧音という半妖がいてね。闇に埋もれた過去を発掘し、また逆に過去を闇に消し去ることもできる、幻想郷の歴史の編纂者だ」

「……なるほど。そういうことか」

 

 ナズーリンが、止まっていた呼気を静かに吐き出した。

 

「調べてくれたわけか。志弦の家系を」

「ああ。ぜんぶつながっていたって、言っていたよ」

 

 上白沢慧音とやらは知らないが、どうやら月見の言葉とナズーリンの反応を見る限り、ここに書かれた名は間違いなく信頼に値するものらしい。

 ならばこの中のどれかが、そうなのだろう。星の考えを肯定するように、月見が連ねられた名のひとつを指差した。

 

「これが、白蓮を封じた『神古』の名」

「……」

 

 ナズーリンが、その名をゆっくりと口ずさむ。

 

「――神古、……しづく、か」

 

 星は、横目で一輪と水蜜を盗み見る。唇どころか指の一本も動かせず、『神古しづく』の名を貫くように見つめている。だが、不穏な気配の乱れは感じない。この期に及んで当時の恨みに囚われるようなわからず屋ではないと、星は水蜜たちを信じている。

 

「そして、もうひとつ」

 

 続けて、月見が指先を紙の右上へ滑らせる。『神古秀友』――並びからして神古しづくより何代も前であろうその名が、一体どうしたのかと思えば。

 

「これが、私の」

 

 誰も、予想なんかしていなかった。

 

「私の。――古い、友人の名だ」

 

 どうして月見が星たちにここまで力を貸してくれるのか、完全な形で理解できた気がした。

 無論、元より月見という妖怪の性格がそうなのだろうし、「白蓮に早く会いたい気持ちは同じ」という言葉も本心だろう。けれど彼が本当に見据えていたのは、星たちでも白蓮でも、それどころか志弦でもなく、この『神古秀友』という遠い遠い友人の名だったのだ。

 特別、驚くような反応があったわけではない。ただ、早苗が咄嗟に顔を上げたくらいで。一輪と水蜜はなにも言えず、ナズーリンと神奈子はなにも言わず、しばし部屋を透明な静謐だけが満たしていた。

 

「……不思議な話だね」

 

 ナズーリンが、紙面に目を落としたままほんのわずかに口端をよじった。

 

「誰かが裏で手を引いたわけじゃない。志弦が幻想入りしたのはただの偶然で、無縁塚で消えかけていた彼女を私が助けたのもただの気まぐれなんだ。こんな……こんなことが、普通ありえるかい?」

 

 ありえない。だからきっと、ただの偶然でも神の気まぐれでもないのだ。

 星たちがこうして、幻想郷という場所で出会ったのは。意味のない偶然ではなく、意味のある必然なのかもしれないと。

 

「そうか。はじめ志弦を見殺しにしようとしたとき、君の顔が浮かんだのは。もしかしたら、そういうことだったのかもしれないね。ああもう、まったくなんて運命の悪戯だ」

 

 千年――妖怪にとっても決して短くはなく、人間にとってはまさに久遠にも等しい時間であるはずだった。何億という生命であふれかえるこの世界の、いつ途切れたっておかしくないか細い糸が、ずっとずっとつながって、久遠の時を超えて、こうしていま星たちの目の前で交わっている。それが一体どれほどの奇跡であるのか、星には形容の言葉すら出すことができない。

 

「なるほどねえ、そういうことか」

 

 神奈子が愉快げに喉を鳴らし、

 

「ただの外来人にしちゃあ、やけに気にかけてるなーって思ってたんだよ。……だからだったんだね」

「……ああ」

「そう……だったん、ですね」

 

 早苗がそう呟いたきり、部屋に沈黙が広がっていく。聞こえるのはただ、温泉客のかすかな笑い声と、ぬえの呑気な寝息だけ。

 苦しい静寂ではない。

 千年の時を超えて再びつながろうとしている(えにし)に、誰もが心を馳せていたのだと思う。

 

「……それで、慧音から話を聞いたとき、ふと思い出したことがあってね。今回の件に関係があるかもしれないから、夕飯を待つ片手間に聞いてもらいたいんだ」

 

 ああそうだった、と星は思い出す。そういえば、月見の話はふたつあるのだった。ひとつ目から大層衝撃的な話をされたお陰で、すっかり忘れてしまっていた。

 しかし、月見の話しぶりからするとどうやらこちらの方が本題らしい。これ以上、一体なにがあるというのだろう。いま語られた『神古』のあとに取っておくほど、重大な話なんて――

 

「なに、大したことじゃないさ。ほんの思い出話だよ」

 

 思わず身構える星にそう微笑んで、月見は優しく語り出す。

 

「不思議な髪の色をした、若い僧侶と出会った話だ」

「――え、」

 

 それって、

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 ――誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

 

 篠突(しのつ)く雨があがったあとの、夏も近づく湿った山の中だった。月見は笠を被り、蓑をまとって、枝葉から落ちてくる雫を防ぎながら、拾った木の棒を杖代わりにしてぬかるんだ山道を登っていた。

 簡単な変化の術で尻尾と耳を隠し、髪の色を変えている。傍目からには、どこでも見かける平凡な旅人のように映るだろう。

 今はもう、山を歩くのにも人目を気にしなければならない時代となった。昔は、山といえば人が無闇に立ち入ることを許さない、神々や妖怪たちの世界だったのだ。それが、大陸の向こうから仏教――とりわけ密教が伝わってからはやや事情が変わり、山は修行僧が己を鍛えるための霊場として捉えられるようになった。山を神聖視し、その懐の中で研鑽することによって超自然的な力が会得できると考え、危険も顧みず足を踏み入れる者が次々と現れた。やがて人間たちは山間に寺院を建てるようになり、ひとつ、またひとつと開山が行われていく中で、いつしか山は人間の生活圏の一部へと変わり始めていった。

 まったくもって、人間の進化は留まるところを知らない。

 山は、人間にとっては間違いなく異界である。如何な理由があれ立ち入る人間が増えれば増えるだけ、その恐ろしさを身を以て知る数も増えていく。ひとたび日が落ちれば一寸先も見えぬ闇の世界、妖怪ないしは獣に襲われる者、滑落する者、遭難する者。命を落とす者だって決して少なくないのに、人間たちは片時もその歩みを止めようとしない。

 

「――おっと」

 

 思考に耽っていたら、ぬかるみに踏み込みかけた。月見は一歩後ろに下がり、なるべく落ち葉が積もった脇の方へと軌道修正する。

 やけに整備された獣道だった。人の目線から見て、邪魔になる草や木の枝がちょうどよく取り払われている。恐らく何人かの修行僧、山伏たちが、往来する中で手を入れていったものなのだろう。ここは人間たちの中では霊山という位置づけで、行脚のため入山する者も少なくないと聞く。

 麓からどれほど歩いたかも曖昧になる山奥なのに。こうやって人間たちはどんどん深山幽谷に入り込み、開拓して、活動範囲をみるみると広げてきている。そう遠くない未来、山はすでに妖怪の世界ではなく、人間の住処の一部になってしまっているのかもしれない。

 一息ついた。

 

「ふう。いっそ、ひと思いに飛んでいければいいんだけど」

 

 しかし、人に見つかって騒がれてもつまらない。この山のどこかでひっそりと暮らしている、他の妖怪たちにも迷惑が掛かろう。

 まだ朝日が低いうちから歩き詰めだったので、休憩しようと思った。獣道の左手に目を向けると、木々が茂る緩い傾斜を下った先に川辺が広がっている。石とは呼び難い無骨な岩が一面に散らばり、向かいには剥き出しの高い岩場がそそり立つ風流な川辺である。もっともそこを流れる川は先の大雨で水嵩が増し、清流から濁流へと姿を変えて暴れ狂っていたけれど。

 滝を横倒しで見ているような、ほとんど鉄砲水と大差ない勢いだった。汗も掻いているので少し涼みたいところなのだが、さすがに近寄らない方がよさそうで――

 

「――は、」

 

 気づいた。

 人が、倒れていた。

 岩と流れの狭間に引っかかり、濁流の体半分を突っ込んだ――すなわち、濁流の中から命からがら這い出した恰好で。

 

「……おいおい」

 

 はじめて見る光景では、ない。

 山が人間たちの修行の場となってからは、目にする折も増えた。川に落ちて流された修行僧。緩んだ地面にやられて滑落したのか、それとも足場ごと崩落に巻き込まれたのか。

 体の半分が濁流に呑まれているにもかかわらず、倒れた僧はぴくりとも動かない。気を失っているのか、或いはもう手遅れなのか。

 どうあれ、見過ごせまい。誰にも見られていないことを祈りつつ、月見は一息で跳躍した。木々を飛び越え、術で勢いを制御しながら慎重に岸へ降り立つ。

 若い僧だった。恐らくはまだ成人していない。子どもの背丈は月見より頭ふたつ分ほど低く、水を吸ったまま広がった裳付衣(もつけごろも)のせいでわかりづらいが、肉付きも山修行には早すぎるほど華奢だ。まるで女のようだったし、女なのかもしれないと月見は思った。

 そして、なにより目を惹かれて已まないのは、髪の色。根元の周りは紫だが、先にかけて茶とも金とも取れる色へと階調的に変化してゆくという、なんとも不可思議な色合いをしている。元々髪を染めていたものが、濁流に身を揉まれる中で一部流れ落ちたのか。或いは、若くして非常に強い法力を備えた僧侶なのかもしれない。人並み外れて高い能力を持つ人間は、それを証明するように、体のどこかに常人ならざる特徴が表れることもあると聞く。

 だが、この僧が男なのか女なのかも、髪が地毛なのかどうかも今はどうだっていいことだ。

 息がある。

 まだ間に合う。

 月見は一秒で決断した。僧を水から引っ張り出し、体をもぐりこませて抱えあげる。思っていたよりも随分と軽い、本当にまだ成人にも満たない子どもだった。

 立ち上がろうとしたとき、僧の衣から巾着が落ちたのに気づいた。

 この僧の、名前だろうか。紺の生地の片隅には、手作りの流麗な刺繍で。

 

 ――「命蓮」と、刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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