銀の狐と幻想の少女たち   作:雨宮雪色

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第73話 「茜空より、赤く眩しく」

 

 

 

 

 

 八雲紫という少女のことを、誤解している者たちは随分と多い。

 幻想郷を管理する神の如き存在であること、鬼子母神と双璧を成す幻想郷最強の大妖怪であること、境界を意のままに操る規格外の能力を持っていること、ぬらりくらりと底が知れない不気味な性格――というキャラ作り――をしていること等々、理由はいくつかあるけれど、ともかく八雲紫は強大で恐ろしい妖怪なのだという噂が、幻想郷の一部ではまことしやかに囁かれているらしい。

 荒唐無稽もいいところだと月見は思う。

 噂を鵜呑みにしている連中たちに、見せてやりたい。

 

「――月見っ、お出掛けしましょっ!」

「ぐふっ」

 

 なんの前触れもなくスキマで天井から降ってきて、満面の笑顔でボディプレスしてくる少女の、一体どこが恐ろしい大妖怪なのか。

 噂とはまこと、当てにならないものである。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

「……ああ、前に言ってたやつだね」

「そうそう!」

 

 もう先月のことだ。外からの荷物運びを手伝ってもらう代わりに、一緒に街を歩いて遊ぶという約束を紫と交わしたのは。

 時の流れとは不思議なもので、未来を見据えるとものすごく長く感じるくせに、過去を振り返った途端にものすごく短く感じる。一時間も一日も、一週間も一ヶ月も一年も、あとになってから振り返ればみな等しく一瞬だ。要するにいつまでも続くと思われた真夏日がいつの間にか和らいできているのは、それとまったく同じ理屈なのだ。

 日中はまだまだ暑いけれど、夜は随分と過ごしやすくなった。暦の上でも、夏はもう終盤に差し掛かっている。この調子ならきっと、ふと気がついた時には紅葉が始まっているのだろう。

 だからだろうか。月見を押し倒し、腹の上で馬乗りになって、紫は遊園地へ行く直前の子どもみたいにはしゃいでいた。

 

「向こう、今日はかなり涼しいみたいなの! 夏としては異例なくらいだって!」

「へえ……それはなによりだね」

「でしょでしょ!? だからほらっ、お出掛けしましょ!」

 

 きゃいきゃいとはしゃぐのは構わないのだれど、人の腹の上でゆさゆさ動くのは、息がしづらくなるからやめてほしい。

 

「わかった、わかったからまずは降りてくれ。また増えたんじゃないか?」

「ふぎゃん!?」

 

 破邪の言霊を喰らった紫が、胸を押さえて月見の腹の上から転げ落ちるという芸人ばりのリアクションをかました。彼女は倒れ伏したまま起き上がることもできず、青白い顔で息も絶え絶えになりながら、

 

「ちょ、ちょっとだけ……本当にちょっとだけだから……ふ、太ってなんかないもん……」

「……そうか」

 

『なにが』増えたのかはまだ一言も言ってないのだが、まあ、敢えてまで口にはすまい。体を起こし、乱れた衣服を整える。

 先月約束を交わした瞬間から、紫はこの時をずっと心待ちにしていた。毎日にこにこしながら予定を考え、わくわくしながら現地の下調べをし、そわそわしながら涼しくなる時を待ち続けていた。藍から聞いた話では、このところ外の天気予報を確認しては、ため息をつくばかりの毎日だったらしい。

 今までの期待が無駄にならないよう、今日は思いっきり楽しんでほしいものだと思う。無論、月見も最大限努力はする。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 紫の立ち直りは早かった。

 

「おやつの回数を二回に減らせば――あっ、大丈夫だった!? よぅし、だったら早速行きましょう!」

 

 おやつは一日一回じゃないのかという至極当然の疑問を、思い浮かばなかったことにしつつ。

 

「じゃ、まずは私のお屋敷で準備しましょ! どんなお洋服がいいかしらー。月見も意見聞かせてね!」

「はいはい」

 

 出掛ける前に、手早く戸締まりだけは確認する。居間に戻ってくると、スキマを開いて待ちきれない紫がそわそわと体を揺らしている。

 ぎゅっと、手を握られた。

 

「今日は、いっぱい楽しみましょうねっ!」

「……ああ」

 

 弾けんばかりの笑顔を見せつけられて、月見の頬も自然と緩んだ。月見でなければコロッとやられてしまいそうな、それはそれは愛くるしくも美しい笑顔だった。

 まったく、本当に、八雲紫は恐ろしいと思い込んでいる連中に見せてやりたい。

 たとえ比類なき強大な能力を持っていても。妖怪の賢者と呼び畏れられる大妖怪でも。幻想郷を創世し、そしてその行く先を静かに見守る、ある種、神とも呼べる存在であったとしても。

 それでも彼女は、よく怒って、よく泣いて、よく驚いて、よく笑う。

 どこにでもいる、ごくごく普通の女の子なのだと。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 ほぼ物置き同然の扱いなのである。よって生活のしやすさよりも安さと広さを重視した、今では数も減った古風漂うボロアパートなのである。

 紫の屋敷で支度を終えた月見はまず、閑静な住宅街という使い古された表現がよく似合う場所へとやってきていた。都市部から外れ、更に郊外からも追いやられるように押し出されたそこは、二階建て以上に高い建物がほとんどなく、道幅は大型車お断りと言わんばかりに狭く、平日の昼間とはいえ出歩く人も見かけない、大都市の傍にあるとはとても思えないほどの田舎なのだった。

 月見が借りているボロアパートは、そのひっそりとした住宅街の中にひっそりと鎮座している。果たして築何十年の建物だったか、長い年月を掛けて綺麗なベージュ色だったはずの外壁は黒ずみ、所々には不穏なヒビも走っている。屋根の近くにペイントされたアパートの名は、風雨に晒され擦り切れて半分以上が判読不能。二階へと上がる鉄骨の階段はあちこちが茶色に腐食し、登り降りの際には命綱がほしくなるような有様である。

 アパートとしての生涯を終えたら、すぐさまお化け屋敷として再出発できそうな――そのいかにもな外観に、紫は腰が引けた苦笑いをしていた。

 

「……月見、こんなところで生活してたの?」

 

 いつも被っているお気に入りの帽子を外し、淡い水色のワンピースで涼やかに着飾っている。夏の日差しを白の日傘で凌いでなお、なびく金髪はきめ細かに輝く美しさで、彼女自身の器量のよさもあいまって、どこか高貴な家系のお嬢様のようでもあった。

 いつもと違う恰好をしているからこそ改めて思うのだが、見た目だけはとんでもない美少女なのだ。見た目だけは。

 一方で月見は人化の法を使用し、ポロシャツにジーンズという、極めて庶民的でラフな出で立ちである。「カジュアルな月見も見てみたい!」という紫たってのご要望だ。外見自体は若いので似合っていないということはないはずだが、御年ウン千歳のお年寄りには少々くすぐったいコーディネートだった。

 しばらく見ぬ間にまた一層年季を増した気がするアパートの威容を仰ぎながら、答える。

 

「寝泊まりはあまりしたことないけど……でも最近リフォームしたらしくて、部屋は意外とまともだよ」

 

 見た目が廃墟同然と侮るなかれ、部屋は清潔感あふれる純洋風で、家賃は脅威の月々二万円だ。

 つまるところ、ワケあり物件なのだ。

 

「わ、ワケあり……? おばけが出るの!?」

「いや、私が祓ったから出ないよ」

 

 元々は外見はもちろん中身もボロなアパートだったが、十年近く前、ちょうど月見が借りている部屋で自殺者が出てしまい、その影響でリフォームを行ったと聞いている。内側をあらかた改装した時点で資金が底をついてしまい、外は手付かずとなってしまったとも。以来、問題の部屋ではなにかと心霊現象が絶えず、家賃の安さに引かれた学生やOLがやってきては逃げ出すを繰り返し、遂に月々二万円まで引き下げられることとなったらしい。

 もちろん、月見は心霊現象など気にしない。そもそも月見自身が人ではない。なので入居初日に髪の長い女の幽霊が現れても、これといって動じることなく、御札でぺしぺし叩いてお帰りいただいた。なので、今はただ家賃が安いだけの普通の部屋だ。

 

「部屋は二階の角部屋だよ」

「はーい」

 

 事前に不動産屋に立ち寄って、預けていた鍵は回収している。

 茶色く錆び朽ちた階段を、耳障りなほどギシギシ軋らせながら登っていく。後ろの方から、「大丈夫、月見が大丈夫なら大丈夫……私は重くない、重くない……」と真剣な自己暗示が聞こえてくるがとりあえず無視する。階段を登り切ったところにある照明の周りでは、夏の風物詩とでもいうべきか、さんざ張り巡らされた蜘蛛の巣がちょっとしたトンネルを形成していた。どの巣にも飛んで火に入った夏の虫がびっしりとくっついており、男の月見が見ても寒気がするグロテスクな様相を呈している。都心から離れた、自然に近い田舎ならではの光景だろう。

 階段を無事登り切った紫が、ほっと胸を撫で下ろす間もなく悲鳴をあげて縮こまった。

 

「まっ、まままっ待って月見、この蜘蛛の巣っ、蜘蛛っ、くくくっくもくもっ」

「……お前、蜘蛛なんか怖がるなって」

 

 幻想郷最強の大妖怪が、蜘蛛に負ける貴重な瞬間であった。

 

「ち、ちがっ、蜘蛛が怖いんじゃなくて、蜘蛛の巣がダメなのおっ! こんなのがもし髪とか顔にでもくっついちゃったらっ、……あああああっ想像しちゃったー!?」

 

 いやー!? と全身鳥肌でぶるぶる震えている紫を、放置するべきかどうかで少々真剣に悩む。しかし、今日は彼女に楽しんでもらうための一日であったことを思い出し、

 

「ほら、手。私がついてるから、大丈夫だって」

 

 らしくはないかもしれないけれど、今日一日くらいは優しくしてもいいだろう。そう思って差し出した月見の右手を見て、紫の瞳から感動の涙があふれ出した。

 

「つ、月見っ……! ありがとうっ!」

「あ、こら」

 

 紫は月見の手を取るどころか腰めがけて抱きついてくる。月見の脇腹にほっぺたをぎゅうぎゅう密着させ、見るも情けないへっぴり腰で、

 

「ぜっ、ぜぜぜっ絶対に離さないでよ!? 先行かないでよ!? み、見捨てられたら泣いちゃうからね!?」

「……はいはい」

 

 腰に幻想郷最強の大妖怪をくっつけ、月見は頭上に気をつけながらゆっくりと歩を進める。といっても蜘蛛の巣は天井近くにあるから、背伸びやジャンプでもしない限りは引っかかるはずもないのだ。紫もわかってはいるのだろうが、それでも嫌なものは嫌らしく、首が前だけを見たまま微動だにもしない。

 結局ドアの鍵を開けて中に入るまで、紫は月見の腰にひっつきっぱなしだった。

 

「はい、着いたよ」

「た、たすかったあ……っ!」

 

 玄関をあがってすぐのフローリングに崩れ落ち、はあああああ、と派手な安堵のため息をつく。未だ鳥肌気味な両腕を一生懸命さすって、

 

「信じらんないっ。月見は久し振りに戻ってきたから仕方ないけど、なんで誰もお掃除しないのよっ」

「確かに、これはちょっと壮絶だね」

 

 帰りもまた通らなければいけないのだし、荷物の片付けが終わったら、適当な棒でぱっぱと払った方がよさそうだ。

 ともあれ、およそ半年振りの我が家である。玄関はひと二人が並んで立てる程度の広さで、目の前にはキッチンを兼ねた廊下が伸びている。その先にある扉の先がリビングであり、廊下の途中を曲がったところの扉は水回りにつながっている。リビングは八畳間で、横には引き戸で区切って六畳間とベランダが隣接している。

 リビングは、無数とはいえないまでも、そこそこたくさんのダンボールの山で埋め尽くされていた。主に月見が旅の中で買ったもの、拾ったもの、もらったものが無秩序に突っ込まれている。自由に歩ける面積の方が狭い物置同然の室内を、紫はふむふむと興味深げに見回した。

 

「まともな部屋だろう?」

「うん」

 

 ダンボールが山を作っている以外は、ごくごく普通のアパートの一室だ。あまりにまともすぎて、この部屋で自殺があったという話が根も葉もない創作かと思えるほどである。月見自身、この目で自殺者の霊を見るまでは半信半疑だった。

 紫は月見を置いてリビングを突き進み、引き戸を開けて隣の部屋まで突入していった。なにをやっているのかと思えば、どうやら部屋の間取りを観察しているらしい。

 

「初めて入るアパートの部屋とかって、なんだかすごくわくわくするわよねー」

 

 さもありなん。

 それからも紫は、ベランダに出てみたり水回りを確認したりキッチンを眺めたり。「将来は広いお屋敷で仲睦まじくと思ってたけど、こういう狭いお部屋ってのも意外と……」とかなんとかブツブツ言っているが、月見は気にせず荷物の整理を開始した。

 ひとまず、陶器や書物などすぐに運んでしまって問題ない物と、こちら側の科学技術が使われているため紫の検閲が必要な物とに分別していく。少しすると紫がキッチンの方から戻ってきたので、

 

「スキマを出してもらっていいか? 運べる物から運んでしまおう」

「あ、はーい」

 

 紫は部屋を見回し、

 

「……それじゃあ、押し入れを水月苑の納戸につなげましょうか。一旦、中にしまってるのを全部出しちゃって」

「……ああ、そうか。そういう芸当もできるんだったな、お前」

 

 スキマ経由で幻想郷まで運んでもらえればと思っていたが、必要なかったようだ。よくよく考えてみれば、なるほど、境界を操る彼女なら扉の向こう側を別の空間へつなぐ程度は造作もないことなのかもしれない。

 紫の能力を始めとして、咲夜の時を操る能力、萃香の疎密を操る能力など、応用の利く便利な力というのがつくづく羨ましい月見である。

 

「すごいでしょー」

「ああ。まったく、恐れ入るよ」

 

 素直に褒めたら、えへへー、と紫は大変ご満悦な様子だった。

 押し入れの中身を一度、紫と協力しながらすべて取り出す。布団を引っ張り出した時、紫が顔を埋めて深呼吸していたのは見なかったことにする。空になった押し入れの前で紫がうんうんと唸り、それから勢いよく戸を開け放てば、その先には見慣れた水月苑の納戸が広がっていた。

 

「それじゃあ、張り切って運びましょー! 愛の共同作業ね!」

「はいはい」

 

 荷物はだいぶ量があるが、そこは人間よりも身体能力に秀でた妖怪である。月見はもちろん女性の紫も、まるで空のダンボールを運ぶようにちゃっちゃと動いて、作業は十分も待たずに終了した。

 ちなみにこちら側の科学技術が使われている機械類は、紫がスキマの中にぽいぽいと放り込んでいた。やはり、安易な持ち込みは厳禁らしい。

 

「……そういえばさ、月見」

「ん?」

 

 最後にしまい忘れがないかを確認しているところで、紫がふとしたように言った。

 

「月見ってさ。こっちで生活してる間、お金ってどうやって工面してたの? まさかアルバイトとかしてたわけじゃないでしょ?」

「ああ。それは、私たちが運んだ荷物の中に答えがあったんだけど」

 

 昔とは違って今の御時世は、なにをするにもお金が掛かるものだ。別に一銭もなくたって妖怪の月見はなんとでもできるのだけれど、人間社会で様々な体験を満喫する上では、やはり持っておくに越したことはないものである。

 人間社会の生活で必要な資金を、妖怪の月見がどうやって捻出していたかといえば、

 

「幻想郷を出て間もない頃は、まだ妖怪退治とかしてたかな。妖怪が軒並み幻想郷に移ってってからは、除霊とか。科学技術が発達してそれもやりづらくなってからは、昔に人間たちからもらったりした、今でいう骨董品を売って……かな」

「……ああ、そういうこと。確かに古いお皿とかあったわね」

「私が持ってても、どうせ埃被せるくらいしかできないしね」

 

 骨董品を愛する人のコレクション、或いは資料館、博物館のガラスケースの中など。そういった場所で飾られた方が、彼らも輝きを放つことだろう。

 無論、比較的容易に大金が得られるという魅力があったのも否定はしない。

 

「外で生活する妖怪なんてそんなもんさ。人間と一緒に仕事してたりするのは、どこぞの狸くらいだろう」

「狸?」

「ほら、佐渡の。二ッ岩マミゾウ」

「ああ」

 

 人とともに暮らし、人の助けとなって生きる――かつて月見が『銀山』と名乗っていた時代の姿を、今の社会で体現しているのは彼女くらいだ。化け狸故によく人を驚かして遊んでいるようだが、一方で厄介事の始末を引き受けたり、貧しい者には金銭を貸し与えたりと、妖怪ながら佐渡の人間たちからはよく慕われていると聞いている。

 と、なぜかここで紫の視線が不審げなものに変わる。

 

「月見……一応確認するけど、私に黙ってそいつと仲良くなってたりは……」

「しないよ」

 

 月見は即答し、苦笑した。

 

「だってお前、あいつが狐嫌い中の狐嫌いなのは知ってるだろう? 仲良くなろうとなんかしたら叩き潰されるよ。まあその前に叩き潰すけど」

 

 しかし紫は、疑り深い眼差しを解こうとしない。

 

「わからないわよっ、嫌よ嫌よも好きのうちっていうじゃない! 大体そーいう相手に限って、きっかけひとつで一気に仲良くなっちゃったりするのよ! 月見だって、あんなに仲悪かった文といつの間にか仲良くなってるし!」

「そうか?」

「そうよ! なによっ、この前だって二人仲良く新聞の改善点とか話し合っちゃってまーっ!」

 

 確かに月見が文の新聞を購読し始めてから、紙面の内容についてしばしば意見を求められるようになったのは事実だ。相手を選り好みせず様々な意見を取り込もうとする熱意はさすがだなと感心していたのだが、紫の目にはそんな風に映っていたらしい。

 紫のテンションがどんどん上昇していく。

 

「閻魔様だって、口ではあーだこーだ行ってるけど絶対憎からず思ってるわよ! そうでもなかったら、わざわざ遠くから男の人の家に押しかけて掃除したり料理したりするものですか! なんなのあのツンデレッあざといっ」

「紫、遊ぶ時間がなくなるから先進んでいいか?」

「あ、はーい」

 

『遊ぶ時間』を強調して言ったら、紫の変わり身は一瞬だった。このあたりの扱いやすさは楽でいいよなあと月見は思う。

 

「しまい忘れもなさそうだし、押し入れを元に戻してくれ」

「任せてっ」

 

 紫が押し入れの前でうんうん言っている間に、月見はがらんどうに戻った部屋をぐるりと見回した。ほとんど物置き同然にしか使わなかった愛着のない部屋とはいえ、これで見納めとなれば不思議な寂しさがこみあがってきた。心霊現象の原因は()うの昔に追っ払ったのだから、次の住人からはちゃんと大切に住んでもらえることだろう。

 

「月見、終わったわよー」

「了解。じゃあ不動産屋に戻って……遊ぶのは午後からになりそうだな。昼食はどうする?」

「もちろん食べるわよっ。お洒落なお店にするか、それともこっちならではの『じゃんくふーど』ってやつを食べようか悩んでるんだけど、月見はどっちがいい?」

 

 などと午後からの予定を話し合いながら、二人揃って部屋を出て――

 

「ぴいっ!?」

「あ」

 

 そういえば、蜘蛛の巣を払うのをすっかり忘れていた。

 月見の裾にしがみついてぶるぶる震えている幻想郷最強の大妖怪(笑)を、月見は心の底から情けないと思った。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 ところで藍は、和洋中なんでもござれな幻想郷有数の料理上手である。外で店を立ち上げれば、たちまち長蛇の列ができテレビで取り上げられ雑誌の取材が押し寄せるであろう腕前。しかも料理だけでなくお菓子まで絶品と、台所に立たせればまさしく無双。

 つまりはわざわざ高いお金を払ってまで高級料理店を選ばずとも、ぶっちゃけ藍にお願いした方が美味しいのだ。しかも自炊なので、食費も低く抑えられる。

 なのでここは紫たっての希望で、外の世界ならではの『ジャンクフード』を食べてみる方向で話がまとまった。

 要するに、ハンバーガーであった。

 

「つくみバーガーのセットをお願いします!」

「え? ……つきみバーガーのことでしょうか?」

「え? ……あ、そっか。素で間違えちゃった」

「つきみバーガーは、あいにく秋限定のメニューとなっております。申し訳ございません」

「そ、そんなあっ」

 

 結局、ごくごく普通のハンバーガーであった。

 ほとんど待たずに出てきたハンバーガーセットを受け取り、月見と紫はちょうど空いていた二人掛けの席に座る。平日だからか、サラリーマンやOLの一人客が大半を占め、控えめな音量で流れるジャズ以外は物静かな店内だった。周りの迷惑にならないよう、月見は声を落として、

 

「それで、午後はどうするんだ?」

「んーとね……」

 

 午後の予定を計画したのは紫だ。気合い充分な少女は、今日のためにカンニングペーパーまで用意してきたらしい。

 取り出したメモ帳に素早く目を通して、

 

「映画を観ようと思うんだけど、どの映画がいいか月見の意見も聞きたいの」

「なにか面白そうなのはあったか?」

「本当は恋愛映画がよかったんだけど、今日はやらないみたいなのよねえ……。私としては、この二つのどっちかだと思うんだけど」

 

 紫がテーブルの上で広げたメモ帳には、今日放映されると思われる映画の一覧がメモされている。その中で二つ、赤ペンでまあるく印が付けてあるのは、

 

「超未来SFサスペンスバトルアクションスペクタクルファンタジーロマンス巨編、『俺、この戦争が終わったら結婚するんだ……』!」

「……」

「それとこっちの、超歴史SFミステリーバトルアクションスペクタクルオカルトホラー巨編、『もういい、俺は自分の部屋に戻る!』」

「…………」

「面白そうじゃない?」

「……そうだね」

 

 どこの世界にも、ぶっ飛んだ連中はいるんだなあと月見は思う。

 

「月見はどっちがいい?」

「甲乙つけがたいね」

 

 いろいろな意味で。

 

「ところでお前、ホラーは平気なのか?」

「え? そ、それは……こ、怖い怖くないは問題じゃなくて、きゃーって言って抱きついちゃったりするのが定番なのっ!」

「なるほど、下心アリと」

「乙女心って言ってっ。……でも、こっちのファンタジーの方も……故郷の恋人のために生きて戦争から帰ることを誓うシチュエーションって、素敵よねえ」

「……まあ、食べながらゆっくり考えよう。ほら、冷めてしまうしね」

「そうねっ」

 

 この世の理不尽を知らない紫の無垢な反応が、なんとも気の毒で目に染みた。お陰で、「あのな紫、この世には死亡フラグってものがあってな」と説明するべきかどうか、だいぶ真剣に悩んでしまった。結局、楽しそうな紫に茶々を入れるのも躊躇われて、なにも言わなかった――否、言えなかったが。

 たいして大きくもない普通のハンバーガーなので、十分くらいで食べ終わった。

 

「――ごちそうさまっ」

「ん。どうだった?」

「んー、まあ値段相応ってところかしら。とりあえず、いかにも体によくない食べ物ーって感じはしたわ……」

「ジャンクフードだからね。……ほら、口にケチャップついてる」

「……月見、拭いて?」

「自分でやれ」

「……ぶー」

 

 月見の視界の端で、一人用の席に座ったサラリーマンがビックなバーガーにかぶりついている。バンズの間からレタスがボロボロこぼれ落ちてしまっているが、サラリーマンはいちいち気にするのも億劫なのか、仏頂面で黙々と食べ続けている。

 一瞬目が合って舌打ちされたように思うが、気のせいだろう。「リア充め……」という人を呪い殺せそうな呟きなどまったく聞こえなかった。

 

「で、結局どっちを観ようか。私としては両方気になるから、紫が観たい方で構わないけど」

 

 映画の話だ。タイトルを見ただけで内容が予想できるとはいえ、予想できるからこそ、実際に映画館で確かめてみたい好奇心に駆られるのは事実だった。釣り針があまりにもデカすぎて、罠とわかっていても気になってしまう。ここまであからさまな罠なら、いっそ盛大に引っかかってみるのもありかと思えてくる――その心理的誘惑こそが、制作陣の狙いなのだろう。

 そして月見の目の前に、罠を罠と知らないまま引っかかろうとしている無垢な少女がひとり。

 

「ん~……じゃあ、こっちのファンタジーな方にしましょ! きっとラストは故郷の恋人と結婚してハッピーエンドなのよ! 素敵……」

「……はっはっは」

 

 結婚式のシーンでも脳内再生されているのか、うっとりと幸せそうにしている紫を見て、月見は乾いた声で笑った。

 ――すまん。すまん紫。その映画は観たことないけど、こればっかりは断言できる。

 その主人公は、間違いなく、絶対に、志の半ばで死ぬ。

 死亡フラグからは、逃れられないのだ。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 やっぱり死んだ。

 例のセリフから、わずか五分後の出来事だった。

 

「ううっ、なんて悲しいお話だったの……!? 結婚はおろか、もう一度会うことも声を聞くこともできずに死んじゃうなんて……っ!」

 

 上映後、紫はハンカチを片手に止まらぬ感動と悲哀の涙を流していた。月見の目にはコメディの類としか映らなかった作品も、恋する少年少女たちには違って見えたのか、紫と同じくハンカチを手放せなくなっている客は随分と多かった。月見がおかしいのだろうか。

 

「主人公の男の人を月見に、恋人を私に脳内変換してたから悲しさ倍増よぉ……!」

「……」

 

 どうやら紫の頭の中では、月見は膝に矢を受けて死んでいったらしい。

 

「月見っ……私たちは、幸せになりましょうね……っ!」

「はいはい。……ティッシュ使うか?」

「ありがとおっ……!」

 

 ずびびびと品もなく鼻をかんでいるのは紫だけではない。他にもすすり泣く声やら互いの愛を誓い合う言葉やらが場内の至る所から聞こえてきて、月見はまるで自分が異世界に迷い込んだような心地になった。

 紫の涙が治まってから映画館を出ると、時刻は早くも昼下がりになっていた。道行く人々の中に、中高生と思われる子どもたちの姿が交じり始めている。紫に案内されてやってきたこのあたりの街は、どうやら映画館を含め多くのアミューズメント施設が密集していて、苦痛な勉学から解放された子どもたちの格好の遊び場となっているようだった。

 賑やかな雑踏の中に二人で紛れながら、

 

「他には、どこか行くか?」

 

 月見が尋ねれば、悲しみを乗り越えすっかり元気になった紫は笑顔で、

 

「もっちろん! ねえ、ゲームセンターに行ってみたくない? 私、まだ入ったことがないの」

 

 紫が指差した先――車道を挟んで向かい側の通り――にはなるほど、ゲームセンターと思しき派手な電飾をつけた建物がある。

 土地の限られた都会らしく、横に狭く縦に広いゲームセンターだ。横断歩道を渡って行ってみれば、店頭にはクレーンゲームが何種類か並べられていて、若さあふれる学生たちが歓声をあげながら熱中している。入口にドアは設けられておらず、店内のBGMやゲーム筐体のSEなど、ピコピコと甲高い音が垂れ流されて、道行く人々を誘惑している。入口近くの液晶では、最近の流行りと思われるアニメ映像がループ再生されていて、大きなお兄さんたちが足を止めて見入っている。

 とりあえず店内へ入ってみると、途端に押し寄せてきた音の津波に、紫が目をぱちくりさせた。

 

「う、うわあっ……ゲームセンターって、結構うるさいのね」

 

 店内のBGMも筐体のSEも、アニメ映像も千円札が両替されジャラジャラと小銭が雪崩れる音も、すべてが現代技術によってもたらされる喧騒であった。自然の音を極限まで排斥した機械音の独壇場は、幻想郷ではまず体験することのできないものだろう。

 すっかり面食らっている紫の手を引いて、店内を適当にブラつく。建物は四階建てで、一階はクレーンゲームやガチャガチャなど大衆向けのゲームが集められているようだ。案内看板には、二階が音楽ゲーム、三階が格闘やシューティングなどのバーチャルゲーム、四階がスロットやダーツと書かれている。

 

「なにか、やってみたいゲームはあるのか?」

「あっ、もちろんあるわよ!」

 

 紫は素早くカンニングペーパーを確認して、

 

「えっと……こういうシチュエーションでは、二人で銃を撃って協力して敵を倒すゲームが定番だって!」

「ああ……」

 

 確か、ガンシューティングゲームというジャンルだったはずだ。右手でうきうきと銃の形を作っている紫の知識の出処がどこかはさておき、そのテのゲームといえばおどかし要素が満載なイメージなのだけれど、この少女は果たして大丈夫なのだろうか。

 

「クレーンゲームはあとでやりましょ!」

「了解」

 

 紫とともに三階へ向かう。三階のフロアを踏むと、ただでさえ賑やかだった喧騒が一層賑やかになった。派手な爆発音、もしくはクラッシュ音などのSEが大音量で響き渡り、筐体が壊れるのではないかと思うほどボタンを叩きまくる音がひっきりなしに駆け抜ける。年寄りの月見は、それだけでもう耳が痛くなりそうだった。

 ゲームのジャンルの問題か、女性客の姿はほとんど見当たらない。階段付近は格闘ゲームのスペースで、制服の割合も大分少なくなり、私服を着た大きいお兄さんたちが瞬きもせず筐体のボタンを連打している。順番待ちをしている太り気味のお兄さんが、月見と紫を見た瞬間に舌打ちした気がしたが――まあ、このうるさい中だし、きっと気のせいだろう。

 ガンシューティングの筐体を探して、フロアを進んでいく。物理法則を無視した空中戦を繰り広げる格闘ゲーマーの後ろを通り過ぎ、とんでもない勢いで壁に激突していったレースゲーマーの横を通り過ぎ、フロアの一番奥まで進んだところでようやく、

 

「お、これじゃないか?」

「ほんとに!? わーいやるや――……」

 

 飛び跳ねるようだった紫の声が、急速な尻すぼみで消えていった。おどろおどろしい血を滴らせたような文字で、その筐体にはこう書かれている。

 CITY OF DEATH――死の街と。

 

「……」

「ホラー系みたいだね」

 

 紫は石化している。

 引鉄以外にボタンのない銃型コントローラを使う、極めてオーソドックスなガンシューティングゲームである。筐体手前の台に硬貨の投入口があり、コントローラが二台置かれており、簡単なゲームの説明が記載されている。――次々襲いかかってくるモンスターを一掃せよ! モンスターの頭部を撃つと大ダメージを与えられるぞ! リロードを行うには、銃口を画面の外へ向けよう! 特殊な条件を満たすと、隠しステージに挑戦することができるぞ! 君は真のボスへ辿り着けるか! 二人プレイの場合、プレイ結果から二人の相性値を測定することが可能!

 正面の大型ディスプレイではデモ映像が流れており、ボスと思われる巨大クリーチャーが画面いっぱいにアップされており、それを見た紫が顔を真っ青にしてぷるぷるしていた。

 

「……紫。怖いなら別の」

「だっ、だだだっ大丈夫よこんなの! っていうかお昼に映画の話した時もなんだけどさ、月見って私が怖がりだとでも思ってない!? 平気よ! へっちゃらよ! 最近の映像技術はすごいなあって、ちょっと感心してただけなんだからっ!」

 

 とりあえず、紫がこういうビックリ系に弱いのはよくわかった。

 月見がなまあたたかい目を向ける先で、明らかに強がっている紫が筐体に二人分の硬貨を投入した。台の説明を見て、「へー相性度診断なんてできるのね。まあ私と月見は当然百パーセントだけど! むしろ千パーセントかしら!」とやたら饒舌である。意気揚々とコントローラを手に取り、試しに引鉄を引いたり画面へ向けたりして、そこでようやく、

 

「ほら、月見もっ。こんなの怖がってちゃダメよ!」

 

 恐らく本音は、「早くこっち来て一緒にやって独りにしないで!」だろう。

 ともあれ、このゲームをやるのに異論はない。クレーンゲーム程度ならまだしも、こういった本格的なアーケードゲームをやった経験はないので、なかなかに楽しみだった。

 月見もコントローラを手に取る。デモ画面はいつの間にかオープニング画面へ切り替わっており、地の底から響くような低音ボイスがタイトルコールを行っている。まだゲームが始まったわけでもないのに、紫はもう銃を画面に向けて臨戦態勢を取っている。

 

「……難易度選択だって。ノーマル、ハード、デスの三段階」

「……の、ノーマルで!」

 

 台のボタンを操作してノーマルを選択。一瞬画面が暗転し、すぐにゲームが始まった。

 同時に、紫が引鉄をカチカチカチカチ引きまくった。

 

「撃つの早いって。まだムービーじゃないか」

「そっ、そんなこと言ってえ! どうせいきなりバーンって来るんでしょ!? 騙されないもんっ!」

 

 ムービーは、いきなりバーンと来ることもなく淡々と進んでいる。主人公である壮年の男性トムと、パートナーと思われる若い女性ジェシカが、レーシングばりの速度でバイクをかっ飛ばしている。とある街で謎のバイオハザードが発生したため、生存者の救出へ向かうところだ――というお決まりのストーリーが字幕で告げられる。

 

「フーッ、フーッ……」

「……」

 

 紫が猛獣に怯える小動物みたいになっている。

 主人公たちが街に到着すると、すぐに大量のゾンビがお出迎えをしてくれた。ざっと二十体くらいだろうか。トムとジェシカがホルスターから銃を抜く。「ARE YOU READY?」とゲーム開始を告げる字幕が画面に躍る。月見は銃を構える。紫は既に引鉄を連射しまくっている。

 

「くれぐれも、冷静にね」

「つつつっ月見こそっ!」

 

 血文字のおどろおどろしいカウントダウンが終わり――戦いが始まった。

 

 

 

 

 

「――つっ、つつつっ月見いっ!? た、弾がっ、弾がなくなっちゃったんだけど、どうすればいいのお!?」

「リロードしないと」

「リロードってどうやるの!?」

「さっきチュートリアルが」

「そんなの覚えてないっ!!」

「……銃を画面の外に向けるんだよ」

 

 

 

「紫、さっきから民間人巻き込んでる! 撃てばいいってもんじゃないぞ!」

「そ、そんなの知らないわよおっ!? 私たちは死に物狂いで戦ってるの! 見ればわかるでしょ!? なのになんで向こうから巻き込まれにくるの!? こんなの向こうが悪いわよ! 自業自得よっ!」

(……ああ、民間人の誤射数がすごい勢いで)

 

 

 

「なっ、なななっなんかデカいの出てきたあっ!?」

「中ボスかな。……なるほど、防具をつけてるから頭撃ってもダメージを与えられないってさ。二人で関節部分を狙うと大ダメ」

「わかったっ、二人で頭を狙えばいいのねっ!?」

「おい落ち着け」

 

 

 

「ひいっ!? ……みゃあ!? ……ふゅい!? さ、さっきからいきなり出てきてばっか……! そんなので私がびっくりすると思わなぴぃっ!?」

「……」

 

 

 

「……ふ、ふふふ、遂にボスよ! 私と月見のコンビネーションなら当然ね!」

「まだ一面ボスなのに、もう残機ゼロだけどね。体力もあと半分くらいしか」

「黙らっしゃい! ……あ、出てくるみたいよ! まあ、ここまでやってきた私たちならどんな相手でも――ちょっと待ってなによ今の不意打ち!? あっ、待ってやられちゃうっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」

「…………」

 

 

 

 

 

『相性度:八パーセント!

 どうもお二人の相性はあまりよくないようです。というか、ダメダメなジェシカがひたすら足を引っ張っていて相性以前の問題です。こういったゲームは初めてでしょうか? まずは何度かプレイを重ね、ゲームの雰囲気に慣れることをオススメします。

 でもこれは、裏を返せばお互いもっともっと仲良くなっていけるということであり、もっともっと腕前を高め合っていけるということ。またの挑戦をお待ちしています。

 

トム:判定B

 必要以上の弾薬を使うことなく、冷静沈着に敵を撃破していくスナイパータイプ。非常に優秀なポテンシャルを秘めています。ただ、相方のフォローで忙しかったのか、被ダメージ率が少々高かったようです。一人プレイであれば、きっと優秀な成績を収められることでしょう。是非挑戦してみてください。とりあえず、お疲れ様でした。

 

ジェシカ:判定F

 ホラー映画なら、「もうこんなところにいられない! 私は自分の部屋に戻るわ!」と清々しくフラグを建てて清々しく退場するタイプの超ビビリのようです。ビビりまくり、照準ブレまくり、民間人誤射しまくりでなにひとついいところがありませんでした。まずはお化け屋敷やホラー映画などで、ビックリ耐性をつけるところから始めた方がいいかもしれません』

 

 

 

 

 

「は、はちぱーせんと……だめだめ……ちょうびびり……いいとこなし……」

「……相性、いまいちみたいだね」

「うわああああああああん!!」

 

 紫が膝から崩れ落ちた。

 

「ううっ、こんなのおかしいわよぉ……っ! こういう時って相性度百パーセントとか出しちゃって、お互いの絆の深さを再確認するものじゃないの!?」

「違うみたいだね」

「なんでよ!」

「お前がビビリだからじゃないか」

「ぐっ……う、ううううう~……っ!」

 

 事実、紫のプレイはひどかった。ゾンビが接近してくるたびにきゃーきゃー悲鳴をあげ、画面外からいきなり襲われるたびにぴーぴー絶叫し、両目をぐるぐる巻きにして、照準も中途半端なままひたすら銃を乱射するばかり、チュートリアルや月見のアドバイスなどまるで見えていないし聞こえていない。一面ボスまで辿り着けただけでも、充分よくやった方だったと月見は思う。

 診断結果の画面が徐々にフェードアウトし、初めに流れていたデモムービーへと切り替わる。先ほど一面ボスとして登場したモンスターが街を手当たり次第に破壊しており、精悍な顔つきをしたトムとジェシカが、銃で弾幕を張りながら勇猛果敢に立ち向かっていく。

 こんな感じで戦えればよかったんだけどなあと思いながら、月見は隣でいじけている紫に、

 

「どうする。もう一回やるか?」

「……べーっだ!! 私と月見の相性が八パーセントとか、なんっにもわかってないゲームなんか知らないっ!」

 

 紫は乱暴な手つきでコントローラを戻し、

 

「別のゲームやりましょ! ……言っておくけど怖いわけじゃないわよ! せっかくたくさんのゲームがあるんだから、いろんなのをやんないと面白くないってだけなんだからっ!」

「はいはい」

 

 ぷんすかしながら大股で歩く紫の後ろにくっついて、月見は当てもなく店内を散策する。確かに色々なタイトルのゲームが置かれてはいるが、二人で楽しくできるようなものといえばなにがあるだろうかと月見は思う。ガンシューティングゲームはどうやらあの一台だけのようだし、格闘ゲームは大きいお兄さんたちで制圧され一見さんお断りの雰囲気を醸し出している。

 あちこち見回していると、

 

「……えい」

「おっと」

 

 いつの間にか隣に並んでいた紫が、月見の右腕に自分の両腕を絡めてきた。

 

「なんだいいきなり」

「……別に」

 

 紫はぷーいとそっぽを向き、ぶつぶつと小声で、

 

「……私と月見は、相性抜群なんだから」

「……」

 

 負け惜しみを言うような言葉だった。絡められた紫の両手に、きゅっとかわいらしい力がこもっている。月見はふっと笑みの息をつき、前を向いて、同じくらいに小さな声で言った。

 

「……私だって、そう思ってるさ」

 

 その言葉は、ちょうどすれ違い際、劇的勝利を収めたらしい格闘ゲーマーの野太い雄叫びでかき消された。

 

「え? ……月見、今なんて」

「ん? あそこのレースゲームがちょうど二つ空いてるから、やってみようかって」

「そ、そう? ……ほんとに? なんか違うこと言ってなかった?」

「なんのことだ?」

 

 ――聞き取れなかった、お前が悪いよ。

 紫の腕を強引に引いて、早足で先へ進む。紫は疑問符を浮かべて戸惑っていたが、遅れないよう頑張ってちょこちょことくっついてくる。先ほど雄叫びをあげた格闘ゲーマーが、二人の後ろ姿をひとしきり目で追ったのち、「オラァお前もう一回やるぞ今度はボコボコにしてやらぁ!!」と友人に喧嘩を売っている。

 

 

 

 

 

 その後、紫はレースゲームで大破炎上して涙目になったり、格闘ゲームでCPUに情け容赦ないハメ技を喰らって涙目になったり、音楽ゲームで間違って最高難易度を選択してしまい、まったくついていけず涙目になったりしていた。つくづくゲーム運が悪い少女である。

 そんなこんなで月見たちが最後に行き着いたのは、一階のクレーンゲームコーナーだった。

 

「さて、どれをやってみる?」

「んー……」

 

 何十台もの筐体が整然と並べられた、クレーンゲーム街道ともいえるフロアを進んでいく。アニメのフィギュアやぬいぐるみ、クッションやキーホルダーなどの各種グッズ、更には普通の店では見かけないビッグサイズのお菓子などたくさんの景品が、筐体の中で微動だにすることなく挑戦者の出現を待ち構えている。

 月見の知識でクレーンゲームといえば、所謂UFOキャッチャーと呼ばれる類で、ぬいぐるみなどを両脇から挟んで開口部まで運んでいくタイプなのだが、こうして見ると他にも様々な種類があるようだった。景品がわざと不安定な足場の上に載せられていて、クレーンを使って足場から引きずり落とすもの。サイコロをクレーンで取って、出た目に応じて景品がもらえるもの。先の尖った金具がつけられたクレーンで風船を割り、割った色で景品が決まるもの。単純なクレーンゲームを超えた店の創意工夫が見て取れる、眺めていて飽きないほどのバリエーションだった。

 その中で紫が目をつけたのは、店の入口付近に置かれた典型的なUFOキャッチャーだった。

 

「月見っ、月見っ見て! 狐のぬいぐるみがあるわよ!」

 

 紫に手招きされて見てみれば、可愛らしくデフォルメされた動物たちのぬいぐるみが、あふれんほどに詰め込まれた筐体である。ぬいぐるみは両手に乗るくらいの大きさで、種類は犬や猫、兎、猿、羊、熊、ライオン、ペンギン、イルカなど実に様々だ。狐もその中に交じって、ちょこんと行儀よくおすわりをしている。

 

「やってみるか?」

「もっちろん! ……ああっ!?」

 

 筐体の周りを回ってぬいぐるみを観察していた紫が、いきなり素っ頓狂な大声をあげた。何人かの客が驚いてこちらを振り向いた気配、

 

「なんだいきなり」

「見てっ! 銀狐! 銀狐のぬいぐるみがあるっ!!」

 

 興奮で頬を赤くした紫が、ガラスをバンバンと叩きながら右奥の隅を指差す。そこには他のぬいぐるみに半分埋もれる形で、なるほど銀狐がぴょこんと頭を出している。

 紫の瞳に火がついた。

 

「絶っ対取るッ!!」

「……まあ、頑張って」

 

 月見が肩を竦めた頃には、紫は既に硬貨を限界まで投入し終えており、

 

「月見のぬいぐるみ月見のぬいぐるみ月見のぬいぐるみ月見のぬいぐるみ月見のぬいぐるみ」

「……」

 

 そこにゲームを楽しむ笑顔はない。あるのはただ、絶対に逃せない獲物を見つけた肉食獣さながらの、まばたきも許さぬ本気(マジ)の瞳。

 これは、もはやゲームなどではない。紫が見事ぬいぐるみを狩り獲るか、それとも紫が無様にお金を狩り獲られるかの真剣勝負だ。

 楽な相手ではない。場所があまりに悪すぎる。クレーンの初期位置は筐体の左手前で、目標は右奥、つまり一番遠い位置にある獲物ということになる。しかも、他のぬいぐるみたちに半分埋もれてしまっているのも厄介だ。正攻法でゲットしようとすれば、まずは周囲のぬいぐるみをどかすところから始めなければならない。

 まるで気が遠くなる話だった。確かこういう時は、店員に相談すれば取りやすくしてもらえるのではなかったか――。

 

「……あ、あれっ!? う、動かない……! つくみっ、ぬいぐるみ取るやつが横に動かなくなっちゃったんだけど!?」

「……」

 

 紫が横移動のボタンをバシバシ連打している。まずは、移動ボタンを押せるのは縦横一度きりだと説明するところから始まる。

 

 

 

 

 

 まず五回やってもダメだった。なので素直に店員へ相談し、周りの邪魔なぬいぐるみをどかしてもらった。

 また五回やってもダメだった。店員が、クレーンゲームのコツを色々と解説してくれた。

 また五回やってもダメだった。店員がサービスで、ぬいぐるみを真ん中あたりまで移動してくれた。

 また五回やってもダメだった。段々気の毒そうな顔になってきた店員が、ぬいぐるみをかなり近いところまで移動してくれた。

 だが、また五回やっても、

 

「と、取れないぃぃぃ~……っ!」

「……取れないね」

 

 取れない。紫が何度挑戦してもとにかく取れない。お金ばかりがどんどん溶けていく非情な現実に、紫はもはや本日何度目かもわからない涙目でぷるぷる震えているのだった。

 店員も途方に暮れていた。

 

「ええと、その、すみません。ここまで上手く行かないのは私も初めてで、どうアドバイスすればいいか……」

「謝らなくても。むしろこっちがすみません、なにぶん初めてなもので」

 

 掴めはするのだ。掴めはするが、ぬいぐるみを持ち上げていく最中、もしくは一番上まで到達しクレーンがわずかに揺れた瞬間、まるで紫をあざ笑うかのようにポロッと落ちてしまうのだ。そして失敗するたびに紫が「あぁーっ!」とか「いやあーっ!」とか絶叫するせいで、周りにはちらほらと野次馬が集まり始めていた。

 

「うぐぐぐっ……負けるもんですかぁ! 次こそ取ーるっ!」

 

 すっかりヤケクソとなってしまった紫が、叩きつけるように筐体に硬貨を投入する。ガラスにおでこをくっつけて、血走った目でゆっくりボタンを、

 

「……あの、彼氏さん」

「なんですか」

 

 その鬼気迫った背中を眺めながら、店員がおずおずと月見に声を掛けてきた。別に彼氏ではないが、とりあえず月見が答えると、

 

「差し出がましいかとは思いますが……ここは、彼氏さんが代わりに取ってあげてはいかがでしょう」

「ふむ」

「正直に申し上げますと……あの、このまま続けても」

「いやあーっ!?」

 

 二六回目の紫の絶叫、

 

「……このまま続けても、お金がいくらあっても足りないかと……」

「……ですよね」

 

 紫が自分の力で取りたそうだったから、ここまでついつい見守ってしまったけれど。どうやら今日の紫がゲームの神様から見放されてしまっているのは、ここまで来ればもう明らかであった。

 筐体に手を掛けたままがっくり蹲っている紫の、小刻みに震えている肩を優しく叩く。

 

「紫、私が取るよ」

「つ、つくみぃ……っ!」

 

 悪夢の二六連敗を喫し、紫の精神はもう限界のようだった。グズッと大きく鼻をすすって、

 

「お願い、仇をとってぇ……!」

「頑張ってください、彼氏さんっ」

 

 だから彼氏じゃないって。

 紫と交代し、財布から硬貨を投入する。クレーンゲームをやるのは久し振りだ。というか、何年か前に興味本位で数回やったきりなので、ほとんど初めてのようなものだ。紫よりかは断然上手くできるとは思うが、自信があるわけでもない。

 とりあえずはなにも難しいことを考えず、軽く感覚を掴むくらいの気持ちでアームを操作する。

 

「……」

 

 アームが左右に大きく爪を開き、ほわんほわんとファンシーなSEを響かせながら下降を開始する。ぬいぐるみを軽く押すくらいの位置で停止して、爪を閉じて目標を掴み取る。

 ここまではいい。

 ここからが勝負だ。ここから先で紫は何度も涙を呑んだ。

 さすがに一度目で取れるとは思っていないが、紫が両手を合わせて見守っている手前、あっさり落とすなんて恰好のつかない結果は避けたい。アームが上昇を開始する。掴みが甘かったのか、持ち上がった瞬間ぬいぐるみが少しずり落ちる。紫が小さく悲鳴を上げる。しかしギリギリのところで落ちることなく、ぬいぐるみはアームとともにみるみる上昇していく。

 最高点に達した。

 アームが一際大きく揺れた。

 ぬいぐるみは落ちなかった。

 ここまで来ればあとはもう、

 

「やっ、」

 

 元の位置まで戻ってきたアームが、ゆっくりと爪を開いて、

 

「やったああああああああっ!!」

「うおっ」

 

 ぬいぐるみがぽとりとゴールインを果たした瞬間、爆発した紫が月見の頭めがけてタックルをかました。首に両腕をぎゅっと回してぶら下がり、彼女は人の耳元でキンキンと、

 

「すごいすごぉい! さっすが月見っ!」

「……というかお前、なんで今まで取れなかったんだ」

「……」

 

 真顔になった紫は逃げるようにしゃがみこんで、取出口からぬいぐるみを取り出した。また笑顔で、

 

「月見っ、ありがとう!」

「……どういたしまして」

 

 宝物でも手に入れたみたいな紫に、月見は浅く笑みの息をついた。まあ、こうしてぬいぐるみを無事に取ることができたのだ。紫の壊滅的なゲーム運の悪さについて、もはやとやかくは言うまい。

 おすわりをした銀狐のぬいぐるみを胸いっぱいに抱き締めて、紫がくるりとスカートを翻す。機械が群生するこのゲームセンターで、まるでそこだけが七色の花畑であるかのように。野次馬の多くがその姿を見て微笑ましく目を細め、そして一部はぼけっと鼻の下を伸ばしていた。

 月見の後ろから、店員がグッとサムズアップをした。

 

「さすがですね。カッコいいですよ、彼氏さん」

「あ、黙ってましたけど彼氏ではないんですよ」

「え!? ……えっ!?」

「いや、本当に」

 

 紫は何度もくるくる回って、全身であふれる幸せを表現している。ぬいぐるみを高く掲げたり、抱き締めたりして、「これはウチの家宝にしましょ!」とか「名前は当然月見ねっ!」とか言っている。

 月見はふと外を見る。夕暮れが既に始まっている。夕食は藍がご馳走をこさえてくれるというから、そろそろこちら側の世界を去る時が近い。

 少しくらいは、紫の思い出に残るなにかができただろうか。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 茜色に染まった道を、紫をつれてぶらぶらと進む。どこか目的地があったわけではない。帰るまで少し時間に余裕があったから、適当にあたりをぶらついて、店の商品を眺めたり、藍や橙へのお土産を買ったりしていた。

 そうやって店をいくつか回る間、紫は両腕で抱き締めた銀狐のぬいぐるみを片時も離そうとしなかった。冗談でも世辞でもなく、本当に宝物になったのだろう。今だってぬいぐるみの頭を何度も撫でたり、つぶらな瞳を見つめてえへへと笑ったり、とにかく大変ご満悦な様子だった。

 

「気に入ったかい」

「もっちろん!」

 

 元気よく頷いた紫は、月見の目の前にぬいぐるみを掲げて、

 

「この子は八雲家の家宝としますっ。名前はもちろん月見ね!」

「……ああ、うん」

「毎日一緒に寝ちゃったりしてー!」

 

 大通りを離れ人気の少ない小道を歩いているお陰で、きゃーきゃー黄色い声をあげる紫が白い目で見られることもない。今日一日中あちこちを歩き回って、妖怪とはいえ疲れが出始めているだろうに、彼女はむしろ朝よりも元気になっているようだった。

 

「なんだかあっという間だったけど、楽しんでもらえたかい」

「もぉーバッチリよ! 本当に楽しかったっ!」

 

 月見に向けたぬいぐるみを、紫はぴょこぴょことご機嫌に揺らした。

 

「宝物までもらっちゃったし、もう言うことなし!」

「……そっか」

 

 ほとんど紫に言われるがまま付き合っただけで、気の利いたエスコートのひとつもできなかった月見だけれど。抜けるような笑顔でそう言ってもらえると、肩の荷がすっと下りた気がした。

 本当に純粋な少女だ。クレーンゲームでぬいぐるみを一個取ってもらった程度で、ここまで喜ぶ少女が普通いるだろうか。幼いといってしまえばそれまでだが、そのくすみのない幼さが今はぽかぽかと心地よい。

 

「でも、月見は退屈じゃなかった? 私ばっかりやりたいことやってて……」

「大丈夫だよ」

 

 ふと不安げな顔つきになった紫の言葉を、月見は心配ご無用とばかりに遮る。退屈だったわけがない。不満などあるわけがない。笑顔が絶えない紫をただ見ているだけで、月見だって満たされるのだから。

 微笑んだ。

 

「お前のさっきの笑顔だけで。私だってもう、言うことなしだ」

「む、むむっ……」

 

 紫がちょっぴりたじろいだ。夕日色に染まった頬をぬいぐるみで隠し、半目で、もしくは上目遣いで月見を睨んで、

 

「……そういう不意打ちはよくないと思います」

「嘘は言ってないよ」

「……むー」

 

 吐息。前を見て、

 

「……ねえ。ひょっとして今日って、私のために……」

「……」

 

 月見もまた前を見て、ふっと息をついた。

 

「荷物を運びたかったのは事実だよ」

 

 観念するように、

 

「……でも、それだけじゃなかったのも、立派な事実だね」

「……そっか」

 

 紫が、ぬいぐるみを抱く両腕に、きゅっと愛おしげな力を込めた。

 月見たちが見つめる先で、西の空が赤々と染まっている。夕日は背の高いビルに遮られて見えないのに、なぜだろう、今日の夕暮れはいつもより眩しく、熱いようだ。

 その事実をはぐらかすように、月見はぽつりと言った。

 

「――ともあれ、よかったよ。今日一日楽しんでもらえて」

「あら月見、随分と気が早いんじゃない? まだ日が暮れただけで、今日は全然終わってないわよっ」

 

 駆け足で前に出た紫が、燃える夕暮れ空を背に振り返った。

 

「このあとは私の屋敷で藍のご馳走を食べて、みんなでお酒を呑みます! そう簡単に寝られると思わないでよ!」

「……ッハハハ、それは大変そうだ」

 

 ああ、そうだ。なんだかすっかり終わったつもりになっていたが、今日はまだまだ、あと六時間ほど続くのだ。

 

「今日は帰さないわよー! 藍と橙と、みんなで一緒に寝るんだからっ。もちろん月見がまんなかでね!」

「お前は、本当に元気だねえ」

 

 つくづく、月見はそう思う。余程のことがない限り、紫が落ち込んだり疲れたりしている姿というのを見たことがない。一日中飛んだり跳ねたりするだけの元気が、あの小さな体の一体どこからやってくるのだろう。

 

「当たり前よー」

 

 茜色の空よりも眩しく笑った紫の、実に事も無げな言葉だった。

 

「だって、月見がいるもの」

「……そっか」

「そうそう! ……じゃあいい感じで人気もないし、人払いして帰りましょ。おなかすいたー!」

 

 名残を惜しむように空を見上げ、人払いの術を構築し始めた紫の背を、今の自分はどんな顔で見つめているのだろう。

 手元に鏡があるわけではないので、わからないけれど。

 

「よっし、準備かんりょーっ! 月見、行きましょ!」

「……ああ」

 

 今が幸せで幸せで仕方がない。そんな笑顔とともにそっと差し伸べられた手を、そっと取った自分は。

 まあ、きっと、似たような顔をしているのだろうなと。

 そう、月見は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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