それはさておき今回は前話の数日後の話です
緑谷を助けた数日後
俺は数日前に緑谷に教えた集合場所に来ていた。
伝えた時間までは後5分、そろそろ来てもおかしくないな
「おーい!大道くーん!」
呼ばれた方向を見るとこちらに向かって走り寄ってくるもじゃもじゃヘアーの少年、緑谷 出久の姿が見えた
「おう、来たか緑谷……その目元の隈、どうした?」
緑谷の目元にはくっきりと黒い隈ができていて目も少し充血している。はっきり言うと少し不気味に思えてしまう
「あ、これ?実はプロのヒーローに鍛えてもらうなんて考えてたらワクワクし過ぎて眠れなくて……」
「遠足前の小学生か!?ったく、楽しみなのはわかるがそれで途中で気ぃ失うなよ?」
幸先不安だが大丈夫か、これ?
まあ、そんなこんなでうちの親父達が所属しているヒーロー事務所に俺達は移動した
うちの親父達のヒーロー事務所は外観はどこにでもあるようなそこそこでかい普通のビルだ。特徴があるならば屋上に置いてあるでかい輸送機くらいか。遠い場所に出動する場合はあれで移動するらしいがここ数年動いてる所はまだ見たことがない
「ここが大道君のお父さん達が所属してる事務所……」
「そう、ここがうちの両親が所属してるNEVERヒーロー事務所だ。なかなか癖の強い人ばっかだから驚き過ぎて気絶するなよ?」
「う、うん、なるべく気絶しないよう頑張るよ」
受付にはもう今日緑谷を連れてくることは事前に伝えておいたしなによりもう何年もここに通っている俺は顔パスで事務所内へ入っていく
そして階段を下り地下の訓練場へ入る
「うわー、広い!地下にこんな広い場所があったんだ!」
「この訓練場はこの事務所の創立の時からあってな。なんでもこの辺り一帯の地下部分を買い取って作ったらしい」
訓練場は端から端までの長さが約100m程の正方形の形をしている。広さとしてはわかりやすく言うなら野球場くらいだ
「向こうの方に更衣室があるから着替えてこいよ。俺はこっちで準備しとくから」
俺がそう言いながら訓練場の奥の方にある更衣室の扉を指差すと緑谷はわかったよ、と返事をして更衣室へ向かった
さて、重りやら器具を出すとするか
隣の器具室へ入ろうとすると今緑谷が入ったばかりの更衣室の扉が勢いよく開かれ緑谷がこっちに全力疾走してきた
「だだだだだ大道君!こ、更衣室に変なおじさんが魔法少女でポージングしてて!?」
あー、最初にあの人に出会っちまったのか。よりによって一番インパクトの強い人に
「落ち着け緑谷、言いたいことはなんとなくわかるがまともな言葉になってないから」
緑谷を落ち着けていると開いている更衣室の出入口から緑谷がこんなにも錯乱した原因であろう人が出てきた
黄色でフリフリがいくつも付いてる魔法少女みたいな格好で……
「んも~、人を見ていきなり逃げ出すなんて失礼じゃない?ハッ!まさか私の魅力にあてられて照れて逃げちゃったの!?可愛い所あるじゃない!嫌いじゃないわ!」
「月下さん、勝手に一人で妄想しないでくださいよ。誰だって初対面で貴方といきなり出くわしたら逃げますよ」
「ちょっと斗和ちゃん、それどういう意味!」
この魔法少女のような格好をしたおっさんは
うちの両親の同僚でこのNEVERヒーロー事務所一の変人だ
元々はオラオラ系のヤーさんのような人だったらしいがいつの間にかオカマキャラになってしまったらしい
個性は
「も、もしかしてミラージュ・ルナさんですか?あのある意味18禁ヒーローの」
「あら、私のこと知ってるの?嬉しいわね、何かサービスしてあげようか・し・ら」
「い、いえ、大丈夫です……」
この人はこの姿と性格のせいで特に男の方から関わりたくない方の18禁ヒーローとして有名なのだ。ヒーロー紹介でも男(特にイケメン)はこの人を見かけたらまず逃げろとまで書かれている程だ。ただそのせいか一部の腐った方々からはある一定の根強い人気を貰っている
「月下、あまり客人を困らせるな」
「んもう!巌ちゃんまで!私は純粋にこの子と友好を深めようとしただけじゃない!」
次に出てきた月下さんを注意した黒に赤い線が入ったジャケットを着た男性は
ヒーロー名はサイレントリガー
いつも寡黙でクールに仕事をこなしていくイケメンだ。因みに妻子持ちでそのお陰か月下さんにセクハラはされていない(月下さん曰くNTRは趣味じゃないとか)
個性は
そのデメリットの為に一撃で相手を仕留められるライフル系を好んで使っている
「緑谷 出久、だったな。斗和から話は聞いている。俺は狩原 巌、こっちのオカマは月下 伸夫だ。よろしく」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「オカマ!?巌ちゃん、あなたレディの紹介にオカマってなによ!あと私のフルネームを教えるのはやめてって言ってるでしょう!」
狩原さんが差し出した手をおずおずと掴みペコペコと頭を下げまくっている緑谷。そして自分の紹介のされ方に怒る月下さん
このまま放置しておくと話が進まないので口を挟ませてもらうか
「この二人が今日の俺達のコーチだ。生憎うちの両親は今日はちょうどパトロールだからいないけど狩原さん達もかなり優秀なヒーローだから期待しとけよ」
「う、うん!」
そんな感じで訓練開始!
まずはランニング
「はあ、はあ、きつっ、はあ、はあ」
「ほらほら、まだたったの3kmよ。こんなんで泣き言言うんだったら後で私の部屋でみっちりねっちょり朝まで特別コースよ!」
「ひいいいいいいいい!?」
後ろから右腕を鞭状にした月下さんに追いかけられながら5km!因みに俺の方は狩原さんに追いかけられながらその倍の10kmだ。スピードを緩めたり気を抜くと撃たれそうになるが数年もやっているからもう慣れたものだ
走り終えたら少しの休憩を挟んで組手
「そんなへっぴり腰じゃパンチ一つまとも打てないわよ!もっと腹に力こめなさい!腹に!」
「は、はいぃ!」
闘い方を知らない緑谷はまず、基礎をみっちり叩きこむ。サンドバッグを殴らせたり受け身を教えたりと月下さんに手取り足取り教えこまれている
俺はその間、狩原さんと延々と組手だ。素手、棍、刃引きされたナイフや刀と様々な武器をボクシング、柔道、棒術等の様々なスタイルと組み合わせて使い個性を使わない状態の狩原さんと戦い続ける。一つの種類につき3分と時間を決め組手を続けるが集中力を維持し続けるのが辛い
個性を使っていないとはいえプロのヒーロー相手の組手をしているんだ。相手の一挙一動に気をつけていなければすぐにやられて一本取られてしまう
組手を終えラストのメニューは筋トレだ。疲労した身体を更に苛めぬく。既に緑谷はかなりグロッキーだが耐えれるか?
「さあ、ラストスパートよ!上がらなくなるまで腕立て伏せをしなさい!筋トレは限界を超えてからが本番なの!リミットブレイクを目指すのよ!」
「は、はいぃ…」
返事も弱々しくなって顔にも疲労感がかなり表れているがまだその目を死んではいない。初日からここまで追いこまれているのにいい根性してるな
「斗和、向こうを気にしている余裕があるならまだいけるな。ベンチプレス回数追加だ」
「うおおおおお!!」
叫ばなきゃもう腕上がらねえなちくしょう!!
30分後
訓練場には床に沈んだ緑谷と俺の姿があった
「も、もう一歩も動けない…。大道君っていつもこんな訓練してるの?」
「まあな、だけど俺も数年間師事してもらってようやくこのレベルの訓練にしてもらえたんだ。最初は俺も今日緑谷がやったような基礎練ばっかだったけどそのうち色々と教えてもらったりしてな」
「凄いね、こんなキツイ訓練を何年もやってるなんて。あれ?っていうか大道君何歳からやってるのこの訓練」
「5歳からだな」
「5歳!?そんな小さい時から!?」
「ああ、自分が無個性ってわかった数日後にな」
「な、なんでそんなすぐに鍛えようと思ったの?」
「…俺はさ、うちの両親を誇りに思ってるんだよ。ヒーローの仕事で忙しいのにこんな俺の我儘をきいてくれて、無個性である俺を受け入れて愛してくれている俺なんかにはもったいないくらいいい両親だ。だからこそ、無個性の俺のせいで父さん達に迷惑をかけたくないんだ」
両親が一般人だったならここまで悩むことじゃなかっただろう。だがヒーローであるということは人々から注目されることでもある。それもヒーロー同士の結婚というなら尚更だ。しかしその子供が無個性だったら?
周りの評価は火を見るより明らかだろう、俺だけへの被害で二人の面汚しと言われるならまだいいがそれだけで止まらないのが世の中だ。マスコミはこういう話題に脚色や尾ひれを付けるだろうし親戚連中からは実際に俺含めうちの家族を冷ややかな見下したような目で見られたこともある
あの時はあの見下した視線につい本気でキレそうになったがその場で暴れたら更に父さん達の立場が悪くなると必至に堪えたな
「だから俺は強くなる、俺の家族を傷つけさせない為に、誰にも文句を言わせないくらいにな」
「……そうなんだ。すごいね、大道君は。僕は自分のことばっかり考えてた。なんで僕には個性が無いのか、僕にもオールマイトみたいな個性があったらってそんなことばっかり考えてて母さん達のことなんてまったく考えてなかったな」
緑谷の言葉に俺の胸が罪悪感でズキリと痛む
(ごめんな、緑谷。俺は嘘つきだ。本当は力を持っているのにそれを隠して無個性のふりをしている。俺が家族のことを考えられたのは自分には力があるのを知っているからなんだ。お前の、無個性の苦しみを…俺は本当の意味で理解してなんかないんだ……)
エターナルの力を手放さない為には周りに嘘をつき続けなければいけない。普通の連中に嘘をつくのはもう慣れたが、こんな純粋な所がある奴には……やっぱり罪悪感が少しばかり涌いてくるな
「ほーらあんた達、プロテイン淹れてきてやったわよ。たっぷり飲みなさい。そして筋肉を回復させて、美しい身体を目指すのよ!」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます、月下さん。でも美しさは別にいらないです」
「相変わらずつれないわねえ、斗和ちゃん。でも嫌いじゃないわ!」
俺が罪悪感に駆られていると月下さんが気をきかせてプロテインを差し入れしてくれた。こういう気遣いもできるからいい人ではあるんだが如何せんキャラのせいで常識人から外れちゃうんだよなあ
その後身体が動かない緑谷は狩原さんに車で送ってもらった。残った俺は訓練場の機具を片付け訓練着から着替えていると気配もなくぬるっと月下さんが後ろから近づいてきた
「もう、今日の訓練は終わってるんだからそんな慌てて逃げることないじゃない」
なら、気配を消していきなり後ろから近づいてくるのはやめてほしい。瞬時に後ろを向きながら距離を取った俺は悪くない
「心臓に悪いんでいきなり来るのはやめてくださいよ。戦場で後ろを取られたら死ぬって教えたのは月下さん本人なんですから」
だから別に尻に危険を感じたからじゃないよ、うん
「んふふ、そうだったわねえ。なら、斗和ちゃん今一回死んだわよ?私程度に後ろを取られるようじゃまだまだね」
「ならかなりのヒーローや敵がまだまだってことになりますよ。それより、月下さんから見て緑谷の奴はどうでした?」
「――そうね、基礎体力,筋力はE、貴方が過去に連れてきた無個性達の中でも断トツのビリね。記憶力や発想力は戦い方の基礎を教えただけでも中々いいのを持ってるのがわかったわ。でも、一番評価するのはあの目よ。あの子、散々ビビったりバテたりしてたけど目だけは死んでなかったわ」
「今までの無個性達はどいつもこいつも自分から自分の可能性を諦めて捨てた死んだ魚以下の目をした腑抜け共ばかりだったけどあの子は違う。あの子はまだ可能性を捨ててなかった、藁だろうが蜘蛛の糸だろうが縋ってでも上へ行こうとする
月下さんの返答を聞いて俺も少し安堵する
今まで同じようにここへ連れてきた無個性の人は同級生に限らず歳下も歳上も関係なく何人もいた
だけど誰も長くは続かなかった
訓練がキツくて逃げ出した奴、言い訳ばかりで訓練を真面目にやらず父さん達から追い出された奴、月下さんを見て逃げて二度と来なかったのもいたな。そいつは結局月下さんに捕まったらしいが
願うなら緑谷には、長く続けて強くなってほしい
辛い現実の中で希望を完璧には失わなかったあいつはまだまだ上にいける奴なんだ
あいつをここで埋もれさせる訳にはいかない
俺の贖罪の為にも…
題名のNはNeverのNです
因みに今回出ていないNEVERヒーロー事務所のエース兼所長のNEVERは自分又は他人の一時的に強化を得意とする女性のヒーローです
そして新キャラである月下 伸夫と狩原 巌、モデルは勿論皆大好き京水さんとクールな銃撃手 芦原 賢さんです。何気に月下さん書いてる時が一番楽しかったですね
次回はようやく原作突入!2年数ヶ月で緑谷をどこまで強化できるかな!