古式諸島
本島 古式湾内
雲龍型航空母艦『金峰』艦橋上にて
11:21
湾内に浮かぶ空母の艦橋上、望遠鏡に囲まれて、
折り畳みの机と椅子を備えては、
ほうじ茶とおソバを乗せて水面を『二人』で眺めていた。
用意していた椅子と湯呑と蕎麦は3つずつ。
今さっき一人が用を足しに席を外していった。
(思えば今年も色々あったものだ」
気づけば思いが口に出ていた。隣の方は、そうね。と頷く。
「この艦にもお世話になりました」
「まだコイツは壊さんぞ」
出来上がって一年二年、二年半。まだ現役なのだ。
「それに仕事も山積みだってのに」
年明け早々、『お荷物』を運ぶ。やると言った以上はやらなければならないのだが。
「いくつもの港を訪れたものだよ」
「五月に地中海に行ったと思ったら九月には苫小牧に急行、気づいた時にはシドニーに」
「ウラジオストックを忘れている」
「そうでした」
シンと静まり返れば、
この場に居ない―腹痛に見舞われてこの場を降りて行った彼女の事が、ふと浮かんできた。
「アイツは俺達を嫌ってしまうかな?」
「藪から棒に、何でしょうか」
「いや、少しね。ただ、時が流れればそうなる程に、不安が増していく」
「私たちがどこかに行っても、思いを馳せる家族が、葛城にはいますから」
「別れは寂しいものだよ?」
「まだその時は来ませんよ」
「だといいが」
間を開けて、隣の少女は聞いてきた。
「家族の顔、覚えていますか?」
彼女お得意のすり替えネタだ。やはり、暗い話は長々とするものではない。
こんな話、誰だって嫌いだ。
「親の顔は、もう忘れちまった」
姉の顔は覚えているが。
「私は見たかすら怪しいもの」
そんな苦いジョークを飛ばしておいて、少し少しとお蕎麦をすする。
ほうじ茶はもう飽きた。
新年迎えたら、艦内でコーヒーを飲もう、メープルシロップ多めで。
すると、
「もうっ、お蕎麦はツユまで飲むのが鉄板ですよ!」
七味たっぷりだった筈の彼女のお椀は、何時の間にか空っぽになっていた。
聞くなら今か。
「来年はどんな年だろう、初霜さん?」
「そうね⋯きっと美味しい年になりますよ」
「美味しい年とは⋯先が読めそうにない」
誰も分からないからこそ、人は未来に希望を⋯虚空を抱く。
もう今年も終わる。力尽きては歴史の隅に、そして何時しか忘れ去られる。
鎮守府はぽつぽつ明かりが灯っている。提督も起きているのだろう。
もしかしたら、炬燵に籠っては素顔を見せられない苦痛と戦い、
いや、結局は眠気に負けているかもしれない。
なるべく寝るようには伝えておいたが、駆逐艦娘の中にも起きている者はいるはずだ。
若葉は絶対起きているだろう。初霜を今か今かと待っているに違いない。
あァ、あと鎮守府に戻ったらお餅の準備をしなければ。ここには大喰らいが多すぎる。
「カウントダウンですよ!」
手元の時計は秒読みだ。
「3」
「「2」」
「ま、間に合ったーっ!」
しかし、葛城のお蕎麦はヒドく伸び切っていたいた。
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