初霜さんと   作:琵琶醐醒醍

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相も変わらず
古式諸島中枢南の海
午前二時


『眼前の敵』

ライフセーバーを身にまとい、海上を風に巻かれながら進んでいく。

艦娘の推進装置を参考にして設計されたこれは、

航続距離がイカレている長さで有名⋯と言いたいところだが、

まだ二台しか作られていないこいつが有名な訳がない。

一応諸島の外周を軽く三周は出来る。

未だに民生品として技術提供されていないが故に、代替品なんて物もない。

妖精たちの修理場にお願いすれば何とかなるのが救いだ。

⋯推進装置なんて物を外に出すのは無理な話だ。

それにしても、潮のもたらす湿った空気が顔については離れない。

「あんな回りくどい言い方しなくてもいいと思うんだけど」

「演じざるを得なかった、が正しいのだよ。

 妖精たちが張り込みをしてくれている防御網の穴をただ突いただけなのに、

 『艦娘を全員布団に潜らせた』状況があるせいで、

 特に妄想に強い奴は陰謀論を吹っ掛けるこれ以上に無いチャンスだった。

 脅しを掛けるしか無かった。特に人を信じる事に悩む者は。

 初霜さんもそうなのかもしれない。ただ対処法を思いつけない、それが問題なのさ」

「その為に、私が一肌脱ぐんじゃない!」

「そうだな」

『もうそろそろの地点よ』

と回り道をする彼女が言う。

「了解了解」

返事を軽く済ませてから、どう言葉を交わそうか思考にふける。

「そういえば、交渉に使ってはいけないのはなんだ?正直帰ってくれるとは思えない」

『何を使っても構わない。ある程度の取り決めならね』

「どうせ偵察なんだ、真昼間に招待するのは?」

『⋯いいよ、北方さんも良く来るんだから』

「珍しく寛容的だ」

『半端に疑われるならいっその事とことん疑われようかな~、なんて』

「疑ってはいないんだけど⋯」

『実はね、そろそろ潮時だと思うの』

「何の?」

『⋯このつまらない戦争の』

「割と艤装を楽しんでいるお方が?」

『それは別よ。⋯無理なのは分かっている。けれど、戦争が日常的なのは正直狂ってる』

「お主の元居たところの事を⋯んまァそれは別枠か」

「右に!」

マイク越しではない、明らかに大きな声が耳を突く。

咄嗟に舵を切れば、元居た場所に水柱が上がる。

バランスを崩せないこいつは、少々の驚きにも反応しない。

飛ばしたのは向こうであった。

しかし思えば、向こうの飛行機を海に還したのはこちらである。

だが撃って来たのは向こうが先だった。

と人は己の事のみを考えてしまう。こういう時は時程に。

「アイツらを射るの?」

「いやまだだ。取り敢えず何人いるんだ?」

「四人、と三体ね。黄色いのが一人、後は青かな」

「なら人語も分かるかもな」

そう言い、声を大にして問うてみる。

「お主らは何者か?」

葛城はぎりぎりインカムを外していたので何事もない様だ。

対する彼女の耳は⋯大破モノに違いない。

「ソチラカラ名乗ルノガ流儀ダト聞イタガ?」

一時は目の前の者が黄眼で良かったと思った。

しかし、今はこの面倒な奴をどう撒こうか悩みに悩んでいる。

「俺は近くの基地の副指令だ。取り敢えずそちらの名を聞いておこう」

すると言う。

「私ハ『ヲ吸』、特別ナ名ナド無イ」

「同じヲ級との会話はどうなるのか?」

興味本位で尋ねる。

「話スコト自体ガ少ナイ。言葉ナド使ワナクテモ済ム」

「ふむ。言葉とは文化、定義、束縛を意味する。無い方がいいのかもしれない。

 ⋯話が消えかけた。もう一度問う(ここで中佐がある人を思い起こしたのはまた別の話である)。

 何故にここに来た」

「調査ヲシニヤッテ来タ。ソレダケダ」

「それだけなら発砲する必要なぞあるまいに。

 ところでだが、今こちらは撃っても問題は無い状況だ」

台詞に続いて弓を構えた彼女は、少し不安の色と共に顔を見せる。

「⋯私攻撃機を飛ばせる気がしないんだけど」

「ちょっと前の偵察飛行の時を思い返しながら矢を放てば問題無いはずだ」

波だけが揺れる。

「⋯ひゅーぅ、ふぁー⋯良し!」

グィンと風が抜ける。風はいくつもの飛行機と化す。

妖精たちはどうやって乗り込んでいるのだろうか⋯。

「こちらコウkz1、夜の割には良く見える。制度は落ちるが雷撃が可能だ!」

順調に走る機体から無線が通じる。

「出来ちゃうの!?」

「まだ撃たなくてよい」

釘を打って続ける。

「この状況だが、今回は見逃しておこう。足早に立ち去れ」

⋯動く訳無いか。

それどころか一匹からは砲口がこちらを向き始める。

波は二つの陣営を引き離す。

そして、風が震える。

その風を葛城は慣れた足つきでかわす。

「殺らせて」

「手負いで帰させとけ、その方が対策しやすい」

五秒も経たずに柱が立ち上る。わざわざ照準を合わせ続けていたのだ。

「ちょっと難しいかも」

「⋯一人生かすだけでいいか」

『了承。私の出番は無し、ね』

もはや向こうの声すら聞こえない。

「爆撃隊、発進!」

矢は風を纏い、複数の物体に成り、上昇し続ける。

夜間に急降下は死にかねないが、はてどうでるっ、避けに集中しよう。

「見えぬ月に」

「願いかけ」

「我等葛城彗星隊」

「いざ尋常に勝負!」

八機の翠色の星たちが、空を縦に滑り落ちる。

落ちながら八つは離れ、そしていつもよりは高い位置で羽を戻す。

灰色が立てば、橙色も立つ。色は眼を醒ます。舵を安定させるのにも一苦労する。

そして鉄塊をまた避ける。はァ、俺の居場所は空だけなのか⋯?

「アコーディオン持って来ればよかった」

「こいつ(水上バイク)ん中に入ってるぞ」

距離が離れつつあった葛城に、近距離無線で対応する。

「取りに行く」

「戦闘海域内だぞ」

「皆が遣ってくれるからさぁ」

「おやこの風切音は⋯?」

「戦闘機隊、ね。紫電改、ゴー!」

「攻撃隊、着艦要請」

「準備出来てるから、今の内に!」

「アイツらと中佐を守るぞ。第一はコッチを、第二は向こうを頼む」

「了解!」

紫電改がこちらに顔を向ける。しかし眼に映っているのは深海の飛行機だけだろう。

「こちら彗星隊、天山隊はちゃんと入ったか?」

「こちら機体管理部、全機帰投済み」

「了解、こちらは敵を見失った。派手にやりすぎたな、ハハハハ⋯」

また一つ、流れ星が海に吸い込まれる。あと、⋯6か。

「こちら第二の二番機!念願の五機目を撃墜!」

「よくやった若造!後でビールおごってやる」

「そこは宴会じゃないのですか、彗星隊隊長?」

「すまねぇ、金欠でね。中佐がおごるなら構わないが」

「⋯ニ・二番機は墜ちずに戦闘続行、間宮で今夜8時」

「げぇ、朝までに飲みたかったんだが」

「ここは、天山隊がやりますか。

 中佐さん、宴会の予約はキャンセルで。私たちだけで用意しますよ」

「こちら二・四番機、残存機を全て撃破」

「⋯アイツは何機目だよ」

「これで三十一機」

「三十のボーダー越したのか」

「全機帰投して。これでお終いよ。見張りも見えないよね?」

「中佐のバイク位です」

『こちらも見えないね』

『東管区、レーダーを急ぎ照射したが、敵影見えず』

「こちらも帰るぞ」

『ところで、女の子の片方は葛城っぽいが、もう片方は?』

「ちょっと見学に来た子だよ。間近で見たいって離れんかったから」

『そうですか、いやはや失敬』

「紫電改部隊、帰還」

「彗星隊は格納済みです」

「寝る!」

「おいおい、アコーディオンは?」

「弾きながら寝る!」

「ダーメだこりゃ⋯」

「よーし、飲むぞー!」

「せめて陸に上がってからにしてくれ⋯」

 

 

その日

諸島南中艦港 空母ペガスス左舷機銃座

その時

 

「おい、見えなかったか?」

「なにがさぁ」

「ホラ、アレだよアレ」

「うーんと、艦娘に、水上バイクに、⋯何だあの波?大和より少し大きいなぁ」

「とりま、副長に知らせんと」

「だな、誰か、見張り頼むぞ!」

 

 

舟屋には、まだ途中の盤が残っていた。

余力が残っていなかった葛城が、

あっという間に白優勢に変えてしまったのはまた別の話である。




用語集


空母ペガスス

名前だけで元ネタを当てた方には拍手。イギリスのユニコーンという空母と同型。
初瀬提督が長期作戦時に乗り込む艦。元ネタ通りに整備施設があるため、大抵重宝される。
割とどうでもいいが、「ビーフシチュー」という名で呼ばれることがある。


空母金峰(きんぷ)

既に明記されているとおり、雲龍型の空母である。
中佐が乗り込む艦だが、それ以上に愛着がある模様。
元親衛隊の航空隊の母艦でもあり、
緊急時には全員この艦に集合する取り決めとなっている。
割とどうでもいいが、機関は交互配置となっている。⋯交互配置って、なんだ?
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