初霜さんと   作:琵琶醐醒醍

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一月も中頃
古式鎮守府
第二艦隊及び第四艦隊作戦指揮棟二階(只の舟屋)
10:17



『お荷物』と『帰還報告』

 本当は今頃、太平洋を強行突破し、パナマ運河をのんびり渡っているハズだった。

しかし、この足はしっかりと、所属の鎮守府の土を踏んでいる。

理由は案外簡単だ。

空母に積む予定だった『お荷物』を、空輸する羽目になったのだ。

積み込む直前になって、チャーターできるメドが立ってしまった。

無論、こちらの方が利点は多い。空母から荷を降ろすにはクレーンが要る。

空港ならば、直に降ろせる。場合によっては落とせる。

それに、こちらが空旅を護衛すれば⋯金額面的な問題こそ指摘できたが、

何分『強行突破』の信頼性がこれっぽっちも無いというチェックメイトを提示された俺は、

しぶしぶ了承する事にしたのだ。

 ⋯にしても、ココは不思議だ。

兵器を兵器以外の用途で使うことが常識となっているのだ。

何処でも、包丁を『食材を切り分ける』以外の使い方をする者は居るが、

兵器までも⋯まァ彼女達の事は例外にしても⋯

「中佐さん?」

「ほい?」

突然初霜さんの声がしたので、こうとしか返せなかった。

「葛城がケガをしちゃって」

「ちょっくら見に行くか」

「風呂入ってますよ」

「それはマズイな⋯」

「いずれ上がりますよ」

アイツは長風呂派⋯おっとそれより、

「何故(なにゆえ)風呂行きに?」

ポスっと近くのソファに座った初霜は、

「それが、前に出過ぎたの。護衛の帰りだったから良かったけれど」と言う。

「機材は消耗品でも、動かす人を消耗する訳にはいかない。よく無事に戻ってこれた」

「そういえば中佐さんは何故(なぜ)ここに?今頃パナマ辺りに⋯」

「空の運び屋に任せたのさ。おかげで今こうして、音に浸かれている。

 葛城は今、湯船に浸かっているようだがな」

何故か、彼女は流れている曲を聴き定め、

「あ!蝶の四曲目、紫が遂に出たんですね」

と言い当ててしまった。内心驚きつつ、

「蒼、緑、碧と来てこの色よ。個人的にはツボだがね」と返す。

「泡沫の姫の方は?」

「音沙汰無いね。暫く出ないんじゃないかな?何せ三曲出したばっかりだし」

「ユ⋯」

初霜さんが歌い始めようとしたその矢先、誰かが1階の扉を3ノックしたようだ。

「だ~れですか~?」

「第四艦隊旗艦の扶桑です。山城も連れてきました」

「上がっておくれ」

やや狭めの階段を扶桑型姉妹が上がって来た。

「姉さま?何で中佐も居るのでしょうか?」

「きっと予定がオジャンになっただけでしょう?」

「そうそう、それそれ」

「荷物が嘆いてるわ⋯」

「飛行機に突っ込むから大丈夫そうよ」

「そうなの初霜ちゃん?なら安心だわ」

何に安心したのか⋯

「んで。戦果はどうだったのさ?」

「はい、今回は桜島七番基地第二艦隊のSOSでした。

 五隻中、三隻が大破でしたので、惜しまず砲弾を。帰還護衛も済ませましたが⋯」

「ましたが?」

「一人だけ、妙にアザが多かった事をお伝えしときます」

「誰だったりする?」

「それが⋯」

「ふぅん、成程」

「その後は⋯」

「おぉ、お疲れ。後はのんびりと。

 何時アラートが鳴るか分かんないから。んまァ次は長門チームの出番だけど」

「はい。では、失礼します」

扶桑が階段を降りて行った。山城も続いて降り⋯

「あれ、初霜さん?」

「扶桑お姉さんを喜ばせてね」

何かを山城は受け取り、嬉しそうに降りて行った。

「何あげたのさ?」

「一月限定甘味無料券。一枚で二つも無料なんですよ。

 私も、葛城も、もう食べていたので⋯あ」

「今頃、タコになっているぞ、アイツ」

「連れ戻してきます!」

 

しかし、当の彼女は、

風呂上がりのコーヒー牛乳を飲み過ぎて、またトイレに籠っていたのであった。




04/23 冒頭部を追加
06/24 勘違いしそうな二か所を改変。元ネタがより分かりやすくなりました。
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