古式鎮守府南側
中佐の小屋にて
黄昏時
二月三日という日は節分と言われ、
自らの安寧の地を襲おうとする『鬼』達を近寄らせず、
たとえ近寄ろうとしても大豆で退治する⋯
という筋書きを身に感じさせるのだという。
⋯と、つい先程まで深く潜り込んでいた本の青年の如く、誰かに伝えるかのように思う。
海の鬼達は、いくら鋼の豆を投げられても諦める素振りを見せずにやってくる。
もし隣に俺の心を読む事が出来る『彼ら』がいたら、きっと怒りを腹の底から抱くだろう。
勝手に鬼と形容されて。
それにしても、
自身の近くに鬼の友人がいないとなると何時までもこの疑問は喉につっかえたままであろう。
『豆を当てられる鬼は、己の行動をどう思うか』という難題が。
安住を求めているのか、はたまた煙草を求めるのか、それとも本気で生を求めるのか。
どれを取っても、彼らにとっては『義』であろう。
こちらに向ける悪は、向こうがその身に宿す善なのだ。
どちらが正しいのかは誰にも判るまい。誰にも⋯
「こんな海があるのね⋯!」
初霜は、月刊の『潜りの名手』なる、お気に入りの雑誌に描かれる、
洞穴-底で海と繋がる-池に住まう青の魚を見つめていた。
ポリネシアに浮かぶ、世界の宝になりかけた島と、その内海を見たいと言っていた。
彼らも、其処には居るのだろうか?
島の滑走路は野ざらしにされ、調査船も引き上げたとも聞く。
只、自分が心の底で願う泥沼の筋書きは、彼女の願いを拒む事になる。
和平を願えば、たとえ叶ったとしても、人は彼女ら-艦娘達-を、引き渡すかもしれない。
「我々は多数の命を失った。我々は貴君らに、大っぴらに敵意を向ける事をしない。
⋯心の傷を癒すのには、相当の時間が要るのだから。
ああ、その気晴らしの為に、我々は彼女らを贈ろう。
敵意を見せない事にも繋がるのだから。貴君らは自由に扱うと良い」
と他人事を並べれば、反艦娘派の好意を得、提督達(と、その伴侶)を、
土か海に沈めるだろう。
今この状況程、彼女らにとって平和な時は無い。
それ故に、
俺は道具のように扱う者達を嫌うのだ。
もし時が来たら、いっその事世界を焦土に変えようか。
そうすれば、この世界を敬愛する葛城は憎むだろう、
俺と、俺と同類の初霜と、それまた同類のココの提督を。
いくら、提督が(結果的にだが)道を示して進んだ金剛でも、俺らを許すことはあるまい。
どう足掻いても、心を癒す手立ては無い。
永遠に、戦を続け、やがて意義を無くし、孤独を恐れぬ傷ついた者か、
多くの者に愛された力ある者が平定する筋書きしか、手は無い。
その間に、俺らは何処に居付いているのだろう。
森の奥地か、
はたまた四種族が織り成す星々に行くか、
それともくっきりと映れる『境界線』がある明暗の地に行くか⋯
まァ、私物を管理できそうな場所にする以上、
空母を浮かべられるレベルの湖か海が無ければ⋯まだその時は遠いか。
何度考えても『此方は』、とても別れが辛いのだ」
ドン!!
「深く考え過ぎです!」
コップ満載の紅茶⋯もう在庫が切れるであろうダージリンティーが、
かなりの量を伴って零れた。
華奢なカップではオダブツであっただろうコップは、ヒビ一つ入れさせない。
「どこから聞いていた?」
「『ただ、心の』辺りからです!」
「最初の六文字を抜き出せってか?」
はぁ、と息を降ろして、続けた。
「今を明るく生きようって言ったのは中佐さんじゃないですか?
『未来に目を向けるから絶望するんだ』って、
『人は今を生きているんだ、それを見失うな』って言ったのは!」
「⋯そうだな」
酷く長い独り言をばら撒いていた自分を落ち着かせる。
「⋯物騒な事は考えずに、気楽にしようって、しようって!⋯」
「あァ、すまなかったすまなかった」
力を持て余す者は、発散する場や時が無い限り、永久に無力である。
「平和ってなんだろ⋯」
軍旗よりも高い位置に座する、
あるシンボルの風景をふと思い出しながら、
なかなかその身を離さない初霜を払わず、
ただ大窓に映る-濃藍が混じり始めた-夕景を眺めていた。
初霜が涙を流している事に中佐は気付けなかった。
自身の応答までに、相当な間⋯虚空に包まれていた事も。
因みに、
葛城はその時、
自らの無力さを心に潜め、かの楽器を弾き鳴らしていたという。同じ夕景を望みながら。
「この文章わけわかめ」と思った方、それが普通なんです。
ほんの少し修正。これ一年前のか⋯⋯⋯
鬼だけに鬼修正を⋯無理かも。
05/09 さり気無く一部変更