世界樹の迷宮 風の翼 作:交喙
ハイ・ラガードの世界樹の迷宮第一層:古跡ノ樹海
一階の時点ではまだまだ生息している魔物も弱く、戦闘能力の無い一般人でも十分に準備すれば探索できる。
但し時折上階から強力な魔物が下りてくる事もあり、油断は禁物。
北方の国であるハイ・ラガードにありながらその気候はかなり温暖で、常に青々とした広葉樹の森が広がっている。
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私達は古跡ノ樹海の中を進む。
樹海の中は北方のハイ・ラガードに存在するとは思えないほど暖かく、時折綺麗な蝶が飛んでいたりする。
「ねぇ、サラサ?」
この蝶は綺麗な紫色をしていて、そんな蝶が飛び交うこの花畑の中で昼ご飯を食べればきっと楽しい時間になるだろう。
「流石にそろそろ、現実逃避するのも止めないと、本格的にマズイと思うわよ?」
………ただし、その蝶が人の顔ほども大きくて、しかも人が死ぬほどの猛毒を持っていなければ、の話だが。
そろそろ現実を見よう。
現在私達「風の翼」と+αは
樹海の花畑の中で
物凄い数の毒吹きアゲハに囲まれて正に窮地に陥っているのであった………
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毒吹きアゲハ
古樹ノ樹海に生息する毒を持ったアゲハ蝶。
かなり強力な毒を含む鱗粉をたっぷり付けたとても綺麗な紫色の羽が特徴。
ある意味世界樹の迷宮の代名詞、読者の中に冒険者が居たならばきっと一度はお世話になっているだろう………色々な意味で。
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さて、
どうしてこんな事になったか、と言えば話は少し前に遡る。
迷宮に踏み込んだ私達は衛子に連れられて迷宮の奥へと進んでいった。
どうやら入口から地図を制作するのではなく、連れて行かれた先から入口への地図を作成しろ、と言う事らしい。
「…結構奥まで行くのね?」
セレナが少し不安げにこちらに話しかける、私もセレナも戦闘や探索に関して訓練はしていたが、実際に樹海に入るのは初めてだ。
「………所で、ここまでの道順…覚えてる?」
私がセレナに問いかけると彼女の表情が固まった…
更にいくつもの道を曲がり…すっかり道順も忘れた頃にやっと衛士の足は止まる。
「…この辺りでいいだろう。さあ、これが君たちのミッションの始まりだ。」
衛士はそう告げると、不安そうに辺りを見ている私たちを励ますように言葉を続けた。
「ここから街までの道程を地図に描いて帰るのが任務となる」
そういうと、衛士は私たちの持つまだ新しい地図を指差す。
「では、これで話はお終いだ。私は一足先に戻って、街への入り口で待っている君たちが無事、地図を描いてたどりつくのを楽しみに待っているよ。」
そう告げると、衛士はその場から立ち去ろうとするが、不意に顔をあげて私たちを見る。
「そうそう…、忘れる所だった。新米冒険者である君たちに念のためこれを授けよう」
衛士はそういうと、背負い袋からメディカを取り出した。
「あ、ありがとうございます!」
私はそれを受け取ると、シトト交易所でセレナが買っておいてくれたリュックにそれを詰める。
既にセレナが幾つか買っておいてはくれたが数があるに越したことはない。
「樹海は辛く危険なところだ。十分注意して進むんだな」
衛士は朗らかにそう告げると鎧を鳴らしながら、君たちの前から歩き去っていく…。
「………これが小説なら「さぁ、先に進みたまえ!君たちの冒険の始まりだ。」って文が入るあたりかしらね?」
肩を竦めてセレナに問いかける、しつこい様だがここまでの道順などもう覚えていない。
「取り敢えず最低限のヒントはあるみたいね、今の場所はこの辺りみたい。」
セレナは私に地図を見せる、入口から大分離れた辺りに小さく赤丸が書かれていた…ここが今私たちがいる場所と言う事なんだろう。
「はー…ここから入口までの地図を書けって、結構な大仕事じゃない。」
「まぁ地図の制作は樹海に潜る上で欠かせないわ…あんまりグズグズして日が暮れると危ないし、早く始めましょ?」
私はセレナの言葉に頷き、リュックを背負い、ホルスターから銃を抜いて歩き出した。
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私は今、草陰に隠れて銃を構えている。
標的は目の前の広場をウロウロしている針ネズミだ。
狙いを定めて…こちらに背を向けた瞬間に………撃つ!
パァン!と言う銃声が響くのと同時に、針ネズミがその頭部から血を流して倒れた。
何度かビクビクと痙攣し、その動きが完全に止まるのを確認して立ち上がり、一つ息をついた。
針ネズミの死体に近づき、素材となる針を引き抜いていく、一撃で倒したため、長い針も何本か取れた。
抜き取った針を軽く糸で縛って纏め、それをリュックの中に放り込む。
一連の動作が終わり一息つくと、丁度辺りを偵察に行っていたセレナが戻ってくる所だった。
途中で一悶着あったのか、少し鎧が汚れていた。
「お帰り、何かあった?」
「取り敢えずあの先は行き止まりだったからその分の地図は書いてきたわ…後は森マイマイが居たから狩って来たくらいね、あいつ思ったより固くて手こずっちゃったわ…」
ほら、と言いながら彼女は殻のカケラが入った袋を見せる、量的に3,4体分はありそうだ。
「お疲れ、私は今針ネズミを倒して剥ぎ取ったトコ…そろそろ進みましょ、あんまり――――!?」
先を急ぐことを進言しようとして、その言葉を止める。
「…どうしたの?」
「シッ!…今、なにか聞こえた…」
そのまま耳を澄ませる、風に揺れてこの葉が揺れる音…小鳥の鳴き声…それに混じって、何か聞こえる。
「………けてくれ!」
「!」
そしてそれが何かを認識し、私は駆け出した、直ぐ後をセレナが追ってくる。
「ちょ、ちょっとサラサ!何が聞こえたの!?」
今更ながら、私はセレナと比べると耳が良い…故にそれはハッキリ聞こえていた。
「誰かが助けを呼んでる!多分…男の人!」
突然目の前の視界が開ける。
桃色の花が咲き誇る花畑だ、周囲には魔物の気配もなく、ただ花が風に揺られているのみ。
その景色を綺麗だと思う暇もなく私達はその花畑の中へ駆け出す、花畑の中央の辺りで助けを呼ぶ声が聞こえていた…
●
花畑
危険な樹海の中とは言え、花畑が広がっているような綺麗な風景もある。
だがその花畑が安全な場所とは限らない。
蝶とか、!!ああっと!!とか、あのF.O.E.とか。
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僕は倒れて息絶え絶えになっている妹に対してキュアをかけ続ける。
僕と妹は公国薬泉院で見習いをしているメディックだ、基本的に樹海へ潜ることは無い。
だが時折薬泉院の職員が迷宮へ潜ることもある。
薬泉院で使用している薬も、シトト交易所へ卸している薬も、その材料は樹海の中で採取できるものだ。
そしてこの花畑にはごくごく僅かながらネクタル、という薬の材料になる「小さな花」と言う花が採れる。
もう少し樹海の奥まで踏み込めば群生地も有るのだが…冒険者でもない自分達がそこまで踏み込むのは無謀と言うものだ。
故に殆ど魔物も出ない、樹海の入口に程近いここで採取をしていたのだが…
「何で…何で今日に限って…!」
キュアをかけ続けるが妹の顔色は一向に良くならない、自分のキュアの回復力の低さもそうだが、妹の体を蝕む毒の強さもかなりのモノなのだろう。
毒を始めとする状態異常を回復させるリフレッシュはまだ習っておらず、万能薬のテリアカβを持ってきていない、一先ずとは言え体力を回復させるメディカは先の戦闘の最中に使ってしまった。
が、妹を死なせないために僕はキュアをかけ続けようと手を伸ばした、…が
フッと力が抜けて意識を失いそうになる、尻餅をついた痛みで目を覚ました僕は気づいた。
自分のTP…この場合は魔力が切れたのだ。
最悪の状態だった、妹の体は未だに毒に蝕まれ続けている、今から彼女を背負って街に戻ったとしても間に合わない。
そして最悪の事態が重なる。
花の桃色と樹海の緑の中に紫色がちらりと見えた…あの魔物が戻ってきたのだ。
「誰か!誰か助けてくれ!」
妹を背負って叫ぶ、助けが来るとは思っていない、広い樹海で自分の声を聞きつけてくれる人が居るとは思っていない。
それでも叫ばずには居られなかった、自分は良い、妹だけでも助けて欲しいと思って。
そして
銃声が響き、目の前に飛び出してきた一匹の蝶が、僕の目の前で吹き飛んだ…
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公国薬泉院
「超執刀!」「ねーよ!」
どこかで見たことがある男が院長を務める薬泉院、石化や戦闘不能の治療をしてくれる場所。
エトリアの同じような施設では薬品の販売も行っていたが、どうやらここでは交易所に卸す事にしたらしい。
彼の他には良く糸を忘れるこれまたどこかで見たことのある女性が助手をしている。
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「大丈夫ですか!?」
私は吹き飛ばした蝶の事は置いておいて、私は白衣の男性に駆け寄る。
メガネをかけた何処か温和な雰囲気のする男だ、背にはオレンジ色の髪をした白衣を着た女の子が背負われている。
「…毒吹きアゲハ?」
セレナが私が撃ち殺した蝶を見て疑問の声を上げるが、今はそれ所じゃない。
「あ、あの!テリアカβ持ってませんか?妹がアゲハの毒にやられて…!」
私はセレナを見るが、無言で首を振られた、テリアカは買っていないらしい。
となれば…
私はウェストポーチから特殊用の火薬入れを取り出し、その中から緑色の火薬を銃に詰め、更に術式が彫り込まれた銃弾を装填する。
そして私はそれを少女の頭に向けて構える。
「え…ちょ、ちょっと待ってください!一体何を…!」
男が慌てるのも構わず私は引き金を引いた。
狙い違わず放たれた弾丸はそのまま少女の頭を粉砕…
などという事は無く当たった瞬間に緑色の光を放って消滅した。
「…大丈夫そうね」
少女の顔入りは大分良くなっていた、呼吸も落ち着いているから一応は問題ないだろう。
「ドラッグバレッド…ホント何が役に立つか分からないわ…」
ガンナーの使う弾丸は一種類だけではない、属性を付加された特殊弾というものがある。
これはアルケミストがその術式を刻み込んだ弾丸を特殊調合された火薬を用いて打ち出すことで、擬似的に術式の効果を再現したものだ。
そしてその中の特殊なものがこのドラッグバレッドだ。
これに刻み込まれているのはリフレッシュの魔法、但しリフレッシュは術式の類ではなく、メディックの特殊な技術を使った魔法なので、実際なぜそんな弾丸が作れるのかは弾丸に術式を書き込んだアルケミストしか知らない…
テリアカβが一般で販売されている現状ではあまり意味がないと私は思っていたのだが、師匠が「万が一もある、何かに役立つかもしれないから覚えておけ」と言ったのでしぶしぶ覚えたのだ、本当に、しかもこんなに速い段階で必要になるとは思わなかったが…
「さて、早く街に戻りましょ、地図も殆ど書けたし…………」
言いかけて、すぐそれが不可能だと悟る。
辺り一面の紫色
凄まじい数の毒吹きアゲハが私たちを囲むように飛び回っていた…
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ここで話は冒頭に戻る。
銃声が響きまた一匹の蝶が絶命する、地面は既に蝶の死骸で紫色に染まっているというのに辺りを飛ぶ蝶は一向に減ったように見えない。
次を、と火薬を銃に詰めようとした所で体が異常を訴える、一つ舌打ちして入れる火薬をドラッグバレッドの物に変えて自分を撃つ。
さっきからこれの繰り返しだ、しかもドラッグバレッドの弾丸も火薬も限りがある、弾丸は一度撃てば彫られた術式に傷が付くし、火薬なんて言うまでもない。
唯一の救いといえばセレナが毒耐性のアクセサリを持っていた事か、彼女は今メディックの二人を守りつつ迎撃に回って貰っている。
そしてそこで一瞬とはいえ気を抜いたのが不味かった。
ドンッ!という凄まじい衝撃を受けて倒れる、倒れる寸前に見たのは私の死角になる方向から体当たりしてきたらしい毒吹きアゲハだ。
それだけじゃなく不運が重なる。
ガシャン、と言う音とともにドラッグバレッド用の火薬入れが中身をまき散らしながら地面に転がった。
「まず…!………最悪だ!」
慌てて拾い上げるが中身は撒き散らされて殆ど残っていない、もう一発分あるかないか…
私は体当たりしてきたアゲハを撃ち落とし立ち上がる、体当りされた左肩が痛む、と言うよりも明らかに蝶がぶつかったダメージじゃない、見た目は蝶でもやっぱり魔物という事だろう…
………もうドラッグバレッドは撃てない、しかし今この状況逃げる事も不可能だろう。
となると何とか出来る方法は、一つしか無い。
「セレナ!」
私は相棒に一つ、リクエストをする。
「いい、絶対にその二人、守りきってよ!」
え、とセレナがこっちを見るのも気にせず、私は辺りの地形を読み取る。
………木の幹の凹凸、飛び出した岩、そして、蝶の体の形や硬さ…
師匠から教わった、未完成の必殺技!
「ここぉ!」
引き金を引く、一発の弾丸が飛び出す。
少し息を吸いすぎた性で体に毒が回り始める、だけど今は関係ない。
弾丸は蝶が居る空間とは全く見当違いの方向に飛び、木の幹に当たる。
だが銃弾はそこでめり込まずに跳ね返り、別の方向に飛んでいた蝶を貫く
蝶に当たったことによって少し方向を曲げた弾丸は今度は地面から飛び出していた岩に辺り、更に反射…
そして更に蝶を貫き、再び別の物に当たって反射、蝶に当たり、また反射、それを繰り返す。
ガンナーの所謂必殺技の一つ、跳弾。
辺りの地形を読み取り、一発の弾丸を持って複数の敵を撃ち倒す。
しかしサラサはまだこの跳弾を上手く使えないでいた、と言うよりそもそも跳弾を使いこなせるのはかなりの腕前を持ったごく一部の優秀なガンナーのみ、そのごく一部の優秀なガンナーを師事していたとは言え、やはりそれはまだ未完成だった。
「あっ…」
木の幹に当たった弾丸はそのまま跳ね返らずに木の幹にめり込んだ、辺りを飛ぶ蝶は殆ど撃ち落とせたものの、まだほんの僅かながら残っていた。
「そん…」
な、と言おうとするがその前に私の体は地面に倒れ伏していた、興奮した事もあってかかなり早く毒が体に回ってしまったらしい。
僅かに残った蝶がこちらに体当たりを仕掛けようとしている、多分当たったらタダでは済まないに違いない。
私はそっと目を閉じようとして…
「お、おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
メディックの男が杖を手にこちらに走ってくる事に気づいた。
しかしメディックはそもそも前衛で戦うことも少ない、あの杖で蝶を殴った所で大したダメージにならないだろう事は目に見えている。
やめなさい、そう叫ぼうとしたが…
その時、私の想像を超えた事が起こった。
「妹のォ!」
男が杖を振り上げる、そして…
「恩人にィ!」
その瞬間細身の彼の全身の筋肉が膨れ上がった!
「手を!出すなァァァァ!ヘヴィィィィィィ!ストライクゥゥゥゥゥ!!!」
凄まじい勢いで振り下ろされた杖の一撃によって、蝶の姿が掻き消える。
何と言えばいいのだろうか?
叩き落とす、や、千切飛ぶ、ならまだ何となく分かる。
だが今、あの蝶は「ボッ!」と言う音と共に消滅したようにしか見えなかった。
「あ、あはは…」
乾いた笑いしか出ない、が。
取り敢えず私は、助かったようだ…
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ヘヴィストライク
ある意味メディックの必殺技。
メディックはその名の通り、回復や復活に関するスキルを多く覚える、が、その中で異色を放つのがこのヘヴィストライクである。
回復職のメディックの技でありながら初代世界樹の迷宮では全職業トップ3に入るほどの火力を叩き出した。
ハイ・ラガード(世界樹の迷宮Ⅱ)では弱体化したものの、それでも強力なスキルである。
ちなみに習得前提はATK(攻撃力)ブーストがMAXと、VIT(体力)ブーストが5(最大10なので半分)と、メディックの本分とはかけ離れてるといっても良いだろう。
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何とか死地を脱した私達は無事地図の作成を完了させ、街に戻ってきた。
ちなみにこのミッション中に毒吹きアゲハの大群と遭遇し戦闘した事を公宮にて報告したのだが、そもそも毒吹きアゲハは二階以上に出る魔物であり、その大群を倒してということで追加でボーナスが出た。
さらにセレナはなんやかんやであの毒吹きアゲハの素材を回収してきており、それを売ったことで一財産できた。
と言う事もあり、現在私達は鋼の棘魚亭にてささやかながら宴を行っていた。
しかしどうやら一階に毒吹きアゲハが出た事やそれを倒した事はかなり広く知られてしまったようで、気づけばこのささやかな宴会はこの酒場全体を使った大規模な宴会になりつつあった。
題して、「新たな有力ギルドの誕生を祝う会」、だそうで。
とは言え今ここに居る連中はただ何か名目をつけて騒ぎたいだけだろうが…。
そんな宴もそろそろお開き、と言った所で私達の机に一人の男がやってきた、あの時のメディックの男性だ、妹と言っていた少女は居ないようだが。
「風の翼の皆さん、今回は有難うございました!」
席に着くなり彼は頭を机に擦り付けるように下げ、私とセレナは彼を宥めるのに四苦八苦する羽目になったがまぁその話は置いておこう。
何だかんだで彼との話は盛り上がり、色々な事を聞けた。
まず、彼の名前はキリコ、と言うらしい、メディックの両親がとある所で見つけたとても古い文献に載っていた名医の名前から拝借したんだとか。
実は昔から力は強かったのだが、治療の腕前はイマイチだということ。
彼の妹は体力は消耗していたものの、命に別状はなく今は自宅で休んでいるらしいという事。
話も一通り終わり、さて私達も宿に帰ろうか、と言う所になって彼が何やら言いたそうにしていることに気づく。
「…どうしたの?」
セレナが問いかけると彼は「たはは…」と笑い。
「え、えーと…実は「冒険者に迷惑をかけるとは何事だー!」って上司に言われちゃって…薬泉院クビになっちゃいまして…」
そして彼は再び頭を下げて、叫ぶように言った。
「お願いします!僕を風の翼に入れてください!」
………こうして、ギルド『風の翼』に新たなメンバー、「撲殺医師」ことキリコが加入したのであった。