私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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私の大好きな人たち

 チクチクと私は手縫いでお手玉みたいな猫のぬいぐるみをひたすら縫って完成させては、月見団子みたいにピラミッドにして重ねていたら、玄関でインターホンが鳴ると同時に、「先生」と言う声が聞こえる。

 ジェノスさん、礼儀正しいのはいいけどインターホンの意味がないよ。

 

「こんにちは、ジェノスさん」

 玄関を開けると、ジェノスさんがとても良い姿勢で立っていた。

 あ、良かった。進化の家で壊れた部分は全部直ってる。髪もあのカリフラワーみたいなのから、前と同じ髪形に戻ってることにホッとする。

 

 進化の家から帰ってきたジェノスさんを見た時、噴き出さないようにするのに苦労したなぁ。

 顔の半分が壊れても損なわれないイケメンである分、ギャグマンガのようにカリフラワーになった頭はちょっと私の腹筋に抜群の破壊力だったから。

 顔の半分が壊れてもイケメンなのに、カリフラワーになったら台無しって不思議。イケメンだからって何でも似合う訳じゃないんだね。

 

「こんにちは、エヒメさん。

 先生はいらっしゃるでしょうか?」

「ごめんなさい。お兄ちゃんはちょっとテロリストを潰しに出かけちゃいました」

 実にどうでもいいことを考えつつ、私はジェノスさんの質問に答えた。

 

「テロリスト? 桃源団ですか? あの程度の集団に先生が討伐に向かったのですか?」

 ジェノスさんも今朝のニュースか何かで、あのニート集団を知ってるみたい。とりあえず家の中に上がってもらいながら、私はお兄ちゃんがテロリストを潰しに行った理由を説明した。

 

「あのテロリストたち、皆スキンヘッドが特徴でしょう?

 お兄ちゃん、あんな集団が暴れまわったら自分もその仲間だって誤解されるって言って出ていっちゃいました」

「なるほど。先生も、俺を呼んでくださればよかったのに。いや、今からでも俺も桃源団を探して焼き尽くしに……」

「ストップ、ジェノスさん。相手は人間ですから焼かないで」

 

 犯罪者で強化スーツなんか着こんでるから、たぶん正当防衛になると思うけどやめて。

 っていうか、前々から思ってたけどジェノスさんって効率や合理を求めるあまりに、お兄ちゃん以上に行動がぶっ飛んでることがあるよね。

 なんか進化の家でも、まず初めに建物をぶっ飛ばして崩壊させたらしいし。

 実験の為に攫われた一般人とかがいたらどうする気だったんだろう?

 

 とりあえず私が止めると、ジェノスさんはしゅんと落ち込みつつ桃源団を焼き尽くすのは諦めてくれた。

 しゅんとしてる様子が、ちょっと可愛い。

 なんというか、とにかくお兄ちゃんの役に立とうと頑張るジェノスさんって犬っぽいなーと失礼なことを思いつつもお茶を入れ、それを渡してもローテーブルを前にして向き合って座る。

 

「それで、ジェノスさん。今日はどうしたんですか?

 お兄ちゃんに用があるのなら、私が跳んで連れて帰りますよ」

「いえ。結構です。

 ……実はエヒメさん。貴女に訊きたいことがありまして、今日はお訪ねしました。だから、先生の不在は失礼ながら好都合です」

 私が尋ねて提案してみたら、それを否定してから少し悩んだ様子を見せて、彼は答える。

 私に訊きたいこと? 何だろう?

 

「? はい。私に答えられることなら何なりと」

 特に私は隠してることも隠したいこともないから普通にそう答えるけど、ジェノスさんには言いにくいことなのか、少し間をあけてからまず初めに行ったのは質問ではなくて、先日、進化の家から帰ってきた二人に私が話した「忍者さん」についてだった。

 

「……すみません。まず初めに、これは訊きたいことではなくて謝罪ですが、先日、エヒメさんを怪人から救ってくれたという『忍者』の正体は未だにつかめておりません。

 申し訳ありません」

 

「ちょっ、そんなに気にしないでくださいよ!

 確かに私はあの人にお礼をしたいから、もし心当たりがあったら教えてくださいって言いましたけど、自分で頑張って探しますから、ジェノスさんはついででいいんですよ! 本当に出来れば、出来ればでいいんです!」

 

 ローテーブルに手をついて土下座に近い形で謝るジェノスさんに焦って、私が「ついで」と「出来れば」を強調する。

 ……強調しても、この人は大真面目にあの忍者さんを探すんだろうなぁ。

 

 ちなみに、私は怪人に遭遇してなんだかわからないうちに忍者さんに助けられたことはお兄ちゃんとジェノスさんに話したけど、怪人を自分で退治しようとしたことと忍者さんにも軽く殺されそうな空気だったことは話してない。

 

 怪人を退治しようとしたことはともかく、失敗して危ない目に遭ったことは絶対二人に怒られるし、忍者さんにも殺されそうになったことを話したら、それこそジェノスさんが忍者さんを探し出して焼却しそう。

 命の恩人を火葬されたら、もう私はどうやって償えばいいかわからないから言わない。絶対に言わない。

 

 ……喉笛に刀を突き付けられたというのに、私にとってあの忍者さんは怖い人ではなく、命の恩人という認識。悪く思えないんだよね。

 それは確かに助けられたからっていうのも大きいけど、私のあの身勝手な「怪人退治」の理由を、自己中心的だって理解したうえで見下したり蔑んだりしないで、大笑いしながら当たり前のように受け入れてくれたことも、理由の一つ。

 

 ……何かあの笑顔を見た時、笑われた時、バカにされてるとか思わず、この人といるの楽だなって思った。あの時はまだ、刀を突き付けられてたのにね。

 それはいつもはだらしなくてダメ人間の見本みたいなのに、何だかんだで正しいことしかしないお兄ちゃんや、どこまでもまっすぐで生真面目なジェノスさんとは違って、身勝手で間違ってばっかりな私の飾らない本音を好意的に解釈するでもなく悪いまんま笑い飛ばしてくれたのが、「あぁ、私はこのままでいいんだ」と思えたからなんだろうなぁ。

 

 別にお兄ちゃんやジェノスさんが嫌いとか、一緒にいたくないってわけじゃないけどね。

 お兄ちゃんはなんだかんだで私の全部を「エヒメだから」って受け入れてくれると信頼してるし、ジェノスさんは正直に言えば付き合ってて疲れる言動が多いけど、でも初めて「お兄ちゃんがすごい」という私の話に共感してくれて、お兄ちゃんを評価してくれる人だから。

 

 この人とお兄ちゃんの話をしてる時が、もしかしたら私は一番幸せな時間かもしれないって思わせるぐらいに、楽しいから。

 

 だからジェノスさんも大好きなんだけど、この人の限度のなさは実は初めのお兄ちゃん全裸で証明してるから、もしかしたらこの人に忍者さんの事を話したのが間違いかもしれない。

 なんか殺されそうだったってことを話さなくても、出会った瞬間に殺し合いが始まりそうなほど相性が悪そう。

 

 私の説得でジェノスさんはようやく、頭を上げてくれた。

 そしてまたちょっと間を置いて、ようやく本題に入る。

 

「…………エヒメさん」

「……はい」

 いつも真面目なジェノスさんがさらに真面目な様子でこちらを見据えるので、自然に私も緊張して背筋を伸ばす。

 

 ジェノスさんは、言った。

 

「……先生の強さの秘密は、毎日の腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、ランニング10キロとは本当ですか!?」

 

 ……あぁ、お兄ちゃん。

 大真面目にそれ、ジェノスさんに言っちゃったんだね。

 

 私はどんな顔をして、「本当」って伝えればいいの?

 

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