私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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引き続き、ジェノス視点です。


愛 for I

 俺に車から引きずり出されても、ミラージュは相変わらず卑屈そうな目で媚びるような半端な笑みを貼りつかせていた。

 

 ソニックは、一瞬意外そうな顔をした。

 そうだろうな。この女は一見、おかしな言い方だが悪い意味で犯罪を犯せるような人間には見えない。

 地味で目立つ部分は特になく、オドオドとした挙動がいかにも気弱で要領も悪そうで、加害者だとしても主犯や首謀者ではなく、騙されて脅されて利用されている人間に見える。

 

 俺もそう思っていた。

 きっとヘラも、エヒメさんもずっとそう思っていたのだろう。

 

「……ミラージュ。……なんで、あなたがここに……」

「よ、よかったヘラちゃん! 無事だったんだね!」

 

 困惑しているヘラに対し、ミラージュはいけしゃあしゃあと心配していたと語りだし、それをソニックが鼻で笑う。

「無事? つい先ほど、その車で轢き殺そうとして人間がいう言葉ではないな」

「あ、あれはあわて過ぎてブレーキとアクセルを間違っちゃっただけです!!」

 

 即答の言い訳にソニックは一瞬目を丸くさせて、そして初めて見る表情を浮かべる。

 嘲笑でも憐憫でもなく、先生の怒気を目の当たりにした時のように慄いたのとも違う、薄気味悪いものを見るように顔を歪ませた。

 

 当然の反応だ。

 この女はあの、何の躊躇も見えなかった暴挙を即答で言い訳して、謝りもしない。真に心配をしていたのなら、その言い訳が事実でも謝罪をほぼ反射で口にするようなこの状況で、だ。

 こちらを騙したいのならなおのこと、大げさに謝罪を表すべきこの状況で、こいつは俺らが絶句している意味がわかっていないのか、キョロキョロあたりを見渡して、やはり媚びるように笑う。

 

 間違いなら、仕方ない。

 

 人を轢き殺しかけておいて、こいつはあの言い訳だけで俺たちがそう言って、自分は許してもらえると信じて疑っていない。

 自分が悪いことをしたという自覚が、何もない。

 

 今すぐにこいつの手を離してしまいたいぐらいに、不快で、気持ちが悪かった。

 自分の悪事がばれないように保身で心にもない言動を行う人間の思考とも違う、ソニックのように悪事を開き直っている代わりに許しなど初めから求めていないのとは真逆。

 自分は許されて当然だと信じて疑わない暴君の思考が、理解できず、気持ち悪くて仕方がない。

 

「え? あの? どうしたの、ヘラちゃん?」

 この場にいる自分以外の人間全員に引かれていることに気づいていないのか、ミラージュはヘラに尋ねる。

 状況の説明を求めているというより、ヘラが俺に「私の友達にひどいことをしないで!」とでも言うことを催促しているように見えるのは、俺の邪推ではないだろう。

 

「ミラージュ……なんであなたがここにいるの? 何しに来たの?」

 今更だが至極当然な疑問をヘラが口にした瞬間、媚びるような笑みが、卑屈な目が不満そうに歪んだのを確かに見た。

 俺だけではなく、ソニックも、ヘラも見たのだろう。そして同じことを思っていたのが、全員にとって当たってほしくなかった予想が当たったことを確信して、顔を歪めた。

 

 その不満を、いつもの媚びる笑みで隠す。媚びるようなではなく、実際にこいつは媚び続けていたんだ。

 弱くてかわいそうな自分を助けてくれない不満を隠して、それを許す自分を上手く演出しているつもりの笑みだったのだろう。

「わ、私はヒメちゃんからメールが届いて……。ヒメちゃん、メールでヘラちゃんだけは絶対に許さない、昔、自分がされたみたいに全部奪ってやるってメールが届いて……それで、ヒメちゃんもヘラちゃんも心配で……」

「黙れ」

 

 ソニックが全力で引いていた顔から、感情を掻き消して命じた。

 俺もこの女の気味の悪さが吹き飛んで、怒りが再び燃え上がる。

 ヘラも限界まで目を見開き、歯を食いしばって奴を睨み付ける。

 

 3年前の閉鎖的で、常に贄を求めているあの学園内では上手くいったかもしれんがな、この中で一番「エヒメ」という人の事をわかっていないのは、貴様だ。

 誰が、そんな太陽が西から昇った方が現実的な話を信じるか。

 

「……エヒメさんの自殺を匂わせるメールを送って、ヘラを呼び出して貴様はどうするつもりだった?」

「え?」

 

 怒りのあまり掴む腕の力を込めながら、尋ねる。

 ミラージュは俺の言葉に不思議そうな顔をして見上げたが、こいつの伝言を断った時と同じ完全な無表情の俺を見て、すぐさま目を逸らした。

 どう見てもそれは、意味の分からない濡れ衣を着せられた反応ではない。幼子のように、ばればれの嘘を黙ることで誤魔化そうとしているだけだ。

 

「貴様は、ヘラのふりをして、ヘラになりきったSNSで三日……いやもう四日前か。四日前にエヒメさんの写真を晒して、男に彼女を襲わせようとしたな? 最初はエヒメさん本人を本当に襲わせようとしていたんだろうが、俺がお前の計算外に同情もせず、彼女の情報を一切流さなかったことで、計画を変更したのか?

 ヘラ自身を襲わせて、暴行から逃げ出した時の保険かとどめのつもりかは知らんが、手製の爆弾まで使って、その犯人の濡れ衣をエヒメさんに着せて、自分は『止めたかったけど止められなかった』と言って泣きつく気だったのか?

 

 表向きの動機はあり、空間を超越するあの人にアリバイの意味はほぼないから、上手くいくと思ったか?

 登録にフリーの捨てアドを使おうが、少し調べたらSNSから貴様に辿りつく術などいくらでもある。お粗末極まりない計画だな」

 

 かなり俺の想像が大部分を占めるが、おそらくそんなに大きな間違いはないだろう。

 当事者の一人であるヘラ自身が、何も言わないのが良い証拠だ。

 あの狂乱とやけに大事そうに、連絡を待つように握りしめていたケータイ。あれで十分、想像できる。

 

 ヘラは、ミラージュが偽装したエヒメさんの遺書もどきなメールを送られてきて、ここにおびき寄せられただけだ。彼女は被害者と言っていいだろう。

 ……おそらくは3年前から、その前からずっと彼女は、エヒメさんをいじめていた首謀者ではなく、エヒメさんと同じ被害者だ。

 ミラージュに騙され、親友という関係を壊され、真面目で正義感の強い性格ゆえに誤解してしまい、無実のエヒメさんを糾弾して傷つける加害者に陥れられた被害者だ。

 

 ヘラを擁護し、褒め称えるSNSこそ、多少の誇張があっても正しかった。

 ミラージュの話は、穴は多いが筋こそは通っていた。こいつは呼吸をするように嘘をつけるが、嘘自体は全く上手くないので、あれは事実あった出来事を改変したものだろう。

 おそらくは、自作自演の嫌がらせを行ったのはミラージュ本人であり、そこをヘラに置き換えただけで、ヘラが率先して嫌がらせや雑用の押し付けをしたのは嘘だ。

 

 そんなことをするようなら、4日前に会った時、取り巻きのエヒメさんを嘲る言葉を黙らせたりはしない。

 ヘラの対応は褒められたものではなかったが、エヒメさんが性質の悪い嫌がらせをした加害者だと思い込んでしまっていたのなら、あれくらいの嫌味を言いたくなる気持ちはわかる。

 

 ヘラは箱入りゆえの視野狭窄でミラージュの自作自演を信じてしまい、親友を軽蔑して自殺未遂にまで追いつめてしまった。

 そして一番閉鎖的な時期を過ぎ、短大に進学したことで視野が広がり、再会した後で何かしら思うことがあったのだろう。

 呼吸さえままならないエヒメさんが自分を、「ヘラは違う」と庇っているのを見て、過去の事件の不自然さに、エヒメさんが無実であったことに気づいたのではないか?

 

 だから彼女は、俺がエヒメさんを連れて帰る際に追い打ちの言葉など何もかけなかった。

 だから今、ボロボロになっても、男どもに襲われかけてもここにいる。

 状況の不審さに気付いて逃げても、1階にすぐ下りなかったのはパニックになっていたからではなく、ここにいると信じ込んでいたエヒメさんを探していたのだろう。

 

「鬼サイボーグさん、何を言ってるの?」

 ミラージュは俺に腕を掴まれたまま、目をそらしながら、気弱げで卑屈そうに、けれど図太く自然体で恍けた。

 ……こいつは、はっきり言って頭が悪い。想像力がなく、嘘が下手で策略家には程遠い。初めから、偏見だと思いつつも感じていた通りの人間だ。

 なのにどうして、どいつもこいつもこの女に振り回され、騙されたのかは今はよくわかる。

 

 嘘は下手だが、息をするように躊躇いなく罪悪感もなく即座につけることと、こいつの挙動が不審なのはいつものことだから、話の整合性におかしなところがあっても、嘘ではなく混乱でもしているのだろうと思ってしまうことと、何より少し会話するだけで苛立たせるこの性格が、話をさっさと終わらせようと思い、ろくに内容を吟味しないからだ。

 

「ねぇ、とりあえず離してくださいよ。きっと何か、誤解してるんですよ。

 ……ねぇ、ヘラちゃん。どうして何も言ってくれないの? お願いだから、ヘラちゃんもサイボーグさんに何か言ってよ」

 

 俺からそらした視線を、ヘラに向ける。卑屈に媚びながら、けれど何一つとして遠慮などしていない、図々しい目で懇願する。

 轢き殺しかけた相手に、自分を助けろ、と。

 

「……あなたなの? 私の携帯電話にエヒメの名前で、死ぬ前にもう一度だけ話がしたいなんてメールを送ったのは?

 ……今日……私にした事だけじゃなくて……私の名前を使って、エヒメに課題や雑用を押し付けたのも、あの子への嫌がらせは私が扇動してるって噂を立てたのも!!」

 

 当然、ヘラは懇願というにはあまりにおぞましい要求を無視して叫ぶ。

「おばあさまのプレゼントを台無しにしたのも、エヒメじゃなくてあなただったの!? 盗んで切り刻んでいたのを止めたのは、あなたじゃなくてエヒメの方だったんでしょ!?」

「へ、ヘラちゃん?」

 

 涙を浮かべて、過去を悔やみながら怒りをぶちまけるヘラにミラージュは、戸惑ったように声をかける。

 こいつは未だに、現状を理解できていない。

 どうして自分の言葉が信じてもらえないのか、ヘラが自分を助けてくれないのかを、心底不思議に思っている。

 

 ヘラが何に怒っているのかを、理解できていない。

 そんな怒りをぶつけても無意味な相手に、それでもヘラは泣き叫んでぶちまけた。

 

「あなたが……お前が、お前がおばあさまのプレゼントを取り戻そうとしてくれたあの子に、全部罪を着せたの!? いけしゃあしゃあと被害者面して、エヒメに濡れ衣を着せたの!?

 エヒメに……あの子に怪我をさせておいて!!」

 

 自分を騙したことよりも、自分に汚名を被せたことよりも、自分に贈られたものを台無しにされた事よりも、ヘラはエヒメさんに濡れ衣を着せたこと、傷つけたことに対して3年たっても消えない怒りを爆発させた。

 

 ……エヒメさん、貴女の言う通りですよ。

 

 彼女は、ヘラだけは違う。

 貴女の言葉通り、誤解ですれ違ってしまっただけで、ヘラは今でも貴女の親友だ。

 

 だからこそ、貴女は謝罪をするしかなかったんですね。

 ヘラに真実を話せず、逃げ出してしまった事……、この寄生虫であるミラージュの危険性をわかっていながら、新たな宿主にヘラが選ばれたことに気付いていながら、ミラージュを非難する、真実を叫ぶ舌さえ奴に奪われた貴女はヘラに忠告さえもできず、いつか自分と同じように破滅させられる親友に罪悪感を懐いていた。

 

 だから、謝罪を拒絶されて、許されないことを思い知る贖罪をするしかなかったんですね。

 

 ヘラは親友を疑い、信じられなかったことを悔やみながら、髪を振り乱して泣き叫ぶ。

 そこにはもう高慢な女王も、貫録と威厳が溢れる女神の面影もない。

 歳よりも幼い、エヒメさんと同じく3年前から変われない、立ち止まったままの少女がその元凶に、彼女たちの歩む足を食い尽くした寄生虫に叫んだ。

「何とか言いなさいよ!!」

 

 その言葉に、いつしか俯いていたミラージュは答えた。

 

「……………………うっざ!」

 

 吐き捨てた。

 自分が壊したもの、奪ったもの、傷つけたものに対して怒りを、慟哭を、あまりに身勝手で汚いたったの一言で終わらせた。

 

「エヒメエヒメエヒメ、どいつもこいつもいつもいつもいつもあいつの事ばっかり! バッカじゃないの!

 怪我!? あいつがなんか喚きながら、あの安っぽいマフラーを引っ張ってきたからじゃない! 私がカッター振り回さなかったら私が怪我してたんだから正当防衛でしょ!? 破れたのだってあいつが引っ張ったから、やっぱりあいつの所為じゃない!

 何でもかんでも私のせいにするんじゃないわよ! 何でいつもいつも、あいつは好きなことしかしてないくせに、あのクソ女のわがままは許されて、頑張ってる私が悪いことになんのよっ!!」

 

 猫を被っているつもりが、被りきれていないと思っていた。

 俺の想像よりもはるかに、こいつは自分の本性を上手く隠していた。

 

 被っていた猫をかなぐり捨てて、本性をさらけ出したミラージュの逆恨みに、口を挟むことなど出来なかった。

 怒涛の勢いで吐き出されたのは関係ない。逆恨みと言うのも生ぬるい、常人では考えつかない、破綻どころではない狂った論理で自己を正当化するこの生き物のおぞましさが、思考を真っ白に染め上げる。

 

「うざいうざいうざい! どいつもこいつもうざっ!?」

 さらけ出した本性のまま、ただひたすらに自分の罪をエヒメさんに、周囲に、自分以外の誰かに押し付け、ぶつける言葉が途中で途切れる。

 額の中心部に深々と卍型の手裏剣が突き刺さり、醜悪に怒り狂い、嘲り嗤った顔のまま軽くのけぞる。

 

「死に晒せ」

 ただ一言、自分の要望だけをソニックは口にした。

 俺を見て、何故さっさと始末しない? と言いたげな目をする。

 その目でようやく、怒り狂った思考が、あまりのおぞましさで真っ白になっていた思考が、まともに働く。

 

 ………………どうして、この女は何も言わない? とあまりに遅い疑問が沸き上がる。

 

 エヒメさんからメールがあったと、あまりにも酷い虚偽の内容を聞かされた時から、怒りで手加減など忘れて握りつぶさんばかりに掴んでいるこの腕は、なぜ今も潰れていないのか。

 その疑問に答えるように、ドロリとあふれ出した。

 

「!?」

 掴んでいた腕を離し、飛びのき、ヘラの前に、ソニックはともかく彼女だけは何が起こっても巻き添えにならぬように真後ろにやって、俺は焼却砲を放った。

 

「え!?」

「ほう」

 チャージなしだったが人ひとり消し炭にするには十分な火力にプラスして、奴の軽自動車のガソリンに引火してかなり派手に爆発、炎上する。

 ミラージュのありえない主張とソニックの躊躇ない投擲で、茫然としていたヘラが俺の行動に驚愕の声を上げ、ソニックの方は追い打ちにしても派手な俺の行動に、感心したような声を上げる。

 その様子からしてあれを見たのは、溢れ出したものが見えたのは、至近距離で見下ろしていた俺だけのようだ。

 

「おい、ソニック! 今だけは休戦だ! それが不満なら帰れ! お前の相手をしてる暇はない!!」

 俺が振り向きもせず、焼却砲を構えたまま告げた言葉に「はぁ?」と奴は声を上げたが、説明は求めなかった。

 

「……痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃっっ!!

 死ねっ!! もう皆、私をいじめる奴らなんか皆、死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇっっ!!」

 

 業火の中、影が揺らめく。

 狂気の絶叫が響き、俺の背後でヘラが息を飲む。

 

 焔の中から、人影が歩み寄る。

 額に刺さった手裏剣を抜き取って、投げ捨てる。

 その額から溢れ出たものが燃え尽きた服の代わりに体を覆い、ドレスじみた様相になっている。

 

 銀の、液体にありえない光沢をもつ液体。

 水銀のようなものが、ミラージュの額から溢れ出続ける。

 

「!? 怪人!?」

 ソニックが声を上げる。

 お前の所為で怪人化したとでも言ってやりたい気もしたが、明らかにそれは言いがかりだったのでやめた。

 

 ソニックの手裏剣がきっかけのように見えるが、おそらくそれは表層化するきっかけ、言葉通り薄皮一枚で偽造していたものが漏れ出たにすぎない。

 俺が手加減を忘れて掴んでいた腕に対して、苦痛を訴えなかった時点であの女は、既に人間をやめていた。

 

 いつから? を問うのは、もはや馬鹿らしい。

 あの女はとっくの昔に、怪人に成り果てていた。見た目が変化していなかったから、誰も気づかなかっただけだ。

 

 あの、ヘラのフリをして、自分はヘラのように美しく優秀で家柄も素晴らしいと思い込んだSNSは、今年の3月から始めていた。エヒメさんと再会して、嫌がらせに利用したのはついでだ。

 俺と昼間会って、そこで自分の想い通りにならなかったからといって、わずか数時間で爆弾など作れるわけがない。

 こいつは初めから、だいぶ前から、誰かにいつか使う予定で用意していたのだろう。

 

 それぐらい、この女はとっくの昔に狂い果てていた。

 

 この女は、卑屈でありながら図々しくてしつこい性格ゆえに、今まで他人からあらゆるものを与えられてきたのだろう。

 与えないと被害者面していつまでもまとわりつくから、関わりたくないの一心で与えて黙らせて、そして育ててしまった。

 

 自分は何をしても許される、何でも望めば与えられる特別な存在という、実際とは真逆の自分を信じて疑わない、自己愛の怪物を。

 

 * * *

 

 ジェノスさんもソニックさんも、なんだか初めはヘラを誤解してたみたいだけど、二人とも誤解が解けてよかった。

 ソニックさんはともかく、ジェノスさんには説明しておくべきだったのにしていなかったのは本当に悪いから、後で謝らないといけない。

 

 誤解をしていたのにヘラを助けてくれたジェノスさんには、いくらお礼を言っても言い足りない。

 

 あの掲示板を見て、「6月」という名前を見てから頭が真っ白になって、ヘラを助けなくっちゃという思いだけで、私はいつしかここにいた。

 ヘラの性格と、パソコンの電源落としてと言ったらコンセントを躊躇なく抜くヘラが、3年たったからってあんなこと出来るわけがないから、あれはヘラのフリをしたミラージュであることは、すぐにわかったから。

 

 そしてあんな、自分の盾にしている相手を加害者に仕立て上げるやり方をするのは、新しい寄生先を見つけて、それに取り入る為だってことは、よく知ってる。

 ……私にしたことを、さらに酷く、卑劣にあいつはまたやった。

 

 私の所為だ。

 私がヘラにミラージュのしたことを話してさえいれば、こんなことは起こらなかった。

 ヘラは世間知らずだけど決して馬鹿じゃないから、話してさえいれば警戒してすぐにミラージュの本性に気付けたはずなのに、私は怯えて何も言えなかった。

 

 ……ヘラが、私の言うことを何も信じてくれなかったらどうしようって怯えて、私は何も言わずに逃げ出した。

 

 ごめんなさい、ヘラ。

 私はあなたの言う通り、卑怯者だ。

 

 だからせめて、守りたかった。ミラージュが何を企んでるかはわからなくって、初めはまた自作自演でヘラを陥れようとしているのかと思って、それだけなら誰かに、おそらくはジェノスさんにヘラが何かをしたように見せかけたかったのなら、私がヘラの傍にいて、ジェノスさんに誤解される前に、ヘラを離脱させてしまえばいいと思っていた。

 

 ……私はまだ、期待してしまってた。ミラージュが、そこまでするとは思っていなかった。

 男にヘラを襲わせようなんて、そんなことまでしようとしてたなんて、思いたくなかった。

 

 ヘラを何度もテレポートで逃がそうとした。

 でも、何故かうまくテレポートが出来ずに、車に戻したり校舎の外に出すこともできずに、何とか捕まりそうになったら少し位置移動して逃がすしか出来なかった。

 むしろヘラを余計にパニックに陥らせてしまった。私のしたことは無意味ではなかったと思うけど、迷惑の方が大きい。

 

 フブキさんが、超能力を人に対して使う場合、相手の精神力によって効き方が大きく変わると言っていた。

 思い返してみると、私のテレポートは誰かと跳ぶ場合は基本的に同意して跳んでいたから、相手の精神力とかあまり関係なく、望んだ場所に跳べたんだと思う。

 

 ヘラの場合、私が見えていない、気付いていないからどこに跳ぶかの同意がまったくできていなかったのと、彼女には一人で逃げるにはいかない理由があったから、だから校舎の外にすら跳ぶことが出来なかった。

 

 ……ヘラは、ケータイを握りしめてずっと言ってた。

「エヒメ……どこなの!?」と、私を探してくれてた。

 

 自分を襲おうとしている男がいるからこそ、私がここにいると信じ込んでいる彼女は、私を探してくれた。

 私が罠にはめたなんて一切疑わずに、ずっと探してくれた。

 

 ごめんなさい、ヘラ。ずっと逃げて、あなたを置いていって。

 あなたが信じてくれないかもなんて不安を抱いて、私の方こそが疑って、本当にごめんなさい。

 

 何度謝っても謝り足りないけど、そもそもこんな聞こえていない状態じゃ意味がないのはわかってる。

 だから、もう少しだけ待ってて。

 

 ごめんなさい、ジェノスさん、ソニックさん。

 たくさん心配と迷惑をかけて。

 それでも、ヘラを守ってくれてありがとう。……ソニックさんはかなり危なかったし、守ってないけど。

 

 そして、お願いします。

 もう少しだけ、ヘラを守ってください。

 私が来るまで、その化け物を育てた責任の一端は私にあるから、私がちゃんと責任を取ります。

 

 すぐに戻ります。だから、それまでお願いします。

 

 私の親友を、どうか守って。





パソコンの調子が悪いので、今後急に更新が出来なくなる事態があるかもしれませんが、ご容赦ください。
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