引き続きガロウ視点です。
俺の方が若くて体力があるなんてメリットは、ただでさえ満身創痍なこの状態じゃ意味がないのに加え、そもそも技の練度が桁違いであることを思い知らされる。
ジジイらしくない派手な猛撃を、俺は砂で目つぶしと番犬マンの動きの模倣で何とか逃れるが、俺の援護に来たとかいう怪人たちはボンブと鬼サイボーグによって全滅してた。
その所為でボンブが自由になって、最初に倒したヒーローどもを人質に取るという手段が使えねぇ。
が、同じく自由になった鬼サイボーグが怪人が出てきてた穴の側から離れずジジイに言う。訴える。
「バング! 待て! そいつは、ガロウはエヒメさんの友人だ!!」
鬼サイボーグの言葉に、ジジイは一瞬反応する。ひぃちゃん、ジジイとも面識あんのかよ。ひぃちゃんの人間関係、どうなってんだ?
「! なんと……エヒメ嬢とこやつが……。
なるほど。なら、なおさらにしっかりケジメを付けねば、エヒメ嬢と合わす顔がないのう」
「何でそうなる!? 話を聞け、クソジジイ!!」
そのとおりだよ、このガンコジジイ!!
人の話を聞かねぇガンコジジイのくせに、やってる事は元一番弟子が弱り切ったところを兄貴と一緒にタコ殴りって極悪すぎるだろ!
しかもその一緒にボコボコ殴って来るの兄貴は、旋風鉄斬拳の達人じゃんかよ!
こいつら、武術界の大御所が二人がかりなんて恥も外聞もねーのかよぉおお!!
俺の顔面に遠慮のない蹴りをぶち決めて、ジジイは言った。
「ワシの“一番弟子”チャランコの痛みを知れ! ガロウ!!」
弟弟子を「一番弟子」と言って、俺の存在はなかったことにされた。
あぁ、結局俺はどんなに強くなっても同じか。強いか弱いかなんて関係ない。弱くても愛嬌があれば、要領が良ければ人気者の正義で、そうじゃない俺は嫌われもので、何を言っても聞いてもらえない悪役だ。
『何でお前、空気読めないの? 怪人役なのに。ちょっとガロウ押さえてて』
『おっけー』
『ジャスティスマンキーック! 怪人、ガロウンコマン撃破~~!』
走馬燈って奴か、ずいぶんと懐かしくて嫌な記憶が蘇る。
クラスの人気者でお調子者、弱い者いじめが大好きな嫌な奴なのに、運動神経が良くてモテて人気者だった、大嫌いだったたっちゃんが俺を嘲笑っている。
俺はいつまでたっても弱い、自分にイジメられる怪人役の「ガロウ君」だと言うように。
『遊んでただけなのに、ガロウが怒り出した!』
『なんなの、こいつ』
クラスの奴等が遠巻きに俺を見て、俺を非難する。
たっちゃんが何をしていたか、嫌だと言ってる俺を無理やりヒーローごっこに付き合わせて殴る蹴るをしてたのを見ていたくせに、「遊んでただけ」だと言う。
『たっちゃんが優しいから調子乗った』
『きもっ』
『ヒーローごっこしてて、ガロウがたっちゃんにマジギレしたらしい(笑)』
『何それ、こいつ何考えてんの!?』
『たっちゃんが可哀相だ!!』
あいつらには俺なんか見えていなかったんだ。俺の言葉なんて本気で聞こえてなかったんだ。
そうとしか思えない。そう思わないとやってられない。
あれを、あの地獄を「遊び」と言える神経が普通だと思うくらいなら、俺が透明人間だったと思った方がマシだ。
『何で暴れたりしたんだ?』
『先生、たっちゃんがいつも『ヒーローごっこで怒ったって聞いたけど、本当なのか?』
『いつも僕が怪人役で『遊びと現実の区別もつかないのか!』
『違うんです。たっちゃんは人気者だから皆、僕が悪いように言うんだ』
『お前が暴れたんだろ! 窓が割れたらどう責任を取るんだ!?』
『違う!!』
同じ言語で話しているはずなのに、まったく会話が成立しなかった。
俺が暴れた訳を尋ねているはずなのに、俺の言葉は全部途中で遮られる。何を言っても結局、「お前が暴れたからお前が悪い」で終わる。
理由なんかどうでも良かったのなら、何で訊いたんだよ?
怪人役が嫌なんじゃない。
ヒーロー役がたっちゃんなのが気に入らなかったのか?
いや、そんな話じゃない。
俺はヒーローごっこを通じて、圧倒的理不尽さを感じたんだ。
誰からも好かれている人気者が、誰からも嫌われている弱者を一方的に叩きのめすという構成。
これは単なるいじめではない。大衆が認めた子供番組を忠実に再現したごっこ遊びなんだ。
何の役をやろうと自由だが、ヒーロー役は周囲の了承を得たうえで成り立つもので必然的に俺の出番は回ってこない。
当然だが怪人役が勝つというシナリオは最初から存在しないので、俺は必ず負けなければならない。
何が正義だ! 何が悪だ!
結局は多数派の意思によって俺が殺されていくだけだ! 許せん! 理不尽!
根拠は上手く解析できんが、俺は怒っている!
ただ、わからせてやりたいんだ!
弱者の一撃をくらわせてやりたい!
善悪の立場を否定してやりたい!!
『どうしたの、ガロウ君?』
「いい加減にしろ!! このクソジジイども!!」
* * *
二つの光景が、重なって見えた。
『どうしたの? どうして泣いてるの? その怪我はどうしたの? 痛い? 大丈夫?』
小さなあの子が、ひぃちゃんが泣きべそかいてる俺の涙はもちろん、鼻水だって全く嫌な顔せず自分のハンカチで拭いながら、俺を真っ直ぐに見て訊いてくれた。
誰も聞いてくれなかった、誰にも聞こえていなかった俺の声を、言葉を聴いてくれた。
「!? ジェノス君!? 一体何を!?」
「何をも何も、俺は初めからお前達を止めてるんだ! 耳がまだ遠くないのなら話を聞けジジイ!!」
鬼サイボーグが自分の両腕を飛ばして、ジジイ二人をワイヤーで拘束して怒鳴る。
話を聞かないガンコジジイ共に、マジギレして訴える。「話を聞け」と。
『……たっちゃんがいつも……僕を怪人役にするんだ。嫌だって言っても、……いつも僕を……』
ひぃちゃんはたっちゃんやクラスの奴等のように俺の言葉を嘲笑いなんかしなかった。
先生みたいに、途中で遮ったりしなかった。
泣きじゃくって、自分でも何が言いたいのかわからない滅茶苦茶な話でも、最後まで聴いてくれた。
「そもそも、エヒメさんが俺に頼む以前にお前が誰からも頼まれるまでもなく話を聞くべきだろうが!!
何でお前はガロウの話を聞いてやらないんだ、バング!!」
鬼サイボーグはジジイを締め上げながら、マジギレし続ける。
自分の「やめろ」という制止の言葉をジジイどもが聞いてなかったから怒ってるんじゃなくて、こいつは俺の話を聞かなかった事、俺の話を、俺が何でヒーロー狩りをしているのか、どうして怪人に憧れるのかという理由を訊こうとしなかったことにマジギレしていた。
『ガロウ君は偉いね。他の子を庇ったんだ』
ひぃちゃんは、俺の話を聞いてまず最初にそう言って褒めてくれたんだ。
俺だって忘れてたこと、俺だって意識してなかったことに気付いてくれた。
俺がたっちゃんに目を付けられたきっかけ、他の俺と同じように暗くて、俺よりもずっと気が弱かった子にたっちゃんがジャングルジムから跳び蹴りして、それを「危ないよ」と言って止めたことを聞き逃さず、あの子は「偉いね」と言ってくれた。
俺の悪い所、間違った所、ダメな所だって見逃さずに叱るけど、あの子は、あの人は俺だって忘れてた、気付いてもいなかった正しい所をちゃんと見つけて、讃えてくれた。
「お前にとってそいつは、話を聞く価値もないバカ弟子なのか!?
そいつは! ガロウはな! 俺を庇ったんだぞ!! 怪人協会の怪人どもが穴から奇襲をかけてきた時、不利な体勢だった俺を横手に突き飛ばして、俺に襲い掛かって来た怪人を自分で倒したんだ!!
それでも、お前は何も訊かずにケジメと称して問答無用でリンチするのか!? 力の使い方を間違えているのはどっちの方だ!!
今のお前なんかより、ガロウの方がよほどヒーローらしいわ!!」
そんなつもりはない。ただ邪魔だっただけでしたことなのに、……けど確かに、今思えば何で俺はあの時、ただ掴んでた胸倉から手を離すんじゃなく、怪人どもの方に突き飛ばすでもなく、自分が迎え撃つために、あのクソ重い鬼サイボーグを横手にブン投げたのかはわからない。
俺にもわからない俺の行動を、鬼サイボーグは「自分を庇った」と解釈してジジイに訴えかける。
ジジイの間違いを指摘して、マジギレして、そして俺を讃える。
俺をヒーローだと言った。
『お前達! ガロウに謝りなさい!!』
『……いじわるで怪人役ばかり押し付けて、嫌がってるのに殴るのをやめなくてごめんなさい』
勝ったんだ。ひぃちゃんはたっちゃん達に、ヒーローだった、正義だった、勝つことが決定されていたはずの人気者のたっちゃん達に勝ったんだ。
公園でまた、俺が怪人役をやらされてボコボコにされてた時、ひぃちゃんが俺を見つけてくれた。
約束通り、ひぃちゃんは俺が必死で叫んだ「助けて」って声を聞いて、探してくれた。見つけて、庇ってくれたんだ。
たっちゃん達はヘラヘラ笑って、遊びだって言い張って、遊びでマジギレするひぃちゃんをダサい、俺なんかを庇うなんてキモイってバカにしたけど、ひぃちゃんは一歩も譲らなかった。
『遊びは、皆が楽しんでなくちゃ遊びって言わない。嫌がる子が一人でもいたら、あなた達のしてることはただのいじめだ』
その主張を絶対に譲らなくって、たっちゃん達も言い返せなくて、あいつらは「キモイんだよ、バーカ!!」って捨て台詞を吐いて逃げた。
……逃げたはずだった。
『ガロウ君、大丈夫?』
たっちゃん達が逃げて、怪我した俺を心配してくれて手当てをしてくれてた最中、あいつらは、たっちゃん達は後ろからひぃちゃんに向かって石を投げてぶつけた。
血こそは出なかったけど、こぶが出来た。それでも、あの子は泣いて心配する俺に安心させるように、笑って「大丈夫」って言い張ったんだ。
そしてその怪我が、決定打になった。
一歳年上とはいえ女の子に怪我、それも後ろから石を投げつけたことに「ヒーローごっこ」という言い訳は通用しなかった。
そしてひぃちゃんは、たっちゃんのように弱い者いじめでストレス発散して、他の奴等に優しくできる偽物じゃなくて、誰に対しても本当に優しくて、成績もすごく良くて真面目な優等生だったから、ひぃちゃんの言葉がたっちゃん達よりずっと信頼された。
『私の事はいいんです。私の事より、ガロウ君に謝って。ずっといじめてきたあの子に』
謝らせる為に先生がたっちゃん達をひぃちゃんに引き合わせた時、ひぃちゃんはそう言ってくれたらしい。
だから、先生はやっとたっちゃん達がしてたことをイジメだと認めて、俺にも謝らせた。
たっちゃん達は明らかに本心から反省していない、ふてくされて口先だけの謝罪だったけど、それでも謝った。
謝っても謝らなくても、もうたっちゃんは今まで通りの誰からも好かれる人気者ではなかった。
俺のように皆の嫌われ者にはさすがにならなかったけど、取り巻きは明らかに減ってた。「女の子に怪我させた乱暴者」って影でコソコソ言われるようになった。
勝ったんだ。ひぃちゃんは俺に教えてくれた正しいやり方を全部実行して、完全に勝利したんだ。
ヒーロー役が回ってこない、怪人役しかやらせてもらえない俺が勝つシナリオなんてなかった。
けど、俺はヒーローに助けてもらえる立場にはなれた。ひぃちゃんという本物だからこそ、たっちゃんという偽物は負けて、俺は救われるというシナリオなら存在した。
ひぃちゃんが、作ってくれたんだ。
「……あ……あぁ……。そう……じゃった……。
……そうじゃ。……そうじゃった。こやつは……他の弟子とは違って、言わなくても……これだけはせんかった。…………弱い者イジメだけは……絶対にせんかった」
鬼サイボーグの言葉に、自分を拘束するワイヤーを外そうともがいていたジジイがその足掻きをやめて、がっくり項垂れながらブツブツ呟く。
ジジイの様子を見て、鬼サイボーグはジジイ共の拘束を解く。
ボンブの方は何が何だかわからんって顔をしてるが、顔を上げたジジイは皺だらけの顔でもはっきりわかるほど眉間にしわを寄せて、悔やみに悔やみ抜いてるって顔をして言った。
「……ガロウ。すまなかった」
俺に、謝った。
自分がしたことが正しくないと、間違っていたと、たっちゃん達とは違って本心から悔やんで、俺に悪いと思って、後悔してジジイは俺に謝った。
…………多数派の意思で、俺が殺されていくだけだった。そのはずだった。
俺にヒーロー役は回ってこない。俺が勝つ未来なんてない。
そう思ってた。
けど……、俺はヒーローになれなくても、怪人が勝つというシナリオがなくても。
…………俺が救われるという未来なら、あるのか?
『助けて欲しい時は、「助けて」って叫んで。
絶対に、助けるから。助けたいから、助けるから』
俺が「助けて」と言えば、それは手に入るのか?
もう呼吸さえも辛い、自分でも何で立っていられるのかわからない状態で、それでも口が動く。
かすれた声が紡ごうとする。
けれど、その前にジジイが言った。
悔やみながら、それでも喜ぶような顔をしてジジイは、ゆっくり俺に歩み寄りながら言った。
「ガロウ……。オヌシなんじゃろう? 半月ほど前に、エヒメ嬢のストーカーを……あの透明化する怪人をわしらの代わりに倒してくれたのは。
すまんかった……。再会したら、やりすぎたのは叱るつもりじゃったが、それでも褒めるつもりじゃったのに……そのことも忘れてわしは…………」
………………………………は?
ひぃちゃんの……ストーカーの怪人?
* * *
記憶が蘇る。
片腕を失った、ぶよぶよとしたデブの体に気持ち悪いムキムキの腕をした怪人が、ひたすらに恨み言を喚いていたことを。
『絶対に、あの女だけは許さない!』
自分を痛めつけたヒーローに対して怒ってるんだと、初めは思った。それなら無視して、立ち去るつもりだった。
けど、あいつは……
『あれは俺のものなんだ! だからどうしようが、俺の勝手だろ!!』
男の俺でも胸糞が悪くなる、下劣なことを喚いていた。
ヒーローじゃなくて、ただ自分の玩具にしたい女が思い通りにいかなかったことに、理不尽で悍ましい逆恨みを募らせてた。
……あれが、あいつが、……ひぃちゃんのストーカー?
あいつが言っていたこと、あいつがしようとしていたことに、ひぃちゃんはあいつの脅威に晒されていたのか?
ひぃちゃんがあんな奴の脅威に晒されて、あんな奴に狙われて、怖い思いをしたのか?
ひぃちゃんがそんな目に遭ったのに、お前達はあいつを取り逃がしたのか!?
「っっっっっざけんな!!!!!」
『!?』
爆発した感情のままに、両こぶしを地面に叩きつけて地盤を割る。
近寄るんじゃねぇよ!! クソジジイも! 鬼サイボーグも!!
血迷ってバカなことをするところだった。
何が、「助けて」だ。
何が、「ヒーロー」だ。
そんな資格、俺にはない。
そして、お前らにもねぇよ!!
「あいつは……あのクソはひぃちゃんを『あれ』呼ばわりしやがった。……ひぃちゃんを、性欲の道具扱いしてたっていうのに、何のうのうと逃がしてんだ!!」
何、俺に呑気に感謝してんだよクソジジイ!!
俺がいなかったら、俺が放っておいたら、ジジイが見つけられなかったら、どうする気だったんだ!?
あの子が、あの人が、ひぃちゃんが一番、女の子として死んだ方がマシな目に遭ってたかもしれないっていうのに、なのにただの偶然で解決したからって終わったことにしてんじゃねぇよ!!
物語ならそこで終わりの一件落着でもな、人生が続いてるんなら終わりじゃねーんだよ!!
物語じゃなかった。ヒーロー番組じゃなかった、だから……だから……ひぃちゃんが完全に、完璧に勝ったのに、俺はひぃちゃんによって救われたのに!!
それなのにあの子は、あの人は、ひぃちゃんは――――――
『ごめなさい。廊下でふざけてたら持ってた墨汁が手からすっぽ抜けて……、それで汚れを落とそうと思ってバケツで水を汲んで……』
あいつらは、たっちゃん達はそう言い訳した。そして先生はそれを鵜呑みにした。
習字で使った道具を洗うためにトイレの水道まで行く途中、道具を持ったまま廊下でふざけていたことは叱ったけど、あいつらがたまたま廊下で鉢合わせて俺と雑談してくれたひぃちゃんに墨汁と水をぶっかけたことは、「悪気のないただの事故」ってことにした。
どう見ても、どう考えてもそんな訳ないのに、わざとだったのにその証拠がないから、今度は怪我じゃないからあいつは……あのことなかれのクソ教師は面倒事を嫌ってそれ以上追究せずに終わらせやがった!!
あいつらは、たっちゃん達は俺とひぃちゃんの会話で、ひぃちゃんがその時着てた服がお気に入りのワンピースだったことも、学校が終わったら少し早い誕生日の祝いで出かける予定だったことも、それをすごくひぃちゃんは楽しみにしてたことをわかった上で、その全部を台無しにするためにあんなことをしたんだ。
……俺と話してさえいなければ、そんな情報をあいつらが知らなければ、あいつらは何もしなかったのに。
俺がいた所為で、俺と話した所為で、俺を助けた所為でひぃちゃんは…………。
『お前、あの女の事大好きだよなー。
お前の所為であんな目に遭ったんだから、あいつはもうお前のことなんか大っ嫌いだろうけどなー』
たっちゃんはニヤニヤ笑って、そう言った。
俺の所為だと、俺の所為でひぃちゃんが泣いたと。
俺さえいなければ、ひぃちゃんはあんな目に遭わなかったと。
『いい気味だ』
俺の所為でひぃちゃんは――――――――
「こんなところで終わってたまるか!!」
一向に収まらない怒りのままに、近くのごん太い木をブチ折って、それを抱えてジジイ達に襲い掛かる。
終わらせてたまるか。終わってねぇんだよ!
終わってるとしたら、もっと前だ。
俺がひぃちゃんに助けを求めてしまった時点で、終わったんだ!!
あの時の俺の弱さがひぃちゃんの涙に繋がるのなら、俺は貝のように口を閉ざして、一生みじめで負け続ける嫌われ者の弱者でいるべきだったんだ!!
もう何をしたって今更なんだ。あの時のひぃちゃんを助けられないのなら、ヒーローも正義も意味がない!
あの人の不幸の原因になった俺に、正義なんて必要ない!!
……もう終わってるんだ。だからこそ、終わらせてたまるか。
『大丈夫。大丈夫だから…………、泣かないで。ガロウ君』
あの人が不幸なまま、それでも俺なんかを気遣って笑うなんて結末のまま終わらせてたまるか!!