私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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ゾンビマン視点です。

あとささやかですが、ワンパンマン22巻の番外編ネタバレ要素あり。



今回はわりと真面目にS級会議

 童帝が自作の人工衛星や探索機で見つけた怪人協会のアジトや、おおよその怪人の数を告げる。

 確認できただけでも、怪人の数は500以上。うんざりする数だが、それでもこのメンバーにサポートも加えれば、まぁ問題はないだろう。

 童帝もそう言って、数の話は終わらせて質の話に移る。

 

 机上に先日出現したムカデ長老のグラフィックを投影させ、怪人協会にはこいつレベル……つまりはレベル竜がまだ何体かいることを想定して、俺達にその対策をするように忠告した。

 しかし、想定や対策って言っても、そのレベル竜がどういう怪人かわかってねーとどうしようもねぇな。

 

 鬼レベルを単独で倒せるのがS級の条件だが、どんな鬼レベルでも倒せるとは限らねぇ。

 現に俺は、泥仕合で粘り勝ちするしか能がない。だから装甲が固すぎて手持ちの武器では火力が足りない相手なら、足止めの時間稼ぎぐらいしか出来ねぇし、スピード特化ならそれこそ虎レベルでも下手すれば俺は永遠に甚振られるかとっとと逃げられるという、無様な結果しか出せない可能性が高い。

 

 だからこそ、慎重に事を進めるべきだ。相性次第で虎でもヤバいのなら、逆に言えば竜相手でも単独で倒せるかもしれないのだから。

 ……もう既に駆動騎士が犠牲となっている。奴はサイボーグだから、最悪の事態にはまだ陥っていない可能性が生身の奴よりあるとはいえ、その可能性に楽観はもちろんできやしねぇ。

 これ以上犠牲を生まずに人質を救出して、そして確実に怪人協会という組織を壊滅しなくちゃいけないんだよ、俺達は。

 

 だから、頼むからお前らマジで、少しは協調性を持ってくれ。

 事前に敵戦力の情報が手に入らねぇってことは、潜入最中での情報交換がマジで命綱なんだよ。ちゃんと報連相をしっかりとって、連携してくれ。

 

 特に、タツマキ。

 確かにお前がやられるとは誰も思ってねぇよ。

 けどお前、報連相や連携どころか面倒になって怪人協会のアジトを地盤ごとひっくり返しそうで嫌なんだよ。

 

「奴らは出会い頭に容赦なく攻撃を仕掛けてくる。無論こちらも、例え怪人が対話を申し入れてこようが取り合う必要はない」

 

 フラッシュが淡々と俺達全員に、「甘さを捨てろ。油断するな」と告げて話をさっさと進める、もしくは切り上げようとしたが、その発言を童帝は飴を食べながら部分的に却下……いや、「例外」がいることを告げる。

 

「あ、待ってくださいフラッシュさん。

 それは当然の前提ですし、皆さんに強制する資格とか権利なんてないんですが、ひとまず全員この情報だけは頭に入れてください。

 

 おそらく怪人協会アジトに、『人間怪人ガロウ』がいます。そして多分、満身創痍です。

 けど、もしどっかで寝かされているのならそのままで。アジトで鉢合わせしたら襲い掛かってくるかもしれませんが、戦う前にエヒメおねえさんの名前を出して協力を願い出てみてくれませんか? 口先では拒否するでしょうが、なんだかんだ理由付けて結果的に応じてくれる可能性が高いんですよ。

 なんかガロウ、エヒメおねえさんのこと大好きっぽいので」

 

『…………はぁ?』

 

 童帝の発言に、協調性のない奴らが珍しくほぼ全員同じ反応をした。

 だろうな。訳わかんねーよ。

 おい、エヒメっていう嬢ちゃん。お前の人間関係、どうなってんだ?

 

 * * *

 

「……は? はぁ!? ちょっ! それどういうことよ!! またあの危機感のないバカは、ストーカーに付きまとわれてる訳!?」

 

 童帝の爆弾発言に真っ先に反応したのは、S級の中でも鬼サイボーグと双璧をなす、あの嬢ちゃんにベタ惚れ筆頭過激派筆頭のタツマキだ。

 いつものようにキャンキャン喚きながらも、嬢ちゃんは無事なのかどうかを童帝に尋ね、童帝はその甲高い声をうるさそうに片耳を押さえながら答えてやる。

 

「ストーカーじゃないですよ。小学生の頃に知り合った友達らしいです。っていうか、むしろ好きだからこそガロウはおねえさんを避けてるって感じですね」

「……それがどうした?」

 

 童帝の答えにフラッシュは苛立ったような声で、童帝の発言全てを切り捨てる。

 

「バカか、お前らは。こんな時にまで人質の子供より、自分が気に入っている相手に好かれることが重要なのか?

 そうなら勝手に好きにやればいいが、こちらの足を引っ張る真似をするようなら、今すぐに俺が始末してやる」

 

 苛立ちを露わにして剣呑なことを言うが、まぁあの言い草じゃそう言われても当然だな。

 タツマキはケンカ腰に「エヒメを優先してるんじゃなくて、あの危機感のなさを怒ってんのよ!!」と喚くが、童帝はそう言われることをわかっていたからか、タツマキよりはるかに落ち着いて大人な対応を取る。

 

「まさか。おねえさんの事は大好きですけど、大好きだからこそおねえさんを悲しませる『悪』は絶対に許しませんし、甘い対応なんか取りませんよ」

 

 その返答で少し気勢がそがれてフラッシュは怪訝そうな顔をする。他の奴らもきょとんとした顔で続きを待っていたので、飴を齧っている童帝に代わって俺が引き継いであの発言の意図を説明した。

 

「別に童帝はエヒメっていう嬢ちゃんの友達だから、ガロウを庇ってる訳じゃねぇよ。

 どうも、奴の自称怪人やヒーロー狩りって犯行には裏事情があるっぽい、上手く説得出来たらこっちの味方に付きそうだからこそ、問答無用でぶっ飛ばそうとすんなって話だ」

「何だそりゃ? っていうか、何でお前がんなこと知ってるんだゾンビマン」

 

 俺が代わりに答えた事でその内容と二重に困惑してアトミック侍が尋ね、その答えは齧った飴を飲み込んだ童帝が答えた。

 

「ガロウの裏事情に関しての情報収集を、僕がゾンビマンさんに頼んだからですよ。

 僕がガロウとおねえさんの関係、おねえさん視点でのガロウの人物像を知った時、ゾンビマンさんは協会本部に向かっている最中だったので、その途中でヒーロー協会系列の病院に寄ってもらいました」

 

 ガロウと嬢ちゃんの関連性に呆気を取られていたのはほぼ全員であって、例外はいる。

 その例外は俺だ。俺は童帝の言う通り、事前に知らされてその情報収集をしていたから、呆気に取られるのも事前に済ませていた。

 

「童帝きゅん……。なんだか聞けば聞くほど訳が分からなくなってくるから、一から教えてくれないか? とりあえず、何でそんな情報をどこで得たかから」

 

 プリズナーがその事前に聞かされた俺のように、困惑しきった様子で事の経緯の説明を一から求めた。他の連中も頷き、タツマキが「ちょっと何で私じゃなくてそいつなのよ! 私が頼りにならないって言うの!?」と喚いて机をバンバン叩くのを無視して、童帝は要望通り飴を舐めながら語り始める。

 

「事の起こりは怪人協会のアジトがZ市と聞いて、そこにおねえさんと鬼サイボーグさんが住んでるって情報を思い出したから、昨日の昼間に連絡を取ったんです。で、残念ながらアジトの情報は手に入りませんでしたが、ガロウと交戦して、彼が怪人協会に攫われるのを目の当たりにした鬼サイボーグさんから向こう側の事情を教えてもらいました。

 ……だからタツマキちゃん。アジトに突入しても、Z市の地盤ごとひっくり返してアジト壊滅させないでね。おねえさんに野宿なんてさせたくないでしょ?」

 

 童帝の答えにまたしても俺が事前に済ませた感想、「あの嬢ちゃんはなんつー所に住んでんだよ!?」という驚愕やら呆れやらで反応に困ってる中、童帝はタツマキに釘をぶっ刺した。

 タツマキは「す、するわけないでしょ!!」と言い張るが、目は思いっきり泳いでる。やっぱりする気だったな。ありがとう嬢ちゃん。Z市に住んでて。でも、引っ越せ。

 

「で、どうもガロウは自称やヒーロー狩りという犯行には合わない、むしろお人好しと言っていい人格であることを教えてもらったんです。罪はあっても悪ではないというか……」

「……小学生の頃の知り合いの人物像など、信用できるものじゃないだろうが」

 

 またしても童帝の答えにフラッシュは苛立ったような声、「くだらない」という副音声をはっきり出して切り捨てる。

 今度は少し癪に障ったのか、童帝も「話は最後まで聞け」という副音声を露わにむくれて反論。

 

「おねえさんは一昨日、ガロウ本人と再会してるんですよ。その上での評価ですし、そもそも『罪はあっても悪ではない』って評価は、おねえさんじゃなくて交戦した鬼サイボーグさんのものです。

 あの鬼サイボーグさんが! あの! おねえさん好きすぎて、自分と実のお兄さん以外の人間を排除しかねない鬼サイボーグさんが! おねえさんに好意を寄せる男を庇うようなこと言ったんですよ!! 説得力ありすぎでしょ!!」

『確かに』

 

 童帝の熱弁に、フラッシュはやや圧倒されつつ素で返答。っていうかタツマキやアトミック侍、プリズナーは深々と頷き、俺と同じくあの嬢ちゃんとはほぼ面識のないクロビカリも目を丸くして納得し、豚神は一瞬ピザを喰うのをやめて、全員と同じく同意の言葉を発していた。

 

 ……ここまで自分の恋心やら嫉妬心やらが周知ってどうなんだ、鬼サイボーグ。俺も、ガロウが悪人じゃないかもしれないと思えた理由はそこだけどさ。

 

「……で、その悪人ではない根拠を少しでもはっきりさせるために俺は病院に寄ったんだよ。そこに、鬼サイボーグの前に交戦してガロウにやられたヒーロー達が入院してたからな」

 

 妙な説得力の材料になってしまった鬼サイボーグに呆れやら同情心やらを懐きつつ、またしても俺が説明を引き継ぐ。

 

「ガロウはどうも、そのヒーロー達と戦っている時、子供を庇っていたらしい。

 アジトにしていたプレハブ小屋に子供が入り込んで、それに気づいていないヒーロー達がプレハブ小屋ごと攻撃しようとしていたからこそ、奴は人数や自分の状態での不利さを理解していても、逃げずに応戦したと鬼サイボーグは言ってたらしいから、その真偽を確かめてきた。

 

 ……ガロウはデスガトリングに、『小屋に子供がいるから撃つな』と言ったらしい。が、そんなの嘘に決まってるとデスガトリングは譲らなかったな。

 だが、スティンガーとスマイルマン、そしてメガネっていうB級ヒーローは証言してくれたぜ。

 …………奴は最初から、『小屋を撃たないでくれ』と自分の身ではなく、小屋を庇っていたこと。包囲直前に小屋を見張っていた鎖ガマは、トイレを我慢できず15分ほど小屋から離れていたこと。

 そして……ヒーロー達が小屋の前に集まってきた時、その小屋の様子を窺っていた子供が3人ほどいたことを話してくれた」

 

 子供がいたこと、その子を庇っていたことについての確証は得られなかった。

 だが、奴の発言の信憑性は決して保身の為の虚言だと決めつけて、切り捨てていいものではないと思わせる程に高まった。

 

「ちょっと待て! 小屋の外に子供がいたのなら、何でそいつらは何も言わなかったんだ!?」

 

 俺の答えに、アトミック侍は立ち上がって不可解な部分を追求する。

 おそらく、本当にわかってなかった訳ではないだろう。ただこいつの性格上、自分なら絶対にしない行動であり、そしてそんなことをする人間、子供がいることを信じたくなかったんだろうな。

 

 その性善説そのものな期待が気に入らなかったのか、いつの間にか静かになっていたタツマキが盛大に舌を打ってから、吐き捨てるように言い放つ。

 

「……見捨てたんでしょ! そのガキどもと小屋に残った子供は対等な友達なんかじゃなくて、いじめっ子といじめられっ子で、小屋にその子一人送り込むのもいじめの一環! 自分たちのしたことがヒーローにばれるのが怖くて黙って逃げたってことよ!!」

 

 ……超能力、それも他に類を見ないほどに強力、まさに最強という言葉がふさわしい使い手だからこそ、他人に迫害はされずとも畏怖の目で見られ、疎外されてきたんだろう。

 本人は絶対に認めないだろうが、明らかにガロウが庇ったであろう子供に感情移入してタツマキは、その子供を見捨てたガキどもと、最も助けなくてはいけない子供に気付けなかったヒーロー達に憤慨していた。

 弱者が弱者であることを責めない、力ある者の失態に義憤するところは、本当に立派なヒーローだよ。お前は。

 

「……そうでしょうね。おねえさん曰く、ガロウは小学生の頃はいじめられっ子で、おねえさん大好きなのもいじめから助けてもらったからだそうですから、いじめられっ子を庇ったのは凄く自然です」

 

 タツマキの言葉に、童帝も痛々しいものを見るような目で同意を示して、更にガロウが子供を庇ったという話に説得力を持つ情報を語る。

 ……しんみりしてる所悪いが、たぶんガロウにとって黒歴史ないじめられっ子という過去をあんまり晒してやるなよ。本人知ったら、ヒーロー狩りなんか関係なく俺らを殺しにかかるか、憤死するんじゃね?

 

 いや、それはもう鬼サイボーグやタツマキレベルであの嬢ちゃんが好きってことを暴露されてる時点で確定か。

 すまん、ガロウ。耐えてくれ。

 

 * * *

 

「……しかし、ガロウが悪人ではないのなら奴は何で怪人だと自称して、ヒーロー狩りなんかしてるんだ?」

 

 アトミック侍が子供の残酷さに打ちひしがれ、タツマキが酷く苛立っている空気に心地の悪さを感じたからか、クロビカリは話の方向を若干修正する。

 

「……その子を庇ったのは昔の自分を重ねただけで、後は全部言動通りの本心という可能性はありますが、僕は全てガロウの本心でも本意でもない、むしろガロウこそ怪人協会の被害者かもしれないと思ってます」

 

 クロビカリの問いに答えながら、童帝が乱暴に飴を齧って砕く。

「……どういう意味よ?」とまだ苛立ったままのタツマキが、本気で苛立っているからこそいつもと違って静かに尋ねると、童帝も静かに、けれど灼熱の憤怒をその眼の奥に灯しながら自分が推測したガロウの裏事情を語った。

 

「怪人協会にエヒメおねえさんを人質に取られている。だからガロウは、おねえさんを守るために怪人協会の手足となって、協会の戦力を削ぐヒーロー狩りを行っている。

 ……そう考えたら、彼の本質と実際に行っている犯行のギャップに説明がつくと思いません?」

 

 その推測に、タツマキが目を剥いて椅子を倒して立ち上がり叫んだ。

 

「!? どういうことなの!? 童帝! あんた、エヒメが攫われたっていうのに、まだ呑気に私たちに待機しろって言う気!?」

「落ち着いて、タツマキちゃん。おねえさんは怪人協会に捕まってる訳じゃないことは確定してる。昨日の鬼サイボーグさんとの電話で、直接は話してないけど普通に声は聞いたから」

 

 全身から緑の燐光を放って髪を逆立てたマジギレ寸前となって童帝を問い詰めるが、童帝はそんなタツマキの怒気に怖気づくどころかそれをうっとうしいとしか思わない程、こいつもこいつで実は余裕がない。

 だが、自分の推測が正しければ、頭に血が上って短絡的に動けば最悪の事態にしかならないことをよくわかっているからこそ、その怒りを食ってる飴にぶつけて、冷静に説明を続ける。

 

「? どういうことだ? 攫われたわけじゃねぇ、鬼サイボーグと一緒にいてどうやって嬢ちゃんが人質になるんだよ? ガロウが怪人協会に騙されてるってことか?」

「……協会本部に侵入してきたのは、寄生虫タイプの怪人だったんだよね? ……それと同じようなのに寄生されてるかもしれないってことじゃない? Z市在住ならそれこそ、チャンスはいくらでもある」

 

 けれどやっぱり冷静になり切れていない所為か、説明の順序がおかしくてアトミック侍が当然の疑問を抱く。

 その疑問に答えたのは、悪いが意外なことに豚神だった。食ってばっかりだと思っていたが、意外と話はちゃんと聞いて考えてもいるのか。豚とか思って悪かった。

 

「なんてことだ……。エヒメちゃんも無自覚の間に、体内に爆弾が仕掛けられてるような状態だなんて……」

「……シルバーファングと鬼サイボーグを招集しなかったのか、奴らもガロウと同じ状況かもしれないということか?」

 

 意外なことに嬢ちゃんと親しいらしいプリズナーが本気で嘆いている横で、フラッシュもやや顔を険しくして、ここにないS級二人について尋ねる。

 

「えぇ。ガロウと交戦して、怪人協会に彼が回収された際、同じように脅された可能性があります。そのような形で人質に取られたのなら、あのお二人は逆らえないでしょう。

 ……ですが、唯々諾々と従うお二人でもないことは皆さんもわかっているでしょう?」

 

 フラッシュの問いに答え、口の中の飴を噛み砕きながら童帝は笑った。

 とても10歳の子供には見えない、軽率に自分たちの逆鱗に触れた怪人協会共を嘲るように、肉食獣のような目で凄絶に笑って宣戦布告するように、こいつは自分が立てた計画を語る。

 

「表向きは、怪人出現ホットスポットに住む新人の鬼サイボーグさんが信用ならない、シルバーファングさんは一番弟子に情けを掛けるかもしれないからということで、今回の作戦から外してます。ですが、それはヒーロー協会に対しての建前。

 実際は僕等とは別に、怪人協会に潜入してもらいます。そしてその理由は、アマイマスクさんが絶対に反対するから。こう言っておけば、僕らと別行動でアジトに潜入しても、怪人協会に言い訳が立ちますし、彼らも不本意なスパイ行為などしなくて済みます」

「待て。何故、アマイマスクが反対するんだ? 確かに表向きの理由で十分あいつは文句を付けそうだが……」

「! 童帝! あんたまさか、エヒメ本人も巻き込む気!?」

 

 童帝の計画にフラッシュが怪訝そうに、サポートに甘んじないであろうアマイマスクを持ち出したことを疑問に思ったが、察したタツマキがまた立ち上がって叫ぶ。

 

「はい。というか、おねえさんの性格と能力上、大人しくしてろっていうのは無理ですよ。昨日のうちにテレポートで探し回って怪人協会のアジトにたどり着いてないのが幸運なくらい。

 それなら、初めから連れて行って側に置いておいた方が全員にとって、あらゆる意味で安心ですしメリットもあるでしょう?」

 

 童帝は悪びれずしれっと答えて、質問で返しつつタツマキどころか他の連中の反対意見も封殺。

 そうだよな。あの嬢ちゃん、制約は多いらしいがコントロールが完璧なテレポーターってだけでこの任務に限らず、サポート役にもってこいなんだよ。

 

 しかもそれだけじゃなくて、あの嬢ちゃんがいたらタツマキのやりすぎとかそういう暴走の心配をしなくていい。たぶんこいつは俺らの意見や頼みは無視しても、嬢ちゃんの言葉なら素直じゃないだろうが聞くし、嬢ちゃんを巻き込むような無茶はしねぇ。

 ……もうそのメリットだけで、戦力ない女の子を連れて行くデメリットを相殺してるってどうよ? つーか下手したら、テレポートいらねぇぞ。タツマキの手綱握ってくれてるのなら、それで十分すぎる。

 

 俺と同じことを思っているのか、他の連中も横目でタツマキを見ながら納得の苦笑いを浮かべていた。

 タツマキ本人はブツブツと民間人に頼る事態に文句をつけていたが、俺達の視線に気付いていないわ、なんか鼻歌まじりに足を子供のようにぶらぶらさせているわと、明らかに機嫌が一気に良くなっている。

 

 たぶん嬢ちゃんを巻き込みたくないは本音だが、それはそれで嬢ちゃんに自分の活躍を見てもらえるかもしれないのは嬉しいんだろう。

 実の妹にはやたらと過保護なのに、嬢ちゃんに対しては扱いが雑……ってわけでもないよな。嬢ちゃんが人質って話でマジギレしてたし。

 なんつーか、好意の示し方が真逆なのか。こいつ、愛情表現が違うだけで、実の妹と同じくらいに嬢ちゃんを溺愛してるよな。

 

 っていうか、他の連中が嬢ちゃんを気に入ってる理由はなんとなくわかるが、タツマキだけは全然わからん。

 いや、アマイマスクに切った啖呵は又聞きで聞いてるから、気に入ること自体は疑問でも何でもない。だが、鬼サイボーグと双璧レベルで気に入るほどか?

 

「おねえさんの作戦参加に異議はないようなので、具体的に別行動組の作戦内容を説明させてもらいますよ」

 

 俺はぼんやりとそんなことを考えていたら、童帝が話を進めだしたので、俺も思考をそちらに戻した。

 

「別行動組のメンバーは、おねえさんに鬼サイボーグさん、シルバーファングさんにそのお兄さんのボンブさん、そしておねえさんの実のお兄さんであるハゲマントさんですが、先ほど話した協会への建前の為に、こちらから連絡はほとんど取れません。

 なので中継役をキングさんに担ってもらいます」

「キングさんに?」

「あいつがそんな役割やるか? 現に今ここに来てねぇじゃねぇか」

 

 最初のメンバーは普通に妥当だが、中継役として挙がった名にクロビカリがオウム返しして、アトミック侍が少し苛立ったように訊き返す。

 俺もキングの戦闘力に関してはなんら不安はないが、奴は怪人退治や民衆の保護よりも自分の強さの追及を優先している節があるから、こういう情が絡んだ事情に向いているとは思えなかった。

 

「遅刻理由はわかりませんが、連携は取れているはずです。

 それにキングさんとハゲマントさん、かなり仲の良い友人関係らしいので問題ないでしょう。現に僕が鬼サイボークさんに連絡した時、お隣のハゲマントさんの家に訪れていたそうですし。

 むしろ、そういう関係だからキングさんですらおねえさんを人質に取られてどうしようもなくなる可能性があるので、中継役ですが基本的にキングさんもおねえさん側で行動してもらいます」

 

 だが俺達の不安は杞憂だった。つーか、キングと友人ってすげーなハゲマント。全然、顔覚えてないけど。

 ……ん? ハゲマントってひでぇヒーローネームだが、そんな名前を付けられるってことはハゲなんだよな?

 

 ……ジーナスの奴、進化の家を壊滅させた「リミッターが外れてた奴」はハゲてたとかほざいてたよな?

 …………キングの友人、家が怪人出現ホットスポット、そしてハゲ。

 いや……まさかな。

 

「不本意でスパイにならざるを得ない、その可能性が高い方は別行動班にして、アジトに僕らとは逆方面から侵入してもらいます。

 キングさんは負担が大きいですが、彼は鬼サイボーグさんたちとは違って初めから外す言い訳が用意できないので、僕たちと一緒にZ市に入ってから単独でおねえさんの家にまで行って、合流してもらう予定です。単独行動自体はいつもの事なので、Z市まで一緒なら協会も疑わないでしょう。

 

 そしてキングさんの通信機は他の皆さんのとは違って、キングさんからの通信は全員に届きますが、キングさんに通信できるのは僕だけです。これは向こうも望んでいない情報漏洩を防ぐため。なので、危機的状況に陥っても、キングさんに助けを求めることは不可能だとご随意してください。

 

 ……本当はもう最初からキング流気功術、永世理力豪雪針(えいせいりりょくごうせつしん)でおねえさんに寄生しているであろう怪人を退治してしまった方が話は早いでしょうが、向こうに危機感を与えて警戒されるより、むしろこの状況をこちらが利用し返して、スパイに使っていると思い込んでいる鬼サイボーグさんたちに接触して来た幹部たちを返り討ちという方針にしました」

 

 ついまた俺個人のことに思考が持っていかれている間に話が進んでいた。

 なんか初耳なキングの技が聞こえて気になったが、まぁ童帝が信頼しているくらいなのだから、寄生虫みたいな怪人に特攻な技なんだろう。

 

 協会の最高戦力であるキングを嬢ちゃんのボディガードに使うような作戦にも聞こえるので、フラッシュがまた不服そうだったが、むしろ嬢ちゃんを囮にしてキングに厄介な幹部を当てるという方針には納得したのか、結局何も言わなかった。

 逆にタツマキが嬢ちゃんを囮に使うことに文句を付けようとしたが、寄生虫を殺せるであろうキングの技が保険になったのと、童帝の「こういう使い方をしないと、おねえさんはむしろ責任を感じすぎて自殺しかねないよ?」という言葉に、悔しげだが納得して口を噤む。

 

 アマイマスクに切った啖呵の内容で知ってたが、繊細な小心者なのか覚悟が決まりすぎて度胸もありすぎるのかよくわかんねー嬢ちゃんだな。

 

 ……あの日、あのA市が壊滅した日、UFOが相手なら俺じゃ役に立たねぇと思って、がれき撤去と生存者捜索の為にさっさと協会本部から出たことを後悔する。

 現にあの後すぐに宇宙人が降りてきて、シルバーファングたちと交戦したらしいのだから、俺も火力は乏しいがその分、盾として参加すべきだったんだ。

 

 そうやって、あの嬢ちゃんと少しでも関わっておけば良かったと、少しだけ思う。

 それくらいに今、嬢ちゃんの事がよくわからない、よく知らないという立場に疎外感を覚える。

 あの協調性が皆無だった連中が、ここまで同じ「許せない」と「絶対に助ける」という思いで繋がらせたエヒメという嬢ちゃんに、今度こそちゃんと会って会話をしてみたかった。

 

 ……なら、全員生き残るべきだよな。

 名前しか知らないと言っていい俺でも、きっとこの中の一人でも欠けたら泣く子だということくらいはわかる。そんな泣いている子に気の利いた言葉をかけれるほど俺は器用じゃねぇし、何より俺にとって最初の印象が誰かの死に悲しみ、泣いている子になるのはごめんだ。

 

 だから、気合いを入れねぇとな。

 ささやかな未来の目標を定めながら、俺は煙草の火を自分の手の甲に押し付けて消した。

 

 * * *

 

 ……だが俺が気合いを入れた端から、プリズナーの彼氏救済方法やら、タツマキが自分一人でラスボスを叩くといつも通りの唯我独尊な宣言やら、その発言にケンカを丁寧に売るフラッシュやら、挙句の果てに全員が危惧していた通り、俺達S級を丸ごと見下して童帝の指示に従う気皆無なアマイマスクが乱入するわで、やっぱりこいつらに協調性はないと確信させられ、入れた気合いは頭痛となって抜けていく。

 

 あー、俺も糖分が欲しい。コーヒー……じゃなくてココア飲みたくなってきた。

 ココアパウダーをハチミツで練って作ったやつが飲みたい。もしくはミルクセーキ。




22巻発売記念というか、番外編で甘党が判明したゾンビマンになんか射貫かれてしまったので勢いで書いて更新。

会議自体は真面目だけど、結局ほとんどエヒメファンクラブだし、そもそも童帝がアンジャッシュ的勘違い継続中でそのままその勘違いを他のS級に伝えてしまうという、自分でもシリアスなのかギャグなのかよくわからない時空になってしまった。

そして余談ですが、作中のキングの技名は「煉獄無双爆熱波動砲」の対になるように氷系の名前を考えたけど思い浮かばなかったから、「エターナルフォースブリザード」をほぼまんま和訳しただけです。

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