私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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ジェノス視点です。


科した誓いは墓標にならず

 バングから隕石の話を聞き、即座に俺は落下地点まで向かった。

 バングは「大切な人と遠くへ避難しろ」と言ったが、俺が選んだのは避難ではなく、迎え撃つこと。

 

 先生なら、必ずそうするから。

 そして彼女も、同じ誓いを科しているから。

 だから俺も、逃げるわけにはいかなかった。

 

 俺はヒーローになったのだから。

 敵に勝つのではなく、何かを守り、誰かを救う存在になると誓ったのだから。

 

 ……だが、その誓いが試作品で強化された焼却砲のフルパワーでも成し遂げられる自信は、はっきり言ってなかった。

 仮に破壊が出来たとしても、それは隕石を砕くだけ。無数の細かい断片となって降り注ぐ隕石群はあの巨大隕石よりははるかにマシだろうが、間違いなくZ市全体に大きな被害を加えるだろう。

 

 その不安を俺は無理やり押しつぶし、ただ向かう。

 逃げるわけにはいかない。

 諦めるわけにはいかない。

 もう二度と俺は、安らげる居場所も、愛しい人も喪いたくない。

 それだけを想い、俺は隕石落下地点真下までやってきた。

 

 * * *

 

 けれど、事態は最悪だった。

 S級ヒーロー、ボフォイもといメタルナイトが発射した大量のミサイルでも隕石は砕けるどころか勢いすら落ちず、むしろ俺が焼却砲を放つタイミングを遅らせた。

 

 頭の中ではわかっていた。あれだけのミサイルを撃ち込んでも破壊できなかった隕石が、いくらフルパワーでも俺の焼却砲では歯が立たないことなど。

 いくつもの不安や最悪の事態への可能性が、俺の覚悟を、決心をへし折りにかかる。

 押しつぶして見ないようにしたものが蘇り、時間がないのに俺を迷わせ、ためらわせ、誓いを鈍らせる。

 

 ……その鈍った誓いに再び輝きを取り戻させたのは、バングの言葉だった。

 

「まぁ、落ち着け。

 心に乱れが見える。おぬしは失敗を考えるにはまだ若すぎるのう。

 適当でええんじゃ。適当で。土壇場こそ、な。結果は変わらん。それがベストなんじゃ」

 

 適当がベスト……。

 昔の俺なら、大きく反発を覚えた言葉がいやにあっさり頭に入り、納得した。

 それは、尊敬する先生こそがその言葉を体現していたからだ。

 

 気負いすぎず、ただ目の前のことにまっすぐ向かってゆき、愚直でありながら人に決してプレッシャーを与えない先生の生き様を思い出し、迷いが霧散してゆく。

 

 あぁ。そうだ。

 失敗や二次的被害なんて、今なにもしない言い訳に過ぎない。

 それは起こってから考えろ。何とかしろ。

 今はただ、俺が出来ることを逃げずにやれ。

 

 俺は体内からエネルギーコアを抜き出して、焼却砲に接続する。

 体内チャージよりこちらの方がダイレクトに、エネルギーを放出できる。

 

「バング! 伏せていろ!」

 

 背後のバングに指示を出し、俺は左腕を隕石に掲げた。

 この一撃に俺の今を、全てを、捧げる!!

 

 新パーツで強化した焼却砲は、以前とは比べ物にならない焔の柱となって隕石を迎え撃つ。

 確実に威力は上がっている。今なら、あの阿修羅カブトも仕留める自信があった。

 

 なのに、それほど強化された焼却砲をフルパワーで打ち出しても、隕石は破壊出来なかった。

 勢いが落ちてるとバングは一瞬言ったが、即座に気のせいだったと否定しやがった。くそジジイっ!

 

 俺の生命活動最低限分を残し、エネルギーが枯渇して焼却砲が止まる。

 ……あぁ。ここが俺の墓場か。

 

「……残り9秒。逃げるんだバングさん」

 

 土壇場でふざけたことを言ったジジイだが、俺の迷いを消したのは、何よりも大切な誓いに輝きを取り戻させたのは間違いなく、彼だ。

 だから最期に、せめてもの敬意で敬称をつける。

 

 ……やれることはすべてやった。逃げずに、誓いを貫いた。

 けれど、俺の中には後悔ばかりが渦巻いた。

 

 あぁ、せめて最期に幻聴でも幻覚でもいい。

 会いたい。声が聞きたい。

 

 俺の幸せを願った人。

 

 俺の世界を一変させた人。

 

 俺をただの「正義」から「ヒーロー」にしてくれた彼女に、一目……

 

 

 

 

 

「ジェノスさん!!」

 

 

 

 

 

 幻聴でもいい。

 

 幻覚でもよかった。

 

 でも、本当は本人に、間違いのない本物に、

 

 貴女に、会いたかった。

 

 * * *

 

「ジェノスさん!!」

 

 

 聞こえるはずのない声。

 いるはずのない彼女が、俺に駆け寄ってきた。

 

 靴すら履かないで彼女は俺に駆け寄って、焼却砲の余熱で人が触れられるようなものではない俺の腕に手を伸ばし、一瞬触れた指先は反射で即座に離れた。

 

 それでも確かに触れた。何の躊躇も持たずに、この灼熱の体に彼女は瞳いっぱいに大粒の涙を溜めて、俺の名を呼んで、俺に触れようとしてくれた。

 

「ジェノスさん! しっかりして!」

 

 俺を案じ、今にも泣き出しそうな顔で叫んで彼女はもう一度俺に手を伸ばす。

 

「だ、めです。エヒメさん……触れては……」

 

 それを押しとめるのが、俺にとっての出来る精一杯だった。

 どうして彼女がここにいるのかなんて、尋ねる余裕はなかった。

 

 どうしてこんなにも、怪我をしてまで俺に触れようとしてくれるのか、なんて訊けなかった。

 

 ただただ、沸き上がる幸福がそれを疑問に思うことすら塗りつぶしたからだ。

 

「じいさん、こいつら任せるぞ」

 

 俺の幸福は、まだ終わらない。

 そうだ。彼女がいるという事は、この人もいる。

 

 先生はバングにいつもの、本当にいつもの、「適当がベスト」としか言いようがない顔で名乗り上げる。

 

「俺は趣味でヒーローをやってる者だ」

 

 その直後、先生は跳んだ。

 あぁ、やはり飛べるじゃないですか。

 

 先生は真っすぐに、どこにも曲がらず、ひたすら愚直なまでに飛び立ち、そして叫んだ。

 

「俺の町に落ちてんじゃねえ!!!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 エヒメさんの叫びと、隕石が砕けるのは同時だった。

 

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