私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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なんか普段はほとんど見ないランキングを見てみたら、日間45位、ルーキーだと9位になってて、( ゚Д゚)ポッカーン状態です。

閲覧・評価・お気入り登録をしてくださった方々、感想を送ってくださった方々、本当にありがとうございます。
更新ペースはさすがにそのうち落ちるかもしれませんが、少なくとも今のところテンションがまったく落ちないので、まだしばらくはこの調子で更新を続けていきます。





しなくちゃいけないこと

 隕石の警報が流れた時、ジェノスさんが何で協会に呼び出されたかを知った。

 落下まで30分くらいあるというのに、視認できるほどの大きさの隕石を何とかしろと命じられたのは明白だった。

 

 だから私はお兄ちゃんに縋った。それしか出来なかった。

 私が縋って願ったのは、この町を隕石衝突による消滅を防ぐことじゃなくて、私はたくさんの人よりもたった一人を優先してお兄ちゃんに泣きついた。

 

「お兄ちゃん! ジェノスさんを助けて!!」

 

 ジェノスさんには失礼だけど、私はジェノスさんにあの隕石がどうにかできるとは思っていなかった。

 それはジェノスさんの実力を信じていないとかじゃない。ただただ、不安だった。

 つい今さっき、彼は私にとってお兄ちゃんと同じくらい失いたくない人だとわかったから、だからただひたすらに彼の安否が心配だった。

 

「任せろ」

 お兄ちゃんは泣いて縋り付く私の頭を撫でて、そう言ってくれた。

 でもさすがに、一人でジェノスさんを探しに行こうとしたのは止めた。

 

「お兄ちゃん、さすがに徒歩じゃ間に合わないと思うよ!」

 そもそもどの辺にいるかもわかってないでしょ! と私は叫んで、お兄ちゃんに抱き着いて跳ぶ。

 

 自分で言っておきながら、私だってジェノスさんがどこにいるかなんて知らない。

 でも、隕石落下を阻止するなら隕石落下位置近くにいるはずだと思い、私はお兄ちゃんにしがみついてとにかく隕石近くのビルまで跳んで行く。

 

 そこまで行っても、視認できる位置にジェノスさんはいなかった。

 隕石が巨大すぎて、どのあたりでジェノスさんは待ち構えているのかが全然わからなくて途方に暮れそうになった時、轟音が鳴り響いてすごい煙が隕石を包み込む。

 

「何だあれ?」

 お兄ちゃんが視線を向けた先には、背中にいくつもの砲台を背負った曲線が多いので見ようによっては可愛いと表現できるロボットらしきものがいた。

 そういえばS級にロボットやら最新兵器を駆使して戦うヒーローがいるんだっけ?

 あのロボットはそのヒーローで、轟音はあのロボットが隕石を攻撃したんだと思い、私は視線を隕石に戻す。

 

 煙が晴れても、隕石は凶悪な大きさとスピードのまま地上に向かってくる。

 効果がなかった。でも、ジェノスさんは一人じゃなかったことにわずかな安堵をしていたのに、あのロボットはそれ以上は何もせず、どこかに飛んで行ってしまった。

 

「!? 何で!?」

「さぁな。自分の攻撃が効かなくて、怖くなったんじゃね?」

 

 逃げ去るロボットを見送り、私は唇を噛みしめる。

 私が今ここにいるのも、この町の為なんかじゃない、ただ一人の為なのだからこんなことを思う資格なんてないのに、ロボットのあまりの身勝手さと無責任さが頭を真っ白にするくらい許せなかった。

 

 お前がもう少しでも頑張ってくれたら、ジェノスさんの負担が軽くなるのに!!

 

 完全に八つ当たりの恨み言。

 そんな私の身勝手な八つ当たりを、まっすぐに伸びた火槍が焼き散らした。

 

 隕石の落下位置真下から、あまりにも真っすぐでどこにも曲がらない、愚直なまでの炎の柱は、まさしくあの人の象徴だった。

 

「――ジェノスさん?」

 

 間違いなく、あれはあの人の十八番、焼却砲だ。

 あの人は、あんなロボットが撃ち込んだ兵器でも壊せなかった隕石を破壊することを諦めていなかった。

 あんな場所で、あんなにも真っすぐに彼は、「ヒーロー」を貫いていた。

 

「結構、遠いな」

 お兄ちゃんがジェノスさんの焼却砲を見ながら、呟いた。

 そして、訊く。

「行けるか?」

 

 私一人ならともかく、お兄ちゃんも連れてだと普段ならきっと距離が足りない。2度に分けなくちゃたどり着けなさそうな距離。

 でも、そんな暇なんかない。

 

「当たり前だよ!」

 

 零れ落ちそうな涙を拭って、宣言する。

 行ける行けないじゃない。行くんだ。一足飛びで、あそこまで。

 ジェノスさんの元まで!

 

 私はお兄ちゃんにしがみついて、集中する。

 イメージする。

 座標ではなく、今、全てをかけて隕石を打ち落とそうとしている彼の尊い背中をイメージして、ただそこに向かうと決めた。

 

 その背中に、私は走り出した。

 

 隕石を打ち砕けなかった。エネルギーのほぼすべてを使い果たした。

 何もできなかった。

 けど、それでも、私にとってお兄ちゃんと同じくらい、尊くて大切なヒーローに駆け寄った。

 

「ジェノスさん!!」

 

 ただ、あなたに会いたかった。

 

 * * *

 

 ジェノスさんはエネルギーを消耗しすぎてはいるけど、怪我とかはしてなくて少しぎこちないけど話すことも出来たから、ひとまず安心する。

 

 けどその直後、お兄ちゃんが飛び上がった。

 私に何も言わず、お兄ちゃんは足にロケットでもついていたんじゃないかって勢いで飛び上がって、叫ぶ。

 

「俺の町に落ちてんじゃねえ!!!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 私の叫びと同時に、隕石が砕ける。

 お兄ちゃんの姿は、隕石が砕けてできた粉塵が隠して見えない。

 

「お兄ちゃん!? お兄ちゃん!!」

 

 私がどんなに声を張り上げても、お兄ちゃんは返事をしてくれない。

 

 私は目を凝らしてお兄ちゃんの姿を空に探すけど、砕かれた隕石の断片が邪魔をする。町に無数に降り注いで、ビルを、家々を、地面を削って抉って穿って破壊しつくす礫は、何も待ってくれない。

 礫は私たちの方にも平等に降り注いだ。

 

「エヒメさん! 危ない!」

 お兄ちゃんを探して立ち尽くしてた私は、ジェノスさんの声でやっと目の前に礫が迫っていることに気付く。

 幸い、それは全然気づいてなかったけど初めからいたらしいおじいさんに砕かれて、助かった。

 

「お嬢ちゃん、ジェノス君、動くな。まぁ、ジェノス君に至っては言われなくとも動けんじゃろうが。

 守っちゃる」

 

 髪もひげも真っ白に色が抜け落ち、顔も指先も皺で埋まった老人なのにまったく老いを感じさせない、むしろあの隕石のような巨大な岩を連想させるその人は飄々と宣言して、そして言葉通り私たちを無数の礫から守ってくれた。

 

 けれど、ビルのど真ん中にかなり大きな欠片が突っ込んできて、地震のように大きく揺れる。

 ……あぁ、もう!

 お兄ちゃんを探すのはいったん中断して、私はジェノスさんにしがみつき、おじいさんも私にしがみつくよう言った。

 

「おじいさん! 私、テレポーターです! 跳んで避難しますから捕まってください!」

 いきなりの宣言だったけど、ここに私たちが来たのはまさにいきなりだったからおじいさんの方は案外すんなり信じて、「じゃあ、お言葉に甘えようかのう」と言ってくれたけど、ジェノスさんが少し抵抗した。

 

「!? エヒメさん! 俺の体はまだ熱が……」

「黙ってる!」

「はい! すみません!!」

 

 ジェノスさんの気遣いはありがたいけど、もう触れないほどじゃない。

 だから、しっかりこの人を離さないようにして、跳んだ。

 

 * * *

 

 どこに跳んだってこの崩壊の雨からは逃れられないのだから、特に座標を指定せず、降り注ぐ礫が止むまで私はテレポートを繰り返した。

 

 幸い、礫が降り注いだのは10分足らずで、私のテレポートもギリギリキャパオーバーにはならなかった。

 けどさすがに短時間で数十回にテレポートは体に相当な負担をかけて、めまいが酷くて頭がくらくらする。

 

 もう今すぐここで倒れて寝てしまいたいくらいに体がだるい。

 

 でも、それは出来ない。

 私にはまだ、やらなくちゃいけないことがあるから。

 

「エヒメさん! 無理しないでください! 靴もあなたは履いてないんですよ!!」

「そうじゃ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは十分頑張ったのだから、ひとまず休みなさい」

 だいぶ回復したジェノスさんとおじいさんが、私の身体を支えて無理するなと説得するけど、でも、私には無理だった。

 

「……お願い、ジェノスさん。止めないで。

 ……私、お兄ちゃんを……お兄ちゃんを探さないといけないの」

 

 お兄ちゃんはまだ見つかってない。

 お兄ちゃんがどこにもいない。

 

 そんな状態で私は、倒れることも大人しく待ってることも出来ない。

 

 探さなくっちゃいけない。

 私はお兄ちゃんを探して、見つけて、そしてしなくちゃいけないことがある。

 

「エヒメさん……」

 

 ジェノスさんの悲痛な顔が罪悪感になって胸を抉るけど、でもごめんなさい、ジェノスさん。

 私は今動かないと、後悔でこの先一生動けなくなる。

 

 そうやってお兄ちゃんに縋ってまでして守りたかった、無事でいて欲しかった人を傷つけて、まだ建物の崩壊や火事、そして混乱する人の暴動で騒がしい町中を歩きだそうとしたタイミングで、気のない声が降って湧く。

 

「おー、こんなところにいたのか」

 

 ……ジェノスさんに散々心配をかけて、傷つけてまでして探しに行こうとしていた元凶が、のこのこ戻ってきた。

 

 いつも通りぼへーとした顔で、怪我もなく被害と言えば服を少し汚したくらい。

 いつも通り、やっぱりワンパンで終わってしまった虚しさを抱えて。

 

 お兄ちゃんは、ごく普通に戻ってきた。

 

「なんと……」

「先生!」

 

 おじいさんは信じられないと言わんばかりに驚愕の声を上げ、ジェノスさんは嬉し気にお兄ちゃんを呼ぶ。

 

「……お兄ちゃん」

 

 私も一言呟いて、そして駆けだす。

 これはさすがに、ジェノスさんもおじいさんも止めなかった。

 

 私は靴下だけのまま砂利だらけの道を走って、お兄ちゃんに駆け寄って、

 

「お兄ちゃん!!」

 

 そのまま私は、しなくちゃいけないことをした。

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんの頬に渾身の力を込めたビンタを一発、叩き込んだ。

 

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