私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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弱い私はまた守られるだけ

 4人のヒーローが私の前に立って、私を怪人から庇う。

「お嬢さん、君はもういいから逃げろ。

 ……テレポートが使えるとはいえ、普通の子に何もかもを背負わせて悪かった。けど、後は俺たちヒーローの仕事だ」

 蛇柄スーツの男の人、スネックさんがそう言って、私を後ろに下がらせようとする。

 

 その言葉は、ものすごく甘えてしまいたかった。

「……ごめんなさい。それは、出来ません」

 でも、私はその言葉を、この人たちの優しさを受け取らなかった。

 

「私が挑発しちゃったから、ここで逃げても奴はたぶん私を追ってきます。

 それに、ここであなたたちに全部任せて逃げた方が、どんな結末でも夢見最悪ですから」

 そう言って私は、自分のスカートを力任せに破ってスリットを作る、

 

 お気に入りだったんだけど、仕方ないな。

 ……だって、思いついちゃったんだもん。

 

 私一人じゃ無理だっただろうけど、この怪人を倒せなくともそれなりのダメージを与えられそうな方法が、浮かんじゃったんだもん。

「私も、戦います!」

 

 一人じゃないのなら、この誓いは軽くなる。

 絶対に、成し遂げられる。

 ……そう、思ってた。

 

 * * *

 

 私の思い浮かんだ作戦というか方法は、はっきり言って最低なもの。

 だってそれは、今ここにいるヒーローさん達を囮にすることで成立するものだから。

 

 S級ヒーローのプリズナーさんがやられた相手に、A級一人、B級一人、C級二人では敵わないと、残酷で冷静な私は考えていた。

 自分を助けてようと体を、命を張ってくれている人たち相手に、私は打算的に戦力を計算した。

 

 本当に、自分勝手な私自身が嫌になる。

 でも、だからこそ、私は自分の浮かんだ考えを、方法を、作戦を失敗するわけにはいかない。

 

 私の考えている作戦は、お兄ちゃんやジェノスさんが来るまでの時間稼ぎじゃなくて、本気で奴を今、ここで倒す方法。

 だから、上手くいけばここで事を終わらせることが出来るけど、失敗したら余計に怒りを買って、最悪な今の状況が絶望に変わる。

 

 ……でも、やるしかない。

 時間稼ぎだって、出来る状況じゃないんだ。

 なら、私は私なんかを助けようとしてくれた人を囮にして、どんなに最低でもやり遂げないといけない。

 

 ……あの怪人を、殺さなくちゃいけないんだ。

 

 私が覚悟を決めたタイミングで、ジェットナイスガイと名乗ったヒーローが怪人に突っ込んで言ったけど、その胴体は障子に手を突っ込んで破るように、あまりにも脆く突き破られた。

 

「ジェットナイスガイが殺られた……」

「騒ぐな。あれはサイボーグだ。死んだとは限らん」

 

 さっそく一人、戦闘不能になった事で走った動揺をA級ヒーローさんが宥めるけど顔色が悪い。

 当然でしょうね。だって鉄の体をあの手は、突き破ったという事なんだから。

 

 それでも、彼らはまだ諦めない。

「俺が合図をしたら、一斉に飛び込め。

 ……お嬢さんは、変な意地を張るな。ここは男に花を持たせてくれ」

 

 A級ヒーローのスネックさんはそう言って私が罪悪感を持たないように、意地を捨てやすくしてくれた。

 でも、ごめんなさい。

 犠牲が出たからにはなおさらもうこの意地は捨てられないし、やり遂げないと罪悪感が永遠にまとわりつく。

 

 けど、私がそこに居続けたらヒーローさん達は行動に移れないから、それは私の最低な作戦にとっても都合が悪いから、だから私はその言葉に従うように一歩身を引く。

 

 その私の動きを合図に、怪人は散々挑発をした私に向って動く。

 そしてヒーローさん達も、その怪人の動きを合図に、動く。

 

 私も、動いた。

 跳んだ。

 

 まずは、目をつけていた武器を調達する。

 その間に、ブンブンマンさんとオールバックマンさんが同時に殴り飛ばされた。

 けど、さすがはA級ヒーロー。

 スネックさんだけは、アクロバティックな動きで何とか、怪人の拳を避けた。

 

 けれど、それは初めの一撃のみ。

 二撃目の拳は、避けるために跳んだ空中でもろに受けてしまい、スネックさんはボールのようにシェルターの屋根まで吹き飛ばされて、ぶつかって、落ちた。

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 あなた達を、私なんかを守ろうとしてくれた人を信用しないで、勝てないと考えて、囮にして、犠牲にしてごめんなさい。

 

 ……そこまでしたからには私が失敗するわけにはいかず、スネックさんに怪人の拳が、二撃目が命中する直前に跳んだ。

 

 イメージしろ! 座標ではなく、明確に、相手を!!

 

 隕石の時のように、ジェノスさんの背中のように!

 

 お兄ちゃんを非難していた、あの虎タンクトップの時のように!

 

 あの怪人の、「眼球」をイメージして、跳べ!!

 

 私は怪人が壊したシェルターの外壁から露出した、外壁補強に使われていたであろう折れた極太の鉄棒を持って、跳んだ。

 これを奴の目に突き刺せば、私の全体重をかけて突き刺せば、上手くいけば眼底まで突き破って脳まで達する一撃になる。

 

 奴を殺せる、一撃に……

 

 奴を……殺せる……

 

 * * *

 

「あら?」

 怪人の眼球に突き刺すはずだった鉄棒は、怪人の肩の鱗に当たり、傷つけるどころか滑って私の手から離れる。

 

 そして私は、無様に落ちて地に伏せる。

 

 …………失敗。

 それも……位置指定が、失敗して……

 

「あらあらあら、どうしたのかしら?

 自分から、私に踏みつぶされに来たのかしら?」

 

 頭上で、怪人の喜悦の声が聞こえる。

 

 見たくもないのに、体が勝手に上からの声を確かめる。

 魚の顔が、嬉しそうに、甚振るように、甚振る為に、私を見下ろしている。

 

「でも、ダメよ。言ったでしょ?

 あなたは、全身の骨を砕いて、手足を引きちぎってから、頭をかみ砕いてあげるって」

 

 ゆっくり伸ばされた手が、急に遠くなる。

 遠くと言っても、2メートルほど。

 本能で無意識にテレポートで私は逃げるけど、座標指定の為の集中なんか出来るわけもなく、ただ私の臆病で身勝手な逃げたいという願望に従って後ろに下がるだけ。

 

「逃げるの? つまらないわねぇ。遊びましょうよ」

 そのことをわかっているのか、怪人は私がテレポートで逃げても焦らず、甚振るのを続行する。わざとゆっくり、こちらに向かってくる。

 

 何も考えられないまま、私は無駄にテレポートで逃げる。ただ、後ろに下がって、壁際まで追い詰められる。

 壁なんて私には無意味なはずなのに、今の私の精神状態だと越えられない。

 

 私の中には、怪人に追い詰められ鼻先まで迫った死に対する恐怖と、ヒーローさん達を犠牲にしてまで出した絶好のチャンスを無駄にした後悔でいっぱいだった。

 

 私の失敗は、全部私の所為だった。

 私が今更、覚悟したつもりだったのに、全然覚悟が出来てなかった。

 ……殺すという覚悟が、出来てなかった。

 

 あのソニックさんに助けられた時とは違って、手に、体に、全身に殺した感触が残るであろうこの方法を、嫌がった。

 怖いと思ってしまった。

 

 それが、あの位置指定失敗だという事はわかってた。

 

「あら? もう鬼ごっこは終わり?」

 

 追い詰められた私を、怪人は喜悦、愉悦を湛えた笑みで見下ろした。

 

 強がりすらいえない私は、腰が抜けて立つこともテレポートで逃げることも出来ない私は、ただ涙を流してそれを見上げることしか出来なかった。

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 何の役にも立てなくて、結局自分が一番大事なわがままで、臆病者な私のなんかの犠牲にして、ごめんなさい。

 

 そうやってヒーローさん達に謝ること以外に、私がしたり思ったりする権利なんてもはやないはずなのに、身勝手な私は傲慢にも求める。

 

 助けて、と。

 

 私の、ヒーローに。

 

「じゃあ、約束通りにしてあげる」

 

 怪人が笑って、嗤って、私に手を伸ばした時、見えた。

 

 シェルターの天井近くに取り付けられた丸い大きな窓に立つ、人影を。

 

 その窓が蜘蛛の巣状にひび割れて、光の雨のようにガラスの破片が降り注ぐ。

 

 その破片とともに降り立ったのは黒鋼の腕を携えた、たとえ闇夜でも冴えるほどの輝きを持つ金の髪と瞳。

 

「海人族というのはお前か」

 

 こんな身勝手な私に、まだ生きろと言った神様がくれたのは慈悲か。

 それとも、償えという意味でこの生をくれたのかは、わからない。

 

「排除する」

 

 どちらでも、私はまた助けられ、守られて、救われたのは事実。

 

 ジェノスさんが、来てくれた。

 

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