私のヒーローと世界の危機と愛しい日常風景   作:淵深 真夜

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いってらっしゃい

 

 余計なお世話だとわかってはいてもどこか刹那的で破滅に向かって行くジェノスさんを放っておけなくて、お兄ちゃんに追い出された後、思わず追いかけて言いたいことを全部言ってしまった。

 

「お前に俺の何がわかるんだ」とか「綺麗事をほざくな」とか言われて怒られてもおかしくないことを言ったと思ったのに、ジェノスさんはものすごく真面目に私の言葉を受け取ってくれて、深々と頭を下げて「ありがとうございます」とまで言うから、かえって反応に困った。

 

 この人、お兄ちゃんといい私といい、好意的に解釈しすぎてる。

 私たちはジェノスさんが思っているような聖人君子じゃないから、その対応は正直息苦しいけど、ここまで真面目だとそれは言えない。

 だから私は慌てて、「頭を上げてください!」と説得するしかなかった。

 

 そしてそのまま、私たちの部屋にUターン。

 どうやら私とのやり取りで、お兄ちゃんに伝える内容が20文字以内でまとまったらしい。

 マジで? 何で?

 

 * * *

 

「先生のように強くなる方法、教えてください」

 

 本当に20文字でまとめてた。ずいぶんざっくりシンプルになったなぁ。

 でも、お兄ちゃんのように強くって……どうやるの?

 なんかお兄ちゃんは「お前ならすぐ超えられる」とか言ってるけど、お兄ちゃんがやってたのってただの筋トレだよね?

 サイボーグのジェノスさんに効果あるの?

 

 正直ツッコミどころが満載どころかツッコミどころしかない会話を繰り広げてるけど、たぶんこれは私が口出ししたらいけない奴だ。

 私には理解できないけど、男の世界って奴。

 だから私は心の中で「ジェノスさん、真実知ってもめげないで」と応援を送りながら、お茶でも入れ直そうと思って台所に向う。

 

 そのタイミングで、ジェノスさんが「高速接近反応」と呟き、玄関で構えた。

 え? もしかして怪人が来るの?

 玄関壊れたら、誰に修理代を請求したらいいのかな?

 

 私の心配は、ちょっと無意味だった。

 壊れたのは玄関じゃなくて、天井。お兄ちゃんの真上の天井をぶち抜いて、怪人が現れた。

 ジェノスさん、怪人が来る方向外れてますよ!

 

「ケーケケケ! 俺の名は」

 言い切る前に、予想通りお兄ちゃんのワンパンで頭が胴体とサヨナラして、爆発四散で壁に飛び散る。

 

「天井弁償しろ」

「お兄ちゃん! 弁償させたいのならワンパンで終わらせないで!

 っていうか、家の中で戦わないでよ! その怪人、お兄ちゃんが片付けてよね!!」

 

 自分でも反応がおかしいなーとは思うし、ジェノスさんから若干引かれてるのはわかってるけど、これは言わせて! 私には切実なんだから!

 本当に何で部屋の中で退治しちゃったの!? お兄ちゃん、手加減出来るでしょ!

 私、その怪人の死体片付けたくないよ!!

 

 私の文句をお兄ちゃんがうるさそうに顔をしかめながら、怪人の胴体と飛び散った頭を窓から捨てる。

 その窓の下にも怪人がいることに気付いて、お兄ちゃんはジェノスさんと一緒に下に降りて行っちゃった。

 

「悪ぃ! エヒメ! ちょっと行ってくる!!」

「すみません。エヒメさん! 危ないので部屋で待っていてください!!」

 

 二人は口々にそう言って、さっさと出て行く。

「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん!」

 私の文句なんて、もちろん聞きやしない。

 

 お兄ちゃんのバカ!!

 まだ怪人の死体のグロテスクな断片は残ってるし、壁に嫌な汁はべっとり滴ってるのに!

 

 私は涙目でその掃除をしようとしたら、外でジェノスさんが切羽詰まった声で「先生!」と叫ぶのが聞こえてくる。

 お兄ちゃんがまた何かをやらかしたのかと思ってベランダから見てみたら、何故かお兄ちゃんが地面に埋まってた。

 何で!?

 

「どうしたのお兄ちゃん!? つくしごっこ!?」

「……俺ら兄妹って、発想がまったく同じだな」

 思ったことをそのまんま言ってみたら、お兄ちゃんが遠い目をしてそう返した。自分でも、今の状態がつくしに似てるって思ったんだ。

 

 何ていうか、ドンマイお兄ちゃん!

 

 お兄ちゃんを引き抜きに行った方がいいのかな? と思ったけど、何か二足歩行のライオンは出てくるし、人間大のモグラも出てくるし、お兄ちゃんは普通に地面から出てきたから、私はベランダから部屋の中に引っ込んだ。

 本当は嫌だけど、さっさと掃除しなくちゃこびりついて取れなくなる。

 

 私がそうやって半泣きであのカマキリ怪人の死体の後始末をしてる間に、お兄ちゃんとジェノスさんが怪人を片付けて、帰ってきた。

 でもまたすぐに出かけるらしい。

 

 どうもあの怪人たち、そしてジェノスさんと知り合うきっかけになった蚊の怪人は、自然発生したものじゃなくて人為的に作られたもので、それらを作った「進化の家」にお兄ちゃんは目をつけられたそうだ。

 

 あー、うん。納得。

 どう考えてもお兄ちゃんは、テレポーターの私以上に突然変異だよね。

 

「エヒメ、テレポートで行けるか?」とお兄ちゃんが訊いてきたので、私は「進化の家」の正確な場所を訊き返す。

 

 

「……お兄ちゃんはともかく、ジェノスさんがちょっと問題かな?」

「俺ですか!?」

 名指しで「問題」と言ってしまい、ジェノスさんはショックを受けた様子を見せる。

 

 ごめん、ジェノスさん。別にジェノスさんは悪くないの。サイボーグなら仕方ない理由なの!

 

「あー、ごめんなさいジェノスさん。あんまり気にしないで。

 そしてもう一つごめんなさい。ちょっと失礼」

「は?」

 

 説明するより先に、私はジェノスさんに抱き着いた。

 あー、やっぱりこれは確実に、同じ身長の男性の倍以上に重いな。

 

「ごめんなさい、ジェノスさん。私のテレポート、一度に跳べる距離と跳ぶ時の質量が反比例するんです。あと、間を置かずにテレポートを繰り返すのもちょっと限界があるんです。

 私一人なら最大10キロくらい先まで跳べるんですけど、私、お兄ちゃん、ジェノスさんで『進化の家』までテレポートで移動したらかなり短い間隔のテレポートを繰り返すので、確実に途中で私はキャパオーバーを起こしてしまうんです」

 

 ジェノスさんから離れてから改めて私のテレポートに関しての説明をすると、やけに間を置いてから「……そ、そうですか。お、気になさらず」と出来の悪い合成音声みたいにぎこちなく言われた。

 あれ? もしかして私、抱き着いた時に触っちゃいけない所でも触っちゃった?

 

 私が心配になって、ジェノスさんに「大丈夫ですか!?」って尋ねたら、何故かお兄ちゃんから軽くチョップを喰らった。何で!?

「お前な、少しは相手の性別を考えろ」

「意味わかんないよ!」

 

 お兄ちゃんの言葉に正直な感想を叫んだら、溜息をつかれた。

 だから何で!?

 

「まぁいい。とりあえず、徒歩で行ってくるわ」

 私の質問に答えてくれず、お兄ちゃんはまだなんかぎこちないジェノスさんを連れて、「進化の家」を潰しに行った。

 

「お兄ちゃん、ジェノスさん、いってらっしゃい。

 天井の修理代も忘れず請求してもらって帰ってきてね」

 

 そう言って私は二人を送り出す。

 ……そういえば今日はスーパーの特売日だけど、お兄ちゃんはタイムセールまでに帰ってくるつもりなのかな?

 

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