「オレ様のアシッドブレスで溶けてなくなr…」
とりあえずいつも通りワンパンで終わらせて、ひたすら俺はその辺を殴りまくる。
さっきから色んな所を壊しまくってんだけど、墜ちねぇなこの船。
幹部っぽい怪人も何体か倒してけど、ボスっぽいのもまだ見つからねー。
っていうか、生きてんのか?
まさかさっき倒した奴がボスとか言うんじゃねぇだろうな?
まぁ、それならそれでいい。とりあえず今日は、早く帰りたい。
なんかエヒメの様子が妙におかしかったからな。
あいつは我慢しなくていいことまで限界まで我慢するから、俺が約束を守ったのならどんなに不安でも止めたりすることなんてなかったのに、今日は何故か止めた。
でも、あいつは我慢の限界を迎えて感情を溢れ出したわけじゃなかった。
むしろ、今まさに我慢してるって顔だった。
……今にも泣き出しそうな顔をしてた。
だからさっさと帰って、せめてあいつの心配だけはなくしてやりたいから、早く墜ちろ。生きてるんなら、ボス出て来い。
っていうか、ジェノスが慰めるなり話を聞くなりしてガス抜きでもしてやってくれねーかな?
たぶん無理だろうな。
あいつの強情さには俺だって勝てたことがないし、何より俺のマントを掴んで俺が振り返った時、あいつは泣き出しそうな顔で自分のしたことを困惑してた。
何だ、あいつ?
自分が何を我慢して、何に耐えてるのかもわかってないのか? 新しいパターンだな。
そんなことを考えながら、俺は扉を壁ごと引っこ抜いて開けた。
「壊れた」
* * *
さらに先に進んでいったら、クソ面倒くさい迷路になってた。
面倒だから殴って壁を壊して直進してたら、頭の中で「壊すな、出てけ」とか言う声が聞こえる。
頭の中直接で声が聞こえるって、すげー変な感じだな。耳は使ってないはずなのに、何かムズムズする。
《それ以上、踏み込んでみろ! お前を殺すぞ!》
姿も現さないで威勢のいいことを言う宇宙人に、俺は帰り道がわからんと言ってみたらやたらと素直に教えてくれた。
うん、俺はバカだけどさすがに行かねーよ。普通に罠だと思うし、もう本当にバカ正直に教えてくれていたとしても、何で今更帰るんだよ。
「じゃあ左に進もうっと。へへへ……」
《ま、待て! 貴様よくも! ちょ、ちょっと!?》
俺が誘導された方と逆の道を突っ走ったら、頭の中の声が割とマジで焦り始めた。
何か自分が悪かったから待ってくださいってついには頼み込むようになってるけど、もちろん俺は無視してバカでかい、いかにもラスボスがいますよー的な部屋の扉を蹴り開けた。っていうか、ぶち破った。
その先にいたのは、お前はどこのゲームのラスボスだよって言わんばかりにラスボスらしい外見をした奴だった。
何で俺は、目玉が一つの奴に顔面の格差社会を見せつけられてんだよ?
「まさか、短時間でここまで来ようとは。
ようこそ、我が船へ」
どうやら外見通り、こいつがインベーダーの親玉らしい。
ならさっさとぶっ潰して帰ろうと思っていたら、俺の後ろにタコがいた。
声からして、さっきまで俺の頭の中で何か一人漫才やってた奴はこいつらしい。
呼ばれたから振り返ってみたら、タコは瓦礫を飛ばしながら名前を名乗ったけど覚えられねーよ。多くて5文字以内で改名して来い!
ただ「念動力」という言葉だけは意味も理解できたから、何気なく口に出す。
「念動力? 超能力か……」
俺にとって超能力といえばエヒメのテレポートだから、目の前のタコのやってることはせいぜい手品としか思えない。
だってさー、小石を飛ばすなんて誰でも出来るじゃねーか。
こんなふうに。
俺が軽く飛ばされてきた瓦礫の一つを投げてみたら、頭を狙ったけどちょっと外れて首というか頭と足のつなぎ目あたりにぶち当たり、貫通した。
タコは頭と体というか足というか、とにかく真っ二つに分離して、足はその場にべちゃりと潰れるように倒れ、頭の方はというと一つ目星人の所まで転がって行った。
「……ぼ、ボロス様……申し訳……ありません……」
うおっ!? まだ生きてた!?
さすがに首だけになってもしゃべる奴は初めて見たので俺がビビると、一つ目星人は首だけになった部下を見下ろして、言った。
「ゲリュガンシュプ…………………………命令に、背いたな」
「え?」
踏みつぶした。
インベーターの親玉は首だけになっても自分の失態を謝った部下の頭を、躊躇なく踏み潰した。
今度こそ本当に死んだと確信できるぐらいに頭はバラバラに飛び散り、その残骸を見下ろして奴は呟く。
「……俺がいつ、砲撃命令を出した?」
あれ?
もしかしてこいつ、A市をぶっ壊す気はなかったのか?
部下が間違えたのか、それとも勝手に砲弾をぶっ放したのであって、こいつ自身は別にA市や地球になんかするつもりはなかったのか?
そうだとしたら、戦いにくいな。
このまま大人しく帰れば見逃してやるって言おうか……、いややっぱり被害でかいから見逃せねーな。でもやっぱり本人悪くないのに殺すのは後味悪いな。
そうやって俺はこいつを見逃すか倒すかに迷っていたら、しばらく自分で潰した部下の残骸を眺めていた奴が顔を上げる。
「俺の配下をことごとく……」
そこにあったのは、非戦闘主義なんて言葉が一番似合わない笑み。
「素晴らしい!」
子供のような声で、俺に称賛を送って来た。
……こいつ、何がしたいんだ? 部下の内の一人は、お前がトドメを刺したんだろうが。
「闘う前に名を聞いておこう」
そう言って奴は、ボロスは名乗った。こいつの名前はさすがに憶えられた。
同じく俺が名乗り、そして何で地球にやって来たのかを訊いてみたらボロスは「予言」だと答える。
ついさっき聞いたばかりの言葉につい反応してしまうが、それ以上に俺は珍しくボロスの話を聞き入ってしまった。
強くなりすぎて、誰も自分に適わなくなって、退屈して、自分と対等に戦える奴がいると聞いて、20年かけて地球にやって来た。
そして今、遠足前の子供のように楽しそうに、無邪気に笑って、俺に言い放つ。
「さぁ、俺の生に刺激を与えてくれ。そのために来たんだ」
とりあえず、殴っておいた。
馬鹿か、こいつ。
退屈で刺激が欲しいからって他の星を襲うなんて、頭の悪いOLでも考えねーっつーの。
……だから、心配しなくていい。
俺はそう、伝えた。
頭の中の妹に、俺が同じような理由でどっかにふらっと行ってしまって、帰ってこなくなることを何よりも恐れて、「行かないで」と泣くエヒメに言ってやる。
行かねーよ。やらねーよ。
兄ちゃんはバカだけど、そこまでじゃねーよ。
だから、泣かずに待ってろ。
脳裏に浮かんだエヒメを慰めてる間に、柱にめり込んだはずのボロスが割と普通に出てきた。
ワンパンで死ななかった敵は久々で、さすがに軽く目を見開く。
だけど、「強大すぎる俺のパワーを封印する役目を持つ鎧が今、砕かれた」というセリフで、何か白けた。
お前、それは地球では「フラグ」って言うんだぞ?
そんなことを思っていたら、何か奴の体が変化していった。
紫色の身体がほとんど黒に近い色になって、全身に走る入れ墨のような、血管のような模様部分が青白く光る。
その光が強くなって周囲にカミナリみたいなのがいくつも落ちてきて、床や俺のマントの裾を焦がす。
そんな変身を見ながら、ぼんやりと俺は思う。
こいつの鎧が崩れた時に、一緒に床に落ちたもの。
カミナリみたいなので一瞬で焼けて、消滅したもの。
あれは何だったんだろうと、何故か無性に気になった。
俺には、エヒメが一番好きな折り紙、連鶴に見えたんだけどなぁ。