二人のセクハラに怒りと羞恥で頭がいっぱいになってひたすら走っていたら、家の前まで戻ってきちゃった。
……そしたら、何か竜巻みたいなのが発生してるわ、女の人がお兄ちゃんを吹っ飛ばしてるわというカオスな状況にぶち当たった。
えっと、……何これ?
とりあえず戦ってる相手はタツマキさんみたいな超能力者らしいので、巻き添えと邪魔にならないように適当な建物の中にテレポートで避難して二人の様子を眺めて見るけど、やっぱり状況がわかんない。
お兄ちゃん、その女の人は誰? 敵なの? 修羅場なの?
お兄ちゃんに呼びかけて止めるとかした方がいいのかと思ったタイミングで、私を追いかけながらまだケンカしてた二人もやって来て、よりにもよってジェノスさんがお兄ちゃんと女の人の至近距離で焼却砲をぶっ放しちゃったし!
どうしてあなたは周りをあまり見ないのかな!?
とっさにお兄ちゃんが前に出て女の人を後ろに庇ったのが見えたから良かったけど、あれはさすがにどうよ! と思ってジェノスさんの元まで跳んで注意したら、またなんかソニックさんを引き合いに出してきたし!
どんだけソニックさんが嫌いなのジェノスさん!?
「とにかくジェノスさん! お兄ちゃんとそこの女の人に謝ってください!!」
「!? 先生!」
本当に周りが見えてなかったらしく、お兄ちゃんの存在すら気付いていなかったジェノスさんがお兄ちゃんに謝り、私は女の人の方に駆け寄る。
「あの、なんか状況はわからないけどごめんなさい! 大丈夫ですか?」
「……え、えぇ。このくらいは大丈夫。……それより、あなた達S級と繋がりがあるの!?」
綺麗な黒髪にスタイル抜群のおねえさんが、頭から血を流していたからハンカチで傷口を押さえながら尋ねると、彼女は戸惑いながら答え、そして訊き返す。
この状況で何でそんな部分を気にしてるんだろう? と思っていたら、ジェノスさん本人がお兄ちゃんの弟子だと答えて、そして同時にこのおねえさんが何者かに気付く。
「お前はB級1位、地獄のフブキか」
私は全く知らない名前だったけど結構有名な人だったらしい。ジェノスさんはフブキさんを睨み付け、お兄ちゃんを新人潰しの対象にして返り討ちに遭ったのだろうと指摘したら、お兄ちゃんに「お前の巻き添えに遭ったんだよ」と突っ込まれた。
さすがにそれは悪いと思ったらしく、ようやくジェノスさんがフブキさんに謝ろうとした時……
「爆裂手裏剣!!」
無視してて悪かったけど、もうちょっと我慢して空気読んでソニックさん!!
* * *
ソニックさんに当たった瞬間爆発する手裏剣を投げつけられて、全部命中したのにジェノスさんはびくともせずに、街燈の上にバランスよく乗ったソニックさんを睨み付けて言う。
「ふん……非力だな。こんなもの百発食らおうが損傷は受けない」
「一発も俺に当てれんくせに強がるな木偶が」
皮肉の応酬をして、ソニックさんが街燈から飛び降りる。
ソニックさんが飛び降りる衝撃で割れた街燈の破片と一緒に軽やかに降り立ち、この人独特の獲物をいたぶる猫のような笑みを浮かべて、宣言した。
「サイタマ、そしてエヒメ! よく見ておけ! 弟子をスクラップにしたら次はお前らの番だ!」
……お兄ちゃんはともかく、私は何の番ですかソニックさん。もう訳わからん。
「……エヒメ。これ、何がどうなってるんだ?」
「正直、私がそれを一番知りたい」
お兄ちゃんもソニックさんの宣言に困り果てて私に尋ねるけど、私が知りたいよ、マジで!
何で私とジェノスさんじゃなくて、ジェノスさんとソニックさんがケンカ始めてるの!?
私たち兄妹、そしてフブキさんを置いてけぼりに、何故か二人しかわからない争いを続けているジェノスさんが手でお兄ちゃんと私を制して言う。
「先生、こいつは先生だけではなくエヒメさんもつけ狙う、執念深くて変態のストーカーです。
二度と現れないよう、俺がこの場で消してやります」
「それ、やめてくださいって言いましたよね!」
私がもう何度目かわからない突っ込みを入れるけど、ジェノスさんは「大丈夫です。せめて楽に死なせます」といらん譲歩しかしてくれない。
ジェノスさん、それ全然大丈夫じゃない!
ジェノスさんの皮肉も宣言も、ソニックさんの方は余裕の笑みを浮かべて、「お前みたいなノロマに俺が消せるか」と言い返す。
割とソニックさんの挑発に乗りっぱなしだったジェノスさんだったけど、今回はその挑発には乗らず、静かに言う。
「俺がいつ、実力を見せた? あれは貴様がエヒメさんを抱えているか、近くにエヒメさんがいたからだ。
貴様の負けだ」
宣言と同時に、何かを起動させたのか服の上からでもわかるほどに胴部が一瞬光り、そしてその直後、ジェノスさんの姿が掻き消えた。
私の目がジェノスさんの姿を次に捉えたのは、ソニックさんの背後に回った時だった。
ジェノスさんの拳をソニックさんは男性とは思えない柔軟さとご自慢のスピードで避けたけど、戦闘バージョンの時にいつも巻いてたマフラーが、ジェノスさんの拳で引き千切られて破られた。
そのまま、ジェノスさんは猛攻。
ソニックさんに有効打は与えられてないけど、ソニックさんの方が攻撃することも出来ずほぼ防戦に強いるほどのスピードでひたすら攻めるのを、何とか私とフブキさんは目で追う。
「……全く、見えない」
フブキさんが茫然と呟くのが聞こえて、ちょっと焦る。え、私、少しは見えるんだけど、私の動体視力、実はおかしい? お兄ちゃんを「人間じゃない」って私、実は言えない?
深く考えると凹むだけだからちょっとその事実は忘れて、二人の戦いにさらに集中して見てみると、さっきからジェノスさん、わざわざあんまり意味もなくソニックさんの背後に回ってる気がする。
それに気づくと同時に、ジェノスさんがいったん止まって、ソニックさんもジェノスさんから離れて止まった。
「頭の糸クズを取ってやったぞ」
そう言いながら、ソニックさんの綺麗に結い上げてた髪を掌から落とす。
大人げなっ! やっぱり気の所為じゃなくて、スピードでソニックさんに張り合ってたよこの人!
大人じゃないけど、未成年だけど、大人げないよジェノスさん!!
ソニックさんは髪を奪われた事か、自分よりも速いというジェノスさんの主張にか、どちらにしてもものすごくプライドを傷つけられたらしく、屈辱で顔を歪ませてその場に仁王立ちになって叫ぶ。
「この……糞……」
「油断したな、音速のソニック」
けれど最後まで言い切る前に、ジェノスさんがまたソニックさんの背後に回った。
「ソニックさん! ジェノスさん!」
とっさに私は二人の名前を叫んだけど、ジェノスさんのマシンガンのような乱打は止まらず、ソニックさんを撃ちすえた……と思った。
ジェノスさん本人も、完全にとらえた自信があったんだろう。
「!? 避け……は!?」
まず自分の拳が空を切ったことに対する驚愕。そしてその直後、出来の悪い立体映像のようにぶれて揺らめく4人のソニックさんに囲まれていることに、見学してる私たちと同じようにジェノスさんも驚愕した。
「ははは、情けない奴だ! 驚いたか? 自信満々の連打が空を切った感想はどうだ?
特殊な歩行技術と超高速な身のこなしよって残像を発生させる奥義! 四影葬!」
実に忍者らしい技を使って、ジェノスさんをまた挑発するソニックさん。
……ジェノスさんも大人げないけど、それ以上にこの人が大人げないわ。
大人げがまったくない忍者は、刀を引き抜き技名を叫んでさらにスピードを上げて、私の目からも見えなくなる。
おそらくジェノスさんのセンサーやサーチも役に立たなくなってしまったのか、ジェノスさんは腕全体、今まで見たこともない位置の砲門も解放して、その砲門が全て光を灯す。
え? ちょっ、ジェノスさん!? また周りが見えてなくなってません!?
「お兄ちゃんジェノスさん止めて!!」
「言われんでも止めるわ!」
頭に血が上って(……脳は生身だけど血ってそういえばあるのかな?)、このあたり一帯を焼い尽くそうと思いきりの良過ぎる行動を取ろうとしたジェノスさんは、ソニックさんの攻撃が決まる前に、お兄ちゃんの手刀を脳天に受けて倒された。
勝負の邪魔をされたソニックさんは、不服そうな顔でお兄ちゃんと私を睨み付けて、「弟子を救ったつもりか?」と訊く。
「家の前で爆発されると迷惑なんだよ」と、お兄ちゃんはシンプルに止めた理由を答え、私は倒れてもまだ起き上がってソニックさんと戦おうとするジェノスさんに駆け寄って言う。
「ジェノスさん、本当にもういい加減にしてください!
お兄ちゃんや私の事を心配してくれているのはわかってますけど、あなたの身体は人や周りを巻き込んでケンカするためのものなんですか!?」
「! ……いいえ。……すみません、俺の冷静さが足りずに、事態を大きくさせてしまいました」
さすがに3連続周りを見てなかったことにキレた私の言葉に、ジェノスさんは衝撃を受けたような顔になって、今度は何も反論しないで素直に謝った。
うん、ジェノスさんの方は反省してくれたんならもういいや。
問題はこっちの大きな子供なんだよなぁ。
私はジェノスさんの傍らで片膝をついた状態で、ソニックさんに言う。
「ソニックさんの方も、ジェノスさんは関係ないんですからもう、ケンカなんてやめてくださいよ」
「そのクソガキの方から、変質者だのストーカーだの言って売ってきたんだろうが。クソ生意気なガキを矯正して何が悪い?」
あーもー、どうしてこの人はここまで大人げがないんだが。負けず嫌いにも程があるでしょ。
「ソニックさんの目的は、お兄ちゃんでしょう? なら、横道にそれていいんですか?
お兄ちゃんとの勝負の為というのなら恩返しで協力しますけど、ジェノスさんとのケンカの為なら私は何も協力しません。無理でも無謀でも、止めます」
私の言葉に、まだ倒れたままのジェノスさんが「エヒメさん! もうこいつに恩を感じる必要なんかありません!」と訴え、お兄ちゃんの方は「お前は俺があいつと戦うのはいいんか」と突っ込まれ、フブキさんには「これはどういう状況?」って目で見られた。
ごめんねフブキさん。何かビックリするほど蚊帳の外にやっちゃって。でもごめん、ちょっと待ってて。
とりあえず、今はジェノスさんやお兄ちゃんを無視して、ソニックさんを説得する。
「私はあなたとジェノスさんの争いなんか見たくないんです。どっちも手加減なんかしないで、殺し合いになることがよくわかりましたから。
言ったでしょう、ソニックさん。あなたが何を考え、どんな意図で行動したんだとしても、あなたの行動は私の命を繋いでくれたから、私のヒーローだと。そして、それはジェノスさんも同じです。
お願いですから、私の大切な人を傷つけないでください。ジェノスさんも、あなたも含めて」
私の言葉に、ソニックさんは何とも表現しづらい顔をした。
不満そうにも見えるし、苛立っているようにも見えるけど、どこか嬉しそうにも見える顔を一瞬して、それから何を思いついたのやら、口の端を吊り上げて笑った。
「エヒメ。ちょっとこっちに来い」
ソニックさんはどう考えても何かいらんことを企んでる顔をして、人差し指でちょいちょいと招いた。
「何のつもりだ、音速のソニック!」
「おい、ソニック。何する気だ?」
ジェノスさんもお兄ちゃんもソニックさんの表情の不穏さに気付いて、ジェノスさんは怒鳴りつけ、お兄ちゃんは私を庇うように前に出るけど、本人は飄々と答える。
「別に大したことじゃない。恩を返してもらうだけだ」
……どう考えても嫌な予感しかしない。何を企んだ、あの負けず嫌いは。
「……もうジェノスさんとケンカしないって、約束してくれますか?」
「エヒメさん!?」
嫌な予感しかしないしジェノスさんには悪いけど、少しは機嫌を直してくれたうちに交渉しておく。そうしないとこの人はしつこいから、マジでケンカが終わらない。
「もともとそいつから売ってきたケンカだ。そのガキが何もしなければ、放っておいてやってもいい」
その答えに私は溜息をついて、お兄ちゃんとジェノスさんに「ごめんなさい」と伝えた。
「おい! エヒメ!」
「エヒメさん!!」
二人の心配する声に罪悪感がものすごく湧くし、何か余計なことを企んでるのはわかってたけど、どうせこの人が私を使う目的はお兄ちゃんとの勝負、一対一の勝負に持ち込む為でしかないことはわかってる。
何かちょっとしたことはされるかもしないけど、ソニックさんの性格からして命の危険はないだろうし、人質になるだけでソニックさんが少なくとも今日はもう、ジェノスさんとケンカしないでくれるんならありがたい。
そんな考えで私は跳んで、ソニックさんの隣に降り立った。
降り立ち、ソニックさんの方に顔を向けた瞬間、ぐいっと後頭部を押さえつけられた。
…………えーと、間近で見たソニックさんは、前々から思ってたけど本当に中性的な美人さんでした。目つきが致命的に悪いけど。
髪が長いから女の人っぽく見えるのかと思ったけど、短くても女の人っぽかったです。
でも体は割と筋肉質で、ちゃんと男性でした。ジェノスさんと私をダシにして争っていた時、抱きかかえられてた時も思ったけど、結構腹筋も胸筋もビキビキで硬かった。
うん、そんな感じでやっぱり男性だなーと思うけど、男の人でも唇は柔らかいんだね。少しカサついて荒れてるけど、この人が唇のケアなんかするわけないから当然か。
後、手を出すのも早いね。この場合は、手じゃなくて舌?
重ねた瞬間、躊躇なく入れますか? 手慣れてますね。
息継ぎはどうやればいいんだろう? 鼻で呼吸すればいいの?
……ところで私は何で、自分がいきなりキスされてるのをこんなに、他人事のように考えてるんだろう。
あぁ、あれか。私、混乱してますわ。
こんな当事者が他人事なキスシーン、初めて書きました。
そして絶対に言われると思うから、初めに自分から言っておく。
ソニック 終了の お知らせ!!
あとバレンタインにこの話を更新はあまりにジェノスに可哀相だったので、救済のバレンタインSSを活動報告の方に載せました。
興味がありましたら、こちらもどうぞ。