『世の冠より、立派ではないか』
その言葉で始まった謁見は、そこそこの屈辱とともに、取り敢えずの義務感を奮い起こしかりそめの使命感を持って、謁見をやり過ごした。
何せ、謁見の場に入った瞬間、嘲笑でもって迎えられた。
何事かと思って視線の先を鑑みるに俺の顔…というか、頭の上にあるものを見ていた。
あぁ、なるほど……。さっき矮躯のピエロ野郎に何かされたから、多分その時だな。
どうしよう、アレ、ガチで殺したい。
怒りを押し殺し、領王にして竜王とも呼ばれるこのグランシスを治める王、エドマンの言葉を聞き流しつつ、重要な所だけしっかりと覚える。
とりあえず、俺は領地内で動きまわって良いよと言う許可を得たようだ。
いや、今までも好き勝手してたけど、今度からは公的なフォローも付くと言うわけだ。
ソレよりも気になったのは領王の言葉にあった「この地を収めて数十年」と言う言葉と「危機の訪れを予見していた」と言う言葉だろうか。
とはいえ、ソレに対する備えもしていたと言う言葉に偽りは無いだろう。
各地の砦等がその証となる。
……のだけど、砦跡や、まだ使える砦が盗賊に取られてる辺り、本気度としてはどうなのだろうか?
それに、領王は「数十年」と言った。
ソレは王となってからの期間と言う意味だろう。
そこで俺が抱いたのは不審だ。
思えば、俺達『覚者』は『戦徒(ポーン)』達の主あり、共に歩む存在であるのだが、何故、領王の傍にはポーンが居ない?
ポーンギルドがあるからそうなのでは無いか、とも思ったがそうではない。
この城には『人間』のしかいない。
『人間と比べ、ポーン程戦力に適した存在は居ない』という実感を伴った確信が俺にはある。
それに、あの時…。
宿営地でポーンのルークが言っていた言葉がある。
──ここに契約はなりました、覚者様。これよりポーンの民全てがあなたに付き従いましょう
この宣言はこう言っては何だが、指揮官とあるいは指導者として俺をポーンの頂点に迎えたと言っているに等しい。
そして何より専従のポーン、メインポーンの存在。
彼或いは彼女の存在は自らの半身と呼んで間違いではない。
その存在が領王の傍にいないのは、何故だ?
そして竜識者が言っていた言葉を、俺の口を通してメルセデスに伝えた言葉を思い出す。
──ドラゴンが死ぬ時、彼の千年の戦いもまた終わるそうだ。
そして、俺と彼の胸の傷と奪われた心臓はドラゴンにしるしを刻まれ、心臓を奪われた証である。
彼はこのヒルフィギュアに胸に傷を持つ男の地上絵を描き、後続を待った。
そしてドラゴンに奪われた彼の心臓は永劫のときを経て尚未だに動き続け、ドラゴンが死なない限り彼の心臓もまた朽ちる事はない。
戦いで命を落としても、寿命が尽きる事はなく、俺も彼もある意味では不死者であるらしい。
……。
──ドラゴンが死ぬ時、彼の千年の戦いもまた終わるそうだ。
ドラゴンは領王によって倒されたのなら、何故、竜識者は生きている?
領王は、ドラゴンは……。
「ふむ、どうかしたのか、覚者よ」
「っ!失礼しました田舎者故、領王様とこの場の空気に飲まれておりました」
頭を過ぎった、確信にも近い猜疑心を隠し、そう口にする。
「そうか、詳しい事は担当のものに任せる。下がってよいぞ」
「ははっ!」
領王は呆れたように笑いそういった。
領王は俺の猜疑心に気付いただろうか?
俺は自分の足場が今、とても不確かなものだと感じた。
世間では領王は竜を退治したと伝えられている。
それは、本当なのか?
俺は若干、ふらつきながらも玉座を後にしようとすると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ヨシュア」
「メルセデス」
互いに名前を呼び合い、苦笑する。
お互い、今この状態で見えるのは微妙に不満があったということが分かる。
「覚者…やはり特別な存在だったようだな」
「よしてくれ、以前に言った言葉、覚えているだろう?」
「分かっているさ。だが、周りが、な。事実、謙譲物の運搬の際、私は何もしていないのも同然だった」
「そんな事は無い。メルセデスや荷車の護衛が居たから俺も他を気にせず十分に戦えた。そもそも、ハイドラの時だってメルセデスの機転あってこそだ。俺やポーン達だけじゃあ死んでいたよ、間違いない」
嘘偽りの無い本音だ。
あの時、メルセデスが機転を利かせてくれたからこそ、今も俺は生きているのだ。
「だが、今回ので思ったことがある。お前が今回全面的に竜征の任務に就くのならば、徴募隊とは何だ?国家への忠心とは?それに……識者の件もある」
「……」
「私の手には余る疑念だ……」
「分かっているとは思うけど」
「あぁ、分かっているさ……今夜は悪酔いしそうだ」
胸糞悪い、そう言いたそうな態度を隠さずメルセデスはそう言った。
「お互い、呑み過ぎには気をつけようか」
「そうだな」
俺とメルセデスの会話はソレで終えて、後は他の面々は余り友好的な様子は見えないので俺も苛立っていたこともあり、そのまま外に出た。
「っ……はぁ~」
明らかに舐められていたなぁ。
いや、こんなの被らされていたら道化でしかないのは分かるけどさ。
何時かあのクソピエロがちで殺す。
そんな決意も新たに外を見回すと城の庭の一角で少女が園芸に勤しんでいる姿が見えた。
俺はふと何となくすさんだ心が癒し(びしょうじょ)を求めたこともあってかふらふらとそちらに足を動かした。
俺に気付いた少女は少し笑ってこういった。
「厳めしい顔をしておいでですけど、そういったユーモアがあるのは素敵ですわよ。城の人たちはみんな……」
そう言って苦笑する少女、ふと少女の頭上に載る冠や衣装を見て、彼女が領王に関係する誰かと気付いた。
だが、ソレとは関係なしに、彼女がごく自然に俺との出会いに少しばかり喜んでいる事に、俺はこの城に来て始めて緊張がほぐれたのかふと笑みをこぼした。
「素敵な帽子の戦士さま。そういえば、わたくし、お名前を伺っておりませんでしたわ」
「覚者、カサディスのヨシュアと申します」
俺が名乗ると、目の前の少女は困ったように眉根を寄せた。
「覚者…?ごめんなさい。わたくし。戦の事は良く分からなくて。戦をする方は、みな戦士というのだと思ってましたわ、戦士さま」
「はは、自分も覚者などと呼ばれる前はそう思っていました」
そういうと、自然に互いの笑みがこぼれた。
「申し遅れました。わたくし、エリノアと申します。先日この地に嫁いで参りましたの。戦士さまは、これから領王様の下でご活躍なさるのですね」
「えぇ、このグランシスの現れたドラゴンを退治するのが使命です」
「まぁ。ところで、その素敵な帽子は覚者というものの印であったりするのですね?それをわたくし、可愛いなどと思ってしまって…。ごめんなさい、戦士さま」
凄く申し訳なさそうにそういうエリノア妃のその言葉に慌てたの寧ろ俺だ。
「いやいや、えっとそうですね。今日の出会いの記念に、是非、コイツを受け取ってはくれませんか?」
そういって帽子を差し出すとエリノアは喜びを露に尋ね返す。
「まぁ、帽子をくださるのですか?ありがとうございます、覚者さま」
やばい、セレナ並みに癒されるよ、この子。
こんな良い娘が領王の奥さんとか、世の中なんか間違ってないか?
「大事にいたします。ふふふ…」
うれしそうにそう言って受け取るエリノア妃。
ちょっとほほを染めて喜ぶ姿とか……あかん、かわいいな、本当に。
あ、やべぇ少し罪悪感。
「戦士さまのご無事をお祈りしていますわ」
「ありがとうございます。きっと、無事に竜を退治して戻って見せましょう」
俺がそういうと彼女は花のような笑顔をほころばせて待っています、また次の出会いに…と言ってくれた。
幼馴染のキナへ。
やばい、ここ1,2ヶ月で恋愛運がバカみたいに上がってるんだがどう思う?
──浮気者には……
やばい、幻聴が聞こえた。
うん、キナがそんなこと、言うはず無い…よな?
うん、言うはず無い。
だけど、最近アレだし、少し自重を覚えた方がいいかな、俺。
とりあえず、城を出るか。
そう思って移動した所で呼び止められた。
そこにいたのは兵士と政務官だ。
まぁ、ざっくりと彼らの話を纏めると、今後、領王からの勅命は自分を塔して行うから、大変だろうけど城まで来て私に話しかけるように、ということだった。
なら、どうせだから今受けれるものは無いかと問うと、昨今姿を見るようになったグリフィン討伐と裁判の証言と証拠品集めを依頼された。
討伐に関しては徴募隊の…献上品運搬で共にここまで着た兵士が同行するようだ。
しかし、メルセデスには声が掛かっていないらしい。
本人にソレを問うと、くやしそうに私はソレにつけないようだ、と言った。
そして、その力でどうにか彼らを守って欲しいと頼まれた。
俺は勿論、ソレを了承した。
その後、折角だからと場内を見学していると、一人の侍女に声をかけられた。
なんでも、エリノア妃が夜にゆっくり話を聞きたいらしい。
しかし、侍女としても今は奥方になったわけだし、ソレはどうなんだろうなぁ、とも思っているようだ。
俺もソレに関しては同感だ。
とりあえず、夜にでも庭に来て欲しい、と言うことだった。
侍女はそれだけ言うと仕事があるのでと足早に去っていった。
「──ってな事があったんだが……マリー、どう思う?」
「行って見れば良いのではないでしょうか?手を出したらアウト、バレたらアウト、ですが」
……そうだな、アウトだろう。
「しかし、女を泣かせる男は最低だと思います」
「同感です」
「……覚者さま、男とは常に辛い選択を強いられるのです」
……。
あれ?俺、ポーンから選択肢を放棄された……?
地下牢、なぅ。
顔はボコボコ、全身鞭に打たれて……どうしてこうなった。
ついでに尻も痛い。
思い出したくも無い。
だけど、敢えて思い出すなら夜中にエリノア妃に会いに行き、取り合えず談笑で済ませようと思ってたら領王が来て、慌てて隠れていると領王、エドマンがエリノアの首を絞めて殺そうとしていた。
いや、本気で焦ったね。
んで、後でやばいんだろうな、と思いつつも俺は姿を現して、領王を止めに掛かると正気になった領王、色々混乱した挙句に、保身に走ったエリノア、結論、俺は牢獄で嬲られる。
それにしても、領王が口走った『レノア』って誰だよ。
エリノアのは……もう、あれは仕方ないと諦めよう。
ほら、子供だって悪戯がばれて雷落とされそうな時、友達を売って保身に走ることあるじゃん?
ソレと同じだ。
ガチでしんどかったが、生きているしな、俺も色々と認識が甘かったし、人死にが出なかったんだ、コレでいい。
コレでいい。
けど、怪我が痛過ぎる。
誰かヒーリングスポットかけてくれ。
そう思いながら、俺の意識は嬲られて体力の限界だった為、ぷつりと途切れた。
意識が戻った頃、傍で誰かが泣いているのがわかった。
綺麗な金髪、整った容姿、そして綺麗と言うよりもどちらかと言えば愛らしさを感じるドレスの少女。
「エリノア…さま?」
「ごめんなさい。ごめんなさい…!」
再起動を果たした俺の脳みそが状況を理解し始め、一応はまだ生きている事と、とりあえず一人の美少女の命を助けることが出来たことを。
いや、色々散々な気分だが、前向きに考えよう。
そも色気を出したのも失敗だったのだろうな。
いわゆる、天罰覿面というか……。
開いちゃいけない扉を二つ同時に開きそうだったわ。
「謝罪は……不要です」
少し、憮然とした感じにしか聞こえない台詞。
俺自身、色々と予想外の方向で危なかったしな。
「私は…私は…!」
「もし、悔いるのでしたら、強くなってください。いっておきますと腕っ節ではありません。心と頭脳です」
「……」
「心が強ければ、同じ過ちを繰り返すことも無いでしょう。頭脳が強ければ、咄嗟の判断ももっと良い判断が浮かぶかもしれません」
「しかし、私はあなたを…」
「覚者とはっ」
「覚者とは、強い思いを胸に誰よりも一歩、歩める者ッ…!その勇気を、知恵を、力を、人の天敵たるドラゴンでさえも認めッ、その存在を覚えられるほどの存在を覚者と呼ぶッ!俺は、力が特別強いわけでは無いッ、頭脳が優れているわけでも無いっ!しかし、護るべき人々の為に戦う勇気だけは持っているッ!」
これは、宣誓だ。
「俺は貴女を始め、多くの人々『理不尽』に殺されるのが、認められない。竜を見たことがあるか?」
「いいえ……とても、恐ろしいものだとしか、聞いたことがありません」
然もありなんと思う。
アレとは出会うこと事態が不幸だと言える。
「アレは……アレは生きた理不尽です。腕や尻尾を振るえば人や建物は容易く薙ぎ払われ、口から吐き出された炎は容易く人を灰に変えた。生まれた頃から過ごした場所が呆気なく破壊され、つい先程まで笑いあった誰かが何の理由もなく殺されていく。そして、何もしなければ自分を含めて全てが破壊され、殺されてしまう」
「そんな……!?」
「俺はそんな理不尽が嫌だった。だから、ドラゴンに挑み、そして今もドラゴンを倒す為に生きているのです。……まぁ、こんな面で言っても格好はつきませんけどね」
不細工に腫れ上がった面で言っても、格好付かないよな、本当。
「ご、ごめんな……」
「謝らないでください。俺が聞きたいのは『ごめんなさい』ではなくて……。ただ一言『ありがとう』と言ってくれれば良い」
俺が言うとエリノア妃…いや、エリノアは泣き腫らしたままの目を軽い驚きに変え、しかし、漸くソレを口にする。
「命を助けてくださってありがとうございました、戦士さま」
「そう、その言葉が、聞きたかったんだ」
その後、俺はエリノアの手引きで脱出……とおもいきや、先にエリノアが他の監視の目を潜って戻った後に戻ってきた看守が俺の牢の前に立ちこう言ってきた。
「出すものを出せば、ここから出してやるぞ」
ヤツはニヤニヤと哂いながらそういう。
「……保釈金、という事で良いんだな?」
「あぁ、そうだとも」
「わかった、払おう」
まぁ、下手に脱獄するよりは罪が軽いだろう。
…………とりあえず、コイツは俺のBSリストに載せておこう。
Back(後ろから)Stab(ぶっさす)リスト
略してBSリスト。
別名、殺人予定リストともいう。
ヨシュア(主人公)が日本語で作ったリスト。
コレに名前の載った大半の人間は別に何もされない。
愚痴が延々とかかれるだけ。
何かされても、大抵は悪戯で済むレベル。
けど、最近新設された確殺リストのページは本気で殺したい人間の名前がちらほら載っているらしい。
現在のトップは領王エドマンと看守になっている。
ちなみに、エドマンがドラゴンを倒していない、と言う事実に今回気付いた。