釈放された後、どうなるもんかと思って居たが存外周囲の人間には知られていないようで領王による覚者への支援事態は継続しているようだ。
向こうも下手に吹聴されるのを嫌ったのかもしれない、コレで手打ちにしろ、ということだろうか?
「……はぁ、仕方ない。領王に支援もなければこっちも辛いんだ、そこに否は無いし」
「ならば、とりあえず働きましょう。仕事は幾らでもあるようです」
そう言って、暇な時間に領都の住人たちから寄せられた仕事の山を告げるマリー。
「いや、ちょっと待て。なんで俺の断りなく仕事を引き受けてるのさ!?」
「……マスター、人々の願いをお断りになるので?」
「世の中、出来ることと出来ないことがある。というか、なんでもかんでも引き受けてたら俺達自身がもたないって!」
俺は告げられた仕事の山に思わず悲鳴を上げた。
いや、だって……コレは酷い……。
なんで、グランシス全土を縦横無尽に駆け巡るかのような依頼の受け方してるんだよ!
マデリンの依頼で血洗い浜…グランシスの南西の端までの護衛にはじまり、各地の魔物に対する強襲、北方の風切り砦までのお使い、その他諸々。
「……うっわぁ……割と洒落にならない」
特に、魔物に対する強襲依頼が。
強襲に関しては見つけ次第となっているが、依頼されているのがキメラとサイクロプスだ。
サイクロプスは雷に弱いから適当に魔法を連続して放てば十分勝機はある。
しかしキメラは結構きつい。
勝てないと言う事は無いが、ヤツの突進を受ければ俺なんてあっという間にお陀仏だろう。
それに油断したら魔法でもお陀仏だ。
そんな事を考えながら領都の中央広場に降りてくると、何人かの男女が大きな声であーだこうだと何かをいいあっている。
少し気になったので聞き耳を立てると、どうやら森の魔女……セレナに関する事の様だった。
竜の言葉を知る魔女、竜と取引した?呼び寄せた?等と言う勝手な噂が流れている。
………そういえば、俺も旅立つ直前辺り……ヤツの言っていた言葉が頭に響いていたような?
もしかすると、覚者……竜に心臓を奪われた覚者は、ヤツの言葉を理解できるようになる?
…………考え過ぎか?
「マスター、今日は色々ありましたし一度宿で休まれてはいかがですか?」
「そうだな、そうするか」
考えるべき事はいっぱいだが、正直俺の頭であーだこうだと考えても最早追いつかん。
今日はもう寝る。全部朝になってから考えよう。
セレナの件も、どうせ危険地帯を通る必要がある上にお上の動きは恐ろしく鈍いので早々何がどうなるという事はないだろう。
多分。
翌朝、何時の間にやらマリーは出稼ぎ?をしていたらしく、なにやら土産を幾つか持っていた。
「何時の間に?」
「私はポーンなので」
「なるほど、わからん」
とりあえず、仕事をしてきたけど別に休んでないわけではないらしい。
土産は雇い主がくれたものだそうだが、腐る直前位の肉とか魚は嫌がらせじゃなかろうか?
まぁ、焼いて食えば問題はないか?……いや、捨てておこう、素直に。
そんな事をしていると、本日の護衛対象、美女商人マデリンの登場である。
相も変わらず特徴的な華美な衣装だが、ソレで居て頑丈な造りのようで旅をするのに不足がないのがなんというか職人技のように感じる。
「ヨシュア、待たせたかしら?それじゃあ、早速血洗い浜まで!」
「ん、わかった。最近は盗賊も魔物も活動が以前よりも更に活発になってる。あんまり離れない様に気をつけてくれよ」
「そっちこそ私を置いていくとか、しないで頂戴よ?」
そんな言葉を交わして領都を出たのだが、その後は脅威の盗賊、魔物、魔獣のオンパレードだ。
「キャァ!ちょっとなんでこんなに盗賊が多いのよ!?」
「マデリン、俺の後ろへ!──焼き払え!炎の壁よ!」
魔法で炎を盗賊たちの足元に出現させ吹き飛ばす。
「いけ!」
「仕掛けます!」
大柄の偉丈夫のポーンが盾を構えて突撃する。
しかし、その突撃は盾を持つ盗賊が辛うじて防ぎきる。
「防御など、無駄です。毒沼よ侵せ!」
「ぬぐ、が、ぐぇえええ」
マリーの唱えた毒沼(ポイズンスワンプ)は文字通り毒沼を一時的に発生させる魔法で、その毒気にあっという間にやられた盗賊達は咽喉を掻き毟り、白目をひん剥いて目口鼻耳と東部の穴と言う穴から赤黒い血を流して息絶えた。
ソレも一人だけではなく、三人同時にだ。
普通の毒より遥かに強烈だからか、皮膚も焼け爛れたかの様にジュクジュクになり、更に紫がかった上に腐敗していく。
「ず、ずいぶんとえげつない魔法なのね、彼女のアレ」
「あー……まぁ、結構武装した敵には有効何だけど……ああいう死に方はしたくないよな。本気でさ」
俺もあんなえぐい毒で死ぬのだけは嫌だ。
あんな死に方は、本当にごめんだ。
話している間にも、更に魔法が飛んでいる。
勿論、俺も幾つも魔法を飛ばしている。
「はぁ、本当に魔法って凄いわね。というか、以前会った時は魔法使ってなかったと思ったけど?」
「うん?あぁ、ストライダーを続けても良かったんだが、大型の敵とか、守りがガチガチの敵を相手にする機会がどうしても多くなってな。そんでそうなると微妙にストライダーだと力不足なんだよ。他にもさっきみたいに守りの堅いのはきついな。だが、魔法を使えばソレもまた状況が変わる。さっきマリーが使った毒沼の召喚魔法は見ただろう?結構えげつない魔法だが、相手の防御なんて無視できるかなり有効な魔法だよ」
もっとも、弓矢を使ったり機動性の高い敵を相手するなら攻撃速度や機動性の面で魔法使いじゃ不利だけど、とも言う。
「ふぅん?意外と考えて戦っているのね」
「そりゃ、俺も死にたく無いしな」
そんな会話をしつつ、石切り場を経由し湖近辺の宿営所で一泊し、血洗い浜を目指し移動を再開する。
「くそっ、この辺りのキメラは以前に倒したのにまた出やがった!」
「ちょ、向こうからゴブリンの群れが来てるわよ!?」
マデリンが慌てているが、俺はそうでも無い。
ちらりと脇目を振ると、そこには幾つ者火球を漂わせ、宙に浮かぶマリーの姿。
「今だマリー、全力でぶっぱなせ!」
「虚空より来たりて全てを薙ぎ払え、メテオフォオオオオル!」
森の一角に隕石が降り注ぎ、森ごと周囲の魔物を薙ぎ払った。
と、表現すれば一瞬だが、まぁコレもまたえげつない。
そこそこの質量が、大気を突き破り摩擦熱で赤熱化した状態で降り注ぐのだ、その場合の被害がどれほどのものか…。
その結果、魔物は全滅、自分たちもぎりぎり効果範囲の外に居た為被害は少ない。
「し、死ぬかと思った」
「コホン……少々加減を誤りました」
しれっとそんな事を言うマリー。
そんなマリーを見て偉丈夫のポーンに護られていたマデリンは戦慄しつつ呟く。
「魔物よりも、魔法使いの方がよっぽど世界の脅威なんじゃないかしら……」
「ひ、否定できないな。この惨状を見ると」
ドラゴンが村を襲った時より、下手すると酷いんじゃなかろうか?
まぁ、そんな感じに全てを焼き払うメテオフォールが連発されていれば、如何に魔獣と言えども楽勝……というほどでもないが勝てない相手ではなくなったと言うわけだ。
「ふぅ、何か考えていたよりも別の意味で疲れた気がするわ」
「だけど、まぁ無事に辿り着いたしいいじゃないか」
「……まぁ、どうせ辺りには人も居なかったようだし、しょうがないわね。えぇ、しょうがないのよ、気にしたら負けだわ」
ま、元々原生林の獣道な上に戦場跡とかばっかりだし、クレーターだらけになった所で問題なんてなかったんだ!
きっと、他の大魔法はもっと環境に優しいかもしれないしな!
「しっかし、こんな所まで来て何がしたかったんだ?販路だか何だかと言ってた気がしたけど」
「あぁ、それは今後を見越した話よ。ドラゴンが来たからってソレで全てが終わるわけじゃないでしょう?」
「そりゃそうだ。俺を始め、多くの人間が抗う為に動いているしな」
「で、ドラゴン騒動に乗じたように現れたヒュージブル。アレってドラゴンが居なくなればまた居なくなると思わない?」
「うん?……まぁ、それはありそうな話だけど」
確証は無いけど、ドラゴンのせいで現れるようになったなら、いなくなる可能性もあるかもしれない。
「で、ヒュージブルが居なくなれば船が出せるようになるわ。領都、カサディス、そしてココに新たに簡単な港を作るのよ」
「なるほど……そういえば、ここは領境で程々にカサディスとも距離がある……外との交易を視野に入れているのか?」
「そういう事よ。できれば蒼月の塔辺りも利用出来ればいいのだけど……あそこって盗賊と魔物の巣窟なのよね。しかも、長城や砦の盗賊達と違って交渉もしない野蛮な馬鹿ばっかり。その上塔の方にはグリフォンまで出るんでしょう?お手上げだわ」
「グリフォンか……そういえば、討伐に参加して欲しいと頼まれていたな」
頼んできたのは……マクシミリアンだったかな?
「ドラゴン退治の前に行うには良い戦闘訓練となるでしょう」
「とはいえ、他にも色々と懸念事項はあるしな」
セレナが竜を誘き寄せたなんて疑惑をかけられていると言う話とソレに対応して領都の兵士が差し向けられるというのも聞いたし、出来れば早いうちに確認しておきたいところだ。
この世界、疑わしきは罰せよを地で行くからなぁ……。
全うな調査とか裁判とか、どこにあるんだって感じ?
そんな事を話していると、マデリンがそういえばと口を開く。
「そういえば、資産家のフォーニバルって言ったっけ。あのハゲデブ親父」
「……あぁ、いたなそんなの」
「アレって、結構阿漕な商売してたらしいじゃない?そのせいか方々から訴えられて裁判に掛かるらしいわよ。噂じゃ、国の機密情報まで売ってたとかそんな話」
「……あ、その件か。それ、俺も関わってるな。フォーニバルの調査をするって感じで」
正確には、フォーニバルの有罪無罪の嘆願書集めって感じだった。
ついでに言えば、やつの家も調査してソレらしい証拠物件を見つけたりもしてしまった。
「……うっわ、本当の話だったんだ。というか、調査まで引く受けてたのね」
「色々と依頼を受けてたら、疑わしい情報ってあのおっさんの所関連なんだよな」
他国からの感謝状とか見つけた時は流石にびびったな…とは心の中だけで思う事にする。
なお、フォーニバルの判決は既に済んでおり、現在はその悪行の数々から終身刑を申し付けられ城の地下牢にて日々を過ごしている。
閑話休題。
「で、美人商人マデリンさん、ここってどうなのさ?」
茶化した様子で尋ねると、マデリンは少し考えてから本当はここまで言う必要ないんだけど、と前置きして。
「ちょっと間口が狭いのが難点だけれど、そこは少しずつ開発していけば問題にならないわ。崖が切り立っているけど、しっかりとした感じだし掘って見るのもありかもしれないわね。それにここを上がったところ……さっきサイクロプスやゴブリンがいた場所なんかは丁度開けているし、市場を作るのにも丁度よさそうな気がするわ」
「うん?……それ、もう簡単な港と言うか、村とか作る勢いじゃないか?」
「あら?あぁ、ソレも良いわね!グランシスって他領に比べれば土地はあっても村は少ないし……」
「んだな。昔はもっと村もあったらしいけど」
マデリンや俺が言う村が少ない、というのには色々と事情がある。
簡単に言えば、盗賊と魔物が蔓延っているせいだ。
領都周辺にもかつて人が住んでいたであろう廃屋がちらほらとあるし、幽鬼の森の辺りにも樵が住んでいただろう廃屋が幾つかある、更に言えば石切り場の周辺にも廃屋があるが、こちらは最近、石切り場の魔物を討伐したお陰か人の出入りが復活し、何れは廃屋も修繕されて民家になるかもしれない。
では、そんな中、何故カサディスは生き延びることができたかと言うと、港であったためだ。
その為に、カサディスは他よりも領都から支援も受けやすく立派な石壁で防御を固め、更に領都の兵士も常駐するという状態になり、他の村と比べて大分防御力が高かったのだ。
だが、その防備もドラゴン襲来以降中々厳しいものになりつつあると言う現実もある。
魔物の凶悪化と盗賊の跋扈が招く混乱により、ただでさえ地味に治安の悪いグランシスは治安が本当に最悪なのだ。
「ちなみに治安維持なんかはどうするつもりなんだ?」
「一応、『とある人達』と交渉はしてあるのよ。向こうも旨味が分かってくれるみたいで乗り気だから警備は十分任せられるわ」
「『とある人達』、ね。ま、成功を期待してるよ」
「ふふん、任せなさい」
マデリンはそう言って笑うと満足気に依頼はこれで十分だと告げてきた。
その後、俺は領都に飛石で帰ることを告げ、同行するかを訪ねるとマデリンは交渉があるからと断りをいれ、その場を後にした。
その翌日、俺は半ば忘れていたとある案件と直面する事になったのだった。
かなりこじ付けが強いけど、別にいいよね?