01:漁師だったけどリベンジで竜退治に挑んでみる。
夜も明けたばかりのまだ暗い空に、突如大きな孔が開く。
それは女性の上半身を持つ鳥の魔物、ハーピーを大量に吐き出しながら、一つの大き過ぎる赤い塊を押し出そうとしていた。
赤い塊はまるで溶岩の塊のようであり、しかしながら心臓の様に脈動していた。
そして、遂に孔から塊が落ちると、それは解(ほど)けるようにその姿を広げる。
その姿を見た物は誰であれ、その存在を直ぐに理解するだろう。
そう、それは……ドラゴンであった。
ドラゴンは意識を覚醒させると力強く羽ばたきながら空を飛ぶ。
ハーピーを貪りながら目に付いた陸地を目指して。
異世界に転生して早18年。
ごくごく普通の漁村であるカサディスに生まれ育った。
まぁ、極々普通と言う割には魔法が有ったり魔物が居たり、盗賊が出没したりと割と危険な生活環境だ。
両親は既に居ない。
流行り病で倒れてそのままぽっくりだ。
しかしそれも5年ほど前のことで、今はその悲しみも癒えてすっかりと元気に漁師兼猟師として過ごしている。
カサディスは漁村でもあるが同時に山の麓にあり、猟もちょっとした農業もどちらも行える土地だ。
そして比較的温暖な気候で食べ物に困ることなど早々ない。
また村であると同時に小規模ながら港でもあるので船を用いた商品のやり取りもある。
そういう意味でかなり裕福な村なのだ。
そんな事を何故か今更考えながら、ふと今朝見た夢を思い出す。
自分が何か勇者のようなモノになってお供と共に竜退治をする夢。
夢の中では兵士を食い荒らすキメラを倒し、いざ竜退治、と言うところで目が覚めた。
不思議な夢だったなぁ、とのんびりと考えつつ、早朝……といってもカサディスでは子供ですら既に起きているような時間だけど……まぁ、とにかく今日の漁の準備をしようと砂浜へ向かう。
その途中、何かの伝達でやってきたであろう領都の兵士が叫んで居たが、正直良く聞こえない。
それよりも以前から気になってる幼馴染の少女の姿が見えたのだから、そっちの方が重要だろう。
癖っ毛のあるロングウェーブ、シミや皴のないすっきりした顔立ち、意志の強そうなキレイな瞳、そしてよく似合うカサディスの民族衣装。
向こうもこっちに気付いた様子で、お互い軽い挨拶代わりに片手を振りあう。
そういえば、先程からなんか空気がざわざわしている気がするが気のせいかな?
それとすっごい嫌な予感もする。
そんな虫の知らせが当たってしまったのか、何時もの様な和やかな朝を迎えていたと思ったら、突如それが全部吹き飛ぶような事態が訪れた。
「ド、ドラゴンだー!!」
「え?」
俺が疑問符を上げた瞬間には既に多くの人が逃げていた。
そして次の瞬間、何か硬いものが勢い良くぶっ飛ばされて吹き飛んだものによって教会の方に行く道の辺りで建物の崩落があったり、砕かれた桟橋が街道に繋がる村の出口の辺りまで吹っ飛んだりとんでもない事態になっていた。
逃げるべきか、そう思った瞬間に脳裏に「ポーン」という軽い音と共に転生してから一度も出てこなかったクエストが発生した。
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メインクエスト
竜を退治し、この世界の楔となった魂を開放し全てを終わらせよ。
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……マジか。
いや、世界の破滅みたいなことも転生のとき示唆されて多様な気もする。
詰まり、アレに勝てと?
「やるしか、ないか」
幸い、とは言いたくないが先程領都の兵士が落とした剣が直ぐ傍に見える。
ドラゴンにどれだけ全うに攻撃が通じるかは不明だが、やってみるしかない。
死を待つよりも、せめて抗う道を選んでみよう…!
それに、家族同然の村の人たちを守りたい!
幸いといって良いかは知らないけど、転生特典のお陰か身体能力は割りと良く、村一番の漁師にして猟師でもあるのが自慢だ、何とか、してみせる…!
結論から言うと、なんともなりませんでした。
何度も斬り付けても竜の皮膚の上で火花が散るだけであり、最終的に斬ってダメなら相手の勢いも利用して突き刺してやろうとして前足で思い切り吹き飛ばされた。
その後、余り記憶がないが、胸に走った激痛で一度目を覚ました。
夢だと思いたいが夢ではないと思うその光景。
自分の心臓が、竜に食われたと言うその光景。
竜が何事かを言ってるようだが、意味は分からない。
「お、俺の……心臓……」
あんまりにもあんまりでショッキングなその光景。
言葉は口から出たのかも最早分からなかった。
次に気付いたときはどこかの家の中だった。
……どこか、じゃなくて村長……というか幼馴染の家だ。
ふと、胸下を見ると服は大きく破けて、更に血で汚れ、胸には大きな傷跡が残っていた。
─我が下に来たらんとするのなら、武器を取れ、覚者よ
あの時の竜の声?
竜の声に従うのも癪だが、しかしなにか、武器を持つべきだという衝動が俺を突き動かした。
起き上がり、部屋を見渡すと二人ほど横になった様子なのが見える。
その奥にある棚の上には錆びていて武器として使えるかは微妙な剣や短剣、杖、弓と矢筒を見つけた序に、俺に丁度合うサイズの換えの服も。
もしかして、用意してくれたのだろうか?
「……拝借するか。ココ村長の家だし、村長ならコレ位笑って譲ってくれるよな?」
俺としては猟で使い慣れた短剣と弓矢がやはりいいか、と思ってそれを身に着ける。
目指すは……人様の心臓をぱくりと食ってくれた竜へのリベンジだろう。
……って、今更だけど俺、よく心臓が無いのに生きてるな?
ワケガワカラン。
そう思いながら、とりあえず部屋を出ようとすると話し声が聞こえた。
話しているのは気になる幼馴染のキナと村長の二人だ。
キナは村長の娘でこの家にいるのはなんらおかしいことではない。
「光る傷?」
「はい、傷は治っているようなのですが……それに心臓の音がしないのです」
「何かの呪いか?……竜のことも有る、不吉なことだ……何も起きなければよいが」
そういうと村長は外へ出て行った。
俺も、出るかなと思って部屋を出ると、なんでかキナが思いっきり息を呑んでいた。
「体は大丈夫?無理はしないで」
「うん?あぁ、どういうわけか大丈夫だ。何、もう心配要らないよ」
俺がそういうと、しかしキナは不安そうな表情を見せる。
「でも……心配なんだから。あなたの傷のこと、村長はドラゴンの呪かもしれないって…」
「呪い、か……解呪できるのかな、コレ。後この胸の傷も出来れば何とかしたいし」
そういわれて改めて傷跡を意識する。
忌々しい敗北の傷跡だ。転生して以来、あれこれと転生前以上に色々とできるようになって色々とは謝意で生傷が耐えなくて特に両腕のあとは結構酷いがそれは全て勲章だと思っている。
だが、胸元のコレは屈辱の証としか思えない。
「私の、今の力じゃその傷を癒すことが出来ないかもしれないけれど…きっと何か方法があるはずよ」
キナはこの村でも数少ない癒し手だ。
薬は勿論、魔法を使って癒しを行うのだ。
「……余り気にしなくて良いよ、傷の件はともかく動ける程度までは回復したよ。それより、村の様子は?」
傷跡の件はそれ以上掘り起こしたくないと言う気持ちもあり、村のことを聞いてみた。
「あの時、ドラゴンに襲われたのはあなただけじゃなかったの。巻き込まれて、怪我を負った人も居るわ。その内何人かは…残念だけど………」
「……マジか」
「そうね、気になるならみんなの家を見回ってあげて。あなたが姿を見せて、話しかけてあげれば安心すると思うから」
「そう、かな?」
俺は結局ドラゴンに惨敗し、気絶していたと言う屈辱的な記憶しかない。
「村の為にあなたたちがドラゴンを食い止めたらよ。きっとみんな感謝してるわ」
「そっか、うん。分かった、みんなの顔を見て廻ってみよう。それじゃ、いってくるよ」
言って外へ出ようとしたとき、キナが声をかけてきた。
「そうそう、あなたの家は無事よ。他の壊れた家も何とか修繕の目処はあるみたい」
「ありがとう、懸念事項が一つ消えたよ」
その後、村を回ってみると、アレが無いコレが無い、誰某が居ない、等色々と混乱した状況になっているのが分かった。
とはいえ、子供が持ち出した教会の経典を探したり、ドラゴン騒動で亡くなった人の最期を伝えたり、以外に手間というか2日も時間の掛かった薬の材料になる日光花と月光花探し位だ。
後は小銭稼ぎでゴブリン退治やウサギ狩りでいくらか稼いだ。
盗賊退治も引き受けたが、こちらはカサディス付近では姿を見なかった筈だ。
領都に向かう際に登る山の当たりで見たという話を聞いたことがあるので、あの辺りまで行く必要が出るだろう。
後、どうもとんでもない魔物が海辺……というか水場に出るらしい。
ヒュージブルという魔物で物理、魔法どちらも効果的な撃退方法も無く、水場には近づかないほうがいいらしい。
漁ができないじゃないか!とも思ったが、カサディスの辺りならば他にも食っていく方法は幾らでも有るので、割と何とかなるだろう。
そんな事を思いながら武器と防具代わりの衣装を新調した。
ただ、トラベラーズと銘打たれたシャツとタイツ……なんだかピチピチし過ぎで微妙にこっぱずかしいのでその上に布のシャツとボトムを着ている。
更にその上に道中でゴブリンに袋叩きにされてた行商人を助けた際に貰ったレザークローク、川のマントを羽織れば、まぁ今までの装備をかんがみれば割とマシになったんじゃないだろうか?
あ、そうそう……どうでも良い事だけど「ポーン」という良く分からない人種のやつが俺の旅に同行するらしい。
手のひらに輝く傷跡を持つ男。
名前はルーク。
ポーンでルーク?
チェスじゃ有るまいし……。
俺の胸元の輝く傷跡と何か関係が有るんかねぇ?
ポーンについて教えてくれた村長曰く、ポーンは人間と比べて意思が薄く、自身から積極的に何かを決めて行動する事はない、とか、傭兵みたいな者だ、とか、ポーンに何かさせるには同行する指揮官みたいなのが必要だ、見たいなことを言ってた気がする。
何で気がする、なのかって?
半分以上、聞き流してたからだよ。
とりあえず、村長が言うにはドラゴンに関する情報集めをしたいなら街道を進んだところにある徴募隊宿営地に行くと良いらしい。
そういえば、そんなんあったな。生活に関係ないからすっかり忘れてたけど。
小銭稼ぎも程ほどしてそろそろ行くとするか。
おまけ NG① 油断大敵その1 かちかち山
「ふっふ~ん♪所詮ゴブリン程度なら負けは無い!」
鼻歌交じりに振るっていた短剣をしまい、伸びをする。
「覚者様、油断はよくないと思いますが?」
「問題ない問題ない。この程度じゃ死なないって!」
そう言ってふと空を見ると既に日も傾きもう直ぐ夜と言える時間になる。
「覚者様、今日はもうお疲れでは?宿営地に向かってそこで休憩なされては?」
今から歩くならカサディスよりも宿営地のほうが遥かに近い距離。
「え~?宿営地は宿代高かった筈だぞ?やだやだ、勘弁してくれよ。幾ら多少小銭を稼いだ所で所詮は直ぐに吹き飛ぶ額だぞ?俺は節約したいからカサディスに戻る!絶対だ!!」
しかし、その選択肢はない。
なにせ先のドラゴン襲撃のせいで家そのものは無事だったが係留してたボートやら何やら一式失ったせいで俺の財産は限りなくやばいのだ!
しかし、その思いが運命を分ける決断だとは俺はまったく思ってなかった。
カサディスに戻る途中、何か重く太い物、そして凄く熱い物が俺の後頭部に当たった。
松明だった。
「覚者様?!ゴブリンか!?」
そう何時の間にか後ろにゴブリンの軍勢が迫っていたのだ。
「うわちゃちゃちゃ!!!!燃えてる!燃えてるぞ!!!」
「は、早く火を消さねば!!」
「うぎゃぁああああああああ!!!」
その後、更に松明を投げつけられ、俺の命はあっさり終わりを迎えた。