難易度HARDの転生人生   作:とうや

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とんでもなく駆け足で駆け抜けてみました。
お陰で珍しく1万字を超えた……。


19:それぞれの目標に向かって

 風切り砦から戻った後、クーデターの結果報告を終えた俺は少々の不評を勝ったようだが気にせず次の仕事、サロモの足取りを追う事を始めた。

といっても、足取りを追う事事態はさほど難しくもなかった、何せ相手は堂々と蒼月塔に向かったのが分かっている。

しかし、問題は勿論ある。

 

「くそ、相変わらずここの盗賊の布陣がいやらしい!」

 

飛来する矢を魔導盾で防ぎつつ、愚痴りつつもじりじりと進む。

さて、分かる人は直ぐに分かるだろう。

蒼月塔に行く道、パストナ岩窟の辺りは盗賊や盗掘者であふれている。

そこに覚者とはいえ、知らぬものが見ればカモにしか見えない4人組が通れば襲い掛かるのが盗賊と言うものだ。

 

「おらおらぁ!泣いて謝るのなら今のうちだぞ!?謝っても殺すけどなぁ!!」

「そのポーンのメスガキは俺達がだぁいじに使ってやんぜぇ!」

 

なんて頭の悪いセリフ。

けれど、頭の悪いセリフを言う割に実力はしっかりとあるから厄介だな。

 

「あなた方のような頭の悪いのに好きにされるのは凄く嫌です。なので、死んでください……サンダーレインッ!」

 

天から降り注ぐ雷、それは見事に盗賊のグループに落雷し、一瞬で命を奪い尽くす。

そして、俺は理解した。

 

「……下手に慣れないレイピアで戦おうとするから苦労する、今更だがようやく理解した」

 

メルセデスとあんな言葉を交わした手前、とりあえずこれで頑張ってみよう!等と意気込んで銀のレイピアを使えるミスティックナイトになったのだが、俺の剣と盾と言う戦い方にはまるで似合わないスタイルだった。

盾を使った壁役の戦いは無理だ、落ち着かない、耐え切れない。

だが、防御無視で突撃しようにも長剣では素早い連続攻撃も出来ず、また軽快な回避もダガーと比べる難易度が高い。

俺に出来るのは素早い動きで翻弄する高機動戦闘と弓や魔法、魔導弓での砲撃戦等だけだと嫌でも理解できた。

 

メルセデスには非常に悪いと思うが、長剣を使った戦いは今回限りだな。

等と思いつつも手に握っているのは杖だ、あれ?おっかしーなー。

 

「マスター、心の篭もらない言葉は虚しさしかありません」

 

近くに居たストライダーのポーンがやれやれだぜ、とばかりに言う。

 

「いやぁ、おかしいなぁレイピア握ってたと思ったのに……サンダーレイン!!」

「……余りにもワザとらしいです」

 

そう言いつつそのポーンは気を込めた矢の一撃で敵盗賊の頭を消し飛ばす。

 

「お、お頭ー!?」

「ひ、ひぃーあいつらバケモンだー!!」

 

そう叫んで盗賊どもは一目散に散り散りに逃げ出した。

 

「びゅーてぃふぉー。流石はマクミラン大尉」

「たいいですか?」

「気にするな。良い腕だと褒めているだけだ」

 

そう、このストライダーのポーン、名前をマクミランと言う。

ストライダーではあるが、基本は弓ばかりで、しかもヘッドショット狙い。

そして言うまでもなく腕が良い。

俺が敬意を表して大尉と思わず言ってしまうのも仕方ないだろう?

 

 

しかし、ここまで出来て何故『|緑のムック(ギリースーツ)』じゃないんだ!

 

 

そんなこんなで蒼月塔の最上階。

ここまで来るのに本当に苦労した。

盗賊が住み着いていて矢を射掛けられるたびに魔導盾でガード。

接近戦仕掛けられるたびに死角に回り込まれないようにしつつガード。

 

てか、俺ばかりでなくてポーンを狙え、ポーンを!

 

そう思ったのは一度や二度ではない。

それでも辛抱強く防御に徹し、じりじりと距離を詰め、そして…。

 

「貫く!」

 

一足飛びに飛び上がり、背面からの魔力放出によるエアダッシュの勢いを利用した突き。

レイピアは盗賊の胸に深々と突き刺さり、そこから払い切りをつなげて後退し、再度一閃突きで今度は腸を突き、薙ぎ払う。

 

「ぎゃあああああ!?」

 

屋上手前に陣取っていた盗賊はこれで片付け終わった。

後は……。

 

「おやおや、覚者というのは本当に余程暇だと見える」

「別に、貴様ほどでもないさ、サロモ」

 

そう、サロモだけだ。

サロモは座ったままニヤニヤとこちらを見て言う。

 

「よく言う、ドラゴン討伐を放り出し、たかだか盗人を追いかけて点数稼ぎとはねぇ……」

「お前こそ、余程暇と見える。大した実力もないゴロツキ共を従えて御山の大将気取りか?オメデタイ奴だ」

 

売り言葉に買い言葉。

今だからはっきりと分かるが、俺はコイツととんでもなく性格の相性が悪いな。

目に入れただけでイラつきが止まらない。

 

「お宝を返して牢に投獄されるか、俺にぶっ殺されてお宝を取り返されるか、選ばせてやる」

「フ、フフフ……良いだろう、ならお前を殺してそのうちグラン・ソレンも我が手におさめてやる。この力があれば、覚者や領王程度恐ろしくもない!」

 

そう言って目を赤く輝かせて言ってのけるサロモ。

 

「俺こそが、魔導師…いや、最強の魔導具なのだ!!」

「はっ!貴様程度、ドレイクに比べれば雑魚中の雑魚だよ」

 

俺が言うと、奴はバカにしたように言う。

 

「ハ、弱い犬ほど良く吠える」

「ドレイク倒せて、雑魚魔導師一人殺すのに手間取るわけないだろう?」

 

互いに挑発の応酬はここまでと悟る。

 

「虚仮脅しをッ!」

「やれ!一気に攻め立てろ!!」

 

俺の言葉を皮切りに一気に戦いが始まる。

 

「ハハハ、どうした俺はこ…ぐぁ?!」

 

サロモが瞬間移動した。

だが、その次の瞬間にはマクミラン大尉に捕捉され、肩を弓で射抜かれていた。

サロモは相手の死角への転移からの奇襲戦術を機軸に考えていただけに、転移直後に既に居場所がばれていて、なおかつ自分が奇襲を受ける体になった事実を理解できず混乱した。

 

「ふぅむ、頭には当てれませんでしたか」

「ですが、その隙は大きい!ファイアーボール!!」

 

マリーの杖から複数の火球が放たれ、サロモを燃やす。

 

「ぎ、ぎやぁあああ!!」

「私も、もう少し働かなければいけないな!」

 

ドシュ、とファイターの長剣を突き刺し、その腸をぐりゅぐりゅと抉る。

 

「ぐ、ぐがぁあああああ!」

「きゃ」

 

ファイターを意外なほど力強く押しのけるとそれと同時に勢い良く剣が抜けた。

 

「けどまぁ、ここまでが織り込み済みなんだわ。じゃあな、サロモ」

 

一閃突きからの払い斬り。

鉄板とも言えるほど安定した一撃離脱はサロモの腕を見事きり飛ばした。

 

「ば、バカな、私が!私こそが最高の…!最強の……うわぁああああ!?」

 

腕を斬り飛ばされ、そして溜まりに溜まったダメージのせいでまともに立つ事が出来ないサロモは塔の屋上に吹く強風に煽られ、攻撃によるノックバックでどんどんと交代させられた事もあって屋上の淵に脚がかかり、そして落ちた。

俺は切り落とした奴の腕を拾い、

「下は岩肌ばかりの崖に荒波の海……彼の生存は絶望的でしょう」

「そして、奪われたお宝……竜王の指輪も無事に奪還。うん?あ、これ凄いな」

 

触れただけで効果が何となく頭の中に流れ込んでくる。

その効果は『詠唱時間(チャージタイム)の短縮』だ。

しかも持っているだけで効果があるので身につける必要は無い。

 

「これは……素直に返すのを躊躇っちまうな」

「では……アレですね」

「アレですな」

ニヤリと笑うマリー。

同じく笑う俺。

 

「「いざ、クズ物屋!!」」

 

久しぶりに徒歩で領都に戻る途中の街道、出会った兵士たちがコカトリスの死体を見つけたそうで、献上物にするぞ!と騒いでいたのを見かけた。

まったく傷のない不自然なコカトリスの死骸だったが、もしかすれば老衰なんかによる自然死なのかもしれないと思い、特に突っ込みは入れずに良かったな、とだけ告げておいた。

……あれ?そういやこの辺りってキメラは出てもコカトリスの生息域からはかなーり、だーいぶ離れていたような?

いや、そんな事よりもこっちの指輪もどうするか、考えなきゃな。

誰に渡そうかな?

 

 

 

数日後。

 

 

 

「おぉ、良くやってくれた」

 

オルダスに奪還した竜王の指輪を渡すと、彼は満足げに頷きそれを受け取る。

その後、警備体制の強化の話やなんやかんやと聞かされたが、俺から言えるのはただ一言。

 

「期待しています」

「勿論だとも期待していてくれ」

 

そんなやり取りが終わって、さぁどうしようかと言う所で伝令がやってきてオルダスに耳打ちをする。

 

「覚者ヨシュアよ、今すぐ峠の関所に向かってくれ。そこで何らかのトラブルが起きたようだ」

「峠の関所でトラブル?」

「何が起きたかは不明だ、だがここまで来た兵は負傷していたと言うことからなにやらきな臭いものがある。私自身も領王からお呼びがかかっている……何が起きても良いよう、万全の体制を整えるのを忘れるなよ?」

「……了解しました」

 

そうして数時間ほどかけて峠の関所まで向かったが……。

 

「傷を負った兵?その様な話は覚えがありませんが……ここは至って平穏です」

「なに?」

「何者かがでまかせをついたのでしょう。……急いで領都に戻った方がよろしいのでは?」

 

何者かが覚者殿を領都から引き剥がす為の罠だったのでは?と関所の兵のリーダー、ジェロームは言う。

 

「覚者殿!至急、オルダス様の元にお戻りください!!」

「どうした、なにがあった?」

「罠です、覚者殿が居なくなって少しした後、大型の……グリフィンとは違うモンスターが!」

「わかった。すぐに戻る!」

 

そう言って取り出したのは、もはや俺の愛用品と化した刹那の永久石を掲げ、領都グラン・ソレンへ戻る。

戻った直後、直ぐに理解したのは余りにも臭過ぎるコカトリスの独特な体臭だった。

まぁ、ぶっちゃけると夏場の鶏小屋が衛生状態最悪という感じの臭いだ。

とにかく、臭い。

黒呪島で何度も遭遇したにおいだからよく分かる。

 

「つまり、コカトリスか!」

「マスター、支援します、突っ込んでください!!」

 

そうして突撃して張り付いてダガーで切り刻んでいると、コカトリスはあっさりと……こちらが拍子抜けするほど呆気なく死んでしまった。

 

「あ、あれ?島で出てきたコカトリスはこの倍ぐらい強かった気がするんだがな」

「うぅーん、私達も勿論強くなっていると思いますが、なんだか拍子抜けですね」

「準備運動にもなりませんでしたね」

 

なんだか全員微妙な表情を浮かべつつ、オルダスの元に報告に戻ると、オルダスは大絶賛で俺を迎え入れた。

 

「話は聞いたぞ。戻りの礎からあっという間に戻ってきて、そのままコカトリスへ奇襲を仕掛け、瞬く間に倒してしまったのだと」

「えぇ、おおむね間違いではありません」

「領都への被害は農地部分が荒らされただけで、兵に被害こそ出ているもののそれはヨシュアが戻る前。あっという間に倒してくれたお陰で領都も献上物も……何より城に被害が出ずにすんだ。これはもはや伝説の再来といってもよいのだろうな!」

「えぇ、覚者殿のような凄まじいまでの戦いぶり、残念ながら私たち兵士程度では真似も出来そうにありません」

 

大いに持ち上げられつつも、落ち着いたオルダスが新たな任務があるが、コレを受けるとしばらくは領都に戻る事も出来ない、と言い出す。

 

「もしもやり残したことがあるのなら、先ずはそちらを片付けてくると良い」

「……では、そうさせていただきます。また、後日お会いいたしましょう」

「わかった。ではな」

 

 

城での用事を終え、一旦外に出ると、不意にマデリンとキナの事を思い出した。

 

「そうだ、久しぶりに様子でも見に行くかな」

 

先ずやってきたのはマデリンの店なのだが……。

居るのは見覚えのない女性だけだ。

 

「あれ、マデリンは居ないのか?」

「あんた、マデリンの知り合いかい?なんでもマデリンは何かやらかしたらしくて夜逃げするみたいにどこかに消えちまったって話だよ」

「……はい?」

 

何処に行ったんだろうと思いながら店のカウンターの上をみると、マデリンが使っていたと思われるダガーがそこにおいてあった。

 

「これはマデリン様のダガーですね。……武器も置いていってしまうほど慌てていたのでしょうか?」

「とりあえず、何処に居るのか気になるから聞き込みをしてみるか」

 

と言うわけで向かうのはアースミスの酒場だ。

普段人の往来と情報の往来が激しく、また俺の様な風来坊向けの仕事も掲示板に張り出されているこここそが、この領都で一番情報収集に向いた場所だろう。

と、言う訳で一番情報を持っていそうな人物に尋ねてみる事にした。

 

「マデリン?あぁ、あのすこし金にがめつい姉ちゃんか。金にはがめついがキチンとした商売をしていたから特に問題はなさそうだと思ったんだがな……何か不味い物に手を出して店を畳んで夜逃げ同然に逃げ出したそうだが……俺もそれ以上の事はしらねぇな。あぁ、一応、この辺りや職人街では見ていないからまだ歓楽街のどこかに身を隠している可能性もあるな。まぁ、あんたなら丁度よさそうな場所の一つ位は直ぐに思い浮かぶだろう?」

「……あぁ、言われてみると確かに。ちょっと見回ってみるよ。ありがとう」

「なぁに、普段アンタには散々依頼で世話になってるからな。サービスって奴さ」

 

そういう訳でマデリンの足跡を探して領都で隠れるのに最も適した場所、貧民区へ向かおうとした時に見覚えのある派手な金髪が見えた。

その直前にマデリンの行方を領都の兵士に尋ねられたが、まぁ改めて教えるほどの事柄でもないだろう、たぶん。

マデリンは貧民区をでて、水路沿いに領都を出て行ったのが見えている。

追うのなら、そこから追うべきだろう。

 

そうして領都の外に出ると少しした所でマデリンがうずくまっているのが見つかった。

 

「マデリン!」

「覚者…ううん、ヨシュア?」

「あぁ、俺だ。店に行ったけどお前がいなくて、んでもって周りに話を聞いて夜逃げしたなんて聞いてビックリしたぞ。一体何があったんだ?」

「私、何にも悪い事はしていないの!アレが何かって知らないで売っていたの……折角、苦労してお店を得て、色々やり始めることが出来ると思ってたのに……本当に、もう、最悪……どうしたら良いのか、判らないの……それに、お守りの短剣まで置いてきちゃって……せめて、アレだけでも……」

 

とんでもないぐらいの勢いで、今まで見せない弱気な表情と仕草を見せるマデリン。

なにかこう、ギャップ萌え的なものを感じて、グッと来た。

 

「落ち着いて、事情を話してみてくれないか?マデリンが金にがめつくても悪い事をするような奴じゃない事ぐらい、俺はわかっている。話してくれれば、何か解決策が思いつくかもしれない。あ、それとお前さんの短剣はここにある。見つけて渡そうと思って持ってきたんだ」

「うそ!本当、ありがとう!!もう大スキ!」

 

短剣を見せると本当に嬉しそうにそう言う。

 

「マデリン様、領都兵がこちらに向かってくる足音がします。どこかに隠れてください」

「!」

 

マリーに言われ即座に物陰に隠れるマデリン。

 

「覚者殿ー!」

 

そう言って現れた領都兵……って、さっきの奴かよ!

 

「ここまで探しに着たのか?」

「えぇ、例の女商人をこの辺りでは見かけませんでしたか?奴は『救済』の符丁となるものを売っていたと言うことで、『救済』の幹部となんらかの繋がりがあるという容疑で手配されているのです」

 

そう言われてふと思い出すのが、以前、マデリンが領都に着たばかりの頃に、ジュリアン卿に何かを売っていたな、と言うことだ。

あの時もマデリンは『コレが何なのかよくわからないけど~』というような事を言っていた気がする。

全部が全部信じられるわけじゃないが、だが、以前マデリンが熱く語った夢の事を思えば彼女が『救済』に関わってまで金を稼ごうとするとは思わない。

寧ろ『知らずに関わってしまった』が正解だろう。

 

「ふぅん?いや、この辺りでは見ていないな。あの女商人は目立つから見逃すとは思えない。こっちに来ると見せかけて別方向に逃げたんじゃないか?」

「むぅ……」

 

そうしてすっとぼけると、別の領都兵がやってきて、別の場所で目撃証言があったらしい。

 

「なんと!覚者殿、お手を煩わせて申し訳ない。急ぐので失礼します!」

 

そう言って兵は去っていった。

 

「ありがとう。助かったわ」

「いや、大した事はしてない」

「でも、覚者様に嘘をつかせちゃったわ」

「……気にするな、状況は何となく読めたよ。しかし、この後どうするんだ?」

「何もかも、全部なくなっちゃった。折角、カサディスからあなたと一緒に出てきて、そしてなんとかお店を持てたのに」

「……それで、諦められるのか?」

 

俺がそう問いかけると、マデリンは少し笑顔を見せる。

 

「本当に少しの間だけど、ここでお店を開く事が出来た。カサディスを出る前の時は何も無くて最悪だったわ……。でもそれでもあそこまでやってこれた」

「あぁ」

「だから、もう一度出直すわ……でも、一番問題なのはそこじゃないわ。もう、あなたに会えないかもしれないって事」

「はは、そう言ってもらえると男冥利に尽きるな」

 

俺はハハハと笑うとまでりんは少し言いづらそうに更に口を開く。

 

「それに、その……でなおすにしても、その、ね、何も今、ないのよ」

「あぁ……なるほど。言いたい事はわかった」

「その、ね。キチンと返すわ!今まで以上に稼いで、絶対にきっと、多分……」

「みなまで言うな。マデリンの商売の手腕に不安は持ってないよ。んじゃあ……新しいマデリンの門出にこのぐらい、投資させてもらおうか」

 

そう言って俺は自分の財布から割と多目の5万ほど取り出して予備の皮袋につめてマデリンに渡す。

 

「ありがとう!愛してるわ!!」

「おぉっとっと」

 

ぎゅっと正面から抱きしめられて、マデリンの自己主張の激しい山脈が俺の胸に押しつぶされる。

……じ、人生で一番のラッキースケベ!?

そうして、マデリンは腕を俺の後ろ首に回し、唇を俺の唇に合わせる。

 

「!」

「今はコレ位しかお礼が出来ないけど、きっとまた、ううん、前よりもっと稼いで見せるわ。それで、あなたにキチンとしたお礼をするわ。だから、その時まで覚者、ガンバってね!何をするのか良くわからないけど」

 

そう言ってマデリンは離れて、そして、少し行った所で振り向いて投げキッスをしてくる。

 

「おう、俺頑張るよ!商売、頑張れよー!!」

 

 

マデリンの歩み去る姿を見送っていると、俺はふと大事な事に気付いた。

 

「(前世を含めて)キスなんて、初めてだったけど、すんごいな」

 

なんて感慨に浸っていると……。

 

「……マスター、童貞を拗らせているのはわかりましたから、早く他の場所に移動しましょう。後、そのニヤケ面もどうにかしてください……不審者として職質されても、知りませんよ?」

 

 

 

 

そうして次にやってきたのは修道院。

何となく、次の領王の依頼は今まで以上に激戦だと予想できたので、キナの顔も絶対に見ておきたいと改めて思ったのだ。

 

「さて、キナは何処かな……ってあぁ、いたいた」

 

キナは修道院の庭で幾つもの花の前で祈る様な格好でじっとしていた。

 

「キナ!」

「ヨシュア、久しぶりね」

 

久しぶり、と手を振りながら歩み寄り、互いに再会を喜び合う。

 

「今やってたのは……修行か」

「えぇそうよ。長く話してもどうせ話半分だろうし、掻い摘んで言うと祝福の花って物を作っているの。なんでもこれを手渡された人に幸せな気持ちにしてくれるそうよ?」

「疑問系なのか?」

 

俺が問いかけるとキナは苦笑して言う。

なんでも花に祝福をかける修行らしい。

 

「自分では分からないし、周りで実際に受け渡しをしている人も見ていないから、実感がないのよ」

「そんなもんか?まぁ、幸せかどうかは分からんが……まぁ、なんだか和む気はするな」

「ふふ、ありがとう。実はちょっとお願いがあるのだけど……良いかしら?」

「幼馴染の頼みだからな。何だって言ってみろ」

「その言葉、甘えさせてもらうわ」

 

花が枯れる前に誰にでも良いからこの花束を渡し、その反応を見て欲しい、と言うことだった。

 

「ふぅん?まぁその位だったら任せておけ。時間がもったいないから早速行って来るよ」

「マスター、どうせですからここのシスター長、カサディスと領都の教会、これらを回ってこれの出来栄えを見てもらってはいかがでしょう?」

「あぁ、それ良いかも名案だ!んじゃ、キナ。遅くても二日三日以内には戻るからな!」

 

俺はそう言って早速キナに背を向けて駆け出した。

 

「あ……もう、相変わらずせっかち何だから」

 

そして3時間後。

 

「キナ、戻ったぞ!カサディスでも、領都でもどちらでも凄いって言ってたぞ!特に領都の司祭様は本気で驚いてたな。お呼ばれする日ももう遠くないってさ!」

「それって、私の能力が認められたって事なのかしら!これなら、大教会へ行ける日も遠くないわ。それで、大教会でドラゴンの事を調べて、あなたの力になれるわ!」

 

二人して喜び合い、その後にキナはこちらの近況を尋ねてきた。

キナと別れて以降、俺がやってきた事を簡単に話すとキナは驚いたように「まぁ」とか、「うそ」とか言ってくる。

 

「ヨシュアのやっていることって、領王様からの仕事っていうのは分かるけど、それ以上に物語の英雄みたいね。ううん、もう本当に英雄って言うべきなのかしら?」

「お、おいおい。今の段階でおだてられても何もでやしないぞ?……肉とか魚以外は」

「だって、考えても見てよ。サイクロプスなんて普通の人じゃ先ず勝てないし、キメラなんてもっての他、だというのにグリフィンやコカトリス、あのドラゴンよりも小さいけどドレイクを相手にポーンが居るとはいえ、たったの四人で挑んで、今まであなたは生き延びてきたのよ?嘘みたいな本当の話しって、こういうのを言うのね」

「嘘みたいなって、ヒドイな。お前だって冗談みたいに凄いスピードでみんなに認められてるじゃないか。普通、シスターの修行なんて何年もかける物をほんの1ヶ月ちょいでここまでとか……俺が言えた義理じゃないけど、才能って奴の高見を見せられる気分だよ」

 

お互いに笑いながら言い合う。

 

「ハハハ……はぁ、俺は英雄なんかよりも、カサディスのみんなと普通に釣りをしたり、猟をしたりして暮らせればそれで十分だったんだけどな」

「思えば、ドラゴンが現れたあの日、あなたが胸に大怪我を負わされたあの時から、全てが変わってしまったのかもしれないわね」

「さて、ね。俺は現状、何時どうなってもおかしくない体だ。だからこそ、ドラゴンを倒して安心したいのかもしれないな」

「……何のために?何が安心できないの?」

「何時死ぬのか分からない、何時ドラゴンがまた現れるかも分からない。それに加えて魔獣どもの暴れ様や『救済』の連中の無法ぶり、目に余りすぎて放って置けないんだよ」

「私は、そんなヨシュアの事が心配だわ。放っておけない、なんていって何時も何かしらに首を突っ込んでいるんだもの。何時、私の追いつけない場所に行ってしまうのか……本当に不安だわ」

 

そういうキナの目は言葉にした通り不安そうに見えた。

 

「……よし、決めた。キナ、コレを受け取ってくれ」

「え?何……こんな高価そうなもの、受け取って良いの?」

「あぁ、キナに受け取って欲しい。これは絆の指輪、信頼しあう者どおしの絆を確かに繋ぐ、ちょっとした魔法の指輪だ」

「……それって、まるで……」

「……んん、ゴホン。まぁ、とにかくだ。キナがそれを持っていてくれれば、きっと俺はこの世の果てだろうが、地獄の底だろうが、天上世界からだろうが戻ってくるよ。間違いない」

 

それは誓いでもある。

 

「キナが大教会にいったら、流石に俺もそこまで会いに行くのは難しい。だから、まぁそいつを俺だと思って持っていってくれ」

「わかったわ。ありがとう」

 

そんな話をしていると、シスター長に呼びかけられた。

どうやらキナではなく、俺に用事があるらしい。

 

「というわけなのです。お願いしてもよろしいでしょうか?」

「……わかりました。大事な幼馴染の為ですからね、そのぐらいお安い御用ですよ」

 

何を頼まれたかと言えば、先ほど大教会への紹介状が、領都の司祭から届き、キナの旅立ちの門出を祝する為に、旅のお守りを用意したいと言うことらしい。

それを頼まれれば、断ると言う選択肢は存在しない。

 

「わかりました、お任せください」

「旅のお守り……地下墓所にそれらしき物があった記憶があります。マスター、探してみましょう」

 

と言って、マリーの提案を呑んで地下墓所に向かったのだが……。

 

「なんで、キナがここに?」

「うふふ、シスターが良い人だって言うのは分かっていたし、あなたに何か頼むって事もわかっていたわ。だから少しだけ話を聞いて先回りしてみたの」

「それはまた……相変わらずだな」

「良いでしょう?それに、探検じみた感じだけど子供の頃みたいで面白いと思わない?」

「そうだな……それじゃあ、行こうか」

 

領都の直ぐ傍にある地下墓地への入り口、そこから始まるちょっとした探検は、既に一度、この辺りを踏破した覚えのある俺でも、何故かドキドキする。

やっぱり、キナが一緒だからだろうなぁ、と目に付いた毒蜘蛛を狩りながら思う。

 

「マスター、スペクターです!」

「奴には魔法しか聞きません」

 

ポーン達が油断しまくりの俺に警告を発する。

 

「キナ、魔法は使える?」

「えぇ、魔力弾は勿論、ヒーリングスポットやホーリーエンチャントが使えるわ」

「なら、俺にエンチャントをかけてくれ。丁度相手の弱点属性だし、一発で終わらせてやる」

 

そうしてキナがホーリーエンチャントを俺にかけ、俺は弓を引き気を込めて打ち出す。

シュパァン!という音を立ててあっさりと消滅するスペクター。

 

「すごい……弱点属性だからって本当に一発でやれちゃうのね」

「ま、それだけ俺もガンバって強くなった、と言うわけだ」

 

それから暫くしない内にほんの僅かな俺とキナの冒険は目的のものを見つけて終わりを告げた。

 

「それじゃあ、私は先に戻っているわね」

「あぁ、それじゃあ、また後でな」

 

ふぅ……と、溜息を一つ。

 

「お疲れ、と言うわけではなさそうですね?」

「体は元気だよ。大した怪我をしたわけじゃない」

 

ただ、少しだけ、草本の少しだけこの先の未来を考えて溜息をつきたくなっただけだ。

 

「では、どうされましたか?」

「……いや、なんでもない。気にしないでくれ。それよりも俺達も修道院へ向かおうか」

 

そうして戻った修道院でシスター長に旅のお守りを渡す。

 

その後、キナがやってきてシスター長が彼女の旅の門出を祝い、キナは受け入れてくれた事の礼と、目的の為とはいえ直ぐに出て行くような真似を謝罪した。

 

「私、頑張るわ。ドラゴンの事を調べるのは勿論、あなたの力になる為にいっぱい修行をしてくる」

「あぁ、期待してるよ。だけど無理はしなくても良いからな?それに……もしかしたら俺が張り切り過ぎて戻ってくる前に事を終わらせちまうかもしれない」

「ふふ、そうなったらそうなったで構わないわ。グランシスにはドラゴン以外にも多くの魔獣が居るから、その相手もあるでしょう?」

「あぁ、その通りだ。だから、力をつける事、知識を得る事は決して無駄じゃあないな」

 

俺達が話していると、何時の間にやらメイソンがやってくる。

 

「あ~……へへ、仲良くお話してるところ申し訳ないんですが、そろそろ出発したいんですが、いいですかい?」

「「あ」」

 

そんな訳で、名残惜しいがこれ以上引き止めるわけにも行かず、またキナの方でもこれ以上立ち止まると決心が鈍りそうだったのだろう。

最後は『いってきます』『いってらっしゃい』のやりとりで、終わった。

 

 

 

 

「……なんて感じだったんだよ、バルミロ」

「いや、君たちは本当、相変わらず仲が良いね」

 

夜更けのカサディスの砂浜。

俺とバルミロは久しく交わしてなかった酒盃を交えていた。

 

「俺はお前とも仲が良いつもりだぞ?勿論、キナもお前とは仲が良い幼馴染、そう思ってるはずだ」

「でも…あぁいや、やめよう、バカップルに砂糖吐かされるのはいい加減疲れた」

 

勘弁して欲しい、と呟くバルミロに俺は苦笑して。

 

「酷いな」

「酷くない。さて、そろそろ日の出だ。僕も旅立つとするよ」

 

言われて気づいたが、確かに水平線の向こうに日の光が見え始めていた。

 

「あぁ、お前はまだ見ぬ何かを求めて旅立つんだったな」

「うん。ヨシュアはこのグランシスを守る為に戦う、キナは大前提が君の為って来るけどドラゴンを始めとした人間の脅威に対抗する為の知恵と知識を求めて旅立ち、僕はまだ誰も知らない新世界を求めて旅立つ。みんながみんな、目標に向かって自分の戦いをするわけだ。其々が自分の為であり、みんなの為なんだ。これって、きっと凄く素敵なことだよな」

「あぁ、とはいえ、俺は自分の為が100%なんだけどな」

「あはは、いや、ヨシュアらしいよ。そのヨシュアらしさが人の為になるんだ、だから問題ない」

「はは、ありがとうよ、親友」

「どうって事はないさ、いつものことだしね。それじゃあ行ってくるよ」

「あぁ、幸運を祈る!」

 

最後に互の拳を合わせて少し格好を付け合う。

そうしてバルミロもまた、朝焼けの海へと旅立っていった。

 

「キナが旅立ち、バルミロもまた、旅立ったか」

「うぉ、村長、何時からそこにいたんだよ!?」

「カッカッカ、老人の朝は早いんでな」

「いや、返事になってないし」

 

ちょっとウンザリ気味に村長にツッコミを入れる。

 

「本当は、お前とキナ、どちらもこの村で静かに暮らせれば、それが一番幸せだろう、そう思っていた。なにせ、お前さんたちが好きあっておったのは、まぁこの村の者なら誰でも知っていたことだしな」

「……改めていわれると、こっぱずかしく感じるな」

「まだまだ青いな若造」

「青いからこそ、青春を満喫できるんだよ」

 

俺はそう言って立ち上がる。

 

「行くのか?」

「おう、行ってくるよ。次に戻ってくるのは……きっとドラゴンを倒した後ぐらいかな?」

「吠えおって、死ぬ位だったら情けなくても構わんから戻って来い。それと、覚えておけ『過ぎる野心は自らの心を殺す』……良いな?」

「ま、頭の片隅に覚えておくよ」

 

村長、アダロは俺にとっても爺さんで、色々と年の功だからか教わるものも多かった。

今言っていた言葉も、きっと何か意味があって今言ったのだろう。

 

「それじゃあ、いってきます」

「おう、無事に帰ってくるのだぞ」

 

 

 




と言うわけで、ヒロインはキナさんでした!
え、メルセデスはどうしたかって?
彼女はバルミロ共々途中退場する親友ポジです。
え、エリノア?
ぼくNTRってよくないとおもうんだー(棒読み)
ん、セレナ?
以前に何度も強調したじゃないか、彼女は妹ポジだと……。
ちなみにマデリンは特に考えていなかったです。
メルセデス同様に気の向くまま動かしたらああなりました。


今日のNG……?

「(また、戦士様にあいたいです……)」

あれ以来、領王にも放置されヨシュアも流石に会いに行くのは憚られて周囲は御付の侍女しかいない生活をするエリノア。
当然ながら、現状の生活に満足など出来るはずもなく……。

「やはり、(エドマンを)殺るしか……」

そうすれば、自分は解放されるし、戦士様(ヨシュア)はドラゴンを退治して領王になる。
すると、自分と結ばれる……というのは流石に無理かもしれないが、王の補佐として役立てる自信はある。
蝶よ花よと育てられた自覚はあるが、同時に実家に居た頃は将来の夫を立てる為のそれなりの帝王学を治めてもいたのだ。

「うん、いけますわ……たぶん」

エドマンに対しては既に見限っているともいえる。
なにせ、ただでさえ望んでいた輿入れでは無かったのに、その上で殺されかけたのだ。
しかも、あの時殺されかけてようやく分かったが、領王エドマンは『弱い』のだ。
だから余計に心が離れて、そして裏切ってしまった私をそれで居て尚許して見せた戦士様、覚者とも言われるヨシュアに心惹かれたのだ。

「しかし、あの方はかなり人が良さそうだからもう既に恋人がいるんじゃないかしら?……その時は本妻の他にも妾を持ってもらえば良いわね。うん、それで丸く収まりそうです」

こうしてエリノアは妄想混じりで日々時間をつぶしていた。
おの妄想が未来のグランシスに大きな影響を与えるとは、この時点では誰も思いもしなかった、と言う。
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