何だかんだとあったが、ようやく俺は穢れ山に侵入した。
穢れ山への侵入口からその先は、神殿がある…らしい。
穢れ山自体は俺も知っているが、神殿云々は実のところあまりよく知らない。
「今までの奴等とは段違いか…面倒な!」
「サキュバス、また来ます!」
サキュバスというと蝙蝠の翼を背中にはやした人間タイプを妄想するが、この世界においてはハーピーの亜種だ。
「マリー、ファイヤーボールで対処しろ!お前たちは俺とジオリザードの相手だ!」
「了解!」
ジオリザードはリザードマンの最強種とも言われている。
単純に言えば黒くてでかくて強い。
同じく、ここにはケルベロスなんて言う同様に黒くてでかい犬もいる。
3つ首ではなく、更に火を噴かないだけ大人しいと思いたい。
本来であれば苦戦しそうな強敵のラッシュなのだが、ここで黒呪島でえげつないモンスター共を相手に戦った経験があるお陰かそこまで辛くない。
寧ろあっちの方がキツイ。
何となくだが、今回ドラゴン斃せても、まだ黒呪島のデスは倒せない気がする。
殺意に関してはこっちよりもあっちの方が濃い、そんな気さえしてしまう程だった。
周辺に注意しながら進むと、マリーが新しい敵を見つけた。
「マスター、キメラの変種です!」
「他はいないな、一気に片を付けるぞ!」
キメラ系の敵で先ず倒すべきは何かと問われれば、俺は第一に尻尾の蛇だ。
あれは取り憑いて攻撃しようとすれば必ず邪魔してくる上に毒を持つ、厄介な敵なので早めに処理をするのが最適だ。
順番で言うとその次に山羊を狙いたい所だが、蛇を倒した後は割と流れだ。
大体蛇を倒すころには魔法の準備が終わっていてキメラが火だるまになってることが多い。
その場合、勝利も同然なので後は叩くだけだ。
今回出てきたキメラの変種もまた同じくそのようにして葬った。
「最早パターンが確定しているので焦らなければ大丈夫でしたね」
「そういう事だな、先を急ごう」
が、急ごうとしたところで仕掛け扉のスイッチ(人が乗って数秒待つ必要のあるタイプ)が幾つか設置してあり、それで少し出鼻をくじかれてしまったが、まぁ仕方ない。
感覚的にわかるのだけど、恐らくこの先直ぐの所でドラゴンが待っている、そしてキナもいる。
そんな確信があった。
仕掛け扉が開く、開かれた扉の向こう、階段を上り続け広い場所でドラゴンが待っていた。
「覚者よ……ここに来たのは何故だ?
ただ生きるだけなら、逃げ、隠れ、恐れを退けていればよい」
これはただ聞きたいという訳では無い俺自身の選択を振り返させているのかもしれない。
なんとなくだが、そう思った。
その最中に
3匹のゴブリンに囲まれ棍棒で小突かれながら追いやられている。
駆け出したくなるところを抑える。
「生きるとは、どういう事だ?」
ドラゴンは俺を見据えながら続ける。
「日々を足掻き、拠り所なきを信じ、子を成し、育て、祈りを捧げ……。
街を、城を築き上げ、命を紡ぐ。
ヒトは飽くことなく、それを繰り返す」
ドラゴンはゆっくりとこちらに身を乗り出し続けて口を開く。
「だがお前たちは、本当に望んでそうしているのか?」
ゴブリンは口々に叫ぶ。
腹が減れば食う
寝たい時に寝る
殺したい時に殺す
なるほど、本能直結だな。
「こいつらは分かりやすい。
ただ生きて、死を恐れるだけだ」
ゴブリン共がキナを追い詰めて転ばせ更に叩きのめそうとしたところで、ドラゴンが一喝し、ゴブリンは恐れを成して散り散りに逃げだした。
「だが、人はどうだ?」
キナが立ち上がり、ドラゴンがキナに迫る。
「滅びを求めるような事を言うかと思えば、死と破滅を体現した我に、立ち向かわんとする者もいる」
キナはこちらに向かって駆け出す。
「まぁいい、ヒトよ、覚者よ……お前が今生きる道の一つは……」
ドラゴンの言葉の途中だが、知った事ではない。
元よりこの道を選んだ時に俺の選択は済んでいる。
だから、体は全力で駆け出し、倒れこみそうなキナを抱き上げた。
「俺が選ぶ道はとっくに決まってる、キナ!!」
「ヨシュア!」
「俺が戦うのは俺自身の為だが、俺の望みは平穏なカサディスでの暮らしだ。
領王エドマンの様に生きる道でも、そもそも挑まずに終わる道でもない。
お前を倒す、俺は心臓を取り戻す、キナは生贄に捧げない、余計な物なんて何も要るものかよ!
お前を倒して、ドラゴンと覚者の因縁を終わらせる!」
「我と戦うか、賢い選択とは言えんぞ覚者よ。
だが、お前のその愚かしさは我にはよく分かる……分かっていた」
「そうだろうな、お前ならそうだろう。
だから、お前が見出した
ドラゴンは人の様にふっと笑う。
「最早問う必要もあるまい」
「キナ、長城砦まで逃げてくれ、俺はドラゴンと決着をつける」
ドラゴンの戦意が高まるのを感じた俺は直ぐにキナに逃げるように促す。
「わかったわ…ありがとう。
絶対勝ってね、ヨシュア」
キナが逃げ出すのと同時にドラゴンが動き出す。
同時に建物が崩れ始め、退路は断たれた。
「天井が落ちてきます、先ずは安全に戦える場所まで移動しましょう!」
「わかった!」
瓦礫とブレスを回避しつつ大きな通路の脇道に対比すると、ドラゴンは当然のように追ってくる。
俺は言疲れないようにと全力疾走で走り抜けるとまた大きな通路に出た。
そこまで来るとドラゴンは一度つっかえたのか頭だけ飛び出した状態で動きづらそうにしている。
「総攻撃!」
矢と魔法の総攻撃を仕掛けるが大した痛打は与えられていない。
だが、それでも少しは傷がついているのが分かる。
ドラゴンは一度頭を引き、体当たりで無理矢理壁を壊して通路に出てきた。
「覚者よ、我にその力を示してその目覚めを確かなるものとして見せろ!」
ドラゴンは言いながらも豪炎のブレスを吐く。
「我を斃し、新たなる一歩を刻んで見せよ!
運命?さだめ?これはそのようなものではない。
お前自身の戦いだ!!」
「当然だな、その為に俺は今日まで過ごしてきたのだから!!」
俺は魔導弓を引き絞り、光の矢をドラゴンに降り注がせる。
「お前に我を……滅びの運命を退ける力がなくば……焼かれ、散るのみだ!!」
「上等だ!」
幾らか光線を続けていると、ドラゴンもこの場所では戦いづらいと感じたのか場所を変えるために俺を無視して移動し始めた。
「来るがいい、覚者!」
そう言って、天井の穴から飛び出していった。
「ちっ、飛ぶのは卑怯だぞチクショウめ」
「追いかけましょう」
俺が愚痴るとすぐにマリーが追いかけようという、そうだな直ぐに追いかけるべきだ。
「いくぞ!」
直ぐ近くの外に通じる階段から出ると、長城砦の長城部分だった。
ここに出るのか、と妙な関心をしていると、直ぐにドラゴンの姿を発見した。
「覚者様すみません、少し遅れました」
そういうマリーの手にはガライモのしぼり汁の瓶が3つ、目敏いと言うか良く気付いたな。
ドラゴンがブレスを吐き、長城を破壊しながら攻撃してくるが俺はそれを避け、先に進む。
こういう砦ならば『アレ』は確実に用意されているはずだから、それを探して進む。
その先に監視塔があった、あそこならば確実にある。
何せここは『対ドラゴン施設』なのだから。
「見よ覚者よ」
「宝箱を開けますっ!」
……マリー、ドラゴンのセリフとかぶせんのやめようぜ。
「……人が築きし物の脆さを。
この城もかつては栄えていたものよ……力無き者が愚かな選択をするまでは」
その力無き者というのは古い時代の覚者の事だろうか?
螺旋階段を上り崩れた外壁から隣の塔が見える。
雇ったレンジャーのポーンが口を開く。
「この先に見える塔まで退き、塔で迎え撃ちましょう!」
「わかった、いくぞ!」
途中、ドラゴンが進路妨害をするが、股下を駆け抜けて隣の塔に辿り着く。
「ぜひゃー…、ぜひゃー…」
「ここまで来るだけで一苦労ですね、とは言えゆっくり進む余裕はありません、急ぎましょう」
ソーサラーのポーンが良き絶え絶えで、レンジャーも結構きつそうだが息を整えながら言う。
「そうだな、ゆっくりはしていられないか…みんな苦労を掛けるが気合を入れろ。
本番はこの後だ!」
屋上に辿り着くとポーンの一人がバリスタを見つけて取りつく。
「バリスタを用いて応戦しましょう!」
ドラゴンが直ぐにそれに気づき言う。
「さぁ、抗え!」
そう言って悠々と飛んで見せるが俺は舐めるなとばかりにバリスタにすぐに取り付き、タイミングドンピシャの一撃を奴の胸にくれてやった。
バリスタは見事に奴の胸を抉った。
奴はその一撃の仕返しとばかりに塔に体当たり同然のヘッドスライディング染みた行動で俺を食おうとするが、俺はそれを跳んで避け、奴の尻尾に掴みかかった。
以外にも首から背中にかけてとげが出ているお陰で奴の背中は掴みやすく、進む事は何とかできそうだ。
向こうは一瞬こちらを見失ったようだが、違和感から俺が取り付いた事にすぐに気付いた様だ。
「そこか!翼を持たぬものよ、地に戻れ!」
半島を高速で飛行し時に振り落とそうとするように捩るがこちらも落とされてなる物かとしがみつく。
「お前の命、お前の心臓はここに!」
奴の背中に光り輝く場所がある、その辺りに…?
必死に先に進む中、奴は急上昇を始める。
雲を突き進むが、それもまた俺にとっては障害と言えた。
「そう、お前には取り戻すべきものがある、お前自身の生、生命を脈打つ者。
それはここにある、我と共にある」
「くっそ、あと少し、あとちょっと……!」
背中の光る場所……俺はそこにダガーを走らせた。
「「ぐっ!?」」
その直後、胸の傷が脈動し光る、その痛みで踏ん張りが利かなくなり空に投げ出された。
必死に息を整えドラゴンを見つけると、奴は俺の下に回り、口を開けて一飲みにしようとしていた。
「お、おぉおぉぉぉぉお!」
何とか身をよじって回避し、ドラゴンとすれ違う瞬間、俺は自分の奪われた心臓の鼓動を感じ体を光が包んだ。
その瞬間、ドラゴンにも異変が生じた。
奴の心臓が胸元からむき出しになり、空中でいきなり失速して墜落して行ったのだ。
一方で俺は不思議な光に包まれ、ゆっくりと落着した。
ドラゴンはそれでも直ぐに起き上がり、戦う意思を見せた。
「最早引き返す事も叶わぬ。
我かお前か…滅びかそれとも生か」
もしかすると、今さっきの現象で奴の方も余裕を失ったのだろうか。
奴は目を赫ゝと光らせ吠えながら告げる。
「死力を尽くさねば何も得られぬ。
お前が始めたのはそういう戦いなのだ!」
「最初から分かっていたさ。
みんな、決着をつけるぞ!」
ドラゴンが爪牙を振るい、回避し、巻き込まれて吹き飛んだポーンを抱き起し。
隙を見ては魔弓を放ち光の矢を降らせ、追いすがる氷の矢を放つ。
マリーとソーサラーもまた隙を見ては隕石を落とし、氷の塊でうがち、気付けば吹っ飛ばされた。
レンジャーは果敢に心臓を狙ったが、指物ドラゴンもそれを嫌って翼や腕で防ぎ、払い、ブレスで吹き飛ばした。
「そうだ、武器を振るえ!それはお前の牙だ、お前の言葉だ!」
「なら、大声で言ってやるよ!そらぁ!!」
魔弓から放たれた氷の矢が次々と奴の心臓に直撃する。
「おぉ、痛みが!!
お前が我に与える痛みは嘗て我が生み出した痛みだ!」
奴は痛みにのたうつもすぐに体勢を立て直す。
「魂なきポーンを駆り立てるは、主たる覚者の気概の強さ……よくぞ練った、覚者よ!」
「しったことかよ!」
奴との戦いを通した対話は続く。
遠く離れた場所で火炎弾を放つ奴を回避しながら真木綿を放ち続ける。
「お前の始めたこの戦いが……これこそが世界の中心となるのだ。
時が巡るのだ、我とお前との戦いの周りを世界が巡るのだ、お前の歩みと共に」
「認めよう、今だけは俺とお前だけが世界の全てだ!」
ドラゴンは飛び、火を噴く。
「来い、全て出し尽くすのだ覚者よ!!」
「言われなくてもやってやる!!」
奴は再び魔弓で心臓を撃ち抜かれ、墜落するが再び体勢を整え、今度は口元に白く輝く光を集める。
「さぁ行くぞ覚者よ、お前が神に目覚めし者であれば全てを滅する炎さえ凌げよう!」
あ、そう言えば炎って究極的に白が一番熱いんだっけ?と前世知識が一瞬過る。
つまり、あのレベルの炎はヤバい。
「回避ッ!!」
掛け声一つで全員バラバラに移動し始める。
ブレスが放たれたが、これは何とか直撃を割けたが強烈な爆風がじりじりと肌を焼く。
「凌いで見せよ、お前が真に摂理に求められし者なら!」
「いってろ!!」
避け、時にダガーで心臓を狙い、魔弓を放ち、ブレスで薙ぎ払われ。
隙を見て心臓に更に氷の矢を放つ。
「そう、これだ。
覚えている……我はこの感覚を知っている。
これはお前自身が始めた事であったが、我が始めた事でもあったのだ」
奴は再び距離をとる。
「我を退ける力が及ばねば、世界が滅ぶ。
お前の選択の為に!
そう、お前が捧げる事を拒んだものもだ」
「世界の命運が一人に委ねられるとか冗談じゃないぞ!!
諦めるぐらいなら最初からお前に立ち向かう事などするものか!!
だから……これで終われええええ!!」
最後に一瞬姿勢を低くした奴の胸元をかまいたちの一閃にて引き裂くと、奴の心臓が破壊出来た感触を得た。
ドラゴンは胸元を抑えながら悲鳴を上げる。
勝った、そう思った瞬間、空が雲に覆われ暗くなった。
「あぁまったく……理屈に合わないものだ、生きるというのは」
大地が揺れる、地震?
いや、揺れ、続けている!?
「聞け、覚者よ。
お前は我を打ち倒す事で今一つの未来を選び取った。
それがお前にとって…世界にとってどんな意味を持つか…。
深奥を覗かば、其処に見えるだろう…」
大きな音が聞こえた。
振り返ると領都グラン・ソレンで大きな噴煙が巻き上がっていた。
「覚者よ、お前からの預かり物だ!」
ドラゴンの声に向き直ると胸に違和感が走る。
「今、お前の生命の主は正しくお前だ……。
お前はお前の為に命を使う事が出来る……忘れるな」
ドクン、と力強い鼓動と共に自分の元に心臓が返ってきたのが分かる。
ドラゴンは俺から視線を外し、空を見上げる様に見上げるとそのまま砂となって消えた。
ここに俺とドラゴンの戦いの終止符は打たれた……だが、本当に?
謎は残った、だが、今は喜ぼう。
これで、カサディスにキナと一緒に戻れる。
長城砦まで降りると、キナがそこで待っていた。
「ヨシュア!」
「キナ、勝ったぞ!」
抱きつかれ抱き返し、俺達はキスを交わすと周囲のポーンや兵士たちにヒューヒューとはやし立てられる。
ちょっと恥ずかしいがそれでも全員が勝利と静観を祝ってくれるのが心地よかった。
一通り騒ぎ終わって一人で焚火に当たって休んでいると、キナがやってきた。
俺とキナはそこで改めてキスを交わし、思いを通じ合わせた。
少し離れた所でポーン達が話していた。
「こうして二人は幸せなキスを交わしてハッピーエンド、となればよいのですが」
「少々不安は残りますが、我々ポーンの民は覚者様の判断に従いましょう。
マリー、引き続き覚者様のパートナーとして頑張ってください」
「言われるまでもありません。
私は覚者様と共に歩む
「ふむ、どうせならあなたも覚者様に抱きついてはどうです?
なんとなくですが、覚者様はチョロそうに見えますし」
「わ、私の信じる覚者様がチョロいとか、そんな事あるわけないじゃないですか(震え声)」
今日のNG
ドラゴンにキナを捧げるか否かのシーン。
「さぁ、選ぶがよい!」
ドラゴンがお前なら挑んでくるよな、という目で見ているが、俺はこれを選ばねばならんのだ!
「んじゃ、
「「は?」」
ドラゴンは失望したと言わんばかりの視線をよこし、俺は領王エドマンからその座を奪い取り、つまらぬ統治者生活を過ごす羽目になった。
「だって、
泣いても許されない罪が、其処にある……!