ラケル博士からブラッド隊全員に対し呼び出しがあった。
最後のメンバー、シエル・アランソンがフライヤに到着したので顔合わせを行いたいという事だった。
全員がラケル博士の執務室に揃い、軽い自己紹介を受ける事になった。
「ジュリウス隊長と同じく『マグノリア・コンパス』出身のシエル・アランソンです。
以後、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
それぞれがよろしくと返し、俺も同じく返していたのだが。
(……う~ん、いつも思うけどGEの女性って美少女、美女率高くない?いや、男子も美男子率たけーけどさ)
等とどうでも良い事を考えていた。
考えている間にラケル博士から薫陶を貰っていたが、残念な事に俺はそういうのは割と真面目な面で聞き流す性質なのだ。
「さて、メンバーもこれで7名全員が揃った。
これによって班を二つに分ける事も前提とし、副隊長を決めたいと思う」
ジュリウスはそう言って一同を見渡す。
「これは腕と人格を考慮して決めた結果……ヒロ、お前に任せる」
「ボク、ですか?」
ヒロは事前に聞いていなかったのかきょとんとしていた。
傍でロミオがギルと腕と人格が~と言う所をお互いなじりあっている。
一見するとアレだが、それでもまだ冗談で済む範囲だろうじゃれあいだ、とはいえ騒ぐのはという事でジュリウスが止める。
「あと、こう言っては何だがブラッド隊として『血の力』を発現した二人目の人間だからと言うのもある。
まぁ、気負う必要はない困った事があれば俺やヨシアキに相談すると良い」
「そういう事だ、一応俺も余所でそういう経験は積んだからな、何でも聞いてくれていいぞ」
ヒロは少し困った風にだが頷いて了承した。
「では、解散だ。この後ヒロとヨシアキはシエルとここに残って当面の訓練などの予定を組んで欲しい。……頼むぞ?」
最後の部分だけジュリウスは小さく俺に向けて行った。
何か懸念事項でもあるのだろうか?
ロミオ、ギル、ナナ、ジュリウス、そしてラケル博士が部屋を出るとシエルが各員の能力を考慮したスケジュールを提出したのだが…。
それを受け取ったヒロは「マジで?」と言わんばかりの表情で固まっている。
どうしたのかと思って俺にも見せてもらうと、なるほど
「シエル、キミの努力はありがたいがスケジュールがタイトすぎるな。
部隊運営の面から考えると、休息時間はこまめに、それなりに取った方が良い、それと睡眠時間もだな。
GEは兵士と違って有事の身戦闘に赴けばいい訳では無い、日常的に任務に出動する事になる……特に極東支部やブラッド隊はその傾向が大きくなるだろし、そうなればメンタル面も平常状態とは言い難くなる。
まぁ、その辺も含めて副隊長、詳細は詰めてもらって良いか?」
「うん、其処は任せて」
訓練に関しては別途二人で改めて詰めてもらうという事で、シエルは俺に対して質問を投げかけた。
「ヨシアキは偵察班を日着ていた経験があるそうですが、その際の連携や方針などはGEとはどう違ったのでしょうか?」
「基本は荒神に対しては常時スニーキングミッションをしていたようなもんだ。
戦力にはならない人間が最大限の成果を得るには正確な情報をGEに伝達し、自分たちはアラガミを誘導してGEに有利な状況を作るのも仕事だな。
で、一番大事なのは『命を大事に』っていう兎に角生存を重視した方針で、勿論必要に応じて命懸けの任務は行うけどな」
シエルは少し考えて言葉を返す。
「訓練等はどうでしょう?また平時におけるスケジュールなどは?」
「基本的に睡眠時間は6~7時間は確保するように徹底している。任務の無い平時は6時起床で7時までに朝食、8時までは自由時間で8時から12時まで訓練、12時から13時で昼食兼昼休みで13時からは訓練もしくは備品整備だな。
で、17時で終了して夕飯は18時、後は22時の消灯までは自由時間だな。
なお……」
聞いていて途中で微妙そうな顔をしたシエルに続けてアラガミの
「……極東が他支部と違った格別の扱いをされる理由の一端が良く判りました。
しかしそうなると訓練はどうしているのですか?」
「各自で実地で先輩から習う。
できなければ死ぬ、ミスれば仲間が死ぬ、だから皆何時も必死だぞ」
「「ひぇっ」」
ちょっと闇が噴き出てしまったが、あのころそれでもおれはがんばった!
極東支部は皆仲良しアットホームで素敵な職場です(嘘ではない、と言ったところだ。
極東支部の地獄っぷりを語るだけ語るとふらっと部屋を出て行った後、残されたヒロとシエルは一つ覚悟を決めた。
「もしかすると、極東支部に向かうまでの間だけは厳しめの訓練にした方が良いかもしれないね、出来れば短い時間で密度多目になる様に。
どうも『苦手だからやれません』じゃ済まない事になりそうだし」
「その様ですね、副隊長。ご協力のほどよろしくお願いします」
そうして出来上がったスケジュールは内容がひたすら濃い物が用意されたが、睡眠時間と休憩だけはきっちり確保された理想的なものだった。
ただし、ロミオとナナはかなり消耗してしまったが、映像資料として用意された極東の脅威を知って嫌とは言えず必死にならざるを得なかったのだった。
数日後、ブラッド隊一同がグレム局長の執務室に呼び出された。
どうにも要領を得ない呼び出しだったが、何となくだが顔合わせの場だったのだろうと察する、自己紹介なんかはしなかったが。
特にこちらから発言するでもなく、本当に顔を見せただけで退室を促されて外に出された。
というか、神機兵関連の話しか出ていないので、何だったんだろうな、と言う所だ。
九条と言う顔色の悪そうなヒョロガリ博士が居たが、彼は目の辺りにすごい隈が出来ていたが、睡眠時間とか諸々大丈夫だろうか?
というかラケル博士よ、現時点で極東支部行きって本気か?
聞いていた神機兵の評価だと不安しかないし、無茶を言うなぁ、グレム局長は却下してたけど。
「……なぁヨシアキ、神機兵ダメっぽそうじゃねぇか?」
「まぁ、こういったのってどうしても時間かかるもんだろうしな。
実用にはまだ時間が必要なのは間違いないだろうなぁ……」
思わず肩を落とす俺を見てまぁ元気出せ、とギルが言う。
「とはいえ、その予算をもう少し他に回してほしい気もするんだがな」
ギルも元々低人数で運営していたグラスゴー支部の所属だ、人員増加の方ももっと本腰いれろと言いたいのが本音だろう。
とはいえ、GEは人間の側が神機と適合因子の両方がマッチ出来なければ人員が増やせないので、其処は仕方ない面もある。
その辺り、諸々含めてしゃーないと飲み込み俺達は通常任務を受けて出撃した。
更に数日後、今度はジュリウス、ヒロ、シエルの3人がグレム局長の所に呼び出しされていた。
戻ってきてすぐに次のミッションに向けたブリーフィングがあったのだが、其処で俺は思わず眉根を寄せて言ってしまった。
「え、まともな運用試験もしていないのに極東で運用試験するって正気ですか?」
「シ、シミュレーションは完璧だから、後は実地運用が……いきなり多数と戦わせず、先ずは1対1で戦わせて最低限戦えることを実証したいのです」
その言葉を聞き思わずそれがどれだけ負担か理解できているメンバーは頭を抱えた。
3メートルほどの巨体を持つそれをできるだけ損傷させないように護衛しろ、と言うオーダーも出ている。
「実地試験の必要性は理解するが、だからと言って極東方面で行うのは自殺行為だ。
こちらと比べてアラガミの発生頻度、群れの密度、そして同種であっても向こうの方が危険度は高いんだ。
他で大丈夫だとしても極東では苦戦するというGEだって多くいるんですが……。
向こうのアラガミのデータでシミュレーションは行っているんですか?」
「いえ、それは……」
九条博士は俺の問いに挙動不審になる、つまり検討できていないのだろう。
その九条博士の態度に事態を把握できていなかったナナまでヤバいと感じ始める。
「ジュリウス、博士達には申し訳ないけどトラブルが起きるのを前提に行動するべきだと思う。
それに赤い雨の事もあるし、本当の最悪の場合も備えた方が良い」
「……そうだな。副隊長の言う通りだが、さて、どう対策するか」
結局、具体的な両案は誰も出せず、せめてもの対処として対赤い雨用のレインコートを用意しておくぐらいだった。
そしてミッション当日。
神機兵の護衛としてアラガミの露払いを行うべく各員が投入されたが、メインの護衛はヒロ、ロミオ、ギル、ナナ、シエルの5人で俺は輸送車両の護衛、ジュリウスはフライアからの指揮兼予備戦力として残された。
「おうおう、みんな順調に戦っているな」
『ヨシアキさん、護衛車両からやや離れた所にアラガミ接近中です、撃破してください』
「任されよってね」
珍しく、というか初めて狙撃銃を装備させた神機を構えながらスコープ越しに索敵を行い、即座に狙撃し撃退する。
『オウガテイル3、あっという間に撃破ですね』
「中型種だとこうはいかないけどね……フラン、前線メンバーに警告、『赤乱雲』だ」
『了解です。皆さん、積乱雲が迫っています!』
『ブラッド各員、即時撤退!』
フランの警告とジュリウスの命令を発するとまずシエルを覗いたメンバーからほぼ同時に返事が返る。
『こちらヒロ、了解です』
『はいはーい、了解だよー』
『おっけー』
『わかった直ぐに下がる』
だが、シエルのみ了承を返せなかった。
『こちら、神器兵がまだ戦闘中です、即時下がれそうにありません』
シエルから少し焦った様子の返事が返る。
『神器兵、背部損傷!動きが止まりました!
アラガミを撃退します!』
『シエル、撤退はできるか?』
『残念ですが……もう、間に合いそうにありません、降り始めました』
ジュリウスは何とかシエルを撤退させようと手をうとうとするが、そこでグレム局長が待ったをかけてシエルに任務続行、つまり神機兵の死守を命じた。
「グレム局長、神器兵の登場許可出してもらえませんか?」
『何?話にならんな!何のメリットもない!!』
「多少の実績は付くじゃないですか、GEでは対処できない中で活動可能な赤い雨の中を唯一動かせる戦力、それこそが神機兵である、と。
有人型は搭乗者の負荷が大きいのは伺っていますが、輸送車両が付いて回収するまでの短い間、30分もいりません、どうです?
それにブラッド隊メンバーとて選抜は難しい、また補充するとなれば何時補充できるか分からんのです」
俺の言葉に一瞬グレム局長は考えるその間に事態は動いた。
『あー……その、副隊長が、神機兵に乗ってっちゃった』
グレム局長が無線機の向こうで騒いでいるがもう、これどうしたもんかね。
『やってくれるな、副隊長は……ヨシアキ、二人の回収を頼む』
「……しゃあない、輸送車両を神機兵ベータの元に向かわせる。
周辺を掃討しておいてよかったよ、本気で」
その後、二人と神機兵を回収し、フライヤに帰還したが、当然というべきか神機兵無断使用を咎められてヒロと責任者であるジュリウスは懲罰房に入れられてしまう。
それに反応してロミオとナナが不満を発し、それらを取りまとめたシエルが嘆願書を連発した。
「ヨシアキ、協力を要請します」
「あん?ヒロとジュリウスの事だろう?
そっちに関しては俺の方でも動いているぞ、主にレア博士経由で」
そう、俺の方でも動いているのだ、実は。
「以前にレア博士と神機兵に関して話をする機会があってな、友人の際は操縦の追従性能を少し落としてでも負荷を軽くするって方針がつい最近とられてたんだがあのヒロが使用した神機兵もその方向に回収済みで有益なデータが取れた、ひいては有人制御における追加テストをって話だな」
「え、そんな話が合ったのですか?」
シエルは随分と驚いている様だ。
「実際、ヒロにかかった負担はモニタリングした限りでは従来の半分程度で済んでるそうだ。
今回のデータを基に発展させていくってレア博士は息巻いてたよ、偶然とはいえ立役者となったヒロは今後も比較検討データを取る上でも是非とも…なんて話に持っていくそうだよ。
……まぁ、勿論嘆願書の方にも参加するから、ほら、もう書いてあるから持って行ってくれ」
そう言ってシエルに書類を渡すと、一読したシエルは少し驚いた様子で俺を見る。
「正式な書式で随分と見やすく書いてありますね」
「まぁね、これでも人を率いる身だったから書類仕事だって当然覚えたさ」
シエルは改めて内容を確認し、十分と判断したのかありがとうございます、と言って去っていった。
後日、シエルがなんか急に『血の力』に目覚めたらしい。
原因はヒロの持つ『喚起』の力で、ゲームっぽく言えば信頼度が高い状態で感情大爆発すれば発現させる可能性があるとか。
「物語の主人公みたいな事してるな、アイツ……極東にもそれっぽい奴ら居たけど」
ロミオは俺もパパっと目覚めさせて欲しい、みたいなことを言っていたがあの調子じゃ多分目覚めるのは当分先だろうなと思うのだった。