「それがお前のポーンか?」
外に出ようとした時、大剣を背負った一人の男が入り口に立っており、そいつが話しかけてきた。
視線では俺が呼び出した専従のポーン……マリーを見ている。
名前が何で分かるかって?
先程リムに触れたとき、何となく浮かんだんだよ。
「わかるか?」
「あぁ。普通の兵士同士でもポーンでも同じだがそいつらとの共闘は互いの呼吸を合わせることが重要だ。私なら、実戦前に訓練でコツを掴む事を勧めるがな」
連携の訓練は確かに大切だろう。
先程もサイクロプスにかまけてゴブリンにやられそうになったのは記憶に新しい。
ふむ、と頷くと男は納得したように言葉を続ける。
「当然その気はあるだろう?では付いて来い」
「じゃあ行こう。マリー、ルーク、付いてきてくれ」
そうして辿りついたのは訓練で使われている区画、のようだった。
「私の名前はバーン。我が徴募隊は意欲ある若者の挑戦を拒みはしない。さぁ、はじめようか」
「わかりました。よろしくお願いします」
俺が言うと男は腕を組んで言う。
「はじめに言っておく。私は、誰が相手であろうが厳しくやるからな」
「望む所です」
微妙に敬語になってしまうのは……相手が年上だからとか目上の相手だから、だろうなぁ。
「これより3つの訓練を課す。気を抜かず、良い成績を目指して挑んでくれ。訓練ごとに求められる能力は異なる。腕前だけではなく、戦略も必要となるぞ」
「戦略……」
戦闘における方針、のような物だったか?
戦術だと確か戦略を達成する為の手段、とかそっち方面だったか?
正直なところ、前世ではそこまでキチンと勉強したわけで無し、詳細を覚えてないな。
現世では最低限の読み書きと計算が出来れば十分優秀扱いだったし。
「行き詰ったら、メンバーを増やすなりパーティ構成を見直すなりすると良い。幸いここ…宿営地にはポーンたちも集まっている。彼らと協力して、訓練をこなすのだ」
「わかりました」
とはいえ、急増のパーティで連携もくそもないのでは?
と思ったがふとカサディスの村長の言葉を思い出す。
意思が薄く、積極的に何かしようとする訳ではない…だったか?
後は割りと従順だとか?
まぁ、そういう奴らなら文字通り兵士(ポーン)として優秀か。
何せ、指揮官の指示に人間の兵士以上にキッチリと従うのだし。
そうして訓練は始まった。
最初の訓練は荷物運びだ。
「よし、いくぞ!マリーは右の方から、ルークは左の方から頼むぞ!俺は奥のから手をつける!」
「「了解しました!」」
ポーンは思った以上に俺の指示に従順に応え、すぐさま指示通りに分かれて行動した。
そのお陰かたいした苦労も無く荷物運びは終了した。
その後の案山子の破壊訓練二つも、メイジであるマリーとルークの援護がしっかりと決まりこちらもあっさりと終わりを迎える。
「やりました!」
「力を合わせた結果です」
「二人とも、良くやってくれた」
マリー、ルークの言葉に二人のお陰だと返事を返すと誇らしげな表情をした。
「むぅ…なんという速さ、これは驚きだ。ここ一番で決められる腕前、流石と言うべきか」
バーンは喜色を浮かべ拍手で持って俺達を迎えた。
「ふむ、いいだろう!訓練項目は全て達成された」
「パーティでの連携の大切さが理解できたか?。言うまでもなく、大丈夫そうだな」
「はい、お陰で理解できたと思います」
「後は実戦で経験を積んでいくだけだ。困ったらパーティ構成を見直す…忘れるな」
「はい、ありがとうございました」
「構わん。近頃は功名心ばかりで実力の伴わぬ者ばかりだからな。いざ訓練となると、みな音を上げて早々に逃げ去っていく…。要は暴れたい、日ごろの不満を解消したい…そんな程度の心構えだからだ。そんな気概では、何も守れぬと言うのに…、嘆かわしい。すまない、愚痴になったな、もう行っていいぞ」
バーンの愚痴だが、逃げ出す者の気持ちもまぁわからないでもない。
簡単に兵士として認められ、兵士になりドラゴン出現前の魔物程度と戦うのならその程度の気概の物でもできたかもしれない。
だが、本当の意味で何かを守る為に戦うと言うのならその程度の危害では物足りず、更に言えば現状の魔物や野生動物さえも凶暴化しておりその程度の人間では無駄に死者が増えるだけだろう。
訓練所を出た後、訓練所脇に掲示板があるのを見つけた。
掲示板には色々な情報が載せられており、俺に一番関係することと言えば……。
「金策、かな。何か依頼はないもんだろうか?」
すると幾つかの宿営地に居る人間の修練の為に出したであろう依頼や、討伐依頼が複数見つかった。
「直近でどうにかなりそうなのは海鳥とオオカミのくらいか?」
とりあえず、受けておくか。
それとどうせだ、一度カサディスに戻って徴募隊に参加すると言うこともキチンと説明しておくか、主にキナに。
何だかんだで結構勢いで動いているから、何も言わずに出てきてるんだよな。
宿営地に何時の間にか居た行商人のレイナードから自分とマリーの分の武具を購入し、準備は万全。
「さて、カサディスに一度向かうぞ、二人とも」
そうしてカサディスに戻ると村の門を潜ると一人の背の小さい、深紅のローブを着た男に話しかけられた。
男は竜と覚者の関係に関して知っているようだったが、要点を掻い摘めば、竜に挑むのは覚者となったものの業だが、竜に抗う事は無駄で、覚者のその殆どが竜に見えることなく滅んでいると言うことだった。
序に言えば、徴募隊など無意味でポーンが曖昧な存在だとか。
ローブの男は意味深ににやりと笑い、そして去っていった。
「まぁだからと言って、無視するわけにもいかんだろ」
俺には既にメインクエストの前提条件として竜退治が課せられているんだ。
転生前に聞いた話を考えれば、それが出来なければ死亡フラグ確定、と言うわけだ。
いや、現状で既に死亡フラグは幾つも経っているけど、まだ回避可能だろう。多分。
そう思っていると門の近くにある枯れ井戸の付近に居る兵士が困った表情をしているのを見つけた。
気になったのでどうかしたのか、と話しかけてみると…。
「面目ない!余りにドラゴンが恐ろしくて、この井戸に隠れていたんだ……」
「そういえば、あの時のドラゴン騒ぎで居なくなった兵士が居ると聞いてたけど、あんたの事か」
ジトっとした目で見てやると男は居心地悪そうにして話題を若干ずらそうとする。
「あー…えっと、この際だから伝えておこう。井戸の奥には気を付けた方が良いぞ。私は臆病が幸いして、余り奥には進まなかったからなんとも無かったが…なにやら深部から唸り声や水音が聞こえて来るんだ。これは何か居る…私のカンがそう告げているんだ」
「ふぅん?気になるな…井戸、調査して見るか」
俺がそういうと、兵士はオーバーアクションで「なんと言う豪傑!」と驚いた。
「いや、コレ位出来なきゃ竜退治なんて無理だろう」
「とんでもない志を持っているのだな…それならこいつを持っていくといい、まだ少しは使えるはずだ」
そう言って渡されたのはランタンだ。
ランタンはコレで意外と金が掛かる物でもらえるのは割とうれしい。
「ありがとう」
「お前の勇気は忘れない、死ぬなよ!」
……そんなに危険な場所なのか?
少しびびった俺は直ぐ近くにあったリムに触れ、ポーンを呼び出す。
脳裏に幾人かのポーンが浮かんだが、選んだのは…マリーとルーク同様にメイジのポーンだ。
何故メイジかと言えば至極簡単だ。
メイジの魔法攻撃は、凄く強力だから、以上。
無論、これから先は3人全員メイジとか言語道断の場面もあるだろうが、今はコレで十分やっていけるだろう。
そう思っていたんだけど……
「ネズミとかコウモリとか、妙に強くなりすぎてねぇか?一噛みされただけで服が食い千切られてんだけど。つか足の肉、普通に抉られて重傷だったし……」
「……ドラゴンの影響なのでしょうか?それにしては異常です」
ルークのヒーリングスポットを受けつつ言うと。
マリーがそう言いつつヒーリングスポットで癒しをかける。
その時、ふと思い出すのは転生前の転生条件の一つ、『通常よりも人生の難易度がハード』という項目だ。
転生前の事は何故か今でも鮮明に覚えている。
多分、これも転生ボーナスの範疇なのだろう。
ともかく内容は確か……。
『常人よりもトラブルの遭遇率が高くなり、死亡率、負傷率が大幅に上がったりする。
また、生まれ変わる世界は前世の世界とは異なり、神の干渉が容易い人間の創作した物語の世界となる』
だった筈。
そう考えると、もしかしてその影響だろうか?
いや、ココまで来るともしかし無くてもその影響だろう。
「覚者様、この先にリザードマンが居りますが…如何なさいますか?」
「……今回はコレで撤退だ。態勢を立て直して絡もう一度挑むとしよう。宿に向かうぞ」
それだけ言うと俺は撤退を開始した。
幾ら転生が可能だからとはいえ、今ある人生そのものは一度きりなのだし無駄に命を散らす心算はない。
「とりあえず、キナに会いに行くかな」
今はとりあえず後回しにしていた幼馴染に挨拶に行くという事を行う事にした。
今日のNG 無謀と勇敢の違い
ネズミとコウモリがいように強いのは理解したが、それでも何とかなるというのも理解したので、ポールがリザードマンを発見したという報告を聞いて、引くか戦うか、改めて考えた末に戦う事に決めた。
「行くぞ!ポール支援を頼む!」
「わかりました、ファイアギフト……!」
ファイアギフトの支援を受け、即座に弓に矢を番えて連射を行い、目に見えるリザードマンに攻撃を開始する、が余り攻撃が通っているようには見えなかった。
「だが、全く利いていないわけでもない。一気に畳み掛けろ!」
指示を出した直後、崖下に居たリザードマンが飛び上がってきた。
「接近戦、どれほど通じるか試させてもらう!」
そうして挑みかかったのだが、リザードマンはあざ笑うように鼻を鳴らすと、強靭な尻尾を力強く振るい、俺はそれに弾かれ岩壁に頭からぶつかり、そのまま力尽きて倒れた。
その後、覚者とそのポーンたちの姿を見た物は、誰も居ない。