パブロスの宿でポーン達と共に休んだ翌日。
今後は念には念を入れなければならないと考え、エステラの店で道中で入手した要らない食料品や道具を売り払い、毒矢や油矢などを100本ずつ購入する。
「あんた、どっかに戦争でも行くのかい?兵士さんだってそんなに重武装じゃないよ」
「んー、リザードマンが居るからそれにちょいとカチコミをかけようかなって。だからコレ位なきゃ勝てないでしょ」
「リザードマン?この近くに出たって言うのかい!?」
「多分、はぐれかなんかだと思うけど……村の門の近くに枯れ井戸あるだろう?あそこの奥に住み着いてるみたいでさ、一応、俺が何とかできないかやってみる感じ」
「そうかい、アンタなら、きっと何とかできると信じてるよ!」
「ありがと」
エスラスはそう言って俺を応援してくれたが、商品の値引きまではしてくれなかった。
それはそれ、これはこれ、らしい。
「んじゃ、俺はちょっとキナに、幼馴染に顔見せてくるからみんなはその辺散歩しててくれ」
『わかりました』
異口同音に応えられると、なんだかビビッてしまうがまぁいいか。
まだ朝も早いので、キナはきっと自宅に居るだろうと考え、キナの家、村長に家に向かう。
「キナ、いるかー?」
「こっちよヨシュア」
……何故だろう、凄く久しぶりに名前を呼ばれた気がした。
俺の名前はヨシュア、カサディスのヨシュア。
現世では普通の村人に苗字など無いので村の名前が苗字のような物だ。
「よ、食事中だった?」
「いえ、これからだったのだけど、あなたも食べていく?」
「んじゃ、水だけ貰っていいか?」
「えぇ、どうぞ」
そうして話をしていくとやはりどうしても村のことが話題になる。
「そう、避難していた人たち戻ってきているのね、良かった…!」
「あぁ、なんでもどんなに離れても最後には此処に戻ってきてしまう、だってさ。郷土愛ってヤツかな?」
「ふふ、かもしれないわね」
俺がそういう時名は笑って応える。
すると、ふと心配事でもあるのか少し不安そうな顔をのぞかせて尋ねられた。
「そういえば、傷は大丈夫?」
「あぁ、そこは問題ない。相変わらず心臓の鼓動は聞こえないけど……取り敢えず生きてるよ。大丈夫だ」
「……村長は、あなたが村を出る気じゃないかと心配してるけど…。ドラゴンに付けられた傷、あれで、何かが変わってしまった気がするの」
その言葉にドキリとする。
確かに、アレが全ての始まりだ。
俺が現れてメインクエストが発生し、そして俺はドラゴンと戦う事を決めたのだし。
「もし、あなたが村を出る事になるのだとしたら、きっとそのせいね」
「……かも、しれないかな?」
ちょっとしんみりとした空気が流れそうなところでキナが話題を変えてきた。
「ベニータに聞いたわ、お花、摘んで着てくれたのね。みんなの為に…ありがとう」
「俺もカサディスの人間だからな、コレ位当たり前だろ」
「ふふ、そのあなたの当たり前がうれしいわ」
そんな感じで幼馴染との心温まる会話を終えて俺は再び枯れ井戸の奥へと挑んだ。
枯れ井戸から通じる先は以前は余り気にしていなかったが鍾乳洞に繋がっており、
今回は油矢も毒矢たっぷり持った上に、先に雇ったメイジのポーンを外し前衛のポーンも加えての行軍だ。
負ける心算はない。
ルークがファイアギフトをかけた弓矢で先制攻撃とばかりに油矢の連ね射ちを二度繰り返し、先ずは崖から見える壁にへばりついた一体のリザードマンを火炙りにする。
続いて、今度は普通に油矢を数度放ち、崖下のリザードマンを火炙りにする。
コレだけとは思えないが後は接近戦で削るべきだろう。
「リザードマンの尻尾を切れば弱体化を狙えます!」
「わかった、尻尾だな!」
その弱点にもなる尻尾だが短剣では何度もしつこく攻撃して漸く切れる具合なので、本気で苦労する。
しかしそれでもポーン二人のファイアボールがあったお陰で通常攻撃よりもダメージがしっかりと通り、何とか倒す事に成功するが。
「敵の増援です!」
「マジかよ!?」
続いて現れたのは……4体だ。
軽く絶望しかけたが、此処で諦める訳には行かないだろう。
「火炙りにしてやる!!」
その後、何度もひやりとする場面があったが、ギリギリのところで何とか勝利をもぎ取ることが出来た。
「さすが覚者様です、遠距離戦のみならず近距離戦も行ったにも関わらず無傷ですむとは」
「まぁ、命がけだからな」
人生がHARDモードであるという自覚を持った瞬間から、一撃でも喰らうわけには行かないノーミスプレイとでも言うべきものを心がけている。
勿論完璧なノーミスなどありえない。
実際にネズミやコウモリの噛み付きを受けて重傷を負ったのだから。
故にポーン達との連携を何より重視しながらの戦闘でうまく立ち回る事に磨きが掛かったと言える。
その後、リザードマンの居た場所から更に奥に進めることが分かり、全員がそれほど負傷を負ってないことから更に先に進む事に決めた。
ルークが一度報告に戻ってはどうかと問いかけたが、好奇心に負けたとも言う。
この先に何があるかわからない未知への好奇心、それは不安や恐怖も伴うがそれに勝る物だった。
そして途中で閂(かんぬき)の掛かった鉄格子の扉があり、更にその奥にはお宝……沢山の金貨袋が収められた部屋があった。
そこには食料や水、油があることから何者かがそこに住んでいる事を示して居た……のだが、毒蜘蛛だらけでとてもじゃないが住みづらそうな場所だと思えた。
或いは盗賊のアジトの一つとしてはありだとも思える。
そこで取り敢えず金貨と食料などあるだけかっぱらい、その後、奥に外に通じる外の光が差し込む扉を見つけたのでそこから外に出る。
外に出ると、思いの他街道……マナミア街道の直ぐ傍であり、歩いた距離を考えると枯れ井戸から鍾乳洞を経由してくるとかなりショートカットになる、かも知れないと思えた。
そんな事を考えつつ、再び鍾乳洞を経由してカサディスへと戻り、枯れ井戸前で立っていた兵士に井戸の奥のリザードマンを殲滅した事を伝える。
「そんな事になっていたのか!いやぁ、もしこのまま放置していたらと考えれば私の臆病が村を救ったといっても過言とはいえないな!とはいえ何はともあれご苦労!!」
「ま、村の為でしたからね。礼を言われることじゃないです。今後も何かあったら教えてください」
「おう、頼むぞ、若いの!」
とはいえ、アンタ本業なんだからもっと気張れよ…とは思っても言わなかった。
下手をして死なれても困るからだ。
そんな事を考えながら再び宿に戻る。
するとパブロスに何事かを相談している巨大なリュックを背負った金髪の女が居た。
パブロスは少々困った表情をして居たが俺を見るとあいつに頼んでみると良い、と言ってきた。
「あら…私、あなた知ってる。ドラゴンを追っ払ったってって聞いたわ」
あってるわよね?という感じに目で訪ねるので取り敢えず頷く。
「私、分かる?時々ココに仕入れに来てた行商人、マデリンよ」
「あぁ、そういえば何度か見かけた覚えがあるな」
「えぇ、多分あったこともあったと思うけど、コレでもう忘れないわよね?行商人はいっぱい居るけど、美人の行商人はそんなに居ないでしょ?」
そう言って笑う彼女は確かに美人で、更に自分の美貌を生かすためか大きく胸元の開いたオレンジの目立つドレスのような旅装束を纏っていてかなり印象的だ。
「そうだな。うん、忘れられそうにない」
「うん、まぁそれは良いんだけど…困ってるのよ私。最悪なの、泣きそうなの、途方にくれてるの」
少々演技がかった台詞だが、困っていると言うのは本当のような気がした。
「それで、誰か助けてくれないかなって思ってたらあなたが来たの。おれって、運命よね?」
「まぁ、そうかな?」
少しばかり曖昧に肯定したが、彼女は肯定された事を喜んで言葉を続ける。
「でしょ!だって私ピンときたもん。あなたこそが私を救う人…ううん、きっと世界を救う人に違いない、ってね」
「はは、大袈裟だな」
「うん、まぁ、そんなワケでさっそく出かけましょ?村を出て、まっすぐのところに宿営地ってのがあるのは知ってるよね」
「あぁ、知ってる」
「私、あそこまで行きたいんだけど、ほら、今ちょっと物騒でしょ?そこであなたの出番ってワケ」
「なるほど、宿営地までの護衛か」
「そういうこと、頼めるかしら?」
「……いいよ、引き受けよう」
こうして俺はマデリンの宿営地までの護衛を引き受ける事になった。
宿営地までそれほど遠くなく、ポーンが3人も居る為リラックスした調子で話しながら歩みを進める。
「ねぇドラゴンを追い払うのってどうやったの?」
「無我夢中で剣を振るったよ。正直、今生きてるのも奇跡だと思う」
「へぇ……私、都に出て大きく商売をしようと思ってたらドラゴンが来ちゃったのよね……ついてないわ」
「そりゃついてなかったな、ドンマイ」
「ね、ドラゴン倒せるんだったらあなたも都に言って自分を売り込んでみるのはどう?」
「そうだな、それも悪くは無いかな?」
「でも、今は都へ通じる峠道が閉じられてるのよね。ドラゴンのせいで魔物が現れる上に凶暴過ぎて危ないからって」
「そうなのか?それは知らなかったな……何時開くのかは?」
「宿営地に行くのはそこの隊長さんに峠道の関所が何時開くのか、聞いてみようと思って」
「なるほど?」
「まぁ、あの峠道の他にも、道は無いわけじゃないんだけどね。うん、まぁそんな訳で早く行きましょうよ?」
そんな会話をしながらあっという間に宿営地に付くと、今度はマデリンがどうも路銀が散り無い為金を貸して欲しいといってきた。
「……行商人なんだろう?」
「うぅ、幾らでも良いからお願い、貸してくれない?もちろん返すわよ、絶対……多分…そのうち」
「……段々不安にさせられるなぁ。まぁ、仕方ない。出世払いを期待するとしようか。大儲けしたらキチンと返してくれよ!」
そういって数日過ごすには十分な額である1000Gを手渡す。
「ありがとう、大好き!女心ってものをよくわかってるわ。やっぱりコレよね。昔から言うもんね。『小金をためてる人だけが、私を楽しませる』って」
「あっはっは……商人らしい言葉だ」
「私、都でお店を出すつもりだから、来たら寄ってね。ちょっとだったら、まけてあげる」
そういうとマデリンはホクホク顔で歩み去っていった。
「逞しい女性ですね」
「我々の護衛が無しでも彼女なら大丈夫でしょう」
「また、領都でお会いできそうですね」
ポーン達も口々にそう言ってしまうほどだった。
「ま、縁が出来たのは間違いないな。また会える日を期待しておくか」
今日のNG……初のNG無し!
正確にはNG事態はあれども前回と被るので今回は無し、と言うことで。