メルセデスの居る所に辿り着くと、少々厭味を言われた。
既に夕刻であり、これからの行軍は危険を伴うがそれでも出来るだけ早く付くに越した事はないだろう。
そしてこちらも何日か待たせた手前、厭味を一言で済ませるメルセデスは、器は大きい方なんじゃなかろうか?
少なくとも、イイヤツだと思う。
「これより、領都へ向け出発する。道中、積荷を狙って魔物が出る。各員、警戒を怠るなッ!」
兵士たちに声をかけると、次にメルセデスは俺に声をかけてきた。
「覚者よ、油断するな。お前に死なれては、格好が付かんからな」
それは忠告であると同時に、こんな所で死ぬは俺がかっこ悪すぎるぞ、と言う冗句だったようだ。
「当然。俺だって、死にたくはないしな。お互い、頑張ろう」
言い合っている間に関所の門が大きな音を立てながら開く。
そこから先はゆっくりとした歩みの牛車に歩みを合わせて進もう…とした所でいきなりゴブリンの群れだった。
「ハッ!セイッ!」
すれ違いざまに切り抜ける鎌鼬のごとく斬りつける攻撃を繰り返し、先ず最前列に居る敵を手早く葬る。
「援護します。ファイアボール!」
「ファイアボール!」
「フッ!」
マリー達ポーンが炎の玉と矢の雨で遠距離のゴブリンたちを葬る。
「流石、と言うべきか。しかしこの先はゴブリンだけではなくハーピー等も出る。空の敵への警戒も怠るなよ」
「了解です」
その後、ハーピーやオオカミ、更にはゴブリンとそこそこバリエーションに溢れる敵が出てきたが、何とか山頂付近まで上り詰め、続いてくだりと進んでいく途中で、先行して敵を警戒している時に丸い大岩が不安定な形で坂の上の方にある事に気付いた。
「みんな下がって、アレ、危ないかもしれないぞ」
そう言ってポーン達をそばまで下がらせ自身は弓を引く。
狙うのは大岩だ。
あの手の大岩はちょっとした衝撃で転がってくることがある、というのは経験談だ……主に呪い師の森へ向かう途中での、だけども。
大岩をやりすごし、危険を回避したが、それだけで終わるほど甘くは無かった。
その後もやはりハーピーの襲撃がある。
「だぁー!暗くて相手が見えづらい!」
ある程度近づかれて漸く相手を見つけれる暗さだ。
せめて、月明かりがもうチョイ明るければと思う。
メイジのファイアボール等は多少のホーミング性能があるのか、そこそこ当たるが弓矢はそうもいかない。
ストレスのたまる戦闘としか言いようがない。
それでも何とかある程度下ると再び関所があるのを見つけた。
しかし、そこにはゴブリンがたむろしている為、このまま牛車を進めれば混戦となるだろう。
「メルセデスさん、俺達が先行して奴等を片付けます。その間、こちらが手薄になりますが……お任せしても?」
「あぁ、お前たちの腕は十分に理解している。楽をさせてもらうぞ」
その後のゴブリン戦は、言うまでもないが楽勝だ。
殲滅が終わった所で関所の門を開放し、再び先行してゴブリンを狩る。
すると後ろの方で声が聞こえた。
向こうでゴブリンが奇襲をかけたようだ。
「くっ、どこから沸いて出たのだ!?」
メルセデスが複数のゴブリンに囲まれながらも何とか攻撃を防いでいるのが見える。
他の兵士も同様だ。
「援護するんだ!急げ!!」
牛車を守りながらであるが故に自由に戦えない彼らの下に即座に赴く。
「くっしまった?!」
「横から失礼!!」
メルセデスの盾がはじかれた直後、鎌鼬の如くすれ違いざまにゴブリンの群れを幾度も切りつける。
途中、息切れしそうなのをガラ芋の煮汁を飲んで無理やり自身を奮い立たせ、更に突撃。
あらかじめファイアギフトで武器が炎の魔力を纏っていたお陰であっという間に奇襲をしていたゴブリンたちを殲滅した。
殲滅し終わると、他のゴブリンが居ないか周囲を確認してからメルセデスに話しかける。
「大丈夫ですか?」
「……」
しかし、返事がない。
どこか、ぼうっとしているような?
「あの?」
「……ハッ!?すまない、助かった。礼を言うぞ、覚者よ」
年頃の女性の様に少し慌てた表情を見せたが、直ぐに何時もの真面目な表情に戻って礼を言われた。
「はは、気にしないでください。それよりも怪我はありませんか?」
「怪我は無いんだが、少し息が切れてきてな」
「あぁ、それでしたら…コレをどうぞ」
差し出したのはグランシス地方の名産品?ガラ芋の煮汁だ。
先程自分でも飲んだが、滋養強壮と疲労回復の効果がある。
滋養強壮でどうしてか、多少の怪我も治るのだが……まぁそこはこの世界特有の現象だろう、多分。
その後、盗賊なんかも出てきたがはっきり言って物の数ではなかった。
寧ろ、何故か大金もちであり、一行の懐を大いに潤してくれただけでありがたい存在だったといえる。
「到着だ、みんなご苦労だったな。ハイドラの首を土産とすれば、領王も我らの働きを認めよう。領民らも、我らの勇士を見よう。さぁ、胸をはれよ」
メルセデスが兵達にそう言ってから、俺に話しかける。
「それではこのまま解散となる。我らは領王に報告する為このまま城に向かう事になる。お前たちへは追って沙汰があるだろう。暫くはこの地に逗留すると良い。それでは…その、また遭おう。世話になったな」
少し頬を赤くそめ、メルセデスはそれだけ言って足早に兵を指揮して去っていった。
領都の民はハイドラの首などという珍しい物を見て騒ぎ立てている。
「それじゃあ、あとはどうすっかな?」
どうした物かと考えたとき、後ろから声をかけられた。
「こりゃあ幸運ですな…覚者どのと出会えるとは」
振り返るとそこにいたのは赤い袖なしのシャツを着た肌の黒い男だった。
いきなり俺の事を"覚者"と呼ぶこの男は、なんだか少し信用ならない感じがして少し身構えてしまう。
「あんたは?」
「あっしはメイソンという者。以後お見知りおきを…へへ」
メイソンと名乗った男はそう告げて一礼する。
こちらも何か言うべきかと一瞬考えた隙にメイソンは口を開く。
「さて、華々しき凱旋の入都、とはいえこれから何をすべきか、お悩みのことかと」
「……まぁな」
俺が肯定すると、メイソンはそうでしょうともと言いつつ。
「先ずはポーンについて、お調べになられるがいいでしょうや」
少しおどけた風にいうが、その次の言葉は見逃せないほどに真剣みの混じった表情で口にする。
「成すべき使命、果たすべき責任。手がかりは必ず彼らに紐付きますよ」
そう言って、メイソンは立ち去ろうとするが呼び止めると気になる事をたずねてきた。
「そうそう、村でおかしな男を見かけませんでしたか?意味深な事を呟く…ヤツの名はエリシオン。ここいらでは最近良く聞く名です」
名前の部分だけ俺に耳打ちして聞かせ、直ぐに離れた。
「…エリシオン?」
「覚えておくといいですよ。あっしもちょいと野暮用のある御仁でして」
苦笑気味に口にされたその言葉だが、どこか棘がある様に感じた。
「それにしても覚者殿。あんたはやはり"中心"ですな」
「中心?」
思わず聞き返すとメイソンは笑いながら言う。
「引き寄せるんですよ、あらゆるモノを…へへ。それじゃあ、あっしは用事があるのでこれで」
「あ、あぁ」
その後、大通りの店を回っていると、見知った顔を見つけた。
行商人のレイナードだ、何か疲れた顔をしているように見える。
「レイナード?お前も領都に来てたんだな。なんか疲れているみたいだがどうかしたのか?」
「あぁ、ヨシュアじゃないか。いや、探し物をしてるんだが中々、な。まぁ余り気にしないでくれ。さ、商売の話をしようぜ!先ずは俺の品揃えを見てってくれ」
と、あっさりと俺の気遣いはスルーされた。
いや、気遣おうとしたが、逆に面倒に巻き込まないように気遣われたとか?
まぁ、どっちでも良い。
「それじゃあ、先ずは色々と武具から見せてもらおうか!」
「おう、任せておけ!」
と、テンションを妙に上げて買い物に勤しむ。
勿論、レイナードの店だけでは大した物はそう手に入らないので領都の武具店や雑貨屋もキチンと覗くわけだが。
「むぅ……流石と言うか、カサディスと比べると質の良いモノが多いな」
「杖も、かなり良い物があります」
武具は元より、薬草なんかもより効果の高い物や、武具も切れ味の良い物や頑丈なのも揃っている。
「これは……有り金全部はたいてでも装備入れ替えだな」
「わかりました。では、コレとコレとソレをお願いいたします」
次々と店の親父に物を指示して持ってこさせるマリーに、有り金全部と言っておきながら思わず苦言を呈す。
「……マリー、君は少し自重と言う言葉を知るべきだと思う」
「何かおっしゃいましたか?」
「……いや、なんでもない」
何故凄く冷たい目で見られてあっさり発言を否定してしまった。
……あれ?どうしてこうなった?
その後は既に十分疲れていることもあって翌日の朝まで宿でぐっすりと休む事にした。
そういえば、宿での物を預かるサービスって色んな所でやってる上にどこでも預けたり引き出したり出来るんだな。
ゲームだったらどこでも共有できそうなもんだけど、今は現実だからな、専門の人間が快速で荷物を運んだりしているらしい。
盗賊と魔物がいても全て無視するらしい。
助けを求める人がいても無視するらしい……戦闘能力がからっきしだとか。
俺も、見習うべきかなぁ?
なんて思ってたら、マリーのこっちを見る目が若干ぬるい。
何故だ。
何日待たせても愚痴一つで済ますメルセデスは大物だとおもう。
マリーの冷たかったりぬるかったりする視線の意味は…。
冷たい=メイジですらも前列で戦わせるのに防具をケチる貴下、と言う意思を込めて
ぬるい=強敵相手に逃げれるのなら、ソレはとても素晴らしいことだ、と言う意味を込めて
ヨシュア(主人公)は割と人使いが荒いですが、自分も同じ位かそれ以上危険な戦い方をしているので、人使いが荒いと言う自覚がありません。
今日はNGなしで