このちっぽけな心眼で俺は、異世界成り上がりを果たしてみせる   作:ささんさ

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11 『傲慢 下』

 アルダリアに聞く限り、召喚間もない異世界人のレベルは大抵が五のようだ。

 裕也のようにレベルが高いものは、殆ど誤差程度の人数しかおらず過去の例も少ない。

 数少ない例外という奴だろう。

 有栖としては、その幸運が妬ましいことこの上ない。

 

 一方、現地人は胎児の時点からレベル一、その後から段々と成長していくらしい。

 平均的な男性ならば、十歳を越えれば最低でもレベルは五に達する。

 それが、危地を凌ぐ強さを持たねばならない冒険者なら、レベル五以下の者がいるはずがない。

 

 そして硬直した無防備な相手へ、五倍に膨らんだ筋力で殴り飛ばす。

 だからこそ七瀬(ななせ)黒(こく)という少年は、『傲慢』なるスキルで無双が可能だったのだろう。

 

 だが、ここに最弱の例外が存在した。

 

 ──なるほど。俺のレベル一が、ギリギリ制限抜けたってことか。

 正直にレベル上げしていたら体動かず即死だった。

 そもそも、この貧弱ステータスでレベリングは困難という話である。

 

 有栖は七瀬のステータスを瞬時に見終えると、握るナイフの柄尻を叩く。

 七瀬の攻撃方法は、魔術欄が出現しなかったことから物理以外にないと判断しても良いだろう。

 だとすれば有栖が生存するには、『傲慢』を如何にしてか封じるしかない。

 ──それについちゃ、俺に良い考えがあるがな。

 上手くいかない死亡フラグを立てながら、有栖は深呼吸をした。

 

 有栖の視界の正面には、七瀬が立腹そうにこめかみに青筋を浮かばせている。 

 騙したな、とでも言いたげだ。

 と言うか彼が内心で吐き捨てているのだが。

 騙されんのが悪いんだよバーカ、という下衆以外の何物でもない言葉を有栖はわめき散らしたくなった。

 しかしそれは我慢だ。

 

 ──さっきまでは、はったりが使えたけどもう使えねぇ……煽ってもメリットがあんまないしな。

 加えて、折角ステータス判明まで至れたというのに逆上されて即死は心が折れる。

 その前に六人の有栖のHPが吹っ飛ぶ計算なのだが。

 

 だから有栖は素早く言葉を発す。

 現状、唯一の武器と言えるのは自身の二枚舌のみだった。

 

「ところで話は変わりますが『この場の全員を殺戮する』というのは、傲慢な考えでもありませんよね」 

 

 我ながら話があさっての方向に変わったな、と自重を覚えかける有栖だった。

 あまりに唐突な話の方向転換が案の定、逆鱗に触れたのだろう。

 激昂した面持ちの彼は、こちらと更に距離を詰めてくる。

 近い近い、不審者として警察呼ぶぞコラ……ホント、それ以上近づいてこないでマジ頼むから。

 有栖の威勢が良いのは最初だけだったらしい。 

 

「……今度も僕様を誑(たぶら)かそうと」

「違いますよ。その程度では(・・・・・・)『傲慢』を名乗るに値しない、と言っているんですよ」 

「────お前、僕様のスキルを(知っているのか!?)」

「ええ、ですから。傲慢のない貴方が単なる異世界人程度の力しかなく、相手にするまでもないと……ね。私、こういう者ですから」

 

 有栖はローブから半分頭を出して、髪色を七瀬に見せつけると素早く被り直す。

 それを見て察したらしく、口惜しさに唇を噛み締めているようだ。

 異世界人のアピールがどこぞの印籠並みに有効だな、すげぇ。

 歓声を上げたい有栖だったが、色々と癪に感じたため止しておく。

 

「……ふざけるな(ツイてない、こんな奴と鉢合わせるなんてさァ……!)」

 

 七瀬の思考を見てみれば、有栖はまさに超人である。

 レベル五十以上の魔術師にして異世界人、自身のステータスも見通す少女ということになっている。

 本来は、レベル一で魔術師のローブ被せられた異世界人、相手のステータス見通すだけの少女なのだが。

 現実はネット小説よりも凡なりとは、的を射ている表現かもしれない。

 それが当然の話だとは気づかない有栖であった。

 

 だが彼もすぐに先刻の有栖の発言の『穴』に気が付いたらしい。

 すなわち、『傲慢』のスキルの後押しがあれば勝利できる可能性がある──と。

 有栖の発言は、その見込みを肯定してしまっているのだ。

 ならば、これから七瀬が如何に動くか。

 ──『傲慢』だと自覚できるように、有栖へと反論をするのだ。

 

「何でだ。この場の者を殺戮することは命への冒涜だろう、そうしかありえない」

「いいえ全く。寧ろ、他の命への供物ですよ。人が死ぬだけで幾つの動物が、虫が、微生物が食にありつけるのでしょうか、そしてどれ程が命を奪われずに済むのでしょうか? 何も命を冒涜などしていませんが」

 

「……そんな物は屁理屈だ! 通りはしないッ!」

「そうでしょうね。ですが、それを判定するのは貴方の口先だけではありません、そうですよね?」

「────っ、定義、変更だ(ウザいんだよ、殺すぞこの餓鬼……!)」

 

 『傲慢』の発動条件は、彼の言葉のみで判定されるのではなく、それが『自覚』されたかどうかだ。

 つまり彼の脳内がその判定を行っているという訳である。

 難しいもので、自分の思考というのはコントロールすることは常人にとって不可能に近い。

 彼がどんなに「傲慢だ」と自覚したくても、無駄なのだ。

 有栖の詭弁に耳を傾けている以上、脳内には曲がりなりにも反論意見が出てしまう。

 加えて。

 

「…………(定義する。眼前の相手を殺害するのは礼儀を欠いた傲慢だ)」 

「いえいえ、人の死に礼儀など堅苦しいことは言わずに。それは本当に傲慢ですか?」 

「心が……ッ!(読めるのか!?)」

「ええ、ですから。貴方には私に『絶対的で覆しようもない傲慢』を定義しなければ駄目なんですよね」 

 

 笑みを浮かべる有栖は、内心高笑いをしていた。

 計画通り。

 ジャンク菓子を食す新世界の神にでもなった気らしい。

 綺麗な下衆顔スマイルである。

 

 自分の発言に付け入る隙を作ったのは意図的だ。

 有栖が最も恐れるのは、なり振り構わずに暴力に訴えられることである。

 暴力反対の有栖としては、七瀬自らその選択肢を外させなければならない。

 ならば、レベル上──と思われている──の有栖に挑むという破れかぶれの策よりも、もっと正道の策を用意してあげれば良い。

 

 たとえば、だ。

 毎度使っている戦闘法で勝てる見込みがあるというのに、わざわざリスクがある手を打つだろうか。

 その解答は、今も必死に悩む七瀬の姿が表している。

 

 プラスして、『傲慢』を定義することを前提にして話すことで、自然にそれ以外の道を封じていた。

 

 チェックメイトって奴だな、うぃひひ。

 歯軋りをする七瀬の背後に、『本命たち』の姿を見て有栖は笑みを零す。

 

 勿論、このまま屁理屈合戦していても七瀬を退けるのは無理だ。

 ただ、一つ。

 それをしていることで、変化することがある。

 数秒後に肩を叩かれて、ようやく七瀬も気づいたようだ。

 

「──な、何だよお前らはァ!?」

 

 

「ハッハッハ、何って、俺達をぶっ倒しまくっててよく言うなぁ。さては頭がハッピーなのかな?」

「手前ぇが言えたことじゃないよな、ジャラ」

「ただまぁ、きちっと落とし前は付けてもらわなきゃ」

「イケ好かねぇ異世界人を好きに嬲れるチャンスだし」

「よくも肋骨(あばらぼね)折ってくれたな」

「仕返し、しても良いよなァ?」

「その覚悟もなくて、私たち冒険者に喧嘩売る訳ないもんね?」

 

 

 そう、『傲慢』が発動しなくなったがために、冒険者を縛る硬直が解けていたのである。

 HPを削られながらも這い上がってきたジャラ等も含め、総計百数名。

 

 怒気に燃えて、全員がニコニコと笑顔である。

 『傲慢』は有栖が封殺するため、七瀬は身一つで百数名の暴力に打ち勝たねばならないのだ。

 

 冒険者達と共に立つ有栖に、七瀬は口端を持ち上げながら視線を向けてきて、

 

 

「定義する……僕様は絶対に負けない。それは傲慢だ、でも、なら僕様はどうしてこんなに追い詰められているんだ……?」

 

 

 自己矛盾して定義も覚束ない彼に有栖は、

 

 

「それは、自業自得って奴です」

 

 

 とびっきりの笑顔で応じた。

 

 

 ……――……――……――……――……

 

 

 重装備をしたアルダリアや騎士、裕也らが広場へ訪れたのはその三十分後であった。

 

「……異世界人がいるとの通報があったのだが」

「アルダリア様。そりゃ、アレですよ」

 

 そこには、幾重ものロープで芋虫状態になるまで巻かれた物体が小さくぴょんぴょん跳ねている光景が広がっていた。

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