このちっぽけな心眼で俺は、異世界成り上がりを果たしてみせる   作:ささんさ

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2 『神の悪意と異世界召喚された少女』

 ──異世界に召喚されたらしい。

 

 目を覚ますと、まず鮮やかな青の幾何学文様が目に映る。

 石畳に描かれたそれは良く知られた六芒星ではないが、魔法陣を想起させた。

 どうにも自分はその上に立っているらしい。

 続いて視認できたのは、有栖と同様に立ち竦む人間が二人。

 一人が男性で、他一人が女性と男女比のバランスが良い。

 ……ただそれよりも、この二人組に既視感がある気がした。

 今は後回しにするが。

 

 この場所は何なのか。

 ぐるりと見渡すと、六畳ほどありそうな台座に有栖たちは乗っていることが分かる。

 おどろおどろしい祭壇のようにも感じられた。

 辺りは闇に包まれていたが、陽光が差し込んでいないところを見るに地下なのかもしれない。

 だが何らかの規則性で点在する灯篭の明かりのおかげで、この空間が非常に広大なことは判った。

 そして、台座の一段下で、八人の黒装束のフードを目深に被った者が魔法陣を取り囲んでいるのがぼんやりと見えた。

 その後方には、灰色の装束を身に纏う者が大きな円を描くように数十名配置されている。

 

 ──あの糞神も言ってた通り、異世界召喚って奴なんだろうな。

 

 本来ならば驚くところなのだろうが──事前に神にネタバレされていたこと。

 加えて、神直々に右腕を切り落とされるという衝撃体験を与えてくれやがったため、全く動じなかった。

 少し寂しいが勿論、それが余裕だからこその感傷であることは判っている。

 

 ただネタバレは悲しみしか生まないなと強く思う。

 数少ない友人のAくんは、少年漫画の次話の内容をバラされた腹いせに、バラした相手の弁当にマヨネーズ一本分かけたと聞く。

 恐ろしい話だ。

 

 戯言はさて置こう。

 持ち前の知識で推測するなら、周囲の者達は異世界召喚を行った魔術師たちだろう。

 人数が大量なのは、それだけ異世界召喚が大規模な魔法なせいに違いない。

 有栖が一人、冷えた頭で分析していると魔法陣に一人だけ前へ出て、目立つ黒装束の男が声を上げた。 

 

 

「──儀式は無事遂行した。姫よ、異世界より来たる者へ」

「おお、そうだな……ようこそ、選ばれた諸君。ここは君たちが言うところの異世界、に当たる」

 

 

 魔術師らしき装束姿の者たちで形成していた円の一部が崩れ、そこから豪奢な真紅のドレス姿の貴婦人然とした女性が現れる。

 スカイブルーの瞳。元の世界で見掛けたこともない美麗な顔は、引き締めてはいるものの興奮でか頬に仄かな朱色が差している。髪はこれまた特徴的で、新雪を彷彿とさせる真っ白な長髪をインテークアップにしているようだ。

 漫画でしか見たことない髪型に、成るほど異世界なのだと妙に納得してしまった。

 ただ有栖以外はそういう訳でもないため、

 

「い、異世界? ちょっとイミ分かんねーですって。あっドッキリ、ドッキリなの!?」

「……何時もながらハイテンションだな明美。もうちょっと、落ち着こうぜ」

 

 言うが早いかテンションメーターが振り切ってる女性が、四方八方に視線を向け始めている。

 カメラでも探しているのだろうか。もしくは何処かで待ち受けているはずの、イケメン芸能人でも探しているのか。

 しかし安心してほしい、イケメン芸能人はあくまでドッキリされる側だ。仕掛ける方は既に旬が過ぎた一発屋で、そもそもこれは紛うことなき異世界召喚のため彼女らの間抜け面を映すカメラもなく──何にせよ無駄な行動である。

 そんな女性に冷静に返答していたのは、もう一人の温厚そうな男性だった。

 

 ……やっぱり、どう見てもこいつ蒼崎じゃん。

 蒼崎とは、有栖と同じクラスのテニス部の男子生徒だ。フルネームで、蒼崎裕也と言う。

 高校三年目で初めてクラスが一緒になった男で、第一印象は最悪だった。

 何せ名前が普通なのだ。

 八割の人類を敵に回す理不尽な理由である。

 だがそんな感想を抱いていても、有栖が友達に分類している男だった。

 有栖自身が巧妙に心中を隠していたからもあるが、何よりも裕也自身の性格の良さもある。

 有栖が弄られるときに取り成して丁度いい塩梅で終えさせたり、登下校の際に部活動がなければ一緒に帰り、休日に遊びへ誘ってくれたり、弁当を分けてくれたり……等々。

 何だこいつ俺の尻を狙っているんじゃないかと危惧するほど人格が出来ていた。

 

 ──二人の関係は知らないけど、まぁ良いか。彼女だったなら裕也爆発しろ。

 先ほどのハイテンションな女性のことは有栖も知っていた。

 柳川明美。これまた同じクラスで、裕也とは幼馴染みらしい。

 快活な女子テニス部員であり、クラスでも四番目くらいには顔が良いのではないだろうか。

 裕也爆死すれば良いのにと思わないでもない。

 それにしてもこの二人、有栖のことを認識した様子がない。

 まさかイジメなのか。二人して俺を除け者にする気なのか。

 などと、有栖が被害妄想に唸っている間に、裕也は姫と呼ばれた異世界の女性に声を掛ける。

 

「異世界……ですか。放課後の教室から、こんな訳も分からない場所に瞬時にいたんだし信じないこともありませんが」

「煮え切らない言い方だが」

「それでも、科学技術は日々進歩しています……これもバーチャル映像か何かかも知れません」 

 

 だとしても、まずドッキリ番組にその最新科学が導入されるはずないだろう。

 企画した奴すごいな、どんなコネ持ってんだよ。

 有栖の突っ込みは心中で呟くだけだ。

 王族らしき人の前で憚らずに突っ込みできるほど豪胆ではない。

 疑り深くも的確に発言した彼の言葉を、不思議そうに「ふむ」と貴婦人は首を傾げる。

 

「カガクギジュツ……? まぁ、とにかく現実かどうか疑わしいのであろう──ではそこ辺りの話も含め、場所を変えて話をしようではないか。付いて来てくれ、此処では些か黴臭かろう。言い忘れていたが私は、ダーティビル王国第二王女のアルダリア・フォン・ダーティビルと申す。以後、お見知り置きを」 

 

 目線だけで魔術師風の者を退けさせ、こちらに呼び掛けてくる。

 

「こっちだ。一応足元には気を付けてくれ、特にそこの少女は」

 

 少女という単語に、有栖は当惑する。

 変な話だ。

 召喚された二人の中に少女と表現できる年齢の者はいないはずなのだが。

 いや、まさか柳川に世辞を使っているのか。なんて狡猾な。召喚して早々、気のいい言葉で取り入ろうとするなどと。自分も万一でも騙されないよう、一層気を引き締めなければ……

 素知らぬ顔でトンチンカンな陰謀論を唱える有栖は、傍目からでも戸惑ったように見えたらしい。

 裕也が──何故だか平時よりも背が高く見える──こっちに向かって目元優しげに、

 

「君のことだよ、お名前は?」

「え?」

 

 何のプレイだお前ロリコンだったのかとドン引きし掛けたところ、自分の発した声が高いことに気付く。

 慌てて自分の体を見下ろして愕然とする。

 

 

 華奢で小さな白い手足に、質素な黒い長袖とホットパンツ。

 本能的に股の間に手をやっても、そこには長年親しんだ息子はない。

 愕然として頬に触れるとぷにりとした触感がある。あの乾燥したニキビの凹凸はそこにはない。

 顔の輪郭をなぞると小顔で、顎にも髭は生えていないことが分かる。

 指は細く繊細で、混乱のまま自身の頭部を掴んでみると、肩まで艶のある黒髪が伸びていた──。

 

  

「あ……あ……あ……」

 

 驚きすぎて逆に声が満足に出なかった。ぱくぱくと金魚のように口を開閉させる。

 内心では天変地異が起き、有栖の脳内は惑乱し切っていた。  

 

 疑う余地もなく、遠藤有栖の体は少女になっていた。

 何故、どうして、自分はこんな体に変現してしまったのか。

 その疑問の答えは全て、ポケットの中に折り畳まれたメモ紙に書いてあった。

 

 

『見栄え良くオレ好みの女に設計してやったから、精々足掻いたあとに凌辱されてくれよ?

 

 貴方の神、タウコプァ・エヴァンズより』 

 

 

 その横柄な文面で、これがあの神の仕業であると認識する。

 小さく呼吸を繰り返して、心を落ち着かせた。

 ……ああ、つまりは。変態神が長々語っていたフェチズムがここで炸裂する訳か。

 ただ単に自分の趣味の物をみたいがため、有栖を異世界に召喚して性別と体格まで変えたのだ。

 有栖への嫌がらせと、神の趣味百パーセントの暇潰し。

 神の行いは、その言葉に尽きるだろう。

 ファンタジーを舞台にした世界で、か弱い女子どもが蹂躙される映画でも見ている気分なのだろうか。

 

 

 悪趣味にも、程がある。

 

 

「ふざけんなよ……あの糞野郎……ッ」  

 

 有栖という名前なら金髪にすべきだろうが。

 押し殺した憤怒の言葉は、辛うじて他の誰かには聞かれてはいないようだ。

 それは重畳だと嘆息して、決意を新たにする。

 

 ──アイツの思う通りにはさせねぇ。そんで、あの神を一発ぶっとばさねぇと気が済まねぇ……!

 

 どんな手を使っても純潔を守り、生き残り、上り詰めて、あの神の鼻を明かしてやる。

 流れには身を任せない。

 神の作ったプロットに、思惑に乗るのはプライドが許さない。

 ここに召喚された意味が神にあるのだとすれば──それを破壊することは。

 

 

「あ、ねぇ君! 大丈夫なの!?」

 

 有栖は裕也の制止の言葉には耳を貸さず、先行するアルダリアと名乗る女性の後ろへと駆けていく。  

 ぐしゃりと、悪意に満ちたメモ紙を握り締めて。 

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