このちっぽけな心眼で俺は、異世界成り上がりを果たしてみせる   作:ささんさ

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25 『苛烈な最終日』

 朝露も溶けぬような早朝に──らしくもなく、有栖は街を流れる川沿いに立っていた。

 馴染んだ青紫のローブを被ることで肌寒さに耐えながら、架橋を通る人々を見つめている。

 ラバ川と呼ばれるそこは、この街の東門と王宮への通路にあたる。

 不逞の輩やアルダリア派に与する諸外国の者がいないか、万一に備えて監視しているのだ。

 

 昨晩に召集された作戦会議では、殆ど作戦の変更は伝えられなかった。

 神の子の疑いがある有栖の話すら欠片も出なかった。

 おそらく白ローブが回収しなかったことを「有栖が神の子ではなかった」と勘違いしているのだ。

 であれば有栖は、サヴァンやカナリアからすると貴重な戦力でしかない。

 よって何の変更もなく、当日の作戦を迎えたのだろう。

 

 ……ふぁーぁ、特に問題なしっと。

 変質者が通らないことを確認しつつ、心の内で欠伸をする。

 驚くべきことに、有栖は真面目に仕事をこなしていた。 

 もっとも、この場所は有栖の担当ではないのだが。

 

「あらぁ? アリスちゃん、ダンジョン前広場担当じゃなかったかしらぁ?」

「そうなんですが。ちょっと、どころじゃなく非常に気まずいので避難してきました」

 

 朝日を浴びないためか黒靄(くろもや)のような日傘を開くフィンダルトには、肩を落として応じる。

 彼女の言葉通り、有栖が生誕祭三日目の開会式を迎えるまでの待機場所はあの広場なのだ。

 しかし見張りか援軍のつもりか知らないが、サヴァンから二十人の騎士を付けられているのだった。

 見知らぬ屈強な男達が黙って側にいるのは、変な汗が湧くくらいに恐ろしい。

 要するに初対面の人間とは打ち解けられず、気まずいのだ。

 

 雑談するにしても、騎士などといった者が如何な会話をするのかまるで見当もつかない。

 このところ上腕二頭筋が元気でな、腹筋もプロテインを飲むと喜ぶんだ……ハッハッハ。

 という、いわゆる筋肉んジョークに無理して話を合わせても楽しくはないだろう。

 そもそもそんな変態的な話をする騎士はいない。

 こうした有栖の突拍子もない思い込みで、気紛れに会話することもままならないのだ。

 

 フィンダルトは「もう、我儘ねぇ」と有栖の額をコツンと叩き、

 

「近くに騎士連中がいないのを見るに、広場に騎士達置いてきちゃったんでしょう? きっと今頃必死になって探してるわよぉ、早く戻った方が良いんじゃない?」

「その点は大丈夫です。きちんと『トイレに行ってきます』と伝えていますので」

「それがまるまる嘘な点は大丈夫なのかしら……?」

 

 半目になったフィンダルトだが、無駄と分かったようで片手を額に当てて目を閉じる。

 

「あたしに会えなくたってぇ、サヴァンから情報伝達用の魔具渡されてるでしょ? それを使えばわざわざこっちに避難してこなくたって……」 

「でもアレ、仕事道具なんですが。私的利用はどうかと」 

「良いのよぉ、怒られるのはサヴァンだし」 

 

 にっこりと笑みを浮かべるフィンダルトは、一体どれだけサヴァンのことが嫌いなのだろうか。

 それに仕事云々に関しては有栖も人のことは言えない。

 仕事時間に花を摘みに行ったフリをして、何を雑談などしているのかという話である。

 自分には砂糖並みに甘く、他人にはツンドラ地方の寒さ並みに厳しいがモットーの有栖だった。

 何時もながら人間のクズだ。

 

 それはそれとて、サヴァンから情報伝達のためにと預かった魔具のことである。

 手鏡を些か大きくしたような形状で、有栖の肩掛けバッグにも無理なく入る程度だ。

 白雪姫に出てくる正直な魔鏡を連想させた。

 

 有栖含め冒険者四名とサヴァンの誰とでも繋がる、と説明を受けている。

 なんと通信料、その他諸々がタダ。 

 白犬がお父さんという奇妙な家族のCMで紹介されそうな、利便性が高い携帯電話のような物だ。

 その分、かさ張ったり高価であったり、登録には面倒な手順が必要なのが難点か。

 肩掛けバッグに入ったそれの重量で、存外体力を消費しているのは誰にも明かせないが。

 具体的に言うとMPが十くらいごっそり削れている気がするが……MPなどどうせ使わない。

 

 また魔具のため、説明文を読むことができる。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 【サトウの魔鏡】

 異世界人にして魔術師サトウが開発した事が起源のAA級魔具。

 魔力を同時に注ぎ込んだ別の魔鏡と接続され、視覚と聴覚の情報を共有出来る。

 サトウを召喚したリディウム王国は、当時近隣を支配していたワーデルダッシュ連邦と争っていた。

 連邦の異世界人が大量に押し寄せる中、サトウは王国全軍を率いての大規模な不意打ちを提案。

 何の手立てもない王国はサトウの案を全面的に承認、また宮廷魔術師を集めて魔鏡を作成する。

 一説に因れば、サトウが持つ異世界の知識がを元に製作されたと後世に伝えられている。

 情報伝達手段が口頭、もしくは手紙の類いのみだった当時。 

 瞬間的に物事を遠隔地にいる味方軍へ情報を届けるその技術により、王国が奇跡の勝利を収めた。 

 錬磨度合:85/100

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 色々書いてあるが、結局はテレビ電話のような物だという理解で間違いない。

 つか、凄い奴だなサトウ……一体何者なんだ……!

 強く正しく異世界にて大活躍する、妙に苗字が平凡な異世界人に憧憬の念を抱いた。

 

 ──待てよ、ステータスはアレだけど俺も発想力が良かったらこんな風に活躍できんじゃね?

 安直にもそんな想像を膨らませる有栖には、到底発想力もなさそうだが。

 

 とりあえずこれ以上サボタージュする度胸もなし、有栖は広場へと戻ることにした。

 指示されるまでの時間は未だ余裕がある。

 だからそう怒鳴られたりはしないだろう、と汚い打算を腹の中でしていた。

 本番当日でもブレない有栖は、もしかしたら肝が座っているのかもしれない。

 

 

 ……――……――……――……――……

 

 

 さて、広場へ戻り騎士達と無言で行き交う人々を眺めていると、魔鏡に通信が入る。

 バッグから鏡を取り出すと、鏡面には有栖ではない赤朽葉の髪の女性が映っていた。

 

『そろそろ時間だ、アリスは指示した場所へ動いてくれ』 

「了解です」

 

 硬い表情のその女性──サヴァンに承った意を伝えると、すぐにサヴァンの姿は鏡から消失。

 鏡は光を反射して、無表情の有栖を映すだけとなった。

 魔鏡はこのように、通信以外でも普通に鏡として扱える点も便利と言える。

 ただこの鏡で化粧直しやカツラの付け替えをするのはオススメしない。

 突然通信が入ると、自分の、もしくは頭のあられもない姿が相手に見られてしまうのだ。

 

 有栖は用を終えた鏡をバッグに突っ込んで、周囲の騎士達に目配せをする。

 彼らは先刻のサヴァンからの指令に聞き耳を立てていたのか、指示がなくとも動き出していた。

 

 ……確か昨日の夜の話し合いじゃ、極力怪しまれないようにバラバラに目的地へ移動する、だっけ。

 広場で大勢の騎士がたむろしているだけで怪しさ満点ではなかろうか。

 有栖のそんな瑣末な考え事は置いておくとして、問題なのはこれからどうする、である。

 無論、選択肢が作戦通りに強襲する程度しかないのだが、それ以前の問題だ。

 

 すなわち、このままで良いのかという疑問。

 物事の直前になるまで態度を保留する有栖の悪癖は未だに健在だった。

 昨日には随分な啖呵を切ったが、そう具体的に有栖が考えているはずもないのである。

 軽口で死ねと言ったけど、本当に相手が死んだときのことを考えていないのと同じで。

 

 ただ裕也と明美を抑える手段は既に考えてあるため、それとはまた別だ。

 

 何ができるかは分かっている、しかしそれをするかは決まっていない。

 以前アルダリアを「決意が揺らぎすぎて、クーデターとかマジ夢物語」などと無駄に上から目線で批判したことがあるようだが、それを有栖が言えない程に曖昧なのだ。

 随分なブーメラン発言だったと今にして思う。

 有栖向けに改変するなら「何するか分からなさすぎて、有栖とかマジ無職内定」だろうか。

 前後の文が繋がっていないのは気のせいだ。

 

 しかしそれでも有栖は、

 

「行ってから考えるか……相手は裕也だ」

 

 何たる大物ぶりだろうか。

 だが普段小物の有栖がそんなことを言っても、間抜けにしか見えない。

 いや実際その通りなのだが。

 擁護するのであれば、親しい間柄の友達が恐怖を覚えるほどに修羅になっているはずがない、と。

 こんな短期間では、大して強力になっていないだろう、と。

 そのような明け透けの願望でも混じっていたのではないだろうか。

 

 万一を恐る警戒心や保身の心はこの際、対抗策でどうにでもなるのだとも楽観していたのだ。

 互いを知る友人だからこその、らしくもない感慨だった。

 

 そうこう舐めた口を利きながら、王族による式典を一目見ようと王宮へと足を運ぶ群衆の波に乗る。

 彼らと目的地は同じだった。

 

 

 有栖らが強襲する場所は王宮──その内部なのだから。

 

 

 ……――……――……――……――……

 

 

 生誕祭の初日と最終日の式典は、王宮の門前に築かれる式場で開催される。

 そのため革命を行うための標的である王族の経路は公道になく、王宮のみとなるのだ。

 暗殺難易度が低いとすれば、式典中よりも王宮で襲った方が楽なのは明白。

 しかし当然、王宮は許可なき者の立ち入りを許さぬ警備をしているのだ。

 だからと言って、式典中は裏切る要素のない王とカナリアの息がかかった騎士達が警護に徹する。

 こればかりは力技でどうにかなる物でもない。

 異世界人などの規格外を持ち出さねば、王国側はまさに鉄壁の布陣とも言える態勢で臨む。

 

 ただ今回は、王宮について知り尽くしたアルダリアが敵側についている。

 よって王宮への侵入は容易かったと、そう見るのが正しい。

 となれば不届き者は一転、王宮に隠れている可能性が高くなるのだ。

 

 ──つーことで来たけどさ。

 式典が催される建築物の裏、日陰と化した王宮へ通ずる巨大な門へと辿り着いた有栖は見回した。

 騎士の姿が見えないが、先行して既に配置についているのだろうか。

 迅速に移動するだろう騎士らが、白ローブ連中のような真似をするとも思えない。

 ならば、中にもう入っているのだろう。

 

 そもそも襲撃場所が王宮なのなら、有栖達が広場で見張る意味はあったのだろうか。

 そのまま別館から突撃すれば良いのに、と思わなくもない。

 ただその辺りについては詳細に聞かされていないため、今更そう思っても意味はないのだけれども。

 

 門の脇に立つ見張り台を仰いでも、人気はなさそうだ。

 ……あ? フツー、一般人いれないためとか、逆賊の警戒のために置いとくんじゃねーのか?

 有栖は疑問に思って、ふと足を止める。

 しかも門扉は閉じられておらず、中途半端に開かれたままだ。

 近寄らなければ中は見えない程度だが、それにしても不用心ではないのか。

 何らかの理由で門兵が不在のため、一々門の開閉ができない問題を、解消するためなのだろうか。

 だが王宮内の騒ぎを聞かれると大混乱になりそうなものだが──。

 

 様々な疑念が溢れかえり、有栖は一歩、後ずさってしまう。

 嫌な、酷く嫌な予感がする。

 いっそ逃げてしまいたいが、全てが杞憂だと判然とした場合の外聞が気になった。

 現状、有栖は弱者という認識をされていない。

 吸血鬼すらも凌駕する、圧倒的な強者だ。

 ハリボテとは言えど、強者ならば被害妄想で臆することはないはずだろう。

 意思を強く持つのだ。

 

 とにかく集合時刻に間に合わないとならない。

 もしかすれば、今自分が臆病者か試されているかもしれないのだ。

 逃げるな、逃げるな、逃げるな。

 口内で三度復唱すると有栖は意を決し、門をくぐって王宮の敷地内へ足を踏み入れた。

 

 門を過ぎれば、眼前には草花が繚乱とした庭園が飛び込んでくる。

 雲ひとつない青空のおかげか、色鮮やかな周辺も一際輝いて見えた。

 しかし相変わらず騎士も、人影ひとつ見当たらない。

 

 確か門の近辺で有栖と合流すると聞かされていたのだが。

 伝達ミスだろうか。

 もしそうだとすれば、中々に深刻な事態ではないか。

 

 サトウさんの魔鏡で、一度サヴァンに連絡をとるべきか……?

 王やカナリア、それを護衛するサヴァンやフィンダルト達は別館で待機している。

 式典の時刻になれば移動を開始し、そこを狙ってくる異世界人達を返り討ちにするためだ。

 言ってしまえばアルダリア達を招き寄せるための餌。

 サーディ王は最後まで渋ったようだが、カナリアが承認して今作戦と相成ったのである。

 自らの危機を顧みない策ではあった。

 しかし革命派を真正面から叩き潰す視点から見ると英断に違いない。

 襲う連中皆殺すべし、慈悲はない──という殺意は十分以上に伝わった。

 

 さしあたって、同じ敷地内のサヴァンに連絡するのは悪手ではないはずだ。

 周囲に注意を飛ばしながら、有栖は魔鏡を取り出しかける。

 

 

「ぁ────ぁッ!? !」 

 

 

 すると。

 木霊するように遠方から響く声と、微かに耳で捉えられる金属音が聞こえた。

 

「……あっち、か?」 

 

 別館へ向かう道の反対方向に続く道。

 そちらの方向から、鋼鉄のぶつかり合うような音が断続的に上がっている。

 喉を鳴らして唾液を呑み込み、身を低くしながら音の鳴る道をのそのそと歩いていく。

 

 率直に言うと、怖い。

 危険に自ら寄っていくなど愚の骨頂なのだ。

 平時の有栖であれば脱走、真面な思考の有栖であれば別館方向へと駆け込むところだ。

 だが、今何が起きているのか知らねばならない。

 脳内で半分以上、その内容が予測できてしまっても。

 

 好奇心猫を殺す。

 そんな言葉が脳裏に浮かぶが、それに首を振る。

 ただ身に迫る危険を知らぬ存ぜぬで通しても殺されるのだ。

 

 サヴァンへと連絡を取りたいのも山々だったが、通信はその内容を確認してからだろう。

 空気を読まずサヴァンが大声を出して、有栖の存在が気づかれるかもしれない。

 そして危機的状況で他者と連絡を取り続けるのは死亡フラグでしかないのだ。

 わっちょ、ヤベ……と言って通信が断絶されるに決まっている。

 

 整備された石畳を踏む際に足音が立ってしまわぬように、踵から足を下ろして進む。

 等間隔に植えられ整えられた草木は、姿を隠しながら移動するにはうってつけだった。

 

 スニーキングをしながら、段々と怒声やら金属音やらが大きくなる方向へ。

 辿り着いたのは──グラウンド、のような場所だった。

 有栖は知る由もないが、そこは騎士の鍛錬場に使用されている場所だ。

 

 

 グラウンドには、十数の人影がある。

 全員が全員甲冑姿のため顔の判別はつかないが、一人を相手に他の騎士が包囲している構図だ。

 人数的に、リンチを行っている側が有栖に付いていた騎士達だろう。

 ではもう一人は──あの、痩身の騎士は。

 

「ふん──っ」

 

 円を形成する一人の大柄の騎士が痩身の騎士を目掛けて、大剣と見紛う片手剣を軽々と振るった。

 それと同時に、示し合わせていたのか囲んでいた騎士達も動き出す。

 ある者は飛びかかり、ある者は正面から挑み、ある者は懐へと飛び込む。

 各々が、斜め後ろ、左、斜め上、右、背後、様々な角度から痩身の騎士を斬撃する。

 四方八方から迫る切っ先は、標的の騎士の逃げ場を完全に防ぐ領域を作り出す。

 逃げ場所はどこにもなく、彼が持つ片手剣では一つ二つの攻撃しか受け止め得ない。

 痩身の騎士が一秒後に斬り捨てられるのは明白だ。

 

 

 そこで、見た。

 自然と凝視してしまった。

 痩身の騎士の兜、その隙間から、機は熟した──と見開かれた『黒目』が見えた気がした。

 

 

「【裂帛の連撃は花弁を斬るが如く】」 

 

 

 呟かれた言葉と、柄を握った彼の片手剣が抜かれたのは同時。

 そして、戦闘の幕を降ろされたのもまた同時だった。

 

 視覚できぬような速度で剣は風を斬り、半径一メートルに斬撃を矢鱈滅多らに浴びせた。

 連続的、いやもはや多重に響く金属音は近付く剣と斬り結んだ音だ。

 火花が散り、血潮が飛ぶ。

 それらは飛びかかった騎士の、突進した騎士の、大柄な騎士の甲冑を斬り破った証であり。

 

 

「……がぁっ!?」

 

 

 ──痩身の騎士が勝利した証でもあった。

 彼以外の騎士は皆、血液を撒き散らして地面に倒れ伏す。

 これで、襲いかかった十数人が。

 もっと言えば有栖の到着時には既に斬り伏せられていた者も合わせて二十名だろうか。

 つまり、サヴァンに貸し与えられた騎士二十名が全滅してしまったのだ。

 

 ……明らかに、ヤバイ。

 有栖は目を離すこともできず、じりじりと元来た道に戻ろうとする。

 脇目も振って逃げ隠れるほど狂気ではないが、あの様を目の当たりにして立ち竦むこともできない。

 

 『傲慢』のときと状況は同じだが、これはきっと特別なスキル頼りの強さではない。

 加えて隣や周囲には誰もいない。

 一人だけという孤独感が強調され、心に染み込んで一層有栖の恐怖感を煽る。

 

 早くも孤立無援になったのだ。

 迅速にサヴァンと連絡をとるために、ここからお暇して知らせなければ──。

 

 だが、その思いも虚しく消える。

 

 相手の動向を探るために行使した『心眼』は、痩身の騎士の心情を浮かび上がらせた。

 それを読み取ろうとした有栖は、如何な行動をとっても手遅れだった。

 

 地面を勢い良く蹴った痩身の騎士は、装備の重量に見合わない俊敏さで有栖の近くへと飛び込んでくる。

 間近に着地する騎士が、有栖を行かせまいとしているのは明々白々。

 有栖は情けないことに腰が抜けてしまいそうだった。

 

 腰を落とす騎士は体を回すようにして抜剣し、こちらを睨む。

 そして聞き覚えのある声をその騎士は発す。

 

 

「──そこにいるの、誰?」 

 

「……裕也」

 

 

 痩身の騎士──蒼崎裕也は血潮を剣に滴らせたまま、そう泰然と尋ねてきたのだ。

 有栖は言い知れぬ恐怖で、思わず顔を歪めたくなった。

 

 

 

 

 

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