このちっぽけな心眼で俺は、異世界成り上がりを果たしてみせる 作:ささんさ
最初はほのぼのな感じでいきます。
1 『蠱毒』
──そこは、薄暗い、血溜まりの場所だった。
その、暗がりの洞窟には太陽の一筋の光明も差し込むことはない。
唯一の明かりは、壁から発される仄かな青白い光だけだ。
ここはダンジョン。
外界と隔絶されたモンスターの狂宴場だ。
「は、ぁ……ふぅッ……ぁ!」
そんな中を一人、息咳切らして女は洞窟を駆けていた。
整地されていない凹凸のある地面に転げつつも、前へ、前へ。
淡い青白い光に照らされた彼女の身体は、擦り切れていた。
服装だけではなく、身体も、心すらも。
全てが痛ましくもボロ切れと化し、顔は悲痛に歪んでいた。
悲嘆と後悔と絶望と、それ以外の何かの感情が渦巻いた顔──。
明るく活発だった彼女の面影はそこにはない。
校内外で笑顔を振り撒いていた彼女と共通するモノが見当たらない。
圧倒的な『絶望』に押し潰された、哀れな犠牲者の姿しかそこにはなかった。
──どこで、間違えた?
己に問う声がする。
答えはひとつだ。
今に至るまで、間違いを選び続けてきたのだ。
走馬灯のように甦るのはあの日の記憶だ。
ある中学校のクラスの全生徒が、この『異世界』に召喚されたあの日。
悪夢の始まりと凄惨な現状の発端であるそれを思い出すと、吐き気がした。
非日常に喜ぶ誰かも、日常への帰還を望んだ誰かも。
そして柄にもなく、待ち受けるだろう数々の冒険に胸を馳せた彼女自身も。
全ては手酷く裏切られ、最期には薄暗い死の結末が待っていた。
憎むべきは誰だろう。
歓迎した面を浮かべていた宮廷の人間だろうか。
自分たちを謀った、あの召喚士だろうか。
彼らが
それとも、こんな状況に陥った自分たちをだろうか。
わからない──。
全てが恨めしくて仕方なかった。
悔しさで涙が零れ落ちる。
彼女には、自分たちを陥れた彼らを下す力はない。時間もない。
もうすぐで、おそらくは己が肉塊に帰してしまうことは悟っていた。
それも、元はクラスメイトで、仲も良好だった少年によって。
幾十もの攻撃で擦り切れた、彼女の血が滲む
彼女と背後に迫る一人以外、数十人いた生徒たちは無残にも既に殺害されている。
つまり──彼女は、最後の犠牲者になる。
「ぅ、かぁっは…………ぁ!?」
必死で駆け抜ける女は、ふとして足元の岩に躓いた。
夢現な気分で視野狭窄に陥っていたのか、意外な程にあっさりと地面に倒れ込む。
女の柔肌と骨は岩肌に衝突し、鈍い痛みを体に響かせる。
しかし声は漏らさない──いや、疲労感と上がった息で漏らす余裕がなかったのだ。
「は──ぁ、はぁ──く、そぉ」
俯せとなった女は、鉛のような身体の重さに抗えず起き上がることは出来なかった。
諦めるしかない、ここで終わりなのだ。
そんな言葉が脳内に浮かぶ。
否定したかったが、どうも無理らしい。
もう、足が動かない。
──結局、わたしにできることなんて一つしかなかったのかな。さーちゃん、たーくん。やっぱりわたしじゃ、無理だった。わたしなんかじゃ、
涙に濡れ、物の輪郭がブレる視界の中、女は形見のように握りしめていた右手を見る。
そこには友達に託された道具と、後ろ向きな彼女の性格で作成された、守り通さねばならない一冊の手帳がある。
けれど、それも今となっては──。
……後方の闇から、反響する足音がする。
遂に時間切れということらしい。
酷薄に女は口を引きつらせると、懐から素早くシャープペンを取り出した。
ただでは終わらせない。
必ずこの『運命』に復讐してみせる。
そんな妄執とドス黒い希望を持ちながらに、最後に彼女はこう願わずにはいられなかった。
──どうかこの叫びが、今度こそ